召喚授業。ダリオの呼び出した精霊獣
週末の授業で精霊獣の召喚が始まる。俺はその様子を見る側に回った。
精霊獣とまだ契約していない生徒はこぞって召喚台の前に集まっている。
「さーてさてさて、遂にこの時が来た」
その中でダリオが前列に並んで自分の番を待っていた。
いぶし銀色の石碑が広い訓練場のど真ん中に設置されており、一人一人がその前に立つ。
行う者には手渡された精霊石という、精霊界にあるとされる鉱石を支給されている。それを触媒に、こちらの世界と繋げて呼び掛けに応じた精霊獣を引き寄せるのだ。
「ああして呼び出されたんだよねぇ私も」肩に乗った鈴狐が言う。
「俺も今では一緒にいることが当たり前だけど、契約すれば人生の相棒が出来るんだ。ダリオが期待しているのも分かるよ」
召喚台に立って精霊石を掲げると、2年生達は閃光に次いで精霊獣を呼び出していく。
現れた種類は豊富で、背が燃え盛る黒猫、紫毛の狒狒猿、大きな鷹を呼び出す生徒もいた。
そして金髪の男子生徒ダリオが召喚を始める。さて、何を呼ぶのだろうか。
「来ーい! 俺の精霊獣ぅううう!」
気合十分で石を使って光を起こした。召喚台から、影が飛び出す。
「ヂヂヂヂヂヂ!」
「いでぇ!?」
彼の眉間を突いた小さな動物。黒い翼を持った小鳥──燕が呼び出された。ただ、普通の燕と異なり淡く青い神秘的なオーラがある。
そして尻餅をついたダリオの頭の登頂部に止まった。どうやら契約主と認めたらしい。
「……へへ、よろしくな」と彼は無事精霊獣と召喚と契約を終える。
その特徴から「黒羽」と名付けられた。下位等の精霊獣はこっちで命名されることも少なくない。
召喚の授業が終わった後、教室では生徒達の精霊獣達で溢れかえっていた。呼び出したばかりで、まだ興奮が収まる気配もない。
「おーいお前ら―、気持ちは分かるが次の授業の妨げになるようなら引っ込めろよー」
ぞんざいな男教師の声。多分、恒例の光景なのだろう。
天井で黒羽が飛び交い、その下でダリオが興奮気味に俺のところへやってくる。
「なぁなぁ! 俺の精霊獣も大きくなんのかな!? どうやって鈴狐みたいに強くさせられんの!?」
「どうだった、かなぁ」別に鈴狐は俺が強くした訳ではない為、うまく答えられずはぐらかす。ただ、授業でも学ぶことだとは言い加えた。
ここから退魔専攻を受ける生徒達は、自身の自衛手段だけでなく実戦向きの精霊獣を鍛錬させる授業に移行していく。ダリオの燕も、どうなっていくのかは未知数。
午後の部でも後半組の2年が召喚を行うが、彼と精霊獣が結びつくところを見れたから十分だ。
そんな矢先のことである。慌ただしい喧騒が突如廊下から湧いた。逃げろ、という悲鳴が聞こえた。
一瞬静かになった教室内をよそに、別クラスの生徒の駆け足が通過していく。ただ事ではない雰囲気に切り替わった。
『全校生徒にお知らせします』
そして、アナウンスが学校内に広がる。ベル先輩の声が拡声されていた。翠音の力を借りているらしい。
『ただいま、訓練場内で荒魂が現れました。火災も発生しております。ただちに、落ち着いて外へ避難してください。繰り返し──』
「何だ」「何かあったの?」「火事だってよ」「火事ィ?」「さっきの訓練場が火元らしいよ」「きっと荒魂が出たからだって!」「荒魂?!」「何で学校に!」「ヤバイんじゃ……」「ウチらも逃げた方が!」
戸惑いはやがてパニックに。席を立つ生徒達。
「落ち着けェ! ガタガタ騒ぐんじゃねェッ」先生が一喝してその場を沈める。そして、冷静に避難誘導を始めた。皆、廊下に出て訓練場から離れるように外を目指す。
状況がいまいちつかめないが、どうやら荒魂が校内に出現したようだ。
いち生徒の立場では教師に任せるのが良いと思う。退魔士の資格を持っている人間もいる筈だ。
だが、万が一に備えて俺も動くべきか。実戦から退いている教師陣では手に負えないレベルの荒魂ならば、要請される可能性もある。
俺はその集団移動に乗じて人混みを逆らった。進んでいくと、煙が天井を伝っているのが目に見えていく。
構わず逃げる生徒とは逆に向かうと、先程校内アナウンスをしていたベル先輩と遭遇する。
「アルフっ、良かった。ダリオは?」
「先に逃げました。俺は妹が気掛かりで様子を見に」
「そうか、だが迂闊に行かない方が良い。荒魂が召喚台の近くで暴れている」
「どうしてそこで?」
「ライアンの仕業だ」苦虫を噛み潰したような顔で彼女は告げる。
どうやら召喚の授業の合間に、あの先輩が勝手に召喚台を利用したらしい。だが、精霊石は管理されていて持ち出すのも難しい筈。どうやって精霊獣を呼び出したのか。
「奴は上位の精霊獣を召喚することには成功した。だが、知っての通り中位より上のランクになると条件付けの真契約を行わねばならない。それがうまく行かなかったようだ」
「荒魂の発生とどう繋がりが?」
「その上位精霊獣が、突然荒魂化した」
飛び込んできた情報に心底驚いた。契約に失敗して荒魂になるケースなんて聞いたことがない。
「で、教師達がどうにか調伏しようと苦戦している。退魔士に要請せざるを得ない状況だそうだ」
「……そう、ですか」
「今は訓練場で抑えられていても、被害が何処まで広がるか測り知れない。如何に鈴狐君といえども避難すべきだ」
「妹は確か、訓練場に近い教室ですよね?」
「アルフ……心配なのは分かるがその手のことはプロに」
「大丈夫です。無茶はしません、一緒に逃げるだけですから」
問答を続ける訳にもいかず、俺は一言詫びて走り去る。
それから、人気のない場所で俺は普段から持ち歩いている仮面を取り出す。烏天狗の面は、接触しただけで顔に吸い付く。
「鈴狐」仮面の効力で、低いトーンに声変わりする。
「はいな」耳と尾を引っ込めた狐巫女の姿へと変わった彼女は、俺の制服を魔法のように変化させる。アルフ・オーランという立場を隠し、S級の装いになった。
「天朧として出るぞ」
「私は天金として行きますか」
黒いコートを羽織り、俺達は現場の方に急行した。




