新世紀
ガミチスとの和平交渉は、長引いた。
事情があるにしろ、一方的に従属を迫られ戦争にまでなった。戦争原因が問題でも許されることは無い。
特にディッツ帝国は強硬姿勢だった。
日本とファイオール公国は損害が多いが国土まで蹂躙されたわけでは無かった。
その差が和平交渉に出た。
いろいろ渋るガミチス帝国と頑ななディッツ帝国に日本はいらだち、遂に伝家の宝刀とまでは行かないが管理者の意向を伝えた。
曰く
「ディッツ帝国は危なかったんだぞ。日本が無ければ、ランエールから生きるのが精一杯の世界に追放と言う事態もあり得た。ガミチス帝国とディッツ帝国のランエールに来てからの行為は神視点だと大差無い。共に元の世界から追放された国家であるが、覇権的という共通性も多く主神ランエールは行動を注目している。今回は、転移直後の認識不足とサイティックスの呪縛で片を付けると良いな。なおもごたついている場合はどうなるか。心しろ。これは警告だ」
これには、両国とも考えを変えなければならなかった。未だに前世界の考えを引きずっている。仕方ない事とは言えこの世界の主神ランエールの意向は無視できない。
しかし、和平交渉が和平条約になるのに2年を要した。
ディッツ帝国はかなりの譲歩をし、ガミチス帝国も領土的拡大志向を引っ込めたことで歩み寄りが見られてのである。
ディッツ帝国の財政破綻が近かったのも要因の一つだ。この世界に来たときには国庫は空。債券ばかりでマイナスからのスタートだった。日本がテコ入れして一息ついてこれからと言うときに戦争が始まった。国庫に金が有るわけも無い。戦費は全額債券だ。そして返還できる当ても無かった。これをガミチス帝国からの賠償で賄おうとしたのである。
ガミチスもそんなに払ったら国家財政が破綻する。何としても減額をと要求した。
これは不味いと日本がしゃしゃり出る。金貸し登場だ。日本の戦費は余裕が有りすぎる。移住者護衛艦隊の保有する金が、まだ5万トン以上は有った。これを管理者に流用しても良いかと聞いたのだ。世界平和のためなら良しと、言ってくれた。有り難いことです。
日本が両国に金1万トンずつを貸し付けた。金利0.1%の単利で100年払いという信じられない条件だった。
直接この金を使っての賠償支払いは無しとした。
両国はこの金を元に札を刷った。金を元に刷るのだ。極端なインフレは発生しない。その札で債券を償還し、賠償に充てたりした。国家賠償に充てるためには専用の新規超高額紙幣を発券して民間には出回らないようにした。
まだ、貿易が出来るのは4ヶ国だけであり、国際債券市場や国際株式市場も出来上がっていない。そんな時に高額な紙幣をばらまけばどうなるか。
この超高額紙幣はいずれ買い戻さなければディッツに優位に立たれてしまう。ガミチスとしては外貨を使って買い戻すしか無かろう。
民間には債券を償還した資金が大量に流れ込んだ。しかし、行き場が無い。両国政府は行き場の無い資金による過剰なインフレを防ぐために新たな雇用創出先として各種公共事業へ資金の流れを誘導する。
また、戦争が終わったことにより動員解除された軍人達の雇用先としても重要だった。彼らの多くは仕事が無く、治安の上でも問題になっていた。
開発できる土地は両国とも膨大に有った。人口も十分に有る。
日本とファイオール公国は、ディッツとガミチスの経済騒動に注意を払いながら貿易相手として対応していく。
人口で倍なのだ。下手をすると経済的に飲み込まれる。日本は金融面では圧倒的に優位だが、金融以外の産業面で優位性は魔石技術以外小さいか劣る。ファイオール公国は、一番小さく注意深く行動している。
幸いなことに、足らない資源や技術をそれぞれで補完できることでバランスを取れるだろう。
戦争が終わって5年経った。
世情が落ち着きを見せてきたことで、4ヶ国の国際協力機関を設立する運びとなった。
国際連合の発足だ。
ディッツとガミチスの世界には、国際機関は無かった。日本とファイオール公国の世界には有った。日本は、抜けたことが有るが。
実効性を持たせるために4ヶ国で条約を結び、各国軍事力の一部を供出。
国連軍を形成した。国連軍の役目の一つに、公海上の治安維持と救難活動。そして、当面の本命とも言える世界一周と各未踏地調査が有る。
世界一周は各国とも計画はしたが、大き過ぎるこの星は重荷過ぎた。未踏地調査は日本がシベリア大陸で細々とやっている他は、各国とも自国支配地域の島嶼を調査することが精一杯だった。しかも、渾沌獣とか居る。どちらも一番経験の深い日本が主導していく。
国際連合結成から10年。ようやく概要だけとは言え世界地図が完成した。混沌領域の関係で踏み込めない地点が多数有り、広すぎる大地は航空写真のみで人跡未踏地点がほとんどだ。
宇宙からランエールを見てみようと宇宙開発も進んだ。この分野ではガミチスが一歩進んでいる。発射基地は、北ソレイル島に設けられた。赤道付近で都合が良い土地だった。
国際連合結成から15年。初の軌道衛星打ち上げから6年。偵察衛星はこの星ランエールの軌道に4基程が回っている。有人軌道衛星は2年前に上がった。
4ヶ国の間では大きな問題は発生していない。東の大陸でもガンディス帝国の魔王は大人しいし、ラプレオス公国も問題を起こさなかった。ギルガメス王国連邦は平和だ。
今日もエンキドダンジョンは賑わっているだろう。
国際連合結成から20年。偵察衛星は高性能化し基数も増えた。
その偵察衛星が写した写真が問題になった。今まで無かった大地が撮影されている。写真は、フィルムカメラで撮影されて衛星からカプセルに入れて投下し、カプセルの出す信号を追って回収するという手間の掛かる方法だった。衛星に搭載できるカプセルの数に限りが有り、1基辺り30個程度だった。撮影間隔も2ヶ月に1回だ。
国連軍の出動だ。全く未知の存在が居るのだろうか。
不安しか無いが、もし居たら意思の疎通が可能ならいいと思う。
国連艦隊は出港した。
明日は続く。
これまでお付き合いいただき、ありがとうございます。
つたない文章でしたが、作者なりの考えで書いてきました。
最後までご覧いただきお礼申し上げます。




