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オーレリア島沖海戦 接触

オーレリア島沖海戦前哨戦です

 潜水艦に発見されているのは、分かっていた。

 警戒配置についてから緊張感も切れそうな頃。


『ツバメ3より、電線。敵編隊発見。位置***** 全機ジェットで100機前後と見られる』

「ツバメ3。こちら電線。了解。既定の行動を取れ。無事帰投せよ」

『ツバメ3。了解』


「先手を打たれたか。こちらはまだ敵の位置も知らない。距離は400海里もある。総員、厠で用を足すようにな。戦闘中にもよおしても困る。20分でやれ」

「了解です。艦隊に下命します。その後、総員戦闘配置とします」

「うむ。迎撃機を適宜上げておくように」

「はっ。航空戦隊に任せておきます」


 陽動部隊司令長官鈴木一郎大将は、そう指示した。本来中将だが、ディッツ帝国海軍とファイオール公国海軍の指揮官が中将なので一時的に大将へと昇進している。

 無線の使用だが、電波の減衰が大きいこの星でこの距離なら、隊内無線程度の強度の電波は敵艦隊や敵航空機に聞かれることも無い。


 3国同盟で艦隊航空戦の指揮は、日本側が執ることになっている。今回は、万が一水上砲戦となればディッツ帝国海軍が指揮を執る。出撃前の会議でそう決まった。

 両国海軍とも水上砲戦をやる気になっている。こちらは逃げたいのだがな。困ったものだ。




「敵偵察機だと」

『はい隊長。敵レーダーの有効範囲ギリギリでしょう』

「そちらのレーダーはどうだ」

『こちらも同じようなものです。時々ロストします』

「見つかったのか」

『電波発信が有りました。確実です』

「どのみちレーダーが有る。奇襲は無理だ」


 分遣隊から発進した攻撃隊隊長オットー大佐は、味方編隊にいる偵察機からの報告を受けた。1機先行させているが、まだ敵艦隊発見の報は無い。この偵察機は、レーダー捜索範囲の広さから編隊の目として残してある1機だ。円がずれて重なっている捜索範囲にのくぼみに敵が現れたのだろう。



