東鳥島攻略戦 序章
艦隊は仮称東鳥島北部の湾を泊地とした。航空偵察の結果、南側は暗礁や小島が多く大型船の航行には不適とされたためだった。
艦隊は東鳥島北方より接近し北の湾に入ったが、今回は怪魚との接触は無かった。生息域でもあるのだろうか。
海軍は湾の中央付近。陸軍は湾の南東とし上陸地点を決めた。
捕鯨船団も陸軍と同じ泊地にした。この方が警戒は楽である。
海軍からは1個水雷戦隊が陸軍部隊の護衛に当たる。
上陸前、軽巡四隻で水際を甲斐が陸地部分を砲撃して敵性生物の排除を図ることになっている。
陸軍は長門と陸奥を希望したが僚艦ともほぼ鋲構造の船で在り、あの怪魚の体当たりを喰らうとどうなるか不安があったため断った。
今回来ている船はすべて溶接構造である。駆逐艦は白露級から、軽巡は最上級から、重巡は利根級から、空母は火龍級から、戦艦は大和級からが全溶接構造であった。
甲斐の砲弾は輸入品で在り在庫に不安があるが、今後製作するので榴弾は盛大に撃って良い。今回は榴弾7徹甲3で積み込んできた。軽巡も榴弾7徹甲3で積み込んできた。榴弾はすべて、徹甲は半分を残して撃ってしまう。
砲撃開始時刻が迫ってきた。東遣艦隊司令長官と参謀達は総旗艦である八幡丸にいる。
砲撃艦隊の指揮は三水戦司令の小西主水少将が採る。
「司令、時間です」
「それではいこうか。つまらない仕事だが大事な仕事でもある。砲術参謀、事前の標定は間違いないな?」
「は、確認してあります」
「よし、各艦撃ち方始め」
「撃ち方始め」
甲斐は少し離れて撃っているが、さすがに大音量だ。通常で奥の森を耕すようだ。その後榴弾で近場の木々や海岸を吹き飛ばすのだろう。
酒匂をはじめとする軽巡も撃ちまくってはいるが、いかんせん迫力不足だった。
やがて各艦から定数を打ち終わった旨報告があった。
「よろしい。撃ち方止め。各艦とも所定の位置に復帰せよ」
「発令します」
海岸は大分ほじくり返したが役目は果たせただろうか。陸軍の安全を祈るだけだ。
陸軍の大発が海岸線に向かう。ん?なんだあのでかい大発は。双眼鏡でよく見ると戦車が乗っていた。
最初に戦車を揚げて内陸からの混沌獣を防ごうというのか。他にもでかい大発が数隻在り、戦車や装甲車を載せていた。動くトーチカなのか。ケンネルがいると言うことは混沌領域が有ると言うことだ。
正しい対応に思う。
「隊長、グナイゼナウ隊長」
「なんだ、ハウアー」
「ハウアーではありません。羽宇阿と呼んで下さい」
「良いじゃないか。ルトガー羽宇阿君」
「呼べるじゃないですか」
「それより用があるのではないのか」
「そうでした。隊長、なぜ我々が一番じゃないんですか」
「良いじゃないか。安全が確認されてからの上陸で。文句は無いだろ」
「一番に上陸したかったです。前人未踏の地ですよ。ロマンじゃ無いですか」
「それで未知の生物に咬まれるか?」
「それも含めてです」
「亜天慕楼少佐やシェーンカップ少佐はゆっくりで良いですと言っていたが」
「そもそも隊長がくじ引きで負けるからです
「くじ引きは八雲少将が言い出したんだよ」
「八雲円利師団長もつかみ所が無いというか、なんというか」
「まあ普通の人間では、あの人の真価はわからんだろう」
「隊長は分かりますか」
「俺も長い付き合いだが、よく分からん」
「誰が分かるんでしょうか」
「少なくとも参謀長の村井大佐は分かっているよ。それだけは事実だ」
「あの人苦手なんですが。亜天暴路少佐やシェーンカップ少佐も苦手にしていますよ」
「反対意見は正論で潰す人だからな。だがそれだけのにあの人は信じて良いぞ」
「信じる者は救われるですか?」
「そうだな。あの人を信じなければ馬鹿を見ることはあるだろう」
「師団の連隊以上の参謀を集めた会議があったんですが、師団長の発言に頷いているだけでしたよ」
「八雲師団長の発言がまともだったんだろうな。変なことを言えば途端に意見してくるはずだ」
「師団の先任連隊は十四連隊なんですが、連隊長の香川大佐は八雲師団長をべた褒めでしたね」
「ああ、あの二人は故郷の先輩後輩だそうだ」
「それでですか。方言で話されたので訳分からなかったです。日本ですよね」
「津軽は寒い所らしい。君も飛ばされないようにしろ」
「北海道ですが、自分は。」
「すまない。北海道の方が寒そうだ」
「連隊長、連隊参謀、神州丸から電話です」
「分かった。今行く。師団長閣下からか」
「そうです」
「いよいよかな」
「だといいですね」
「ロマンだろ。喜べよ」
「なんかいやな予感がするんですよ。どっかのビルの屋上で固まっているような」
「なんだそれ」
「時々夢で見るんですよ」
