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外伝  総技研の強化

「ハッハッハ。そんな事では倒せんぞ。もっと気合いを入れていけ」


「また来てるよ。暇なのか」

「暇なんだろうな」

「俺たちで遊んでんだろ」


 シェーンカップ少佐がまた来ている。軍務は如何したんだろう。

 あれから1ヶ月、いろんな事があった。




「無理!無理だから」 資料では知っていても、いざ人型となると

「ギャー、こっち来んな 」何故俺の方に来る?

「スカった」 渾身の一撃のはずなのになぜ外れた?

「バカ-」 外れた相手が目の前に来た。

「ゲ」   振り下ろした大ハンマーが手から抜けていった。

「いざ、参る」 槍を突き出して倒す。


 一人違うね。誰だよ。

 上記で倒せなかった5名様には現地陸軍百九十二大隊第二中隊の援護があり、無事でした。

 その一人は、小さい時から近くの剣術道場に通っていたという。剣道では無く剣術である。まだ侍の精神が大きく残っていた時代であった。

 そこで刀や槍の扱い方を一通り習ったという。


 最初からケンネル相手とは思わなかった。聞けば東鳥島北東部の混沌領域ではケンネルが多数発生しているらしい。小型下位や中位を探すよりはケンネルを探す方が手っ取り早いと言うことだ。

 推測であるが、ケンネルの数が多く下位や中位の混沌獣は食べられてしまっていて数が少ないのでは無いかという。

 それで内部が飽和状態になると外に出てくる、と推定がなされた。正しいかどうかは分からないという。


 平均でケンネル20体ほどは倒している。だが、まだだと?

 50体は行ってもらう。それくらいでようやく魔道具が魔石の補助付きで発動が可能になるはずだと。

 疑問なのは、かなりの数のケンネルが確認されているが、割り当てが少なくないか?

 皆強化をしているから、一人当たりの割り当ては少なくなる。北西部の混沌領域に手を出せればもう少し割り当ては増えるが、そこまでの人員が配置されていない。

 今は魔力量を増やした日本人が()()()()()()()()()()()


「待て、実証中だと。無害と言うことは証明されていないのか」

「されていない。だから我々が体を張っている。心配するな、一応、神の代理人みたいな連中から、影響は無いと聞いている」

「そう言う意味での実証中なのか」

「そうだ」

「では続けます」

「いや、君たち逃げられないから。我々と共に実験人間」

「実験人間、いやな響きだな」

「まあいいじゃないか。その分お手当も出ている」

「我々は軍じゃ無いから、恐らく俸給の基準が違う」

「それは残念だったな。外郭団体に出向という奴か」

「いや、出向では無い。軍籍を持ったままの移籍だ。給料は軍から出ていない」

「それは残念だったな」

「帰ったら交渉するさ」

「まあ頑張れ」





 シベリア大陸では皆頑張っていたが、二人と差がつき始めていた。二人とは、五月蠅い奴と熟練の奴だ。

 既に二人は、魔石の補助付きだが魔道具の発動に成功した。

 今は魔石無しでの発動を目指している。

 

「コンチキショー、200っと」

「何もう200なのか。俺はまだだ」

「やっぱ掴んで叩きつける方が楽だよ。俺も200だ」

「お前、逞しくなったな」

「そうなの?自分でも多少は力が付いた気はするよ」

「フッ」

「そう言うお前は、なんだ。まだ150じゃ無いか」

「だって当たらないんだよ」

「何でだ?」

「分からん。かなりの数を後ろに漏らして兵隊さんのお世話になっている。自分でもどうにかしたい」

「どうにかなりそうか」

「なりそうだったら、今頃こんな数じゃ無いはずだ」

「何でだろうな」

「力の入れすぎじゃ無いかと思うんだが」

「それだったら、あの島津人の方が酷いぞ」

「あいつの近くによると飛沫が飛んでくるからな。近寄りたくない」

((((((激しく同意する))))))


「しょうがない、協力して皆で数を稼ごう」

「如何する」

「俺が掴むから、紐で縛ってくれ。そこを叩こう」

「いいのか?」

「仲間じゃないか」(数を上げないと早く本土に帰れないじゃ無いか)

「ありがとう」

「いいって事よ」


 それからは早かった。全員が200を超えた。あの二人は400近く行っているらしいが。

 違いすぎて狩り場が分けられた。


「さて、皆さん200を超えたので、小型中位の混沌獣を相手にします」

「小型中位ですか」

「はい、ウザミと呼ばれています。ウサギによく似ていますが、ゲズミと同じで囓ります。さらに強力なジャンプ力で腹を狙って跳んできます。これは痛いですよ。気絶出来るレベルです」

