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Z旗

遂にZ旗登場

 オーレリア島偵察結果は、日本軍に存在していた慢心や油断を引き締める効果が有ったようだ。

 偵察を強化することとなった。と言っても前回のような奇手はもう止めだ。

 まっとうにやることになった。現在一番長距離性能が良い連山を改造することとなった。

 肝心の発動機を誉では性能不足として、木星に換装した。速度は若干の向上で終わったが、高空性能は一段階良くなった。これには、新しい設計手法として主翼翼端の形状変更や主翼延長によるアスペクトレシオの変更が寄与している。これらの改良は、以前から着手され研究されている。そのために早期の改良が可能になっている。

 胴体も気密構造とし、贅沢に渾沌獣素材を使っている。ようやく高高度で満足いく気密性の確保が出来た。使われているのは、ボラールの浮き袋であり、気味が悪いので内装で見えないようにしている。

 木星も排気タービン装備であり、前記の改良と合わせて連山に新たな世界を見せている。


 高度1万3000での巡航だ。しかも、落下増槽を含めて航続距離が9000キロまで延びた。

 渾沌獣素材は防弾にも使われている。これ1機でボラール2匹分のウロコと浮き袋を使う。とても量産できない。

 ちなみにお値段は高い。1機辺り通常の連山二型3機分だった。

 偵察専用で爆撃能力は無い。連山三型となった。12機が製造され、実機2機と予備部品3機分が拡張袋特大で保管される事となった。


 航続距離9000キロでは、アレクサンドリア-オーレリア島偵察往復で航続距離的に不足として、連山に空中給油をすることとなった。

 海軍では通常でも洋上給油をしており、動きながらの給油は当たり前だった。前回偵察作戦の時に海軍が噛んだのは、一〇〇式司令部偵察機の着艦からだったので、計画自体が進んでおり海軍としては面倒なことをと思ったらしい。その時海軍に指摘され、関係者の顔が真っ赤になったらしい。


 空中給油機も連山だが、爆弾倉付近を給油用燃料タンクにして有る。銃座は廃止だ。燃料タンクで後部銃座まで行けないのと、上部、下部ともスペースが無くなったからだ。

 しかし、問題は多岐にわたった。

 配管は?タンクのエア抜きは?ガソリンのベーパーをどう処理するのか?静電気や排気で引火しないか?どうやって給油管の接続を維持するのか?

 様々な課題を解決していった。


 遂に実機試験である。


「小暮大尉。あの穴は丸よりも縦溝の方が」

「止めろ。中井大尉。どうせ[突撃一番]を被せてとか言うんだろ」

『イヤン、イヤン。止めて♡中井大尉』

「小暮大尉。いやよいやよも好きのうちだと言うぞ」

「崎島大尉も止めろ。コイツが調子に乗る」

『こっちはじっとしてないといけないから、暇なんだよ』

「みんな聞いてるんだから止めろと言っている」

「『堅物ね』だな」

「煩い。黙れ。操作員の若田二曹が笑いをこらえて苦しそうにしているだろ」


 若田二曹は、笑うと後が怖いので笑えない。こらえるのも必死だ。そのせいか、誘導操作中の給油管が微妙にズレる。

 若田二曹は海軍工廠勤務であったが、クレーン遠隔操作の腕前を買われて空軍に出向中だ。軍属だったが、空軍出向に伴い二曹の階級を与えられた。


「真面目にやるか」

『そうだな』

「最初からやれ」

「『すまん』」


 連山給油機の機長が崎島大尉。給油を受ける連山三型(符丁902)の機長が中井大尉、正操縦士が小暮大尉だった。

 既に機速は揃っている。微妙な高度差も適正範囲内だ。若田二層が天測窓から給油管を見て指示を出している。


「小暮大尉。定針願います」

「了解。定針」

「902から給油機、相田操作員。給油管を1メートル下へ」

『給油機相田了解。給油管下げ1メートル。902、これで良いか』

「902若田。高さは揃った。後2メートル伸ばして欲しい」

『給油機相田了解。延ばす。これで良いか』

「902若田、現在調整中。揃った。給油管をゆっくり伸ばして欲しい」

『給油機相田了解。ゆっくり行く』

「もうちょい、もうちょい」

『チョイチョイ』

「ちょい」

『チョイ』

「入った」

『延伸止め』

「嵌合口、嵌合表示出た、成功だ」

『給油機相田了解』


「902から給油機。給油始められたし」

『給油機了解。少しずつ行くぞ』


 空のタンクに流れ込んでくるガソリン。残量計の数字が上がっていく。成功だ。嵌合口からの漏れも見えない。

 9割になった。


「給油機、902。給油止め」

『902、給油機。給油停止』



 試験飛行は成功だった。連山三型も4機に増え、給油機型2機と合わせて、アレクサンドリアに配備される。若田二曹は、これで工廠に帰れると思ったが現実は甘くなかった。彼もまた、アレクサンドリアに向かった。