「敵編隊、探知。距離150海里、方位320度」

「敵は予想通りの場所に居るな」

「おそらくは。場所は限られます。予想は付きます」

「そうだな。大井参謀長、送り狼を出すか?」

「賛成です」

「航空戦隊に指示を。その後は、状況次第で艦隊突撃もだ」

「やるのですか」

「俺達は下がるぞ。ディッツ帝国海軍とファイオール公国海軍にやって貰う」

「我が艦隊からも出さないと不満が出ますよ」

「それもそうか。六戦隊は出そう。八水戦と九水戦はどちらにしても揉めるな」

「ですが、どちらかを残さないと艦隊防衛に不足します」

「奴等に決めて貰うか」

「どうするのですか」

「ジャンケンだ。無線で手を聞いて、こちらで勝ち負けを決める」

「それなら」

「そうしよう。それと、両艦隊の空母と若干の護衛艦艇もまとめて下がるぞ」

「では交渉します」

「頼む」



『敵レーダー波探知。正面。距離不明』

「了解した。だが近いな」

『おそらく』

「全機。オットー大佐だ。これより攻撃態勢に入る。戦闘機隊は前へ」

『『『『『【ブッ】』』』』』


 クリックノイズで返事だと!奴等便所掃除をくれてやる。



「敵編隊、分裂。前に出てくる編隊有り」

「戦闘機だな」

「プロペラ機と変わらないと思います」

「航空戦の指揮は九航戦の灰原中将に任せてあるからな。こちらはやきもきするだけだ」



 灰原中将は(俺は落ち着いている。不安の種は他の国だ。これだけ大規模な合同艦隊の航空指揮権を預けられている。不安にもなる)と思った。


「戦闘機隊は迎撃に向かえ。ファイオールのもだ。参謀、手配は出来ているな」

「既定の行動として、ファイオール公国海軍は従っております」

「よろしい。守れば勝ちだ。送り狼を送りつけてやる」

「ディッツ艦隊からです。出撃準備は?と」

「敵を撃退した後で行う。絶対に今はやるなと、しっかり確認しておくように」


 ディッツ帝国海軍の艦上機は優秀だが、まだジェットでは無い。とにかく敵のジェット戦力を潰さねば出撃許可はださん。


「艦隊正面50海里。戦闘機隊1陣接触。戦闘に入りました」

「突破してくるかな」

「してくるでしょう。機数的には大差無いです。3割50機程度が突破してくるものと」

「戦闘機隊2陣、続いて接触。戦闘中」

「2陣はファイオールだよな」

「そうですが?」

「数が少ない。不安になる」

「1陣で減らしてからなので、問題は無いでしょう。第一、事前の取り決めで決まっていました。今更不安がらないでください」

「うむ。済まんな。脇田参謀長。弱気になってしまった」

「強気で征きましょう」

「いや遠慮しておく。若干弱気でいいんだ。周りに合わせて突撃思考になったら、危険だ」

「さいで」

「敵機20海里」

「よし、艦隊撃ち方始め」

「艦隊撃ち方始め」

「何機突破して来た」

「はっ。30機前後と思われます」

「かなり阻止したな。参謀長」

「はい、戦闘機隊は頑張りました」


「!敵機速い。高度1000を430でノット接近中」

「拙いな」

「拙いですな」


 ジェット機登場で、照準装置で設定されている速度上限を越えている。ジェット登場以前に整備された艦では400ノットが一杯だ。改海龍級の本艦でも機銃はともかく、高角砲は高射装置の開発が遅れ以前のままだ。目標の移動速度が速すぎて「目標追尾は電探連動と旋回能力の向上で可能になりましたが、信管秒時の設定が目標位置の変化に追い付けないのです」と砲術が言っていた。幸い機銃は電探との連動で追尾は出来る。

 高角砲は頼れんな。機銃が頼りだが、どれだけやれるのか。


「敵機4機、接近。目標、本艦」

「撃て、撃ちまくれ。墜とせ」


 砲術が喚いているが、無理だろう。


 ズン ズン 


 戦闘指揮室まで振動が伝わってきた。被弾したか。 


「右舷に被弾」

「一番二番高角砲大破」

「三番機銃座消失」

『こちら艦橋見張り。西風爆沈!』

「なに?」

「・・・


 矢継ぎ早に損害報告が送られてくる。水線下への被害は無いが、右舷の対空火力が半減してしまった。


「敵機、去ります」

「艦隊損害報告」

「本艦。3発被弾。右舷対空砲火に損害。能力半減です。右舷兵員室に被弾。火災発生も鎮火しております。航行に問題なし」

「瑞鳳より。4発被弾。艦橋大破。レーダー使用不能。右舷対空砲火に損害。船体には問題無くも操艦と指揮に問題あり」

「石鎚より。煙突大破。三番四番砲塔大破。右舷対空砲火全滅。高速航行不能」

「ダンガーソンより。右舷対空砲火に損害。戦闘行動に支障なし」

「アテナより。飛行甲板に被弾。着艦装置損傷。着艦不能。本日中に復旧の見込み」

「初月より。船体中央に被弾。航行不能。損害復旧中」

「RB4より。船体後部に被弾。火災発生。消火中」

「・・・


「西風は魚雷に命中したのか」

「爆沈となると、それくらいしか考えられません」

「溺者救助は四十四駆がやっているな」

「勿論です」

「他の艦はやれるのか」

「損害軽微な艦が多いですね」

「爆弾が小さかったのか?大型爆弾ならこんなものでは無いだろう」

「見張り員。敵の投弾の様子はどうだった」

『はっ。多数の爆弾をばらまいていました。爆煙は小さい物から大きい物までです』

「分かった。よく見てくれた。任務に戻れ」

『ありがとうございます』


「初月が喰らったのは大型爆弾なのかな」

「五十番くらいでしょうか」


 損害報告の次は戦果の報告が来た。

 戦闘機隊は迎撃戦闘で40機程度を撃墜とのことだ。突入してきた敵機の内、撃墜できたのは10機程度。我が軍では3機。ファイオールも2機。ディッツ帝国海軍が5機も撃墜した。対空ロケット弾が思ったよりも有効だったようだ。


 初月の沈没は免れたが、航行不能だという。右舷機械室に被弾、破口が大きく左舷機械室も浸水してしまったということだ。どうするか?


「あの艦を放棄するのは勿体ないですな」

「そう思うな。良し石鎚に曳航させよう」

「高速航行が出来ないだけで、機関は無事なようです」

「石鎚に命令。初月を曳航せよ」

「了解」

「損害の酷い艦は纏めて後退させる。石鎚艦長が指揮を執れと伝えよ」

「了解。石鎚、初月、大風、RB4、テュオニックを後退させます」

「うむ」

「随伴艦はどうしますか」

「突撃するのは八水戦だったな」

「そうです。九水戦から四十四駆を出します」

「そうしてくれ」

「瑞鳳ですが、灰原中将より「艦載機を移動させ後退させたい」との事です。いかがいたしましょうか」

「空母の専門家がそれで良いというのなら、許可しよう。瑞鳳は石鎚に合流せよと伝えてくれ」

「そのように伝えます」


 損傷の酷い機体は、瑞鳳に着艦した。同時に、送り狼となるべく攻撃機と残りの戦闘機が発艦した。





次回更新 4月20日 05:00 予定

船がいっぱい。名前を間違えそう。

プロペラ機からジェット機への転換時期では、対空砲火の能力が追いついていなかったようです。

ディッツ帝国海軍の対空ロケット弾は、伊勢などに積まれた噴進弾の高性能版という設定。

効果は、ビビらせるですね。


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