橋頭堡
ガミチスが無警戒で有った訳では無い。潜水艦による哨戒活動で今回の動きも三日前に掴んでいる。敵を圧倒する戦力を整える時間が無く、先手を打ってでは無く有利な迎撃態勢で対抗しようとしていた。
問題はオーレリア島のどこを攻撃してくるかだった。島の東側である公算は大きかった。わざわざ囲まれるような位置になる西側基地を攻撃するとは考えにくい。
オーレリア北基地が3、ザブングル基地が7、で有ろうという考えの上で迎撃態勢を整えた。ザブングル基地が少し離れていることから、攻撃を受ける確率は高い。
在島航空戦力の4割をザブングル飛行場に集め、さらにガミチス本土からの増援も頼んだ。増援は、移動時間も含めると、大半は間に合わないだろう。
艦隊は、オーレリア軍港とルミナス軍港に有る艦隊主力を迎撃に向かわせる。ザブングル軍港とオーレリア北軍港に居るのは、対潜哨戒任務の艦がほとんどで対艦戦など出来ない。艦隊の航路は島の北側を廻るコースだ。航空機の傘の下を行動する。敵艦隊に攻撃できるのは、時間的にザブングル基地が攻撃を受けてからになる公算が大きかった。
敵はバラン島の時、航空攻撃で経空脅威を消してから、艦砲射撃で基地を使用不能にした。今回もその可能性が有ると考えられ、艦隊が向かった。
オーレリア島のガミチス艦隊は、艦隊主力だった。戦艦と空母と大型巡洋艦の8割が居た。
この艦隊が負ければ、ガミチスは敗北に近づくだろう。負けられない一戦だ。
艦隊がザブングル沖に向かっている時に、ザブングル飛行場使用不能の知らせが届いた。
「オスマイヤー司令長官」
「分かっている。艦隊針路変更。帰投する」
「分かりました。それしか無いでしょう」
「航海参謀、艦隊針路反転」
「艦隊針路反転。発令します」
「しかし、よろしいのですか」
「よろしいも何も、航空機の傘が無い所に突っ込む気は無い」
「12隻の空母では不足ですか」
「敵はそれ以上だろう。敵の目的は分かっている。なら待ち構えるだけだ」
敵の狙いはオーレリア島占領か、我が艦隊を壊滅させることだろう。どちらが先かと言えば、我が艦隊の壊滅だろう。そうすれば、補給を遮断されてオーレリア島駐留軍の交戦能力が下がり勝手に落ちる。時間は掛かるが。
オーレリア島北端をかわった頃、ザブングル基地から敵上陸の報が入ってきた。事前の取り決めにより「後退する」と言ってきている。もう恥も外聞も無いな。
総統閣下が、無理な抵抗よりも戦闘力の維持を優先するように指示を出しているおかげだ。撤退に是非は無い。
「敵は撤退していきます」
「エリエステ司令官、追撃の許可を」
「だめだ」
「何故ですか。今がチャンスです」
「整然と後退している敵に追撃か?未だ纏まらない味方で追撃しても反撃される。味方艦隊は、敵艦隊に備えて沖合に去ったぞ。潰しきれなかった小さい飛行場があるらしくて、数は少ないが先程敵機が現れた。支援空母は防空に手を取られる。で、どうするのだ」
「しかし「くどい。追撃は無しだ」・」
ザブングル軍港に入港したディッツ帝国陸軍司令部では、追撃したい連中と、させたくない司令官が話し合っていた。
エリエステ司令官は冷静だった。整然と後退していく機械化数個師団に、ようやく上陸を始めて歩兵2個師団が上がっただけで戦車など重装甲車両が上がっていない我が陸軍で、どう追撃するのだと。軽装歩兵部隊で追撃しても、優勢な敵に反撃を受けて損害を出すだけだ。
軍港は、機能を維持していた。岸壁はと言う意味だが。倉庫群や高射砲陣地などは無残なものだ。
飛行場は大きかったが、飛行場支援の軍港らしく大きな軍港では無い。しかし、調査の結果がまともに上陸できるのが軍港しか無いと言っている。事前の航空偵察では砂浜が有ったのだが、遠浅すぎる上に大潮の干潮時のみ顔を出すような浅瀬やギリギリ水面下の浅瀬多数で、海岸まで舟艇がたどり着けそうに無いとされた。再調査の結果、周辺に上陸適地が少なく上陸するのに手間が掛かる。それならと、接岸して上陸することなった。追い打ちを掛けるように、輸送船団が大きすぎて入港順序を付けても混乱している。
