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強襲

 第二艦隊の任務は、主力部隊に先行してザブングル飛行場を叩くことだ。

 四航戦各艦の飛行甲板上では、従来のレシプロとは違う、轟音と言って良い大きく甲高い連続音が響いている。


「二四六空二中隊一番機、神田中尉。発艦準備良し」


 斜め下に見える発艦士官が旗を振っている。


『発艦指揮所。神田中尉。飛行甲板異常なし。発艦許可する』


 スロットルレバーを押し込むとエンジン音が大きくなる。エンジンストールは起きない。行ける。発艦士官に行けるとサインを出す。

 飛行甲板右に張り出している信号灯が青に変わる。斜め前に見える発艦士官が旗を振り下ろす。

 カタパルトはプロペラ機よりも遙かに強い衝撃と共に一気に加速する。急加速で視野が狭くなる。

 視界が開けた。脚を仕舞う。高度1000まで上がり、編隊を組むため所定の位置に向かう。電探、おっと、三ヶ国連合共通名称でレーダーになったんだっけ。レーダーを作動する。レーダーの出力が大きく、飛行甲板上での作動は禁止されていた。ちゃんと動く。OPLも良好だ。

 機載レーダーとOPLが作動しない場合は、出撃は認められず着艦することになっていた。これで出撃できる。ホッとする。

 今回の出撃で戦闘機隊を率いる雲鷹戦闘機隊二四六空隊長御子柴中佐に、空中電話で合流を報告する。空中電話の故障も出撃不可だ。


『神田、来たか』

「御子柴中佐。晴れ舞台です。遅れることは出来ません」

『その晴れ舞台だが、俺たちは護衛だぞ。忘れるな』

「地上攻撃はしません」

『・・まあいい。俺たちの目標は迎撃機だ。忘れるな』

「神田了解」


 乗っている機体は、三菱渾身の力作。三菱F-1d。

 烈風で密かに馬鹿にされた三菱の回答がこれだった。烈風も悪くないが、総合性能が数年前に開発されて改造に改造を重ねた紫電改とたいして違わない事で、密かに馬鹿にされたのだ。

 この機体が開発された当時は、中島、川崎、川西、三菱、愛知の5社でジェット機開発を競っていた。川崎が真っ先に降り、ヘリコプターと大型ガスタービン方面に行った。川西は大型機と特殊車両に向かった。愛知はでは無く攻撃機を選んだ。そして、戦後を見据えてか、主力である航空機部門を三菱に売り、日産コンツェルンに加わり自動車へと向かった。海軍艦上戦闘機の座は中島と三菱の一騎打ちと言った感じだったが、勝ったのは三菱だった。

 三菱F-1dの搭乗員に選ばれた時の興奮を思い出す。

 三菱F-1dは海外輸出も目指したのでアルファベットの呼称が付いているが、海軍の正式名称は五五式艦上戦闘機四三型甲、開発番号A9M4bだ。

 性能は凄まじい。推力1.3トンの三菱・アドーアMA202-13の双発で、最大速度550ノット(1020km/h)を発揮する軸流ジェットエンジンだ。

 アドーアの名はファイオール公国の企業名で、ファイオール公国のもう一社レッグストロングと協同でジェットエンジンの開発を行った企業だ。勿論ファイオール公国も関わっている。

 三菱はアド-アからライセンスを購入。同時に技術支援を受けて開発されたのが三菱・アドーアだった。日本海軍が関わっているのも当然だった。レッグストロング社は中島・石川島造船の企業連合と組んだ。


 編隊を組んで旋回していると、下から次々と上がってきた機体が合流する。攻撃機隊も来た。

 攻撃機もジェットだ。愛知最後の軍用機であろう、五五式艦上攻撃機二二型、開発番号B10A5。海外向け呼称A-1bだ。やはり三菱・アドーアMA202-13を双発で積んでいる。運用上の理由でエンジンを揃えたと聞く。同じエンジンの双発でも最大速度は500ノットだ。攻撃過荷重では430ノットまで落ちる。

 航続距離は、両機とも攻撃過荷重で900海里。増槽込みでだ。格闘戦のような戦闘機動などすればあっという間に燃料は減る。

 今回は往復600海里なので、格闘戦は御法度だ。速度を利用した一撃離脱のみと徹底されている。

 ジェットエンジンは、スロットル操作が雑だとエンジンストールを起こしてしまう。レシプロ機のような格闘戦は出来ない。スロットル系に仕掛けがしてあり、雑な操作はやりにくいようになってはいる。それでも徐々に押し込むのでは無くいきなり全開にしたいのが、空戦中の精神状態だろう。俺も当初は戸惑った。何人かはエンジンストールで墜落をしている。当然、訓練中の死者も出た。


 編隊を組んだ攻撃隊は、攻撃機の爆装時巡航速度340ノットでザブングル飛行場に向かう。340ノットなんて、烈風の全速よりも少し遅いくらいだ。時代は変わったもんだ。



『攻撃隊全機。総隊長大林だ。前方に迎撃機。距離50海里。戦闘機隊はこれを排除。戦闘機隊は二四八空。中牟田少佐が指揮を執れ』

『二四八空中牟田了解』『二四八空、全機続け』

『『『オオ!!』』』』


 クッ、羨ましい。二四八空は大鷹戦闘機隊だ。


『神田中尉。着いてくなよ』

「御子柴中佐、いくら何でも」

『前科があるからな』

「大人しくしています」



『zz・んきゅう緊急。空中に在る全機。二四八空、中牟田。敵はジェット。繰り返す。敵はジェット』


 敵もジェットだと?空中電話波長帯で大出力発信しているので遠くても聞こえる。


『ジェットだと?』


 大林大佐の声が聞こえる。やはり驚いている。艦隊司令部からはジェットも予想される。と聞いていたが。史上初か?ジェット対ジェット。


『大林だ。二四六空、御子柴中佐。二時方向同高度40海里に敵機だ。高速で接近中。ジェットだと考えられる。半数で迎撃せよ』

『御子柴了解。迎撃に向かいます』『御子柴だ。二中隊神田中尉は迎撃指揮を執れ』


 来た来た!


