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カラン村 受け入れ準備

 上村大尉は新しい大尉の襟章に違和感を覚えながら、真田司令官の下に出頭した。

 だいたい報告書と命令書を貰ったのが、昨日だ。昨日の今日で未だに頭が追いつかない。


「よく来た。まあ掛けたまえ」

「はっ、失礼します」

「今日、カラン港に第1陣1100人が来るそうだ」

「???」

「上村君、南大陸からの客人だよ」


 唐沢大佐が思い出させる。

 上村は思い出したくなかったのに。


「はい、えーとですね。何をすれば良いのでしょうか」

「まあそうなるな。唐沢大佐」

「これを」


 書類一式だった。目眩がしそうだ。


「確かに受領しました。拝見しても?」

「構わない。要目だけ見てくれ。詳細の確認は後でいい」

「では、失礼して」


 要するに国に有益な人材を確保せよと言うことだった。


「趣旨は理解出来たと思います」

「良いことだ」

「それでどうするね」

「カラン村に戻り、村長他と相談します。日本の一存で決めていいことではないはずです」


 上村の発言に、二人とも頷いている。


「艦隊からは入港が夕方になると言っている。今日は駐屯地を開けたので、そちらに宿泊して貰うつもりだ」

「では、明日から面接を?」

「そうだな。出来ればカラン村の人にもいて欲しい」

「当然だと思います」

「では、上村中・では無いな。大尉、行きたまえ」

「失礼します」


 上村大尉はカラン村に帰った。



「タマヨ、村長はどこかな」


 まとわりついてくるタマヨに聞く。


「家だと思うよ」

「そうかありがとう」


 タマヨも付いてくる。どうしようかと思うが、どうせバレる。今秘密にすれば、後で仲間はずれにしたと拗ねるだろう。


「一緒に行くか?」

「うん!行く」


 もう村の目線には慣れた。


「村長、聞いて貰いたいことがあります」

「なんですか」

「実はですね、村の人口が増えるとしたらどうしますか」

「人口が増える?日本からですか」

「いえ、帝国からです」

「帝国・・・帝国・・、え?もしや」

「はい、我が国海軍が南の大陸に接触しました」

「おお、詳しいことをお聞かせ願えますかな」

「私も詳しいことは存じませんが」


 上村は報告書に書かれていたことをかいつまんで話した。タマヨはヘー、ほー、ふーん、だ。


「そんなことが」

「それで明日1100人と面接をします。どうされますか?我々としては立ち会って貰いたいのですが。既に仲間がこちらにいると話してあるそうです」

「行きましょう。会わなくては。タマヨ、ロウガとミカヅキの二人を呼んできてくれるかな」


 動かないタマヨ、ジーと長を見つめる。


「分かった、分かった。タマヨも一緒に行こう」

「約束だよー」


 タマヨが走り出した。


「はあ、いつまで子供でいるのだろう」

「まだまだですね」

「お恥ずかしい限りです」

「まだ14というかもう14というかですね」

「ジンイチはタマヨのことをどう思っている?」

「?まあそうですね。こちらに出来た娘と」

「娘ですか?」

「同じくらいの娘がいるのですよ。他人には思えなくて」

「そうですか、ありがとう。娘と思ってくれるならいい」

「どうしました?」

「いえ、何でも無いですよ」

「ではですね、出来れば10人以上来てもらえるといいのですが」

「いや、もっと行きますよ。皆見たいでしょうから」

「そうですか。では明日朝一で列車で出ましょう」

「鉄道ですか。アレは疲れませんね。どうもトラックは疲れて」

「皆そうですから」


 ロウガとミカヅキがやって来た。


「村長、なんだって。タマヨの説明が良くわからん」

「まったくだ、皆が来るから見に行こうって。なんなんだ?」


 こいつ、ろくに聞いてなかったな。村長と上村はタマヨを見る。


「?」


 クソ!可愛いじゃないか。


「ありがとな」


 頭を撫でてやろう。


「えへへ」


 はあ~、と村長がため息を吐く。


「で、村長。ため息は分かる気がするが、なんの用だ」


 ミカヅキがタマヨを見ながら聞く。


「驚くなよ。帝国から人が来る」

「「!!」」

「帝国だって?」

「あの出てきた帝国なのか」

「そうらしい。ジンイチ」

「じゃあ説明する。実はオレも良くわかっていない。昨日聞いた所なんだ」

「斯く斯く然々だ」かいつまんで説明する。


「「うん、そうか」」分かったようなふりをする。


「そうだな、この村で冒険者はオレとミカヅキだけだし」

「アビゲイルはいいのか。近衛だろう」

「アビゲイルか、まだ彼等の前に出すか迷っている」

「いいんじゃないか。彼は託されたのだろう?」

「そうだな。連れて行くか」

「そうした方が良いと思う」

「では連れて行こう。あと10人くらい連れて行きたいが」

「10人と言わずとも。なあジンイチ。人数は多い方が良いのか、制限があるのか」

「いやないぞ。とりあえず10人は欲しいだけだ。希望者がいれば多くても明日の列車に乗せていく」

「よし、それでは俺たちが皆に説明してこよう」


 ちらっとタマヨを見る。見られる原因が分かっていない。


「では頼む。ジンイチ明日は多くなりそうだ」

「分かりました。列車の手配をします」


 翌日早朝、駅に集まったのは50人もの人だった。

 思ったよりたくさんいて、戸惑う上村である。


「もういないかな。そろそろ出発するので」

「これで全部だ」

「では出してくれ」

「はっ、出発進行」

「出発進行」


 ディーゼル機関車に曳かれた列車が走り出す。蒸気機関車ではなかった。いろいろ設備が必要な蒸気機関車はここには導入されていない。そう言えば最近煙がずいぶん薄くなった。魔石の有効利用だと言うが、さっぱり分からん。

