東大陸 交易開始
ギルガメス王国連邦内の問題については介入しないと決めた東遣艦隊だが、交易をするのであればどちらにも気を遣わなければいけない。
それにある程度突っ込んだ会話をしたのはセーラム家家令、言い換え得ればイシュタル公爵家の勢力側だけであり、エンメルカ侯爵家の勢力側の言い分も聞かないと判断が付かないのも事実であった。
上陸しなければいけない。昨日は港湾長に上陸を拒否されたが今日はどうであろうか。
「船長さん、すみません」
「なんでしょうか、お嬢さん」
「髪につやの出る塗り薬?が欲しいのですが、交易品なのでしょうか」
「確か有ったような気がしますな。少しお待ちを。里崎君、髪に塗る奴は交易品に有ったかな」
「はい、船長。確認します」
里崎は持っている書類に目を通す。
「はい、有ります。このくらいです、船長」
船長に書類を見せる。
「これは、いいのかなこれで」
「はい、かなり効果があるのではないかという予想の元、決定されたようですね。この但し書きによりますと」
「ふむ、では里崎君。このくらいを彼女たちに。いかほどなら購入意欲があるか聞いて欲しい」
「分かりました。でも、この供給量は信じて良いのでしょうか」
「魔石が有る限り供給できそうではあるな。この但し書きでは、椿油に変わる安価な抽出方法が開発されたとなっている。椿油は美容関係に回すので量的には可能となっている」
「では、とりあえず2割くらいで行きましょうか」
「そうだな、本船だけでは無く輸送艦にも積んでいる。全量の2割では無く本船搭載量の2割としよう」
「了解しました」
「これ以降は私、里崎が皆様にご説明いたします。よろしくお願いします」
「「「よろしくお願いします」」」
「では、髪に塗る液ですね。名称は、「艶髪」(つやかみ)と言います」
「つやかみ」
「いい名前じゃ無い」
「確かにツヤツヤだもんね」
「何のひねりも無い」
「あんたは何期待しているの」
「ではこちらへどうぞ」
「はい?」
「これですね。どうぞお持ち帰りください。代金は結構です」
「え?でも、高価な物なのでしょう?いいのですか?」
「はい、お近づきの記念というか、皆様にはお試しという意味もあります」
「お試し?」
「はい、艶髪の評判ですね。どうでしたか?これからも使いたいですか?」
「「「「当然 !!」」」」
「ありがとうございます。開発者も喜ぶでしょう。それでお聞きしたいのですが、金額的には安い方が良いと思うのですがどのくらいの金額ならば皆さん買いやすいのでしょう」
「あ~値段か~」
「この容器でどのくらい使えるのでしょう」
「そうですね。髪の量や付け方にもよりますが、60日ほどと思います」
「この量で60日ですか」
「う~ん、銀貨1枚出せるのは金持ちだけだよな」
「私たちでも銀貨1枚は考えるわよね」
「普通の家庭じゃ無理よね」
「すみません。実は私たちはこちらの物価を知らないのです。出来れば教えて頂ければ」
「物価ですか」
「銀貨1枚有れば、普通の4人から6人の家族が半月は暮らせるわね」
「そうそう銀貨2枚で1ヶ月よね」
「そうですか。銀貨1枚で、普通の4人から6人の家族が半月は暮らせるのですか」
「そうね、贅沢しなければ余裕もあるわよ」
「ありがとうございます。大変参考になります」
「で、いくらで売ってくれるの?」
「そうですね、2個から4個で銀貨1枚ではどうでしょうか」
「「「「買った」」」」
「ありがとうございます。ちなみに銀貨の次は金貨でよろしいのでしょうか」
「そうです。銀貨の下が銅貨です」
「ありがとうございます。通貨単位を教えてもらえると嬉しいのですが」
「教えちゃいます。このつやかみ貰えたし」
「お願いします」
「一番下が鉄貨ね。5枚で半小銅貨、10枚で小銅貨。小銅貨5枚で半銅貨、10枚で銅貨。銅貨5枚で半大銅貨、10枚で大銅貨。大銅貨5枚で半小銀貨、10枚で小銀貨。小銀貨5枚で半銀貨、10枚で銀貨。銀貨5枚で小金貨、10枚で金貨。それ以上は信用貨になるわ」
「信用貨ですか」
「楕円の金貨なのだけれど、5と10と50と100と表面に記されているの。大きな取引にしか使われないわ。私たち冒険者でも上級者でないと見ないわね。普通の人なら金貨で驚く位よ」
「ありがとうございます。ならこの艶髪は小銀貨1枚で1個じゃ安いでしょうか」
「高くはないけれど、一般庶民には売れないと思う。半小銀貨なら買うと思う」
「では、半小銀貨にしましょう」
「え?いいの」
「はい、これでもある程度の値付けを任されているのですよ。それにこれは普及品という位置付けです。高級品はこちらです」
「開けてみていい?」
「どうぞ」
「「うわ!いい匂い」」
「花の香りを付けてあります。ただし、冒険者の皆様にはお勧めしません」
「「「「なぜ?」」」」
