表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
236/245

オーレリア島沖海戦 激突

秘密兵器登場

 35キロからの砲撃は当たるはずも無かった。砲術長でさえ惜しい顔をしない。

 だが、戦闘開始の狼煙には十分だった。



『こちら艦橋見張り。旗艦発砲』

「司令長官」

「よろしい。撃ち方始め」

「全艦撃ち方始め」


 ファイオール公国海軍主力部隊を率いる、老ビュコックことビュコック中将は泰然たいぜんとしていた。


「チェン参謀長。日本艦隊は巡洋艦以下の軽快艦艇だけだったな」

「はい。突撃でしょうね」

「落ち着きの無い奴等だが、敵は気を引かれるだろうな」

「あの魚雷を喰らいたくはありませんな」

「我が愛すべきMk.6魚雷の倍も炸薬を詰めているとはな」

「炸薬の威力はイマイチでしたが、量でカバーしておりますね」

「出撃前に日本艦隊の連中と話しただろう」

「はい。私もおりました。結構興味深い話も聞きましたね」

「誘導魚雷か」

「我が国でも未だ実用化していません」

「誘導パターンは3種類だそうだな。念入りなことに信管も複数だと」

「聞いた時は耳を疑いましたね。ただ、誘導装置に場所を取られて炸薬量と射程は減ったそうですが、新型炸薬で減った分はカバーしたと」

「そんな切り札があるのだ。突撃もするだろう」

「しかし、本艦はまだ撃ちませんね」

「35キロでは当たらないと考えてるんだろう」

「景気づけに一発という考えは無いんでしょうな」

「気のきかん奴だ」

「ゥウォッフォン。失礼ですが無駄弾を撃つ気はありません」

「艦長か。悪いな」

「いえいえ、命中が期待できる30キロまで待ちますよ。敵が撃ってくればその限りではありませんが」

「撃ってきて欲しいのではないのかな」

「滅相もない。落ち着いて撃ち返したいですな」

「君はそうだろうが、砲術長を見ろ。プルプルしているぞ」


 みんなに見られた砲術長は居住まいを正した。


挿絵(By みてみん)


『艦橋見張りよりCIC。日本艦隊、突撃します』

「大射程の誘導魚雷か。羨ましいものを持っているな」



「なんてことを思われているだろうな」

「何ですか?艦長」

「誘導魚雷だ。長射程大威力と思われていそうだな」

「全部53センチですから、射程1万ですよ。炸薬量も少ないですし」

「8000いや6000まで近づかないと、命中する前に水没するだけだな」

「近づければ良いですね」

「道後、発砲」

「敵が近くなってきた」

「無視してくれませんかね」

「無理だろ。小型艦の接近イコール雷撃だ」


 突撃中の第八水雷戦隊第一八駆逐隊鞍掛の艦橋ではこんな会話がされていた。艦橋下の戦闘指揮所に居るべきだが、駆逐艦長のほとんどが艦橋にいた。艦橋の海図台は半分にされ、空けたスペースに電探の端末がドンと据えられていた。


野洲やす発砲」

「旗艦も撃ち始めたか」

「もう少し近づかないと、届きません」

「分かってはいるが、落ち着かんものだ」

「艦長。駆逐隊司令より電話です」

「出る」

『十八駆司令和久田大佐だ。鞍掛艦長飯田少佐か』

「鞍掛、飯田です」

『十八駆と十九駆は、野洲を追い抜き敵艦隊に肉薄雷撃を行う』

「了解です」

『なるべく目標は散らすように。他の艦と被ってもかまわん。どいつを狙っているのかまで、統制できんからな』

「目標1隻あたり2本を撃とうと思いますが」

『初期構想のままだな。それで良い。頼むぞ』

「4隻沈めます」

『剛毅だな。健闘を祈る』

「司令こそ」


「道後、増速した模様」

「機関両舷前進一杯」

「野洲、取り舵です」

「野洲の右舷を抜ける。舵このまま」


 ザン


「右舷弾着遠い」

「狙われていますね」

「尺が甘いな。これでは当たらんよ」

「強敵は大きく見えると言います」

「我々は強敵だからな」

「敵艦まで1万2000」

「砲術、撃ち方始め」

「はっ。撃ち方始め」


「野洲火災発生」

「何?」


 左後方を見ると煙が上がっている。野洲か。


「敵1番艦、停止」


 道後と敵の撃ち合いは、道後が勝ったか。電探情報だと軽巡らしかったから勝って当たり前と言えば終わりだ。ガミチスも重巡が単艦で先頭切って突撃とは思わなかったようだ。


『和久田だ。道後の六戦隊司令官から「十八駆雷撃後、時間差で十九駆が雷撃されたい」と要請が来た。十八駆が先制雷撃を行う。鞍掛は大谷に追随のこと。葛葉と三国は距離を取り適宜に突撃雷撃せよ。雷撃後は十九駆の援護』