結局、上陸が終わったのは2週間後だった。24時間態勢で行ったのでこれで済んだ。日中だけだったら1ヶ月以上掛かっていただろう。
その間にも敵の空襲は有り、戦闘機13機に輸送船6隻と900名程度の損失を出した。警戒すべきは少数だがジェット爆撃機が居たことだ。プロペラ機では待ち構えてすれ違いざまに一撃しか無いが、成功する訳も無く爆撃を許している。結局、敵艦隊が引っ込んで用の無くなった連合艦隊が沖合に居座り、防空戦闘を行っていた。
飛行場再建まで、連合艦隊が交替で防空を担っていた。それも今日までだ。飛行場が周辺設備まで含めて使えるようになったのは先週。三本有った滑走路の内、舗装されていたのは一本だったが、二本にしてジェット機の運用性を高めた。
三日前、定数まで補充された飛行隊が揃ったことにより、日本艦隊の防空任務も終わりとなった。
連合艦隊は順次帰国し整備に入る。有力な敵艦隊がいる。全艦隊が帰国する訳にもいかない。次に全力で作戦行動が出来るまで一年近く掛かるだろう。距離に問題が有りすぎる。浮きドックで整備は可能だが、浮きドックの数は少ない。何より休養施設が無いのが問題だった。
帰国するのは、一機艦から順繰りで、一艦隊二艦隊は、ジェット機を運用できる空母が他に居ないので交替制だ。2個艦隊が常に沖合で敵の反攻に備える形になる。
次こそ決着を付ける。そう言う思いで、戦場を去る艦隊だった。
「エリエステ司令官。空軍の展開は終わっています。防空戦闘だけでは無く、敵地攻撃の許可を」
「ズーク空軍司令。それはダメだ。まずは敵を知ることから始める。そのための新型機だろう。違うかね」
「そうですが、攻撃任務が無いと士気が保て無い可能性が有ります」
「それはそうだが、士気を保つのは君の責任でもある」
「では、攻撃は許可できないと」
「当然だ。まず偵察からだ」
「分かりました。偵察の結果をもって攻撃許可をしていただきたいものです」
「損害が少なく出来るなら、良かろう」
「ありがとうございます。では、失礼します」
敬礼すると司令官執務室から出て行った。
「困ったものです。やたら攻撃志向が強い」
「そう言うな。参謀長。ベルフィスヘルム奪還戦では良い働きをしたという話だ」
「攻勢状態ですから、攻め続けるのが良い結果になったのでしょう。慎重さが足りないように思えます」
「そこをなんとか押さえるのが我々の仕事だ」
「余計な仕事はしたくないですな」
「まったくだ」
翌日、新型偵察機が飛び立った。一〇〇式司令部偵察機も連山特別仕様機も、ジェット登場で引退だ。全ての性能で上回るジェット機が相手では、一〇〇式司令部偵察機の高速も、連山特別仕様機の高高度性能も意味は無い。
新型偵察機もまたジェットだった。もはやジェットに非ずは軍用機で無いと言わんばかりだ。
ジェットエンジンこそファイオール公国製だが、機体設計は自国で行われた。
特徴は高アスペクト比率の主翼とリヤエンジンだ。一見複座機に見えるが、前部に正副操縦士、後部に偵察・通信の並列復座4人乗りだ。速度よりも高高度性能を優先して設計されている。
偵察と電子戦を兼ねる機体として開発された。胴体の幅は広く2.5メートル有る。これでも各種電子装備の操作には足りないとされている。まだ各種電子装備の高度化が進んでおらず、この幅でもギチギチに詰め込まれている。
小型機で大量の燃料を積んでいて重量による重心変化が大きいのと、重心が後ろ過ぎて縦方向の安定性が足りないため、前部に小型のカナードが後付けされた。
連山三型を参考にした、ウイングレットも付いている。
高高度飛行に欠かせない気密関連もジェットエンジン同様、ファイオール公国の技術支援で出来上がった。日本は渾沌獣素材とか、おかしな方向に行っているので頼れなかった。ファイオール公国側も得るものが多かったらしく、良い協力関係であった。
ミレリアS2
最高速度 850km/h
最大巡航高度 15000メートル 780km/h
航続距離 5500km
乗員 4名
武装 無し
次回更新 4月5日 05:00 予定
ジェット登場で、プロペラ機は脇役に押しやられます。
次回から、オーレリア島を巡る攻防の予定。




