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オーレリア島沖海戦 突撃

 ヴィトゲンシュタイン中将は考えている。


 あっさりと指揮権を渡された。協定で決まっているとは言え、たいしたものだ。3ヶ国合同の分遣艦隊とは言え、1国の海軍戦力を上回る程の戦力。その指揮を任せられるのだ。一角(ひとかど)の人物だろう。

 俺がまだJ級駆逐艦で構成される駆逐隊司令だった頃に転移が起こった。この世界ランエールに放り出されたとも言えるが。

 そこからは早かった。

 国内の騒乱とまではいかないが、不安定だった頃。日本との接触が無ければ、騒乱は起こっていただろう。日本のおかげで危機を乗り越えたと言ってもいい。一部の人間は日本が無くてもやれたとか抜かすがな。俺はそんなことを思わない。海軍では重油の節約をしていた。自国で算出される量では賄いきれないからだ。新しい油田が見つからねば、石油供給量の不足が5年後くらいに予想されたいた。石油は日本から入ってきた。またも日本だ。

 その後、国内に大きな油田が発見され開発された。ガミチスの野郎に破壊されたがな。取り戻したが完全復旧までには時間が掛かると聞く。


 さて、敵もやる気らしい。お迎えは丁寧にしないとな。空母は後方で直衛機を出すのに専念するらしい。2次にわたる攻撃隊の消耗が激しく、敵艦隊を襲う程の戦力が無くなったと聞いた。最近の防空能力は凄まじい。艦艇の3000メートル以内は、高確率で撃墜される。お互いに。こちらも、ジェットこそ防ぐことは出来なかったが、プロペラ機は相当数を墜とした。


「司令官。ヴィトゲンシュタイン中将。聞いていますか」


「・・ん?参謀長か。すまんな、考え事をしていた」

「艦隊の配置ですが、現状でよろしいのですね」

「もちろんだ。通常航海ならともかく、操艦や戦闘などが高度な連携を取れる程の共同訓練やったことがないだろう」

「それはそうですが、日本艦隊が突出しそうです」

「彼らもやりたいのだろう。聞いていないか?「肉を切らせて・・・」と言う奴だ」

「遠距離でちまちま撃ち合うのではなくて、接近して命中弾をより多くですか」

「近寄れば相手の弾も当たるが、こちらの弾も当たる。我慢比べで勝とうというのだ」

「狂っています」

「まあ初弾はいただくよ。その後は乱戦だな」

「敵は整然と突っ込んできそうですな」

「連携はこちらよりも取れているだろう。間違いない」



『ツバメ9より、前進艦隊。敵艦隊70キロまで接近中』

「ヴィトゲンシュタイン司令官。偵察機より入電。敵艦隊70キロまで接近中とのこと」

「奴等、昼戦をやる気か」

「日没まで6時間です。回避して夜戦に持ち込みますか」

「分かっていて聞いてくるのは意地が悪いぞ。レーダーとIFFで、敵艦の位置は夜間でも分かる。さらに敵の偵察機も上空にいる。直衛機と速度差が無く追い払うくらいしか出来ないと聞いたが。それに、俺達が艦長だった頃の目ん玉ひん剥いて見張りをしていた時とは違う。奴等がやってくるのだ、堂々と受けよう。それに、混成艦隊では夜戦など混乱するだけだ」

「そうですな。奴等の陣形を確認させましょうか」

「どのみち50キロまで近づけばレーダーでえる。初弾は35キロ程度で撃つ。その前に陣形など変わる」

「そうですか。こちらの陣形も今のままですか」

「日本はともかくファイオールの能力が良く判らん。訓練では良好だったが」


『ツバメ9より、前進艦隊。敵艦隊変針。艦隊の頭を塞ぐような針路です。敵速40キロ』

「艦隊面舵。針路80。速度45キロへ増速」

「「「艦隊面舵。針路80。速度45キロへ増速」」」


「レーダーです。左舷に反応。敵艦隊と思われます」

「レーダー手。いくつかに分かれているのが分かるか?」

「ヴィトゲンシュタイン司令官。まだ分かりません」

「もう少し近づくか。艦隊進路変更、取り舵5」

「「「艦隊進路変更、取り舵5」」」

「日本艦隊増速」

「ファイオール艦隊減速」

「どうだ、参謀長。なかなか判っているではないかね」

「そうですな。しかし日本艦隊が先頭になりそうですな」

「旗艦が発砲するまでは待つだろう。日本艦隊に戦艦は無い。近付いて魚雷攻撃だろうからな。突撃はそれからだと思うぞ」

「35キロで撃ちますか」

「それで良い」

「砲術に念押ししておきます」

「頼む」




「敵艦隊変針。当艦隊と同航戦にもちこむ模様。敵は単縦陣3個」


 レーダー手と管制員からの声だ。


「針路このまま。速力このまま」

「ヴォルコシガン司令長官。良いのですか。頭を押さえようとされたと思いますが」

「敵が進路を変えた。速度差も無い。諦めたよ」

「参謀長としては、水雷戦隊をもう1個前に出したいのですが」

「敵先頭の単縦陣か」

「戦艦は居ないようなので、魚雷戦を狙っているのでしょう」

「こちらが元気な内に近づいてくるだろうか」

「偵察機によると日本艦隊のようです」

「聞いていないぞ」

「今、通信が入ったところです」

「水雷戦隊を前進させるように。無航跡魚雷は怖い」

「了解しました。指示を出します」

「うむ」




「距離35キロ」

「撃ち方始め」

「主砲撃ちます」


 砲術長が踊るようにボタンを押す。まず発砲を知らせるブザーからだ。そして発砲スイッチ*を押した。



『こちら後部見張り。旗艦発砲』

「艦隊。速力上げ。第五戦速。取り舵」「信号「ワレニツヅケ」だ」

「第五戦速」「取り舵」

『「ワレニツヅケ」オルジス打ちます』


 第六戦隊旗艦道後は、第五戦速33ノットを発揮すべく機関が唸りを上げた。



次回更新 4月30日 05:00 予定。

やはり、水雷突撃こそ花であります。

発砲スイッチ* 

射撃指揮所に発砲を許可する。これを受けて、鐘楼トップの射撃指揮所で艦の動揺を読み取り、最高のタイミングで発砲する。

砲スタビライザーは、構想は有るものの戦車砲程度の小型砲でも実用にならず。ましてや百トンを超す戦艦主砲などでは。

この世界でも戦闘指揮所(CIC)が導入されており、艦の首脳陣が詰めている。


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