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東鳥島攻略戦 侵攻

本日5話投稿です。

1話目。

 本来、陸軍に歩兵第十三師団というのは編成上存在していない。

 太平洋に風雲急を告げる正和16年の対米対立時でも、歩兵10個師団があっただけだ。これから拡大して師団数を増やすと言う時に転移してしまい、話は立ち消えになった。

 現在も、対立している敵対国家が有るわけではないので、師団数は増えていない。ただ、影では重装備化によって師団の数は変わらなくても兵数は増えている。

 それに、ただいたずらに定数を増やせなかった。兵を指揮する士官下士官の絶対数が足りない。志願制軍隊であるから、常時は士官・下士官の定数は多い。定数で戦うなら、問題無い。

 だが、いざ鎌倉となると、急拡大される実戦部隊と教育部隊で人(士官・下士官)の取り合いになる。

 陸軍は士官学校の定員増に予備役の招集で士官の増員を。兵長や上等兵の中で使えそうな人間を下士官に昇進させるという手段で、下級指揮官の増員を図っていた。



 第十三師団にもそういう人材は大勢居た。

 第十三師団は、東鳥島攻略戦のために各部隊から抽出して作られた臨時編成の師団だ。

 師団司令部を置いている神州丸の師団長公室で、師団長八雲円利少将は参謀長である村井大佐相手に番茶片手で愚痴っていた。


「参謀長、上陸したい」

「駄目です。まだ師団司令部ができあがっていません」

「良いじゃ無いか。天幕で」

「通信設備がここほど整っておりません。指揮が出来ません」

「そんな正論ばかりで疲れない?」

「これが仕事です」

「だいたい私は、転移前に予備役になっていたんだ。営門昇進で准将にもなれなかった人間を引っ張り出すかね。田舎で趣味の壺磨きに精を出していたらいきなり招集されて少将に昇進、さらに臨時編成の師団長ときた」

「昇進と就任おめでとうございます」

「何も誠意がこもっていないね。かえってご愁傷様ですという気配がする」

「さようで」

「君だって私に付き合わされて大佐にされて、この部隊の参謀長だ。何か思う所もあるだろう」

「多少は有りますな」

「そうだよな、だいたいこの部隊に組み込まれた奴らは癖が強い奴ばかりじゃ無いか」

「十九連隊と戦車第三連隊ですか」

「十九連隊に行くと、ここはドイツ軍と思うような名前がありふれている」

「まあ日本に帰化した者達を集めた部隊ですから。それでも半数以上は昔からの日本人ですよ」

「まああの癖のある奴らは嫌いじゃ無い。部隊としての能力も高い。ただ落ち着かないだけだ」

「話すと面白いんですが。落ち着かないのは認めましょう。人間の生物としての本能です。これはどうしようも無い」

「戦車第三連隊の大桑正芳大佐なんだが、「あー」「うー」で良く指揮が出来ると思う」

「連隊副官に聞いたら微妙なニュアンスがあるそうです」

「もう連隊副官が連隊長で良くないか?」

「そう言われる人は多いそうですよ。でも自分にはそのような能力は無い。連隊長あってこその自分だと言っているようです」

「そうなのか。まあそれで上手くいっているなら問題は無い」

「私としては大佐で大隊長が気になるのですが」

「彼は、南アタリナ島にシベリア大陸と工兵隊で先陣を切って上陸している。そしてここだ。それだけ見込まれているのだろう」

「能力は問題無いのでしょうが、参謀本部にうとまれているんじゃないですか。内地に置いときたくないんでしょうな」

「それはな。参謀本部が下手を打った。彼のせいでは無いがけっこうな人数が退役と予備役編入に左遷と被害を被った。私から言わせれば自業自得なのだが。そのせいで彼を恨む人間がいる」

「では今後の昇進も」

「まあ無いだろうな。本人も将官になる気は無いようだ」


 などとしゃべりつつ、上陸後の経過を見守っていた。



「ぶえっくしょん」


 工兵大隊大隊長の金山大佐がくしゃみをした。


「どうしました。いきなりくしゃみして」

「畜生、誰か俺のことを妬むか噂しているに違いない」

「まあ大佐大隊長ですからね。大隊全員が一階級特進しましたから大隊内では尊敬されていますよ?」

「なぜ疑問形なのだ。昇進だ、悪いことでは無いだろうに」

「それで妬まれることも多いとか」

「そんな奴はほっとけば良い」

「そういう肝の太い人間ばかりでは無いと言うことです」

「でも、俺は服務規程に従って休暇を出せと言っただけなんだぞ。それに他にも部隊はあるのに何でまた我々なのかと抗議しただけだ。それをあの三人が利用して参謀本部から主戦派や徴兵論者を放り出したせいじゃないか。特進は詫びと謝礼代わりだ」

「でも今回は抗議しませんでしたね。これで3回目です。常に最前線ですよ。仲間だと思っていた歩兵中隊は前回後からきましたし。われわれが陸軍最高峰の部隊と言うことです」

「なんでそんな考え方出来るんだ?今回は事前に根回しがあった。帰還後は服務規定に従って休暇を出すという言質も取っている。それに新任の参謀総長にケチ付けるわけにも行かないだろうが」