「神田向かいます」「二中隊続け」

『『『了解』』』


「二中隊全機、高度を1000上げる。増槽投棄」

『『『了解』』』

額賀ぬかが飛曹長は二小隊で左から頼む」

『額賀了解』

「各機、旋回格闘戦は禁止だ。ダイブ&ズーム主体だぞ」

『了解。中隊長こそ』『『『『ハハハ』』』』


 おまえら…

 額賀飛曹長と反対の右から敵編隊に迫る。レーダーだと、あと10海里か。ジェットならあっという間だ。敵も高度を上げているが、こちらの方が上がりが良い。優位を取れそうだ。


『こちら、額賀。敵機針路こちらに近づく。お先貰います』

「神田了解」


 クッ悔しくなんかないぞ。二小隊は全員ベテランだ。戦闘の機微は分かっているだろう。こちらは、まだ尻に殻がついたような少尉も居る。格闘戦など出来ないな。禁止されてるが、少しくらいなら…いいかな。


「神田だ。添田少尉は、絶対に俺のケツから離れるな。いいな」

『添田了解、食らいついていきます』

「太田少尉と片山飛長は後方を頼む」

『『了解』』


 高度はこちらが200上か。程良いな。あまり降下角が深いと引き起こしも大変になる。奴等も分離旋回して向かってくるが、高度を上げる方が先では無いのか?ケツに着かせて貰おう。格闘戦禁止だが、敵が挑んできている。敵の性能も見ることが出来良いかな。


「神田だ。各機旋回戦になる。無理はするな。燃料が持たないぞ」

『『了解』』


「添田少尉。俺に続け」

『添田了解』


 左から上昇しながら回り込んでくるか。もう少し上がって、上からだな。

 敵機の上を取った。行く。


「太田と片山は左側をやれ。各機1連射以上は撃つな。航過するだけだ。敵編隊を崩す」

『添田了解』『太田了解』『片山了解』

「突っ込むぞ。続け」

『添田了解』『『了解』』


 視界の隅で煙が見える。額賀達がやったのだろう。先に行かれた。

 近づくと機影が見える。コイツのレーダーだと編隊の大小は分かるが機数までは分からない。6機か。さらに近づく。ずんぐりしているな。逃げるようだが、こちらの方が速い。

 2機編隊で3個に分かれた。太田達には左と言っておいたから勝手にやるだろう。

 位置的に右の奴は無理がある。真ん中の君たちだ。決めた。後方を確認する。添田は居る。

 右上から被り、長機と見られる先頭の機体に一連射して捻って抜ける。後方に添田は、居た。ホッとする。

 命中はしたようだが、抜けるのが優先で後など見ていない。後ろに敵が居ないのを確認して上昇する。


『中隊長。撃墜です』

「確実か」

『はい』

「良し。次の奴をやる。添田少尉が前に出ろ」

『良いのですか』

「かまわん。やれ。一航過だけだぞ」

『ありがとうございます』


 添田が、敵機に向かって行く。太田達は2機撃墜してこちらに合流するようだが、右に逃れた2機編隊をやれと指示しておいた。これで添田が自由にやれるだろう。

 添田がしくじった。俺も命中しなかった。敵の動きが良かった。こちらの間合いを見切るように機動した。長機の腕は良くなかったが、コイツは良い。添田にもう一撃やらせてみる。

 また逃げられた。俺の一撃は命中したが致命傷では無いようで、ダイブして逃げていく。添田に追うなと指示する。攻撃隊の護衛だ。離れてはいけない。太田達も戻ってきたので攻撃隊に合流する。

 太田達は2機撃墜、1機撃破だと知った。逃げていくので追撃はしなかったと。ベテランはやるな。

 ずんぐりした機体は、エンジンをポッド式に主翼下に吊り下げた位置が胴体に近かったので、遠目だとずんぐりして見えたただけだった。

 ジェットによる迎撃はそれで終わりだった。

 ザブングル飛行場から上がってきた機体はプロペラ機だった。速度的に相手にならず、旋回戦に引き込まれない限り負けることは無かった。興奮したのか、迂闊にも引き込まれた奴が2機いて未帰還になった。

 第一艦隊による二次攻撃も成功で、ザブングル飛行場と周辺の予備飛行場の機能を低下させた。

 あとは主隊に任せることになる。上手く行けば、上陸も出来るはずだ。第一艦隊と第二艦隊は、おそらく迎撃してくるであろう敵艦隊の相手をする予定だ。ジェットの登場で、作戦計画に変更があったという。

 空母でも第一艦隊と第二艦隊のみ配備されているジェットは、まだ虚弱だった。1日1回の出撃でも整備が厳しいという。

 ガンカメラで撮影できた画像からだが、エンジンをポッド式なら運動性能はどうなんだろう。上下は普通だが、水平旋回は苦手だろう。おそらくプロペラ双発機と変わらないか。その機体で自由に機動した奴が居る。敵も手強い。

 航続距離は、600~800海里程度では無いかと推測されれている。



挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


次回更新 3月30日 05:00 予定

ジェット登場

どこかで見た奴とは言わないように。尾翼位置形状が違います。


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