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東大陸 エンキド領域 誇り

3話目です。

 歩兵大隊は秋津少将の到着を持っていた。

 半径200メートルほどにオーク達を押し込めて、それ以上出てこないように狙撃で倒していた。

 それでも数が余り減らないのが不思議だ。


「いけませんな。再度のスタンピードの発生が有るやも知れませぬ」

「先生、どうしてですか」

「オークの発生が速すぎる。これではじきに500を超えますぞ」

「確かに、だいたいそのくらい数で出てきますね。ではこのままだとマズいか」

「出来れば減らした方が良い」


 秋津は先任指揮官を呼んでオークの数を減らすように指示する。100くらいまで減らすようにと。

 命令を実行すべく部下に指示を出していく指揮官。

 命令は実行された。

 四式小銃を二脚の伏射体制で構えオークの胸から上を狙っていく。

 四式の二脚は二段階に長さが調整でき開く角度も二段階に調整できる贅沢な物だった。その分重かったが。

 この贅沢な二脚はその後の経費節減で普通の二脚になる。


 オークがだいたい100くらいまで減った。

 その時おかしな現象が起こった。

 オーク集団の中から明らかにオークと違う吠える声が聞こえた。

 同時にオークがこちらに背を向ける。逃げるのか?どこへ?


「先生」

「うむ、何だろうね、これは」

「狼の遠吠えに聞こえます」

「君もか」

「司令官、上空より緊急です」


 通信兵が緊急ですと言って受話器を渡してくる。


「こちら本丸だ。何があった」

『こちらトンビ。オークの中心に狼の集団が突然発生しました』

「記録は取っているか」

『写真と映像は撮っています』

「現在状況を知らせ」

『オークと狼で睨み合いで・あ!戦闘が始まりました』

「分かった、現状で待機。通信は繋げたままで。この周波数は固定だ。本丸終わり」

『トンビ了解』


「通信、この回線は固定で確保だ」

「はっ、了解です」 


「副官、全部隊に撃つなと命令を。緊張を持って待機せよと」

「了解です」


 作戦参謀を全体指揮に置いてきたのはマズかったかな。だが、万が一を考えれば奴が全体を指揮しなければいけない。仕方が無いか。


「先生、あの中に突然狼の集団が現れたそうです。現在、オークと戦闘中です」

「なに!ほんとかね」

「はい、あとで証拠をご覧に入れます」

「おお、この年でこんな機会があるとは。神に感謝だな」

「こちらは先生に感謝です。色々助かります」

「オークとグレーウルフなら同格だが、何故だろう」

「分かりません。日本にはほとんど経験がありません」

「そうだな、失礼した」


「トンビ、こちら本丸。状況知らせ」

『本丸、こちらトンビ。現状戦闘継続中。狼がやや不利かと思われます』

「理由は?」

『やはり周囲を囲まれているのがマズいようです。数はオーク3に狼2です』

「分かった。引き続き監視を。本丸終わり」

『トンビ、了解』


「先生、狼が不利なようです」

「ふむ、どうなるのだろう」

「そこで数を減らします。オークの」

「同じ数にするのか。面白そうであるな。良し私は賛成だ」


「おい、お前達だ。合図をしたらオークを狙撃して10匹減らせ。10匹だぞ」

「通信、銃声がするが絶対撃つなと連絡を」

「「了解です」」

「通信完了。各部隊より了解来ました」

「よし、撃て」

「はっ」


 10匹が倒れた。いい腕だ。