 前回の強行偵察から半年後、再び偵察行が開始された。

 アレクサンドリアから給油機が先に上がる。巡航速力は連山三型の方が若干速く、後で追いつく。

 前回の強行偵察で撮影できた軍港と軍用飛行場がルミナス軍港とルミナス飛行場だろうという予測の元、飛行経路が設定された。


挿絵(By みてみん)


 まず島の南端を目指しそこを起点として各地点を偵察するとなった。この経路のために2500キロ進出してから空中給油することとなった。給油機も一杯一杯の距離である。

 4カ所全てを偵察できなくても良かった。複数回行われる偵察行の第一歩でしかない。


 偵察飛行は成功だった。3カ所を確認できた。ザブングル軍港とザブングル飛行場は視認範囲内には無かった。

 事前情報通り、敵迎撃機は高速であるが1万1000までだった。高度1万2000を時速550キロで飛ぶ連山三型を迎撃できないことが分かった。しかし、敵も迎撃方法を考えるだろう。油断は出来ない。

 数回偵察は行われ、4カ所の主要施設の他に予備飛行場と見られる飛行場数カ所も発見できた。



 新たな攻撃計画が策定された。連合艦隊全力でザブングル軍港とザブングル飛行場を破壊する。抵抗は排除する。優先目標は軍事施設である。敵艦隊が出てきても守勢に回り、施設破壊を優先するとなった。

 守勢が受動的排除という意味に取る者が多かった。勿論、先に見つければその次第では無い。見敵必殺は当然だった。


 

 事前偵察で、安定した天気の時期がある程度分かっており、その時期に合わせてアレクサンドリアを出撃した。


 連合艦隊全力である。

 艦隊の数は空母と妙風級駆逐艦は増え、質もいくつかの新兵器や改良された装備に更新されている。艦船建造の見通しが甘かったかも知れないが、もう間に合わない。だから今の数でやるしか無い。変わったのは練度と精神だ。訓練を積み、慢心をいさめ、勝って生き残るための努力を惜しまなかった。

 敵も同じだろう事は想像にかたくない。

 



 連合艦隊司令長官島津義斉(よしなり)大将は、大和の昼戦艦橋でご機嫌だった。乗艦を大和にしたのは、近江級戦艦の方が確かに強力だが大和が実戦をくぐっているからだ。


「ワハハ、海が三部に船七部とは。実に壮観」


 本来、連合艦隊司令部がある呉に居るべきだったが、未曾有の大艦隊とあって出張ってきた。けっして他に居なかった訳では無い。艦隊司令長官が全て中将で同格と有って先任を決めかねたせいも有る。艦隊司令長官に連合艦隊の指揮を執らせるのも酷であろう。それ程までの規模だ。古今東西これほどまでの艦隊を指揮下に置くのは俺だけだろう、等と考える。


 島津家総領である島津義斉は、先祖から義を、薩摩藩最高の藩主とされる斉彬なりあきらから斉をもらい、義斉と名付けられた。


 これでご先祖様に面目も立とうというものだ。笑いが止まらない。

 攻撃まで時間が掛かったことで、敵にも余裕は出来ただろう。しかし、こちらもいくつかの新兵器を用意できた。


 連合艦隊の後方には、総数400隻という巨大輸送船団がいる。陸軍歩兵20個師団を基幹とする上陸船団だった。人員構成はディッツ帝国80%、日本10%、ファイオール公国10%だ。護衛に付いているのは、若干の日本海軍の他は、ディッツ帝国海軍とファイオール公国海軍だった。ディッツ帝国海軍、ファイオール公国海軍共、全力出撃に近い。

 三ヶ国連合では、この攻撃が最終決戦の始まりと考えている。その攻撃の総指揮だ。軍人として、これ以上に高揚することは無いだろう。



「島津長官。開始の時刻です」

「先任参謀長。では、始めるか」

「先任参謀長とは、おかしな呼称ですな」

「参謀長が多すぎてな」

「山に登らねばいいのですが」

「船頭たる司令長官も、5人と大勢だぞ」

「混乱しますな」

「そのために、連合艦隊司令長官がここに居る訳だ」

「開始の号令をお願いします」

「よろしい。マイクを」


 各艦ブザーの後で『各員、傾聴』と流れた。


『島津連合艦隊司令長官より各員に告げる。世界の平和はこの一戦にあり。

 各員一層奮励奮闘努力せよ』


「艦長。信号旗を掲げよ。Z旗だ」

「了解。Z旗掲揚します」「信号長、Z旗掲揚」

「Z旗掲揚します」


 信号長は興奮した口調で、命令を実行していく。


「第二艦隊、先行します。近江より発光信号。読みます『1番はいただく。のんびり来られたし』以上」

「あの野郎」


 第一艦隊司令長官永田中将が、ぼそりと言った。



 最終決戦が始まる。



次回更新 3月25日 05:00 予定

「この一戦に在り。各員一層奮励努力せよ」と「Z旗」は外せません。

新兵器も多数登場予定。活躍するかは別にして。

近江から大和に信号が届くのかは、各艦隊三本程度の単縦陣なのでそれ程離れていないとしてください。


作者も最終話に向けて鋭意努力中なれど、前途多難なりて道は険しく。


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