どこを目指すのか
ここは三ヶ国連合首脳が集まった会議室。と言っても大きな部屋ではない。
3人が収まる程良い広さの部屋。
東インド大陸最南端の、元はガミチス基地があった場所だ。各国に招くのは距離の問題も有り、無理とされここになった。
同時に軍や政治経済の交渉役も集まっている。
「今回の勝利は、犠牲も大きかったですが、それ以上に事態を進めることが出来ました」
日本国内閣総理大臣吉田茂が発言した。
「そうですな。日本の損害が一番大きかったですが。ご苦労様でした」
ディッツ帝国首相ロイエンタールが言った。
「我が国は余りお力になれませんでした」
ファイオール公国首相ルクレールは気まずそうに言う。
「そのようなことはありません。技術的にはずいぶん助けられています。特にジェットと無線技術では」
「そうですぞ。気になさるな。立場の上下など有りません」
「ありがとうございます。気が楽になります」
「さて、これからの対ガミチスですが。何か妙案はお有りでしょうか」
吉田である。
「出来れば、国土を蹂躙したいが」
ロイエンタールだ。
「人口が1億5000万を越えると聞きます。国土に踏み込むのは大変危険と軍では分析しました」
ルクレール。
「そうですな。危険であります。ただ、ディッツ帝国の心情を思うと多少でも傷を付けたいですな」
「しかし、その力は有りません。あそこは遠すぎる」
「さすがに我が国でも無理なことと思われるようになりました」
「「「はぁ…」」」
「ガミチスの誘導弾は危険ですね」
「今は妨害電波で対処できますが、技術的に進歩すれば危険は増します」
「盾と矛ですから、常に対抗策を採り続けるしかないという現実が厳しいです」
「私としては、日本海軍が自信を持って投入した誘導魚雷の成果が気になります」
「アレは、まだ途上兵器です。誘導弾と同じです」
「問題は有ると?」
「新兵器に問題が無い方がおかしいと思いませんか。結局は、砲弾の水中爆発による擾乱が激しく目標識別能力が低下して、目標を見失ったと言うのが結論です。砲戦中に使う事も考慮して試験はしていましたが、あそこが試験よりも厳しかったのです」
「結局、装置の性能向上しか道は無い。分かっていることですが、前途多難ですね」
「そこは進んだ電子技術をお持ちのファイオール公国に期待します」
「無茶なことを言わないでください。日本が開発した半導体素子には凄い可能性が有ります。日本こそ期待できます」
「半導体素子は我が国技術者も夢中になっています。ただ歩留まりが悪すぎて実用化には遠いと」
「我が日本は、歩留まりは諦めて数の中から良い物を拾うという選択をしました。そのうち技術が進み歩留まりが上がると信じてです。最近では20%くらいまで上がってきました」
「最初はどの程度だったのですか」
「話に聞くと、量産開始の頃は1%無かったそうです」
「1%。普通は諦める」
「期待できたから進めた。そうですね」
「まあ、そうらしいです。我が国の工学技術は、お世辞にも高いレベルでは無いのです。これは起死回生の一発に成ると、諦めなかったのです」
「今芽が出始めたと」
「まさしく。詳しい話は通商関係の連中がしているでしょう」
「そのコンピューターというのは?」
「歯車計算機を電気的に置き換えて動かそうと言う奴です。簡単に言えば」
「使えるのですか?」
「我が国の戦艦にも搭載していますよ。グライムズとダンガーソンの2隻だけですが」
「射撃管制に使えるのですか」
「今現在は、ですね。将来的には、もっと広範囲に使用されると考えています」
「手回し計算機をグルグルガチャガチャやらなくても良いと?」
「研究資金確保のために出してきた資料の最初がそれでした。計算尺の目盛りを老眼で読み間違えないからとも。それが始めでした」
「学者さんなんて皆そうですね」
「「確かに」」
財務局から回ってきた書類は、要するに破綻が近いと言うことだった。
このまま戦争を続ければ、いずれ予備費さえも使い果たし、税を上げられるだけ上げても足りなくなると言うことを言ってきた。
まだウィルヘルム5世達から没収した金が残ってはいるが、直に無くなる。と。
通貨発行権が有り、現状外国と貿易をしていないので無限に国債を発行しても良いが、すぐに収拾が付かなくなる。と。
収拾が付かなくなれば、超インフレが始まり国民生活に多大どころでは無い影響が出そうだ。と。
外国と貿易を始める時に財務内容が知られれば、為替レートがかなり安く設定されることになりそうだ。と。
産業局からは、このままの状態で戦争を続ければ5年以内に一部レアメタルの必要数量が供給不能になり、生産力は落ちるる。と。
物流は現状でも海上封鎖の影響は出ており、商船の損害は少ないものの定時運行が不能になっているなど物流への影響は大きい。海上輸送は鉄道輸送の数倍の効率が有り、その数量からして鉄道輸送に切り替えるのは不可能。と。
軍からは、無理して拡張した海軍が壊滅的打撃を受けたために機能停止状態に近いと報告が有った。海軍は、駆逐艦による海上哨戒が精一杯だと。
空軍もオーレリア島を巡る戦闘で、戦死したり本土に帰ってこられなかったベテランパイロットやベテラン整備員などの損失で、全体のレベルが低下しつつ有るとも。
幸い敵の姿を本土上空で見ないので、練成に努める。と。
陸軍は、上陸はさせないと言っているが陸軍だけで戦争が出来るわけでもないしな。
国の将来を考えれば、何らかの決断をせねばなるまい。
机の引き出しから、三ヶ国連合のメッセージを取り出して読む。
デストラー総統の苦悩は深まる。
次回更新 6月05日 05:00 予定
デストラーの決断とは。
計算尺の目盛りは、乱視と老眼にはきついものが有ります。作者は乱視なのでよく読み間違えました。老眼になったらノギスやゲージの目盛りが…