「トンビ、こちら本丸。状況は?」

『本丸、こちらトンビ。オーク減りましたが以前オーク優勢です』

「数はまだオークが多いのか」

『極端な差は有りません。やや優勢程度です』

「本丸、了解。引き続き監視を」

『トンビ了解』


「オークをもう・・そうだな5匹減らす。おい5匹だ。撃て」

「5匹了解。撃ちます」


 5匹減った。


「トンビ、こちら本丸。状況はどうか」

『本丸、こちらトンビ。均衡が取れたようです』

「変化が有ったら知らせ。本丸終わり」

『トンビ、変化有るまで監視続行、了解』


 集団は数が減って中心部の様子が分かるようになってきた。

 オークの殴る蹴るを軽快なフットワークで躱してかみつきで倒すグレーウルフ。

 オークに噛み付いたグレーウルフを殴り倒すオーク。

 数が減りお互い色の濃いオークとグレーウルフの一騎打ちになった。

 お互い手負いだ。オークは頬を噛み付かれたのか肉がそげ歯が見えている。出血も相当だ。グレーフルフは右前足が動かないようだ。

 みな、声も無く見守っている。


 睨み合うオークとグレーウルフ。

 オークがじれたのだろう。殴りかかりに行く。

 グレーウルフは渾身の飛び付きでオークの喉に噛み付いた。グレーウルフが体を回そうとするが、オークがその前に捕まえて胸を抱え込む。

 だがグレーウルフは噛み付いたままだ。ゴキバキと音が聞こえる。肋骨が折られているのだろう。

 それでもグレーウルフは遂に喉をかみ切ることに成功した。


 倒れるオーク。グレーウルフは解放されたが虫の息だ。

 グレーウルフは最後の力なのか立ち上がり辺りを睥睨する。

 何か神聖な物を見ているような気がする。

 みな、声も無い。

 その静かな中、グレーフルフがこちらを見て笑ったようが気がした。

 そして



挿絵(By みてみん)



 天に向かって吠えた。とても美しい遠吠えだった。

 遠吠えが終わったあと、グレーウルフは動かなかった。倒れることを拒否している。

 何故か全員が敬礼した。


 そしてグレーウルフは静かに倒れた。


 緊張が途切れ辺りがざわつきだしたその時。


 【 おいで 】


 そんな声が聞こえた。女性の声だ。どこからでも無い。どこかからだ。

 再び静まりかえる。


 その時グレーフルフから白い光が浮かんできた。


 【 お前はみなに敬意を払って貰えたのね 】


 声の主が現れた。神々しい光が現れた。血まみれの死体が広がる場所には似つかわしくない。

 口調からすると女神なのだろう。

 グレーウルフの光は女神に抱かれた。神秘を見ている。誰も喋らない。喋ったら今見ている光景が幻になる。そんな気がする。


 【 わたくしはセレーネ。このグレーウルフは

   皆さんが敬意を払うことによって神使となりました 】


 ざわめく。


 【 皆様に感謝を。このような形での神使の生まれは久しぶりなのです 】


 ざわめきが止まらない。


 【 この場を維持できる混沌獣がいません。ここをダンジョンとします 】


 何か聞きたいのだが、口が開かなかった。隣を見ると先生も聞きたそうにしている。


 【 神使が生まれた場所のダンジョンは

   あなたたちにかなり有益と思いますよ 】


 女神セレーネに抱かれていたグレーウルフの光がやがて光の狼となり、まばゆい光が収まると白銀の狼になってセレーネの足下あしもとにいた。セレーネに頭をこすりつけている。セレーネは頭を撫でている。狼は気持ちよさそうに目を細める。


