小亀を載せて
オーレリア島偵察です。
オーレリア島周辺への偵察は続けている。しかし、周辺への偵察だけで敵情が判る訳もない。
そこで、オーレリア島の位置が判明した頃に航空偵察が企画されいる。航空偵察だが、距離が遠い。アレクサンドリアとオーレリア島の中間に島は無い。実行できるだろう二式大艇や連山特別仕様機でも往復は無理。速度的にも敵機に捕らえられるだろう。連山特別仕様機なら1万2000まで上がれば大丈夫だろうが、その高度を長時間維持するのは燃料消費からいって無理だった。
ではどうするか。潜水空母を造るのは時間的に無理だ。アレが計画されたのは転移前で、搭載機さえ無い。
そこで、航空実験部に存在する超高空気象観測機が思い出された。
超高空気象観測機は文字通り超高空の気象・環境を観測するための機体というかシステムで、2機が製作された。
連山排気タービン付きの機体に、一〇〇式司令部偵察機を背中に載せ1万近くまで連山で運び、そこから酸素噴射装置とロケットブースター付き一〇〇式司令部偵察機で高空2万まで上がろうという機体システムだった。
気象・環境なら気球を上げればなんとかなるが、その高度での機体挙動などは上がってみなければ解らないと言うことで、実際に機体を上げてみることになったのだった。
一〇〇式司令部偵察機の重さは、軽荷状態の連山なら持ち上げることが出来た。空気抵抗が大きく燃料満載では離陸がきつかった。
実績は高度1万5000まで上がった。一〇〇式司令部偵察機に特別仕様で装備された気密室でも、その高度は酸素吸入と電熱服が必要で、人間の限界だった。
航続距離2機分でやれないだろうか。
しかし、例の無い長距離飛行である。一〇〇式司令部偵察機の搭乗員を椅子に縛り付ける訳にもいかない。連山から連絡通路を延ばし、一〇〇式司令部偵察機に乗り込む用に両機とも改造された。
両機とも燃料は増槽まで一杯にして離陸する。軽荷状態の連山で設計されたシステムは、重くなってしまったシステムに対応するため、連山も各部をかなり強化された。連山は自重で3トン以上重くなった。機銃座は全部外され整形カバーが付いた。遂に誉では無理となって木星を積んだ。
航続距離は、主翼全部が燃料タンクになり爆弾倉はもちろん落下増槽複数まで取り付け、素の状態なら1万kmまで延びた。
一〇〇式司令部偵察機を載せていると、さすがに無理で7000kmが限界だった。
オーレリア島までは往復1万kmだ。
オーレリア島手前1500kmまで連山で運び一〇〇式司令部偵察機を切り離す。連山の残燃料ならアレクサンドリアに帰投出来るギリギリの距離だった。
一〇〇式司令部偵察機も落下増槽の数を増やし5000kmの航続距離を持たされた。
だが帰りはどうするのか。途中で機体を捨てて、搭乗員とカメラを海軍が回収するのか。それも危険だ。
デカい空母なら着艦できないか?海軍からは可能だ。と返答があった。機体強度が有ればだが。
一〇〇式司令部偵察機も補強された。着艦フックも付いた。搭乗員は海軍から空軍へ転籍してきた者に母艦搭乗員がいて務めることとなった。着艦訓練は古い一〇〇式司令部偵察機を改造して行われた。降りる空母は雲鷹だった。4機廃棄となった。
連山から一〇〇式司令部偵察機に移乗するのだが、移乗訓練だけで2週間を要した。地上1週間、空中1週間である。移乗は酸素吸入なしで行動できる高度で行う。
実行日がやって来た。
連山は新司偵を載せて離陸する。
帽振れ
アレクサンドリア飛行場にいる者達が帽振れで激励してくれる。ギリギリの作戦行動に気が重い。
「大村大尉。緊張するな。今からそれでは持たんぞ」
「小島少佐。そう言われましても。着艦が嫌で空軍に来たんですけどね」
「それはご愁傷様と言う他無いな」
小島少佐は機長だ。この飛行任務の責任者だ。俺よりも重圧はあるだろう。
なにしろ、真っ直ぐ飛ぶにも苦労する構成だ。
「寝ます」
「そうだな。寝とれ。起こしてやるから」
「ありがとうございます」
偵察員の山田中尉と共に、ベッドに横になった。
目が覚めると、予定時刻の1時間前だ。厠に行き用を足す。消臭と滅却の魔道具が特別に装備されている。
「起きたか」
「はい、お早うございます?」
「ハハハ、そうだな。お早う、大尉」
「1時間後ですね」
「うむ。先程、味方艦隊上空を通過した。アレに降りるのだろう」
「そうです」
「板切れにしか見えんが」
「それが嫌だったんですよ」
「ま、頑張れ」
