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ガミチス解放

少し長いです。

そして次回最終話。

 デストラーは、国内の状況把握に努めることになった。

 魔王化が解けたなら、その影響はいかほどなのか。過去の文献だと反乱や暴動の他、治安の悪化が必ず起こっている。統治者として、それは許せなかった。

 警察はもとより、3軍にも治安維持を命じる。

 だがそれは杞憂に終わった。

 思ったよりも治安は維持され、風紀の乱れも少ない。

 何故か?


 フロスト教授は言う。


「デストラー総統閣下は、ウィルヘルム5世から治政を取り戻しガミチスを正しい姿に戻してくれました。民衆は、おそらくそれを考えている。過去の魔王化した人物はいずれもウィルヘルム5世のような人物でした」


 デストラー総統は再びネーチェとフロスト教授を呼び、講釈を受けている。


「だが、戦争に突き進んだのは私も同じだ」

「そうではないのです。総統閣下」

「どう違うのだ。ネーチェ氏」

「前の世界の神に掛けられた呪縛が解けたのです。思考誘導がです。思考誘導を受けていた間の記憶も持っています。大衆もバカでは無い。総統閣下が悪い存在か、自分たちのことを考えていてくれる存在か、感じ取っています」

「有り難いことだ」

「その上で、今の現状を認めているのです」

「では、治安の悪化に関しては心配しなくても良いと?」

「私はそう考えます。フロスト教授はいかがか」

「私も概ね賛成です。概ねというのは戦争が負けそうだからです。負けた場合、大衆がどう行動するか予測が付きません」

「そうか。負けた場合か。しかし、教授。それについては、政府機関のみならず、警察と3軍でも研究している。戦争が始った頃から」

「そうなのですか」

「それが組織です。必ず負けた場合を考えなければいけない」

「が、しかし」

「総統閣下?」

「魔王化が解ける。いや前の神の呪縛が解けるなどと考えていなかったので、研究はやり直しでしょう」

「それは大変ですね」

「コレは行政側の問題でね。お二方にも協力を願いたいのだが。どうだろうか」

「お力になれるのなら」

「私も、問題ありません。協力します」

「では、立場を用意しましょう・・・・・





「ガミチスからの返答は無しか」

「しかし、司令長官。明らかに軍事行動は減っています。なにかの印かと」

「そうだな、そうだと良いな。しかし、大型誘導弾と言うことも考えられるぞ」

「いきなりこちらの妨害を破ってくる技術が有るのでしょうか」

「それはガミチスに聞かないとな」





 その日。

 ガミチスでは午前10時にデストラー総統が重要な発表をするという理由で、休めない公共関連以外全ての事業所や学校などが休みになった。そしてラジオを聞くようにと。


『午前10時です。只今からデストラー総統閣下より重要な発表が有ります。皆様、ご静聴下さいますようお願いします』

『デストラー総統である。ガミチス国民の皆に知らせる』


 ざわついた。いつもなら、『告げる』だ。『知らせる』とは何だ?


『国民の多くが気が付いているように、私デストラーは魔王では無くなった』


 やはりか。そう思う人は多い。


『そしてここからが重要だ。心して聞いて欲しい』


 何だ?なにを言われるんだ?


『前の世界。転移前の世界だ。そこには我々ガミチスをこの世界ランエールに追いやった神サイティックスがいた』


 居たな。酷い神だ。


『その神サイティックスだが、心して聞いて欲しい』


 本題か?何かされたのか?


『我々ガミチス人を含む、その世界全ての人に呪縛を掛けていた』


 は?呪縛?なんだそれ。


『神サイティックスは、前の世界の最高神であり世界の管理をしていた。そして奴は、我々で遊んだ』


 ・遊んだ? 遊んだだと!


『覚えているだろう。魔神とその軍団を。サイティックスは最高神自ら魔神を演じていたのだ。我々ガミチスに最初から勝ち目は無かったのだ。しかし、それに対抗したガミチスはこの世界に追いやられた。いや、この世界ランエールの最高神ランエールに拾って貰った』


 なにそれ。拾って貰ったって。


『ランエールの最高神ランエールに拾って貰わねば、とても悲惨な世界に飛ばされていた可能性も有った』


 じゃあ運が良かったのか。


『そして今。サイティックスに掛けられていた呪縛は解けた』


 呪縛か。また出たが何なんだ?


