海上封鎖
オーレリア島を巡る戦闘で、ガミチス海軍主力が壊滅的な損害を受けた。
ザブングル基地から北上した部隊に対しても、上空の援護が無いガミチス軍は山中に後退せざるを得なかった。しかし、ディッツ帝国陸軍中心に編成された部隊の戦術目標は、海上からでは出来なかった主要軍事施設の破壊だった。弾薬庫や重機械と整備施設を破壊し後退していった。逆に医療施設や水道・電気などのインフラや重油タンクなどの燃料施設は破壊していかなかった。
これは万が一降伏された場合、負担が大きく困るからだった。
三ヶ国連合も損害はあったのだが、損傷しなかった艦を中心に新たに艦隊を編成。
オーレリア島周辺の哨戒を始めた。
その影響は大きい。
オーレリア島への補給が困難になり、駐留ガミチス軍の戦闘力が減りつつあった。
既にオーレリア島上空の制空権は無く、陸上戦闘自体も距離が離れすぎていて発生しない。
残されたガミチス軍人達は、生き残るため自給自足を目指すのだった。バラン島と違うのは、オーレリア島基地を中心に植民されていた事だ。一定の農業生産力はあった。
漁業も残っていた沿岸用小型船を使い、民間の漁船に交じり始めた。
三ヶ国連合は、ザブングル基地の拡充を行っている。他の基地から離れているので、現状では攻撃を受ける可能性が少ない。それが一番の要因だった。狭い港は周辺の海底や海岸を爆破してまでして、拡大している。当然、沖合に向かって防波堤を延ばしている。
場所自体は半径20キロくらいの平地が拡がっている。良い場所だった。
ここは、兵庫県加古川。少し前に、手狭になった大阪から軍令部が引っ越してきた。姫路ではないのかという声も有るが大阪同様手狭だったので、いくつか有った選択肢から加古川になった。呉が選ばれなかったのは姫路と同じで手狭だったのと、連合艦隊司令部と軍令部が近すぎるという軍政上の理由もあった。大阪に在った軍令部は海軍省の別館として使われている。ここは大阪も呉も近く都合が良かった。
高速鉄道構想が有り、大阪を中心に日本全国に路線を延ばすとしている。軍令部が有る加古川にも駅が出来るらしいが。それも選んだ理由だった。
「上原次長。九三式改七だが、当たらなかったようだね」
「北島総長。技術本部では「主砲弾の着弾による水中擾乱が激しく、目標を見失ったとみられる」と報告が有ります」
「だが、試験はしていたはずだ。砲戦中でも使えるように」
「試験環境よりも激しかった模様です」
「まだまだの兵器か」
「速力も遅いですし。逃げられているようだとも」
「九五式は当たったのだろう」
「それも「射程が短く肉薄したので、見失う本数が少なかったと思われる」と」
「期待しすぎたかな。水雷戦隊の連中には悪い事をした」
「オーレリア島東海戦ではそれなりに当たっていますから、期待もします」
「あのくらいの砲戦だったら、通用するか」
「あちらは全部九五ですから」
「肉薄してか。それでは無誘導と変わらないな」
「そうですね。8000で150本発射したら、従来の魚雷だと15本くらいはいくら何でも」
「導入は時期尚早だっただろうか」
「東海戦の戦果を見ると、早かったとも言えません」
「使うタイミングが悪かったか」
「従来の雷撃なら、とても良いタイミングでしょう」
「使う側の問題も有るのか」
「そうですが、長射程化と目標識別能力の向上が必要です」
「魚雷はいい。開発を促進させよう」
「誘導噴進弾ですな」
「もう実戦配備済みとは思わなかった」
「かなりの損害が出ました」
「戦艦でも当たり所が悪いと戦闘力を失いかねんと聞くが」
「甲斐はメインマストがやられて隊内通信程度しか出来なくなりました」
「電波関係がやられると、今の戦いでは致命的だな」
「そうですな」
「対策はどうなる?」
「今の所、妨害電波発射しか無いです」
「上手く行くのか」
「相手の方が強力な電波を出せば負けて照準されてしまうので、相手を上回る出力で照準できないようにするしか」
「問題は無いのか」
「一点。実は我が国では今以上の出力を出せないそうです」
「出力を出せないとは?」
「強力な真空管が必要なのですが、今使用している物以上に強力な真空管が作れないそうです」
「指示はしてあるのだな」
「当然です。しかし、一朝一夕と言うわけにも行きますまい」
「それは当然だろう」
ガミチス帝国軍務省統合参謀部。
「困ったな」
「困りました。総統閣下は何と」
「難しい顔をしておいでだった。批難はされなかったよ。敵が強大すぎたのだ。理解はしてくださった」
「オーレリア島基地への補給は難しくなりました」
「常に敵機動部隊がいるからな」
「ザブングル基地を拡充して拠点にしているようです」
「あそこをか。力業だな」
「ミサイルは威力を発揮しました」
「だが、すぐに対策をされてしまった」
「敵より強力な電波を出せば、照準は可能です。ですが、最終誘導はミサイル側レーダーによるものなので、出力で負けてしまい目標をロストします」
「今回は、無線通信も出来ないような強力な妨害だったと聞く」
「それでは敵も困るでしょうが、古参の連中は平気でした」
「我々くらいの年代までだな。平気なのは。若いのはレーダーと通信に頼っている」
「敵も似たようなものでしょう」
「なんとか妨害電波を出されても目標追尾可能なシステムを作らないとな」
「研究中の技術に【夜の目】が有ります。応用も可能らしく研究中とのことです」
「商船が雷撃を受けただと?」
「沿岸航路の3000トン級貨物船です」
「沈んだのか」
「それが・・・・」
「はっきりしろ。何があった」
「不発でした」
「良かったではないか。問題が有るのか」
「敵の技術情報を得るために分解したところ、大変な物が出ました」
「大変な物?勿体振らずに言え」
「メッセージです」
「はぁ?」
「ですから、メッセージです。2通有りました。警告文ともう一つは総統閣下宛でした」
ガミチスはこのメッセージを受け取り苦慮する。同時に、沿岸では対潜哨戒と潜水艦の戦いが始まるのだった。
次回更新 5月30日 05:00 予定
沿岸航路まで危険になったガミチスですが。
設定上ガミチスはほとんど自前で資源を準備できます。量は足りませんが。生ゴムさえも北部で効率は悪い物の栽培しています。
ある程度の持久は出来るので、起死回生の一発もあるか?
真空管は詳しい人が沢山居ますので。
現在でもレーダーや通信衛星など、多数分野で使われています。