「鞍掛了解」


 グァーン

 爆煙が見え衝撃が伝わってきた。悲鳴もだ。


「損害報告」

『左舷対潜噴進弾発射機に命中。対潜噴進弾発射機損壊』

『三番機銃座に被害。機銃使用不能』

「左舷見張り員負傷。交代します」


 艦橋左のウイングにいた見張り員が負傷していた。機銃座には配置していなかったので、そちらの人員は大丈夫だ。


「左舷見張り台双眼鏡台座使用不能。応急困難です」

「手持ちで対応」

「大谷取り舵。信号「ワレニ続ケ」」

「取り舵」

「葛葉、三国、取り舵。離れます」


 あ!いかん。大谷が被弾した。2番砲塔が大破だ。


「敵艦列まで7000」

「水雷長。手筈通りだ」

「水雷長。了解」


 これまでに無い轟音と衝撃が艦を襲った。艦橋はまたも被害を受けた。俺も吹き飛ばされて床を転がった。


「損害報告。急げ」


 顔に触った手に血が付いた。血が出ているのか。戦闘時、乗組員全員への鉄帽義務化が無ければ頭もやられていたのだろう。艦が右に行っていないか?


「1番砲塔大破」

「操舵室。操舵室応答せよ」

「やられたのか。直接操舵にする」

「見てきます」

「おう。頼む」


 舵を取り、舵輪を左へ回す。大谷と離れてしまった。単艦突撃か。上等だ。


「葛葉、火災発生」

「大谷、発射」

「距離6500」

「艦長。まだですか」

「水雷か。もう少しだ」


 まだ轟音と衝撃だ。今度はどこだ。


「後部マストに被弾。マスト傾きます」

『こちら2番砲塔。マストが邪魔で旋回不能です』

『通信室です。電信アンテナ損傷。電信不能。隊内電話は可能です』

「距離6200」

「水雷。発射始め」


 面舵を取る。


「1番連管発射。2番連管発射」

「全弾発射完了」


 後は射法盤で入力された航法で進んでいく。当たれよ。




「距離6500」


 第七雷撃戦隊第十一駆逐隊旗艦KA1のCICで、レーダー手から報告が上がる。

 第七雷撃戦隊旗艦エーデライクスは、もう沈んだ。俺が指揮を執るとは。

 KA1艦長ギュンター少佐は大変だと思った。


「転舵は」

「直進です」


 日本の奴等、もっと近づいてから発射する気か?

 奴等の先頭4隻の内、3隻はボロボロだ。しかし1隻は奇跡的に弾が当たらない。2個雷撃戦隊18隻に11隻で突っ込んで来た敵は強かった。


「敵先頭艦転舵、遠ざかります」

「続いて2番艦以下転舵。遠ざかります」

「発射したか。面舵80、艦首を奴等に向けろ」

「面舵80。転舵」

「見張り員。無航跡だと言うが見えるかもしれん。しっかりな」

『艦橋見張り、了解』

「後続の3隻、近づいてきません。後方部隊を目標の模様」

「後ろの奴等がやる。こっちは魚雷に当たらないよう正対してやり過ごす」



 九五式改八魚雷は雷速30ノット調定深度3.5メートルで、敵艦隊に向かっていた。これ以上の雷速では自己雑音の放射が多く目標検出に無理があった。

 水雷射法盤により決められた追尾方法は、敵スクリュー音を追いかけるでは無く、スクリュー音の前方に向かうというものだった。



「敵魚雷は」

『見えません』


 4分経つ。高速魚雷なら通過している。助かったのか。この艦速では正面から来る魚雷のスクリュー音など聞こえない。

 その時ソナーマンが突然吠えた。


「ピンガー!?」

「ピンガーだと?」

「至近距離です。潜水艦警報を」

「潜水艦警報。艦隊全体にも出せ」

『KA2に水柱。被雷した模様』

『KA3にも水柱』


 何だと?思ったのはそこまでだった。突然の衝撃に吹き飛ばされ気を失った。



時間(じか~ん)


 時間か。此方に近づいてくる敵を見ると水柱が1本2本3本4本。沢山だ。大成功か。しかし、こちらの損害も大きい。大谷は炎上停止している。本艦も撃てるのは3番砲塔だけだ。葛葉は機関に喰らって速力が出ないらしい。道後は敵先頭の軽巡をやった後は転舵して後方の軽巡を片付けに行った。

 誘導魚雷である九五式改七は、水雷射法盤で入力された航法で敵艦に近づき、聴音でスクリュー音の音源に近づく。最後は探信義で敵を捜索しながら突っ込む。万が一艦底を通過しても良いように磁気信管も装備している。速度が遅いので、高速艦艇だと追尾しても置いて行かれる。そのための複雑な誘導装置だ。

 価格はお高い。従来の倍近い。とても予備魚雷まで装備できないので、連管の仲に収まっている分しか撃てない。

 お高い兵器は真価を発揮した。しかし、53センチでは射程が短い。61センチを装備できるように上申しよう。




次回更新 5月5日 05:00 予定。


魚雷の第二空気というのは酸素です。実際の海軍は酸素を第二空気(外部に対する酸素の秘匿名称)と呼んで、酸素魚雷装備艦には第二空気発生器と言う酸素発生器が装備されていたということです。ですから、第二空気発生器が装備されていない艦には酸素魚雷は積めません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