進む世界
デストラー総統は、メッセージを読む。
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ディッツ帝国
日本
ファイオール公国
三ヶ国連合として、デストラー総統に申し入れる。
戦争を止めよう。
これ以上戦争を続ければ、多大なる損害と将来に大きな禍根を残すことになる。
今なら、転移直後の認識不足による戦争だった。で済ませることも可能だ。
返答を期待する。
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戦争を止めるか。だが、我がガミチスにとって世界制覇は命題とも言える。姿勢を変えろと言うのか。
国民全体がこの思想に取り付かれているのだ。今更、変更など…?
そう言えば、前の世界の神によって思考誘導を受けていたと聞いたな。この世界の神から。何故、今になって思い出す?
何故だ?
翌日、デストラー総統は思想家を呼んだ。転移前に「神は死んだ」とかの論文を出して教会から異端認定された在野の思想家だ。その方面はさっぱりなデストラーは関心を持たなかったのだ。話題になったから覚えていただけだった。
他には深層心理学が専門の教授も招いた。
「ネーチェ氏。端的に聞く。神は何故死んだのか」
「人々が、より自由を求めたからですな」
「自由を?ですか」
「そうです。今までの宗教的価値感では否定されるような理論・技術や社会が現在の現実世界です。矛盾を解消するには、人々は己の心を自由にするしか無い。「神は死んだ」というのは、従来の宗教的価値感とそれによって形成されている社会生活上の価値感を否定する事なのです」
「それにしては宗教が衰えたと思えませんが」
「目に見える教会の数は減っておりませんな。しかし、参拝に訪れる人々は減っております。宗教家は現実を認めません」
「私のような宗教に頼らない人間から見れば奇妙なことです」
「それこそが、私の「神は死んだ」と言う主張のもとにもなります」
「宗教に頼らないことがですか。神には助けられましたよ」
「この世界の神ですな。前の世界の神には。どうでしょう」
「確かに、前の世界の神は否定するしかないでしょう。しかし、宗教とは違う視点でですよ」
「ですが今の宗教は、前の世界の神を基にしています」
「そう言う意味では前の世界の神は死にましたな」
少し休憩を取ることにした。こう言う問答は疲れるものだ。
「さて、フロスト教授に窺うが、人々は内なる神とどう向き合っているのだろう」
「内なる神ですか。前の世界の神は死んだ扱いでしょう。しかし、この世界の神はまだ馴染みがありません」
「馴染みですか」
「この世界の神は、たった数年で人々の精神世界に影響を与えるような存在の仕方をしていません」
「実は教授。私は思考誘導を前の神から受けていたのに気づくに時間が掛かった。今の神に聞いたことが有るのだが、今まで気が付かなかったというか思考にも登らなかった。それ程前の神の影響を受けていたのだろうか」
「そうですな。ネーチェ氏もそうでしょうが、私も前の神の思考誘導に気が付いたのは最近です」
「それは前の神の影響力が減っていると?」
「そう思われますな。ネーチェ氏はどうお思いか」
「私も、そのように考えます。少し興味深い調査結果が出ています」
「ああ、アレですか」
「何ですか。お二方は分かっているようですが」
「魔王化です。現魔王はデストラー総統閣下です」
「確かに、私が魔王です」
「その影響力が減っています」
「・何ですと?」
「誰かが魔王化するとその影響を受けた人々の目、虹彩の部分が赤くなります。転移前の研究結果で明らかです。それが、虹彩の赤い人間が減っているのです」
「むぅ…まさかそれも思考誘導の結果だと」
「そう考えている心理学者や思想家、哲学者は多いです」
「私の所へは、報告という形で上がってきていないが」
「まだ影響下に有る人間が多いのでしょう。デストラー総統閣下が魔王化した時点ではほぼ100%でした。今現在は80%程度まで減っています」
「かなり急な減り方と思われるが」
「狂騒に駆られた熱が冷めてきている。我々はそう考えます」
二人に礼を言い、下がらせた。
その日の夜。デストラーは激しい頭痛と発熱に見舞われた。
「きつかった…」
だが、すっきりしている。思考も視界も。???
鏡はどこだ。
目が赤くない。
まさか。魔法の発動は、どうだ。
簡単に発動できたファイヤやウォーターがなかなか出ない。まるで魔王以前のようだ。
そうか。魔王では無くなったか。
デストラーはしばらく感慨にふけっていたが、冷静な統治者としての顔をした。
私の魔王化が解けたなら、国民への影響はどうなったのだ?調べねば。
「バイエルライン」
「何ですか。閣下」
「閣下と言うな。それよりもおかしくないか」
「妙にスッキリした気分です。それに目が赤くないですよ」
「魔王化の影響から外れたのか」
「でも現状どうしようも有りませんけれど」
「バラン島で自給自足ではな」
久しぶりに妻の顔をまともに見た気がする。子供達も可愛い。いつの間にこんなに大きくなったのだろう。
「総統閣下、どうされました?いえ、あなた。私の顔に何か付いていますか」
「いや、相変わらず魅力的だと思ってな。つい見つめてしまった。オットーとアメリアは、大きくなったな」
「あら、いやだわ。もうおばさんですのに」
「いくつになっても、魅力的だよ」
いかん、俺は何を言ってるのだ。まさか、前の神の影響力が無くなったからなのか?
「お父様、お早うございます」
「おとうた…おあようこちゃいまちゅ」
「オットーは、よく言えたね。格好いいぞ」
「アメリアは、可愛いよ」
子供達はエヘヘと笑いモジモジする。
こんな日が永遠に続けば良いが。しかし、ガミチス最高責任者として責任は取らねばなるまい。
家族にはどう切り出すか。
次回更新 6月10日 05:00 予定
最終話が近くなってまいりました。
ガミチス本土決戦は?と言う声には、元々する気はありませんでしたと。
デストラーの家族は設定しておいて出さなかったので、今しか無いと思い。