『掛けられていた呪縛は【世界を征服せよ】だった』


 世界征服はガミチスの国是だろ。それが掛けられていた呪縛だって?呪われていたのか、我々は。


『呪縛が解けた事は理解していなくても、皆感じていると思う』


 なんかスッキリした気がする。すがすがしい気がする。


『スッキリした気がすれば、呪縛は解けた。私の魔王化も解けた。魔王化も呪縛の影響だった。しかし、ガミチス国民が再び世界制覇の野望に燃え強者を望めば魔王は出現するだろう』


 魔王化は魔王になろうとしてなるのではないのか?


 

 デストラーは、一言一言ゆっくりと時間を掛けて、国民が理解する時間を持てるように話しかけていた。


『魔王化は、人々の無意識下の願望が形になる物だろうという研究者達の考えがある』


 【俺っち】【私が?】【僕も】そんなことを考えていた?


『【世界を征服せよ】という無意識下の願望も、前の神サイティックスに思考誘導という呪縛を受けた結果であり、【世界を征服せよ】という呪縛は無くなるが、その影響はかなり長い年月残ると研究者達は言う』


 気持ち悪い!


『そこで、その影響による戦争を阻止するための法案を現在研究中である』


 法律で阻止できるのか?大丈夫なの?


『法案が完成次第、国民による投票を実行する。その投票は現在総統を務めている私の信任投票も同時に行う。国民の参政権をこの時だけは拡大し、15才以上の男女全てに投票権を与える。この時だけと言うことを忘れないようにして欲しい』


 え?私もなの?俺もか?僕も?


『これまでに無い法律だけに実効性・・どれだけ魔王化を阻止できるかは分からないが、今の状況で出来るだけのことをしたい』


 当てにならないと言ってるの?そう言われればそうとも思うな。


『そうそう。前の世界だが、悪神サイティックスは他の神々によって粛正されたという。具体的には禁固1万5000年と最下級への格下げに、態度が悪いので禁固が解けた後は便所掃除を当分だそうだ。禁固の場所は普通の刑務所ではない。神にとっても厳しいところだと。』


 ・禁固1万5000年の後便所掃除・禁固1万5000年の後便所掃除・禁固1万5000年の後便所掃除・禁固1万5000年の後便所掃除・禁固1万5000年の後便所掃除・・・・

 最下級格下げ・最下級格下げ・最下級格下げ・最下級格下げ・最下級格下げ・最下級格下げ・最下級格下げ・最下級格下げ・

 ざまあみろ。いい気味だ。


『落ち着くように。前の世界の神は、サイティックスに替わり他の神がなるそうだ。サイティックスの呪縛が酷くて苦労するようだ』


 ああ。そうですか。


『今から知らせることは需要なので、聞き逃さないように』


 何だ?なにを聞かされるの?・・・????


『我がガミチスは世界征服を掲げて戦っているが、現実には不可能であり、サイティックスの呪縛により強制されてきたことだ。よって、戦闘の中止を全軍に命じた』


 止めるのか。確かに海軍は酷いやられ方をしている。もっと出来る。まだやれる。


『まだやれる。もっと続ける事が出来る。そう考えた国民はサイティックスの呪縛が深く残っている。気を付けたまへ』



 その後も放送は続いた。




「総理、一大時です」

「公王陛下。ガミチスに重大事が起こりました」

「皇帝陛下。勝ちましたぞ」


 それぞれ違った形で、ガミチスが一方的に休戦をしたことを政府最高責任者に知らせた。

 日本海軍がガミチス帝国海軍の目をかいくぐって哨戒活動させていた潜水艦により、ガミチスのラジオ放送を受信。録音した。既に哨戒機から見つかっても攻撃を受けることもなかったので、浮上していたという。


