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外伝  総技研の日々

 真空管以外の電気関係は、接点保護と導通材で結果を出した総技研。

 失敗した事は記録に残っているが、彼等の都合のいいおつむの記憶からは消え去っている。

 だが、魔石関連は手詰まり感を感じて素材関連の開発へと移る。


「この魚のウロコとか骨とか、なんとか使えないかな」

「まず、特性を調べることだな」

「カラン村の鍛冶師によると(カラン村の鍛冶師サイトスによって、いろいろ分かってきていた)切れ味のいい刃物とか強靱な盾とかの防具になるそうだ」

「刃物って何に使っている?」

「包丁、ノコギリ、鉈、斧、ハサミ、ナイフだな。他にもあるらしいが、主な物はこれくらいだ」

「評判はどうなっている」

「軽くて切れ味がいいと。耐久性も抜群らしい」

「それ、国内の刃物屋が困るんじゃないか」

「そうだ。だから高級品として扱っている」

「じゃあ、盾は」

「文字通りだな。後は小さくして籠手とかの小物だそうだ」

「どのくらいの強度があるんだろう」

「分からん。現物で試そう」


 切れない。いや切れるんだが、普通のノコギリでは歯が立たない。金鋸でもすぐに歯が駄目になる。そのくせ進まない。

  

「鋼鉄並みの強度だからな。切れるわけ無いだろう」

「何事も試さねば」


 動力カッターはさすがに切れたが、やはりすぐにカーターがちびてしまう。


「こいつなら」


 ガス溶断機を持ってきた。


「おい、お前資格有るのか」

「無い」

「バカヤロー」


 資格の有る者を呼んできてやって貰う。これは簡単に切れた。断面は鉄と同じように溶けている。


「耐熱性は如何なんだ」

「今のを見ると鉄並みだが」


 実験用の小型炉を持っているところで、鉄と比べてみた。

 融解温度は鉄と大差ない。

 軟化点はウロコの方が高かった。

 と言うよりも、生物由来でこの耐熱性はおかしい。


「穴開けてみよう」


 ドリルの刃先がすぐに舐めてしまう。厚い部分は穴が空かなかった。薄い部分で空いたくらいだ。


「25ミリ機銃をはじいたと言うし」

「装甲板に使えそうだな」

「当然やっているだろうな。25ミリがはじかれたのは海軍だし」

「航空機に使えればかなりの軽量化になりそうだ」

「航空本部と空技廠でやっているだろな」

「そう言えばカラン村では、こいつをどうやって加工しているんだ?」

「「「あ!」」」

「でも軍からは何も言ってこないと言うことは、軍は軍で知っていると言うことか」

「軍だからな。案外力業でやっているかもよ」

「あり得る」




「と言うことでカラン村に出張行きます」

「賛成」

「おい、全員じゃないぞ」

「「「「「えーーーーーーーーーーー」」」」」

「当たり前だろ」

「誰が行くんだ。当然オレは入っているよな。同期じゃないか」

「そんなこと言ったら、ここに居る皆は同期だぞ」

「そうだった。じゃあどう決めるんだ。専門分野でか」

「そう言うと、混沌獣の専門家などいないが」

「違う、金属とか、化学とかだ」

「ああ、そう言う意味か。でも残念。くじ引きで」

「なんだよそれ」

「不公平感がなくていいだろ」

「よし、お前最後な」

「え?・・」

「ほう、変な反応だな。皆、こいつ何か企んだぞ」

「いい根性してるよな」

「最後だよな。決定だ」

「あみだくじだったら皆好き勝手に線を一本引こう」

「「「「賛成」」」」 

「分かったよ、最後でいい」

「企むからだ。反省していろ」

「クッ・・」


 厳正なくじ引きの結果

 宮田、河村、松下、石橋、丸石の五名が、めでたくカラン村出張になった。


「え、大艇無いんですか?」

「カラン村行きは、特別便だ。通常出ている奴じゃない」

「じゃあ、いつもどう行っているんですか」

「船に決まっておろう」

「では次の船で5名、カラン村へ行きます。乗船予約をお願いします」

「5名だな。船は余裕があるぞ。もっと行ってもいいが」

「ちょっとお待ちを」


(おい、如何する。なんか空いているようだ)

(そうだな、これで俺たちだけ行くと、へそを曲げるな)

(確実にな)

(予算はあるのか)

(有る)

(じゃあ、仕方が無い)

(そうだな)


「申し訳ない。明日出直してきます」

「そうするか。つぎの便は五日後だ。まだ五十人くらいは乗れる」

「ありがとうございます」



「全員で行きます」

「なんだそれ」

「実は、航空便だが、臨時便であって定期便は出ていないそうだ」

「で?」

「残りは船しか無いな」

「はい、あと50人くらいいけるそうです。昨日の時点で」

「全員で行っても20人だぞ。余裕だな」

「予算は有る」

「なら、決まりだな」


 5日後、博多発カラン港行きの貨客船に乗船出来た。

 貨客船は、転移前はロシア航路や中国航路、それに東南アジア航路で使われていた船で、インド航路や欧州航路に使われていたような大型で豪華かつ高性能な船ではなかった。

 実用一点張りとも言える内容で、一番良い部屋で欧州航路の二等室程度だった。その分部屋数が多くトン数のわりに多くの乗客を乗せることが出来た。

 シベリア大陸駐屯部隊の人数も増え、休暇や庶務、配置転換で行き来する将兵のために貨客船が定期便で往復している。

 大勢の時は軍の輸送船で行き来するが、通常時は民間の貨客船を使うようにしている。でないと民間の船会社が干上がってしまう。駐屯部隊への補給物資も、貨客船で足りない分は民間の商船で行っている。