「それでかの歩兵中隊が今回は一緒と言うことですか」

「道連れは多いに越したことは無い」

「恨まれますよ」

「今更だな」

「おかげさんで十六連隊の先陣切っているんですが、これは良いことなんでしょうね」

「まあ工兵隊が道を作らなければ、木立の中をでかい物資を背負っての歩きだからな。皆いやだろうよ」

「そう言えば知っていますか?今回の十三師団は編成が通常とは違うみたいです」

「ああ、輜重の奴が言ってたな。師団砲兵隊が無いとか、野砲もかなり減らして居るみたいだ」

「機関銃が新型の重機関銃が入っていました。野砲の代わりに迫撃砲みたいです」

「重迫なのか?」

「いえ、80ミリのようです」

「相手は混沌獣だ。ケンネルとか言う混沌獣だとな。それに開けていない森や山での戦闘を重視しているのだと思う」

「そうですね。南アタリナ島やシベリア大陸では野砲なんて必要なかったですから」

「それにケンネルは小型だというしな。大雑把な分類だと小型上位だったな」

「カラン村で聞いた情報だと歩兵銃が通用すると言うことですし」

「そういうのは全部[上村報告書]で上がっているのだろう。師団長もあれを読んで今の編成にしたはずだ」

「それに万が一、大型が出てきたときのために37ミリ速射砲や20ミリ対戦車銃を用意してある。工兵隊の守りは堅いぞ」

「どこにこんな武装した工兵隊が居るんでしょうね」

「ここだよ。ここ」

「そうですね。おっと、もうこんな時間ですか。自分は護衛の歩兵中隊と打ち合わせに行ってきます」

「あいつら外は初めてなのだろう?ちゃんと迷子紐を付けて歩くように言っておけ」

「かの中隊と組みたかったのですが、やんわりと断られましたからね。場数を踏んでいる部隊は分散させて他の部隊の見本にするという理由で。迷子紐は戦訓で上がっていますから、大丈夫なはずですが念押ししておきます」


 金山工兵隊はケンネル2集団に向かって道を作っていた。




 十九連隊は上陸後師団工兵隊の道作りを護衛しながら、川に沿って上流へ向かっている。偵察結果が正しければ後3日後くらいで会敵予定だ。

 しかし、道作りはこんなに早いのかと思う。ノコギリ戦車が木を切り倒しブルドーザーで根っこを引っ張り出す。押しつぶす。引っ張り出せない根っこは爆薬で破砕する。そこら辺から適当に拝借した土を入れてブルドーザーやローラーで踏み固める。 

 複数台同時に動いているから早い時は1時間で2km位進む。聞けば、南アタリナ島の時に相当苦労したようで戦訓として上がっているという。その成果が今出ているのだろう。

 道作りとは別に野営地を確保するために、周辺を開削している部隊もいた。これも戦訓だと。平らな所と傾斜地では野営時の疲れ方がまったく違うと言う。余った土は野営地を水平にするために使ったり道路に撒いたりすると言う。


 1個中隊を交代で進路警戒と周辺索敵に出している。勿論迷子紐は確実にだ。この迷子紐も戦訓だ。確かにロープをたどれば味方の所に出る。遭難する可能性は低くなっている。


 十九連隊上陸から三日目のお昼頃、ちょっと前進しすぎたという百九十二大隊二中隊が動く物を発見し追跡した結果、逆襲を受け撃退した。


 ケンネルだった。


 姿は二足歩行で身長140cmくらい。人型で体毛は無く肌は灰色。口には小さい牙が上下に生えている。棍棒で武装している。腰蓑を着けている。全裸では無い。

 事前に配布された参考書の通りだった。ただ、このケンネルがどのくらいの強さかは分からなかった。10匹全部同じ色なので、おそらく上位種では無く兵隊だろう事は推測出来た。


 参考書では六七式歩兵銃は有効とされていたが、実際に対峙した兵はとても不安だった。ただ撃って倒す事が出来たので安心出来た。


 この会敵の結果は直ちに全軍に通達され、歩兵銃が通用する安心感を与えた。


 十九連隊は工兵隊による前進を中止して、少し後退した所に野営地をもうけその日の前進は中止とした。

 野営時の歩哨は中隊当たり1個小隊とし、夜間3交代で張り番を行う。

 

 十九連隊連隊長は各大隊長を集め、今後の協議を行っていた。


亜天慕楼あてんぼろう少佐やシェーンカップ少佐は、このまま部隊を横に広げて前進すべきと言うのだな」

「そうです。1個大隊が前進。1個大隊は横撃を警戒。1個大隊は後方で休養と後方警戒。中心には工兵隊を置き開削をしながら前進というのが、我々の意見です」

三田麻伊矢みたまいや少佐は違うようだな」

「はい、ここは空母に出てきて貰いましょう。その為には相手集団の位置の特定が必要です。広範囲で偵察を実行すべきかと」

「空母一隻を我々十九連隊の航空支援に充ててくれると言っていたな。確かに活用すべきだろう」

「では広範囲に偵察を出しますか?」

「いや、出さない。ケンネルの能力や規模が分からない。それに一番重要なのは、地図が無い。我々が地球に居た頃ならそれで良かっただろう。ここは地図も無い異境だ。そのことは十分意識して欲しい」

「はい、つい忘れがちですがここは地球では無く、ランエールなのですね」

「それでだ、最初の案に修正を加える。工兵隊を中心に置いて開削しながら前進と後方に1個大隊は変えない。横撃を警戒するのを左右それぞれ1個中隊に減らす。前方には2個中隊を充てる。残りの2個中隊で前方に警戒線を作り開削速度に合わせてゆっくり前進する。いいな。ゆっくりだぞ。シェーンカップ少佐」

「了解であります」


 ほんとにゆっくりする気か?全員そう思った。



 


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