「この説明書によりますと、獲物に風上から近づけないと書いてあります。匂いを感づかれてしまうようだと記載されています」
「あー、それは不味いわね」
「いい匂いなのに」
「残念」
「でも街中だけならいいのじゃないの」
「「「それだ」」」
「これおいくらですか」
「どうしましょうね」
「「「「安く」」」」
「お気持ちは分かりますよ。安くしてあげたいのですが、花の匂いを付けるのに手間が掛かるとなっています。ですので、安くても小銀貨ですね。それにまだ高級品はありますよ」
「「「「なにそれ、詳しく」」」」
「こちらです」
「また開けても?」
「どうぞ」
「え?何この香り。凄くいい」
「うわ~」
「いかん、欲しいけど値段を聞きたくない」
「私なら平気よ」
「「「アルマ姉さん」」」
「半銀貨です」
「「「半銀貨・・・」」」
「買った」
「姉さん」
「使わせてあげるわよ、数回ならね」
「一生付いていきます」
「ありがとうございます。荷物持ちでいいです」
「クスクス、こちらに見本の小分けした物が有りますので、どうぞ」
「「「ありがとうございます」」」
後はですね・・・里崎にカルガモの子供のようにくっついて行く女達。
「これは、ボラールのウロコを加工した盾です」
「凄い。だが軽いですね」
「そうですね。裏に錘を付けられるようにしてありますので、盾職の方でも扱いやすいと思います」
「おお、それはいい。自分の扱いやすい重さに出来るのですね」
「はい。それに作っているのはドワーフの職人です」
「「「ドワーフですと」」」
「はい。なにか」
「我が国にはあまりいないのです。北のガンディスにはそこそこの人数がいるのですが」
「でも取引はあるのですよね」
「あの国のドワーフは鍛冶は余りやらんのです。研究のついでに鍛冶をやるみたいな連中が多くて」
「では、ギルガメス王国連邦ではドワーフの製品は余り出回っていないと」
「まさに」
「では、十分な供給までは行きませんがそこそこの量を供給できるとしたらどうしますか」
「勿論買い取ります」
「冒険者ギルドでですか」
「その通りです」
「そうですか、では見本としてボラールのウロコの盾を大小それぞれ10枚。ボラールのウロコで出来たナイフを長短それぞれ20本。ボラールのウロコで出来た片手剣10振り。両手剣10振り。ボラールの骨で作った槍を10本。それぞれ進呈しましょう」
「いいのですか」
「はい、その代わり値付けをして下さい。ある程度の量は安定して供給できます」
「量はどのくらいを予定されていますか」
「交易が始まれば、30日に1回、それだけの量が供給可能だとなっています」
「それは凄い。これがあれば混沌領域から出てくる奴らにかなり対抗出来ます。家令殿、絶対に交易を開始するように男爵様にお願いを頼みますぞ」
「承知しました」
彼等には橿原丸で一泊して貰い翌日帰港して貰った。
翌日、彼等と時間をずらして東遣艦隊もセーラム港に先遣隊を送った。入港して岸壁に接岸出来る大きさの船がなく、港内の水深も正確には不明なため大発艇での入港だった。
港湾長との対話で上陸が許可された。シロッキ1匹の鼻薬は良く効いたようだ。
連邦主席にボラールが1匹進呈されるが、輸送の関係も有り連邦首都エンキド近郊を流れる川を大発艇で遡り輸送することとなった。
これは、男爵家に設置された魔道通信機でエンキドとやりとりをして許可されたものだ。
参謀長がセーラム家に出向いて改めて挨拶をする。港湾長に挨拶をしたのは参謀だと言われて面目を保ったようだ。男爵家当主と騎士爵家当主では扱いが違うのは当然であった。司令長官が来ないのは納得して貰った。
セーラムの様々な人達から情報を収集した。ある程度の金を現地通貨に換金したのは言うまでも無い。
東大陸はシベリア大陸よりも大きいらしく、混沌領域も多く存在し人種が繁栄しようとすれば激突は避けられないものだった。文明は海洋進出こそしていないものの、ガンディス帝国には蒸気機関もあるレベルだった。
海洋に出ないのは、周りすべて海で、たどり着ける距離に有力な島・陸地が無かったためである。
また海の混沌領域から出る大型魚類による攻撃で船の消耗が激しく、遠洋は諦めて沿岸航行しかしていなかった。
日本は南との関係も有り、深く関与しようとはしなかった。いや出来なかった。南大陸からの移民事業に多くの人員機材を投入している現在、東とは小さな交流しか出来ない。
貨幣価値は銀貨一枚が十円相当としました。作中日本の。
半貨は完全な半分ではなく、角は丸みを帯びています。2個合わせても10個分の重量にならない。
日本国内でも、四人から六人の家族が暮らしていける金額が二十円です。
あくまでもこの世界の話ですので、史実と違います。
通貨単位は十進法です。
楕円の金貨でござる。小判・大判ですね。
作者が面倒なので、簡単な方に走ります。