こいつアンドロイドやレプリカントじゃ無いだろうな?いやそれは無い。子供が居たはずだ。?アンドロイド?レプリカント?なんだそれ?何でこんなこと思いついた?疲れているのかな。
「どうしました」
「少し考え事していた。すまんな」
「いえ、邪魔したようで」
「まあどうでも良いことだから。気にするな」
「では行きましょう。何を命令されるか楽しみです」
「いやな予感じゃ無かったのか」
神州丸の八雲師団長からの電話は簡潔だった。
『君たちも概略図を見ていろいろ考えただろう。その一つが現実になった』
「新手ですか」
『よく分かっているじゃないか。概略図に無いケンネルの集団が発見された。その撃滅に向かって欲しい』
「どこですか」
『2を川を挟んで西側に新たに集団を発見した。これを6とした。君たちは6集団を撃滅してくれ』
「なぜ我々十九連隊が選ばれたのですか」
『1は十四連隊が、2は十六連隊だ。十七連隊を予備戦力として残すので、後は君たちしか無い』
「普通なら十七連隊が行くのでは」
『君の所のシェーンカップ少佐がな「ずっと船も良いものですが、出来れば少しは暴れたいですな」と言っていたぞ』
「奴のせいですか」
『まあそれだけでは無いが。それと迂闊だったが戦車はすべて揚げてしまったよ。新型の三式装甲車を2台残したので、それは出そう』
「ありがとうございます」
「では、我々はケンネル撃滅後海岸に戻るのでは無く、十六連隊と合流せよと言うことでよろしいでしょうか」
『うむ、そうだ。師団工兵隊も出す。軽輸送車も50台付けよう』
「シベリア大陸では工兵隊と軽輸送車はずいぶん活躍したと言いますからありがたいですが、話されてないことがあるでしょう」
『分かったか。なぜだ』
「最初から気前が良すぎます」
『そうだったのか。これからは気をつけよう』
「それで何かまずいことでもありましたか」
『上陸地点に対する安全確保のために艦砲射撃をしたのは知っているだろう?』
「はい、景気のいい音が此方まで聞こえていました」
『無いのだ』
「は?」
『だから、あのでかい弾はもう品切れだ。これ以上撃つと何かあったときに対応出来ないから撃たないそうだ』
「では我々は、安全確保の艦砲射撃は無しですか」
『まあ落ち着け。海軍さんは豆鉄砲ならあると言うから』
「豆鉄砲ですか」
『駆逐艦の12.7センチ砲だ』
「いや重砲じゃ無いですか」
『海軍だと一番ちっこいそうだ』
「まあいいです。どのくらい回してもらえますか」
『3個駆逐隊と言っていたな。ああ待て、これか。駆逐艦11隻だな。12.7センチ砲58門だ』
「58門ですか!」
『驚くよな。砲兵師団並だ。1門当たり50発撃ってくれると言うことだよ』
「ええと、2500もとい2900発ですか」
『あきれるよな。それに足してだ、空母を1隻航空支援に回してくれるそうだ』
「心強いです」
『では、作戦開始は明日早朝だ。ゆっくり休養を取ってくれ』
「は、では失礼します」
電話は切れた。
翌朝駆逐艦がやってきて上陸予定地点に撃ちまくった。撃ちまくったとしか言い様がなかった。
上陸一番乗りは皆主張したので結局くじ引きになった。
百九十三大隊の三田麻伊矢少佐が一番乗りの栄誉に輝いた。と思ったら、神州丸から特大発に乗って装甲車が行く。
なんとか待って貰って、百九十三大隊が大発に乗り込んで発進していく。
百九十三大隊が上陸を開始した。
弾が飛んでこないから落ち着いた物だ。南アタリナ島やシベリア大陸への上陸で大分不手際があったと言うことで、作業手順の見直しや訓練のやり方を見つめ直しただけの事はあった。
次いで百九十一大隊、百九十二大隊と上陸していく。外地敵性生物はいないようだ。あの砲撃だ。驚いて奥へ行ったのかもしれない。
橋頭堡が築けたと言うことで連隊長も上陸をする。各部隊散開捜索をして敵性生物の有無を確認する。捜索範囲内には居ないようだ。
ついで工兵隊が上陸して広場と道路を作り始める。軽戦車改造のノコギリ戦車やブルドーザー等によって素早く作業が進む。これも南アタリナ島やシベリア大陸での経験が生かされて居る。
輜重部隊がやってきて補給物資の展開を始める。これをやらないと有るはずなのに無いと言うことになりかねない。
トラックの上陸は当面無い。軽輸送車で運べる物しか揚陸しない。工兵隊の努力に期待だ。
夕方、なんとか連隊が野営出来る広さが確保された。
ビルの屋上で固まるとか。
日本人が当地向けに調整されてる間に何かされたんでしょうかね。
帰化した人達の名前ですが、明治期は漢字表記を求められました。
大照以降、カタカナでも良いことになりました。
なぜか難解な漢字を使いたがる人も居ますが。