 途中、分岐で列車待ちをしてからカラン港行きの線路に入り込む。

 カラン港駅からは、駐屯地まで歩きだ。2kmほどしかない。


「ここか、皆がいるのは」

「そうです。ただ今はこちらの面接が済むまで、建物の中にいて貰っています」

「面接はどこでやる?」

「こちらの建物です」


 屋内練兵場、まあ体育館なのだが。

 既に受付には兵員が待機していた。20人ほどいる。中村大尉と和田主計中尉が手配した人間だろう。


「おはようございます。大佐殿」


 和田主計中尉が変な挨拶をする。


「はあ?大佐じゃない、大尉だ」

「いやいやいや。大佐権限だろ。大佐殿じゃないか」


 中村大尉が冷やかす。


「勘弁してくれ、どんだけ話が広がるのが早いんだ」

「参謀長です。あの人が「上村は大尉だが、カラン村と受け入れ住民のことに関しては大佐だからな」と、部隊中に」

「勘弁してくれ、これ以上有名人になりたくない」

「もう遅いですね。広がりました」

「諦めろ」


 とどめを刺さないでくれ。


「まあ仕事をしよう。上村大尉」

「そうだな。中村大尉」

「受付には20人用意した」

「ではカラン村の住人をそれぞれ二人付けます。その方が安心出来るでしょう。お互いに」

「確かにそうだ。では、カラン村の人は任せる」


 中村大尉は、そう言って準備をしに行った。


「村長、今から受付をしますが、これは面接を兼ねています。個人の名前、出身地、家族はいるか、やってきた仕事、希望する仕事、住みたい場所、まあこれは今は分からないと思いますが、皆と離れて平気かとかを聞きます。我々日本はまだこちらの風習やしきたりが分かりません。その部分を手伝ってください」

「それは私たちの村へも招き入れることは出来るのか?」

「自由です。ただ言わせてもらえれば、日本も出来れば手伝ってもらいたいことがあります。それが可能かどうかも調べたいのです」

「生活の面倒はどうする?」

「日本が見ます。半年から1年は大丈夫だと、聞いています」

「そんなにか、いいのか」

「故郷を追い出された人を無碍には扱えません。我々も運はいいが、ある意味追い出された方ですから」

「そう言えば、そうだったな。追い出された者同士か。いいかもしれん」

「皆、聞いたな。帝国にいた人間が仲間に加わる。賑やかになるぞ」


 おお。歓声が沸く。


「日本の国内には開拓しなくても済む、広い農地があります。出来ればそちらにも人手が欲しいのです」

「それは初めて聞くな」

「はい、我々もまさかこのような事態になるとは思いませんでした。今までの広さに合わせた農業をしてきました。こちらに転移していきなり増えたのです。手が回りません」

「開拓しなくても済むか。魅力的な言葉だな」

「せっかく農地として整備されている土地があります。人手が足りなくて荒れるよりは、解放して使ってもらえればと政府が考えました」

「条件はどうなのだ」

「日本人と同じです。慣れるまでは補助もします」

「他には。有るのだろう」

「そうですね。冒険者、魔法使い、魔道具職人、学者、医者、鍛冶?ですか。後は政治家と行政関係者です」

「冒険者が必要なのか。君らかなり強力じゃないか」

「軍隊ですから。個人では弱いですし、それに知識がありません。特に混沌領域の」

「この地の混沌領域か?」

「違います、この地の混沌領域はカラン村の皆さんが使うというかでしょう」

「そうだな。少々遠いが日本が鉄道と道路を作ってくれたおかげで近くなった。出来れば継続して使いたいな。小さい物だ。大勢で使えばすぐに衰える」

「実は東の遠い島に、混沌領域を見つけました。この間の上位種や魚もそこからです。そこで採取活動をして貰いたいのです」

「当然、補助はしてくれるのだろう」

「はい、出来ればその件でも経験者に話を聞きたく」

「分かった。皆も聞いたな。冒険者とギルドの関係者を優先で日本に紹介する」

「「「分かりました」」」

「有り難いですが、良いのですか」

「構わない。彼等も以前と同じ仕事が出来るなら、安心できるだろう。それに。日本には世話になっているからな」

「世話など。我々もカラン村の皆さんの知識には大いに助けられています」

「では、お互い様でいいではないか」


 そして、混乱と困惑の受付が始まった。







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