 【 混沌獣がこのような事になるのはごく希なのです。

   ほとんど無いと言って良いでしょう。

   あなたたちはこれまでと同じ態度で混沌獣に当たりなさい。

   神使になるからと言って間違っても保護などしないよう。

   でないと人種は滅びます。

   しかし、混沌領域がダンジョンが、

   この世界の安定のために存在していることを絶対に忘れないように 】


 漸く声が出そうだ。だが他の者が先に声を上げた。


「女神セレーネ様。ダンジョンを潰すとどうなるのでしょうか」


 ギルガメス王国連邦の軍人だった。彼からすれば切実なのだろう。


 【 ダンジョンを潰すと、近くに増えますよ。

   凶悪な方に向かいます。絶対ダンジョンは潰さないように 】


「では凶悪なダンジョンは潰せないのですか」


 【 潰さない方が良いでしょう 】


「ありがとうございます」


 【 困っているようですね。ヒントをあげましょう。

   ダンジョンも混沌領域と同じなのです。

   積極的に間引けば凶悪さは減ります。あくまでも減るだけです 】


「ありがとうございます」


 【 もう少しお話ししたかったのですが、もう時間が来ました。

   わたくしはこれ以上この地に留まれません。

   最後にみなさんに感謝の祝福を 】


 光が広がった。柔らかい光だ。


 【 あなたたちには少しおまけですよ。いい判断でした 】


 そして、女神と神使である白銀の狼は去って行った。

 領域中心と思われる場所に光が集まりやがて消えた。

 そこには、3箇所のどう見て地下への出入り口としか思えない建物が建っていた。


「おお、私は‥私は……」そう言って先生は涙ぐんで佇んでいる。


 勘弁してくれ。秋津は思った。なんだ、秋津口あきつぐちとは。これがおまけなのか。


 3箇所のうち1箇所には秋津口あきつぐちと看板が付いていた。

 もう1箇所はエンキドとこちらの言葉で書いてある。読めないが、綴りは同じだ。エンキド口なのだろう。もう1箇所は先生の名前だな。綴りは見たことが有る。


『こちらトンビ、本丸。聞こえているか?本丸応答せよ』

「こちら本丸。どうした」

『いえ、返事が無かったものですから。今の凄かったですね。神様ですか』

「そうだ。女神セレーネ様だそうだ」

『我々全機手を振って貰えました。白銀の狼が主翼に乗ったのですよ。驚きました。いい土産話になります。上空から見ますと、何か建物が出来ています』

「確認している、大丈夫だ。ダンジョン入り口だそうだ」

『ダンジョンですか』

「そうだ。そう言えば写真と映像は撮ってあるな」

『はい、全部撮ってあります。全機問題ありません』

「そうか、もう少しいてくれ。ダンジョンの様子が気になる。本丸以上」

『トンビ了解』


 ダンジョンか。陸軍の出番では無いな。


「ダンジョンはどうするのでしょう。ギルガメス王国連邦内の問題だと思いますが」

「はい。そうです。しかし驚きました。女神セレーネ様とは。冒険者を呼んで内部の精査に入りたいと思うのですが、日本はどうされますか?」


 統一ギルドの男、ウラジミール・ソロコフが聞いてくる。


「我々ですか?日本にはダンジョン探索技術というかダンジョン自体初めてなのですよ。ギルガメス王国連邦の諸機関にお願いします」

「そう言われてもですな、権利の問題も有りますぞ」


 軍人だった。アレクサンドル・グレヴィッジだ。


「権利ですか?」

「そうです。権利です。ソロコフ君」

「はい。発見者権利ですね。通常五%です。これはダンジョンからの利益の5%を受け取ることが出来ます。個人なら富豪に成り一生飯が食えますが、国家ですからありがたみは少ないかと」

「ソロコフ君、そうでは無いだろう。発見者では無いよ。作るのに協力しただろう」


 先生だった。ロバート・ケネディと言う。もう通称先生でいいか。


「まあ、場を作ったと言うことであればそうですが」

「ならば、この先の国際的な関係を見据えて連邦に諮るべきであろう。そうでは無いかね。グレヴィッジ君」

「確かに言われるとおりですな。その方が良いでしょう」

「分かりました。統一ギルドに規定が無いか、帰ったら確認してみます」

「そうした方が良いだろう。秋津少将、どうかね」

「こちらとしては初めての問題ですので、そちらの対応を参考にさせて貰うとしか」

「分かりました。統一ギルドとしては、速やかにこの場を開放して貰いたいのです」

「何故?」

「まずダンジョン内部の精査です。脅威度を測ります。それと、今まで混沌領域だった部分が無くなり普通の土地になりました。混沌領域内で採集に困難だった物が楽に採集できます。いつまで在るか分かりませんので、至急採集をさせて貰いたい。統一ギルドとしてのお願いです」

「そうですか」


 秋津は少し考える。実績有る機関に任せるのが吉だろう。


「分かりました。統一ギルドの仕事を優先で結構です。権利関係は後の事としましょう」

「ありがとうございます」

「ふむ。では軍も人を入れるとするか。ギルドとは立場が違うのでね、独自に調査させて貰いたい」

「結構ですよ。やって下さい」

「助かる。礼を言う」

「先生はどうしますか」

「私は、もういいよ。この目ではっきりと見た。これから資料を纏めて研究だ。来て良かった」


 秋津は、部隊に戦車のラインまで下がるように指示を出す。上空の機体にはご苦労と言った。

 1個中隊をダンジョン入り口の警戒に当たらせる。出てこないようにだ。最悪彼等は犠牲になるかもしれんな。

 軽輸送車で分解した37ミリ砲を運んできて、入り口に照準を合わせている。





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