 三ヶ国連合が緊急首脳会議を開いたのは言うまでも無い。


「遂にですか」

「そうですな」

「これで終われます」


「問題ですが、精神操作されていたというラジオ放送の内容でした」

「事実らしいですな」

「我が国は疑います」

「我がディッツ帝国内のガミチス軍捕虜の目が赤くなくなった。と言う報告が有ります」

「日本が捕らえているガミチス軍捕虜も同様です」

「ほう。我が国はまだ報告が有りません」


「日本には神の代理人と言うべき管理者がられまして。聞きました」

「「それで、どうでした」」

「ガミチスのラジオ放送のようにガミチスは前の世界の神サイティックスに精神誘導を受けていたのは事実だと。前の世界全体が精神誘導を受けていたとも」

「怖いですな。そのよう神もいるのですな」

「日本には「悪神もまた神なり」という言葉も有ります。何か酷い罰を受けているようですよ。神の禁忌に触れた、と」

「精神操作ですか」

「それでは無いそうです」

「では、何が」

「「神の世界での決めごとなので、人には関係ない」と」


「他に気になることと言えば…」

「投票ですな」

「全くもってそのとおりです」

「デストラーの信任投票と」

「魔王化を防ぐ?ですか」

「可能なのでしょうか」

「日本は魔王化とは縁が無いと言われました。管理者から」

「我が国はどうなのか聞いていただきたい」

「我が国もです」

「分かりました。聞いておきましょう。ただ、管理者は答えたくない事柄とか、答えられない事柄が多岐にわたるようです」

「そうなのですか?」

「私は、総理大臣になって1回お目通りしただけですが頻繁に会っている者によると、人間に教えて良い情報と教えてはいけない情報が有るそうです」

「教えて良い情報は全て聞き出せそうですか?」

「頻繁に会っている者によると、教えてもいい情報でもなんと言うか機密度の違いがあるそうです」

「ではすぐに教えてくれる事柄は。神にとってはたいしたことが無い事柄ですか」

「そうでもないようです。その時々で優先度があり、取捨選択は管理者が行っていると」

「では、全ての質問には答えて貰えないのですか」

「そうです」

「まるで楽をするなと言っているような」

「実はそのとおりなのです。人々が争うのも現実で、他国を占領しようと勝手だが滅ぼすのは許さないとも。自滅するならそれは勝手だからご自由にとも」

「それは!…」

「どうされました。ロイエンタール首相」

「我が国は、この世界に来て他の大陸と融合したのです。その大陸を征服しました。そして一部勢力は殲滅しようともたくらんでいました」

「それは」

「そうです。日本との出会いが無ければ、現実になっていたかも知れません」

「そうなっていたら、今はどうなっていたのか想像も出来ませんね」

「神が許さないと言ったことを行ったのです。この世界から追放されて酷い世界に行くか、滅ぼされていたか」

「想像できませんな」




 ガミチスが一方的に休戦してから半年後。

 ガミチスでは選挙が行われた。

 ひとつは、デストラー総統の信任選挙。

 もうひとつは、魔王化を防ぐための法案の是非を問うものだった。

 デストラー総統の信任選挙では、圧倒的な得票率で信任された。

 

 肝心の魔王化を防ぐ法案だが、いくら考えてても有効性が高い法案を作ることが出来なかった。魔王化で重要な人の精神を縛る法案が完成するわけも無かった。ために次善三善とも言うべき法案が提出された。

 軍事費の削減と上限を設けることだった。これは軍の規模を小さくすると言うことであり、軍部からの反対や何らかの動きも警戒された。

 しかし、軍は素直に従った。サイティックスの呪縛というショックが有ったためか、国民の多くがサイティックスを否定することに異論を持たなかった。サイティックスを祭り上げていた宗教でさえ、内部で割れていた。未だにサイティックスを祭り上げる勢力と、批判する勢力に分かれて。


 そして軍事費削減と軍を縮小する法案は成立した。沿岸警備隊や災害救助隊などの民生向け戦力は別枠とされているが、軍に比べればささやかな戦力であり問題は無いと思われる。



 さらに1年後。

 ガミチスから使者がやって来た。

 和平交渉を開始したいと。




次回更新 6月15日 05:00 予定


ガミチス人の精神が解放です。

次回最終話。

「新世紀」

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