「あのー、気絶したらどうなりますか」

「囓られて、恐らく出血多量で死ねます」


 これには全員が黙った。


「心配なく。日本陸軍では死亡者は出ていません」


 ホッとする。


「ただ、威力があります。骨折もします。ですから防具を配ります」


 今までのゲートルと鉄鉢に加えて、膝から腰までの防具と腰から肩までの防具が配られた。


「これで骨折は防ぐことが出来ます。打撲くらいにはなります。これ以上防具を厚くすると身動き出来ませんので我慢して下さい」


 えらく重そうだったが身につけるとそうは感じなかった。


「重くないでしょう?皆さんの体が強くなっている証拠です」

「凄い、これが強化ですか」

「偶然発見されたのですが、カラン村の皆さんは常識だったので、知っていると思ってこちらに話さなかったそうです」

「確かに常識なら、相手も知っていると思うな」


 次に武器が配られた。鉈・よりごつい棍棒・手槍・小さな盾・大きな盾だった。


「これに慣れて貰います。鉈は薪割りで、棍棒は両手で扱う大きさですんで素振りです。手槍と盾は教官が付きます」

「薪割りですか」

「風呂の熱源ですな。多少は料理にも使います。まあ頑張って下さい」


 それから1週間は、薪割り、素振り、教官付の訓練だった。

 それぞれ自分に合った武器にする。島津人はやはり鉈だった。達人は棍棒を。掴んで叩きつけていた奴は小さい盾と片手で扱えるように短くしたごつい棍棒だった。

 他の人間は見繕って貰う。


「では、今日からもう少し奥に行きます。混沌獣も強くなりますので、気をつけるように」

「混沌獣が強くなるとは?」

「混沌獣は混沌領域から離れると弱くなります。だいたいですが陸軍の実感としては10キロで1割近く弱くなります。ゲズミを狩っていたのは、混沌領域から30キロほどの所ですから、3割低下ですね」

「どのくらい近寄るのですか」

「後5キロ踏み込みます。今の皆さんではそれ以上は無理でしょう。そこに狩り場としてある程度の草原があります。そこで狩りをします。注意事項として、ウザミ以上の混沌獣は食料としますので気をつけるようにして下さい」

「食料ですか」

「はい、こちらはカラン村謹製の保存袋です。これで鮮度の低下が5分の1程度になります。処理はこちらでやりますので、皆さんはただ狩って下さい」

「旨いんですか?」

「時々、そこそこ旨い肉が出ていたと思いますが、こいつです」

「「「「「「狩る」」」」」」





「ほう、全員50体倒したか」


 シェーンカップ少佐が聞いた。


「はい、20体目くらいからは全て自力で倒していました」 


 鈴津リンツ大尉が答える。


「我々もそうだったからな。それでこの後はどうする気だ。ケンネルで強化しようとすると時間が掛かる」

「そこで相談なんですが、オーク単体を6人で相手にさせるのはどうかと思いまして」

「オークか。難しくないか」

「いけると思います。それに最近オークが増えているという偵察結果があります」

「6人がかりなら何とかなるか。それに一人槍を扱える奴がいたな」

「細島少尉です」

「では、許可しよう。くれぐれも怪我には気をつけるように」

「了解です」




「「「「「肉~~」」」」


 これがシベリア大陸に残った民間人の強化結果である。退化しているのか。

 一応、一番弱い魔法陣が魔石補助で発動するようになった。


 混沌獣は人間を見ると問答無用で襲ってくるので、待ち構えていれば良かった。

 しかし、痛い。


「おい、盾。大丈夫か」

「このくらい。おい早くやれ」

「おう」

「よし、盾準備出来た」

「ありがとよ」  棍棒でゴン。


 あの、当たらない人は大きな盾担当になった。よく防いでいる。盾に当たってふらついたところに誰かが一撃入れて弱らせ盾の棍棒で仕留める。

 他の人間は盾が止めたウザミを仕留めている。楽なものだ。ゲズミより楽かもしれん。

 ただ、一人血まみれになる奴がいた。島津である。奴は何故か楽をしようとせず、一人で立ち向かった。熟練でさえ盾を使うというのに。


「きぃぇーー」


 あいつは人なのか?良くわからん気合いで切りつけている。






「無理!これは無理」

「ギャー、なんだよあいつは。ハンマー喰らって平気じゃ無いか」

「もっと強く打たないか」

「オリャ!」 ズブ

「おお、刺さったぞ。一気に行くぞ」

「「「「「オオー」」」」 ガン ゴン ズバ

「まだだと?」

「もっと行け」 ゴン ズン

「よし、弱ってきた。これでどうだ」 ドン


 ようやく倒せた。なんだこのオークとか言う化け物は。

 あっちではシェーンカップ少佐と毘天大尉がスコップで無双している。オークを一撃だ。

 よく見ると、スコップがうっすらと青白く光っている。

 魔道具なのか?後で聞いてみよう。


「お疲れさん。倒せたか。怪我人はいないか」


 シェーンカップ少佐が聞いてきた。


「疲れました。ケンネルとは全く違います。化け物ですね」

「まあ、こいつはケンネルとは全く違うしな。俺たちも最初は苦労した。不思議な生態もあるしな」

「不思議な生態ですか?」

「おお、こいつは何故かケンネルの上位種の言うことを聞かん。だからケンネルの上位種が入っている群れには居ないみたいだ」

「不思議ですね。不思議と言えば、そのスコップですが、魔道具ですか」

「いや、普通のスコップだぞ。少しゴツく作って貰ったが」

「でも青白く光っていますよね」

「アレは、魔力を込めるとなる。それだけで普通のスコップが強力な武器になる」

「魔力ですか。そこまで一気に我々も成れますか」

「難しいな。よほどの幸運と度胸が必要だ」

「止めておきます」

「その方が良い。我々は普通に強化してこのくらいにならないかの実験もしている」

「結果が出たら教えて下さい」

「いいだろう」



 総技研の面々がカラン村に向かってから、2ヶ月。

 全員、魔石補助付きで普通の魔道具が発動出来るようになった。

 結果を出面々は日本に帰るのだった。






魔道具=魔法が使える道具。という感じで書いています。

魔法=火が出るとか。水が出るとか。怪我が治るとか。

>少しゴツく作って貰った  ボラールのウロコと骨を使った高級品です。


10月1日と2日は、各4話です。


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