偵察
電探に反応と山田中尉が報告してきた。
『2時方向、距離5万高度5000付近に機影複数』
「まだ大丈夫か」
『正面、距離5万高度6000にも機影複数』
「1万まで上がってくるかな」
『来るでしょう。迎撃機でしょうから』
「遊覧飛行じゃないのか」
『ここは敵地ですよ』
『2時方向に発見した敵機、機影を視認』
「追いつかれるか」
『敵機同高度。しかし後落します』
「一杯一杯か」
『そのように見えます。もう少し近づいてくれれば、カメラで撮れました』
「カメラで撮れる距離は射程内だ。勘弁してくれ」
『正面5万、敵機近づく。同高度』
「回避する」
『敵機追尾してきます』
「電探で誘導か」
『おそらく』
「見えた。近づいてくる。結構速そうだ。高度をさらに上げる」
『了解。カメラ持ってます』
「出番が無いように祈れ」
『シャッターチャンスをですね』
「馬鹿野郎」
『敵機。上がってきません』
「現在、高度1万1000だ。1万と少しが限界高度か」
『そのようですね。針路戻してください』
「了解」
「前方に爆煙。高射砲だ」
『写真機覗きます』
「良い写真撮れよ。海とおぼしき水面を視認。航過する」
『了解』
「続いて港が見える」
『了解』
「港は軍港だろうな」
『そう思います』
「帰るか」
『下は海ですよね』
「そのはずだが」
『オーレリア島に、デカい湖は無いそうですから』
「では、変針する」
『了解』
「帰り道だ。見張りを厳となせ」
『了解。電探に反応。正面から2時方向に複数の機影。距離3万。同高度。近づく』
「同高度だと」
『高度差がありません』
「1万で平気に飛ぶ奴が出てきたか」
『新型ですね』
「撮影したいが、出会いたくも無いな」
『賛成です』
「高度を上げる。酸素残量に注意」
『酸素残量確認します。残り30分』
「20分で振り切れるかな」
『コイツなら可能だと信じています』
「良し、燃料を盛大に使う」
『会合予定地点で余裕が無くなります』
「やられるよりは」
スロットルを押し込み、さらに出力を上げる。ハ-45ルは快調だ。コイツの燃料は、高濃度魔石燃料だ。通常濃度では無い。最大出力は発動機の仕様上、全開時間10分までと限られている。今は使わない。
『敵機、近い。1時』
「見えた」
『カメラ、カメラ』
「はしゃぐな」
『新型ですよ。感状物です』
「この飛行自体、感状物だろ」
『それは部隊感状で、コイツは個人感状になりそうですが』
「俺はいらないぞ。感状持ちは前線に貼り付けられる気がする」
『でも撮ります』
「必要だからな」
敵機は、双発だった。速度も出ている。撃ってきた。遠すぎて弾が届いていない。少し進路を変える。ありゃ、飛行場らしき物視認。拙いな。もう一回旋回するか。敵機は着いてきたが、態勢が悪いのだろう。攻撃態勢になれないようだ。
『カメラ撮影しました』
「良し。少し相手をするぞ。性能を確認したい」
『了解』
「現在速度700キロ。高度1万500」
『速度700キロ。高度1万500』
「高度上げる。1万1000へ」
『敵機、追随してきます』
「1万1500へ上がる」
『敵機着いてきません。1万1000が限界のようです。速度も低下しています』
「1万1000で700キロ出るのか」
『恐ろしい相手ですね』
「今、それだけ出せるのは、コイツと春雷だけだな」
『そうです。拙いですね』
「重大だな」
『敵機影離れます。諦めたのでしょう』
「よし。戻って、飛行場を撮影する。酸素残量は」
『20分です』
「十分だ」
『機長。誘導波を探知』
「方位知らせよ」
『真方位50度。方位10度。距離不明。ですが電波強度からして遠くありません』
「そうか。もう少しだな」
『はい。符丁送信します』
「送信せよ」
電波は出しっ放しにしておいて欲しかったが、艦隊位置の秘匿上、時間で発振すると決められていた。
「中尉、距離を測定するか?それとも電波に従って進むか?」
『遠くありません。従って進みましょう』
「そうするか。10度へ変針する」
『了解。針路乗りました』
「了解」
敵機を捲くのに時間が掛かった。迎撃を諦めたと思ったら、追尾に切り替えてきた。酸素残量を気にしながら高空での高速飛行をしたり、酸素が怪しくなってからは超低空まで降りて速度勝負とか。敵機が6000くらいだと730キロ出ることにも驚いた。高空高速向きの機体だったようで、超低空では着いてこれなかった。航続距離の問題か、オーレリア島から500キロ地点で追尾を諦めてくれた。もう少し追われていたら、こちらの燃料も怪しくなっていただろう。
『機長。正面、電探に反応。少数機』
「味方か」
『識別に応答。味方です』
「ようやくか。あと1時間飛べと言われたら泣くな」
『自分もです』
飛んできたのは烈風だった。バンクをしている。こちらもバンクを返す。
しばらくすると艦隊が見えた。雲鷹に着艦する。燃料残が30分しか無い。危なかった。
飛行は終わった。しかし、情けないことに自力で立てない。整備員の手を借りて引っ張り出して貰う。
飛行甲板で、整備員に支えられながら屈伸運動をする。中尉も同じだった。お互いに思わず苦笑いをする。なんとか自分で動けるようになり、整備員に礼を言って艦橋近くで待っている艦長を始めとする士官連中の元へ向かう。豪華なお出迎えだ。それだけ重要な任務だった。
その後、作戦室に向かう。
「大村中尉。敵機に高空で高速発揮できる機体が有ると?」
「はっ。高度1万で700キロ380ノット、高度6000で730キロ390ノット出ました」
「では、我が軍でそれだけ出せる機体はどれがけ有るのか。航空参謀」
「海軍には有りません。陸軍と空軍の一〇〇式司令部偵察機六型と春雷だけです」
「拙くないか。飛行長」
「拙いですね。高速で上から来られたら逃げられません。大村中尉、山田中尉。その機体だが運動性はどう見えた」
「はっ。春雷よりも悪く一〇〇式司令部偵察機よりも良いとしか」
「そうか。高度は1万1000が限界なのか」
「はっ。1万1500まで上げたら、着いてこれませんでした」
航空参謀か声を掛けた。
「大村中尉。沖合300海里までは追ってこなかったのだな」
「はっ。500キロ270海里まででした」
「200海里手前から迎撃可能なのか」
飛行隊長が聞いてきた。
「軍港らしき上空で対空砲火が有ったと言ったな。どの程度だ」
「はっ。数は多くないですが、1万近くまで撃ち上がってくる奴も有りました」
う~~ん。全員が静まる。偵察結果次第では、連合艦隊が威力偵察として海岸線を荒らしに行くはずだったのだ。だが、そんな高性能機体や高性能高射砲が配備されているのなら、配備数にもよるが航空攻撃は大変危険なものになるだろう。
「ここで悩んでも仕方が無い。上に投げる。司令長官には帰還を進言する」
四航戦司令官氷川中将の一言でその場は解散となった。
連合艦隊によるオーレリア島攻撃は中止された。もっと敵情を知る必要がある。慢心していたようだと。
次回更新 3月20日 05:00 予定
そろそろプロペラ機の性能限界に近いので各国とも機体性能に大差無くなってきます。