 現状では民間の船会社は外航需要が無く、内航船だけが動いている状態で、政府の補助が無ければほとんどの会社が潰れている。

 この航路も、補助のような物だった。


 カラン港に着いた一行は、軍の許可とカラン村の人から許可を得て村に向かう。

 カラン村の人がカラン港に居るのは、商店で買い物をするためだった。

 シベリア大陸派遣軍はずいぶん大きくなり、その人員に対して軍の酒保では個人の嗜好品を全て賄えなかったし賄う気も無かった。

 そこで御出入りの商店の出番である。片っ端から声をかけた結果、何軒かの個人店舗の他、大小の商店や商社が手を上げてくれた。

 ほとんどが駐屯地のそばに店を出したが、カラン港にも数件の商店が有った。

 その店で買い物をするのである。

 ちなみにカラン村の収入源は、魔法陣、薬草ベースの薬、混沌獣素材の加工品がほとんどである。

 そのため村の収入はとんでもなくなっているのであるが、村長が村人一人当たりに渡す金額は、そんなに多くなかった。身を持ち崩すからだという。どこの世界でも同じである。

 従来のカラン村の建物は住人達の手作りであり、少々ガタが来ていた。その村の建物全てを立て替えることが出来たのも、この収入が元になっていた。


 カラン村に着いた一行は、現地陸軍の案内でサイトスの元に向かう。


「サイトス、居るか」

「居るぞ。なんだあんたか。後ろの連中は」

「日本から来た。聞きたいことがあるそうだ」

「あー、なんかそんなこと聞いたな」

「じゃあお願いする。俺は部隊に戻るから」

「分かった、相手をすればいいのだな」

「頼んだ」



「あんたら、なんの用だ」

「私たちは、日本で魔石や混沌獣の素材の研究をしている者です」

「正直言って、行き詰まっているので、こちらで何か参考になることが有ればと思いやってきました」

「そうか、日本人がこちらに来て2年だよな。それで分かれば苦労は無いさ」

「その通りなのですが」

「それで何か分かったことがあるのか」

「魔石の利用方法で二つ」

「2年でそれなら凄いと思うが」

「ありがとうございます。一つは液化です。燃料に混ぜると、煙が薄くなります」

「おお、あれは良いな。最近煙が少ないから如何したと思っていたら、あんたらの成果か」

「この開発は皆さんに喜ばれました」

「もう一つは電気に関わることです」

「それは分からんから言わんで良いぞ」

「はあ、どうも。それでこちらでは、どういう使い方をしているのか気になって」

「それで来たのか。はるばるご苦労さんな事だ」

「なにか使って良かったことが有りましたでしょうか」

「そうだな、あの液化には驚いている。今までやった奴らがいなかったからな」

「ありがとうございます。それで、どういう利用方法があるのですか」

「焼き入れ油に使った。面白い結果が出る」

「面白いですか?」

「俺もまだ試行している状態でな。詳しくは分からんが、強度が増すようだ」

「それは良いですね。こちらに渡したのは、1番薄い奴と次ぎに薄い奴を液化した2種類です」

「それは凄いな。今までは屑魔石として捨てていた奴だ。一番発動に力のいらない魔道具でも発動しなかった。それが利用出来るなら、良いことだ」

「では、色の濃い魔石を液化した物をこちらに送りますので使ってみてください」

「やるぞ。面白そうだからな」

「お願いします。我々も結果が知りたい。日本でやってみましたが何の効果もありませんでした」

「そうなのか?俺たちと日本人の違いはなんだろう?」

「さあ?」

「そうか、まあいい。他には何か無いのか」

「そうです、ウロコと骨です」

「ウロコと骨か。アレは俺も初めて見たときは驚いた」

「初めてですか」

「そうだが、面白くもあったな。いつもと違う素材だ。いろいろ試したぞ」

「それで刃物や防具に使うと素晴らしいとなっていました」

「凄く良い物が出来た。オレも興奮したよ」

「あの、それで、どうやって形にしているのでしょうか」

「ああ、形にか。お前達出来ないのか」

「残念ながら、出来ません」

「そうか、そう言えば結構特殊な道具が要るな。日本には無いと思う」

「見せてもらえませんか。秘密なら結構ですが」

「いや、普通にある道具だから。秘伝でも何でも無い」

「お願いします。見せてください」

「分かった。ちょっと待ってろ」


 サイトスは道具を探しに行った。


「おい、こっちに来い。今からウロコを加工するところだ。ちょうど良い」

「行きます」

「では、これがそうだ」

「普通の道具に見えますが」

「そうだな、見た目は普通だ。ただ魔石を粉にしてまぶしてから鍛錬した素材だ」

「魔道具の一種ですか」

「広い意味では魔道具だな」

「ではそれがあれば簡単に加工が出来るのですか」

「そうでも無い。結構魔力が要る。中々厄介な素材だ。それだけに遣り甲斐も有るが」

「魔力ですか。日本人にはありませんから無理ですね」

「魔力か。日本人にもあるぞ。詳しくはクロに聴け。クロは日本人だ。ケイルラウの所に居るだろう」

「ありがとうございます。これから行ってみます」

「まあ頑張れ。また面白い物が有ったら頼む」

「分かりました」


 一行は、今度はケイルラウの所へ向かうのだった。





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