航空糧食を食べる。この機の搭乗員全員は1週間前から行動と食事を管理されている。自分で勝手に食べるなど出来なかった。食中りなど起こせば作戦が頓挫する。
30分前になり山田中尉と共に移乗する。よくこんな事を考えつくな。軽業師気分だ。操縦席に入り、操縦席の座面を倒す。これで搭乗姿勢になる。縛帯で落下傘と操縦席と繋げ一息つく。
『・・ザ。大村大尉、機長聞こえますか。偵察、山田中尉です』
「良く聞こえる。怪我は無いか」
『狭いですが、操縦席よりは』
「体のそこら中で悲鳴を上げている」
『お疲れ様です』
「ありがとよ」
『機材点検始めます』
「頼む」
電話を母機と繋ぐ。
「母機。小亀。大村大尉、山田中尉。両名とも搭乗完了」
『小亀。小島だ。まずは良し。発動機始動せよ』
「小亀了解。発動機始動します」
スターターモーターへの電力は母機から供給されている。無事始動した。
「小亀。発動機始動しました。左右とも異常なし」
『母機了解。暖気終了後、離脱態勢に入る』
「小亀。暖気終了後、離脱姿勢に入ります」
「母機、小亀。暖気終了します。舵の動きを見たい。姿勢に注意」
『母機了解。慎重にな』
「小亀、開始します。上げ舵・・・・・・・・終わり」
『小亀、母機。こちらへの影響もいつも通りだ』
「母機、小亀了解。暖気終了。油圧、油温、筒温異常なし。小亀、離脱します」
『母機了解』
回線を機内に切り替えてと
「中尉。離脱する。補助頼む」
『後席了解』
翼端灯を数回点滅させる。これが離脱作業開始の合図だ。一〇〇式司令部偵察機が前に出ることで連結部が解除される。もちろん固定はされているが、解除してあるのは母機側が確認してある。
発動機の回転を上げ、慎重にプロペラピッチを変えていく。フルフェザリングだったプロペラが推進力を得るようになっているはずだが、回転中なので見ても解らない。
徐々に回転を上げていく。ピッチはもう少しか。
『機長、左弱い。上下は良好』
「了解」
主翼下部、エンジンナセル脇に付けられた連結部に掛かる圧力が左が弱いと言うことは、右の出力が弱いか。スロットルは揃っている。左右の回転数も同調している。ピッチをもう少しか。上下は着艦フック前に連結部が有り、そこに掛かる圧力も良好だ。機体は3点で支えている。
「中尉、どうか」
『機長、左右上下とも良好です』
良し。行く。回線を母機に繋げ
「母機、小亀離脱します」
『母機了解。偵察任務の成功を祈る』
「ありがとうございました。アレクサンドリアで会いましょう」
『当然のことを。小亀、離脱せよ』
「中尉、行くぞ」
『後席了解』
あまり慎重にやると少しの切っ掛けで機体姿勢が変わり、風圧に煽られてしまう。それでは連山と衝突する。一気に出力を上げても、同じ事だ。程々が一番。
『機長、3点とも正常に減っています』
「良し。離脱だ」
この瞬間が一番怖い。各部を瞬間的に確認。異常なしを認め回転を上げる。
ガコ
少し衝撃が来たが、いつものことだ。連結部が外れた。
さらに出力を上げ、やや上げ舵を取る。
『機長、離脱成功』
「良かった。母機に異常ないか」
『無い模様。通常飛行中』
十分に母機から距離を取り、各部に異常が無いか飛行姿勢を色々変えてみる。異常は無いようだ。下部は母機に見て貰う。
『母機。小亀下部に異常なし』
「小亀、了解。帰路の無事を祈る」
『任務を果たされんことを祈る。以上』
一路、オーレリア島への推定針路に乗せる。まだ見た者のいないオーレリア島だ。どんな島か知らないが、敵の要塞だろう。予定では200海里手前から高度を上げることになっている。それまで見つからなければ良いが。
『機長。向かい風です。若干時間が遅れます』
「燃焼消費も有るから、速度を上げたくないな」
『分からない所に予定時間で着けと、計画を立てた奴の顔が見たいです』
「ビラビラの紐飾りが付いている奴だよ」
『参謀とも良いますね』
「それで、どの位遅れそうだ」
『数分です』
「このままで行く」
『了解です』
飛行計画は
アレクサンドリアから直進航路のまま斜めに接近。
赤道付近で赤道沿いに進路変更。
オーレリア島を突っ切り、アレクサンドリアからの直進航路に平行航路をとり離脱。
と、なっている。
重要施設よりも、上空を通過することが大事だった。地形が不明なので、地図も作れない。最初の一歩だった。
『機長。赤道間近です。進路変更願います』
ここまでは順調だ。電探波の入力も無いし。哨戒機や艦艇も見えない。
「赤道と言っても赤い線は無いな。赤線は好きだが」
『奥さんに報告します』
「待て冗談だ。進路変更する。・・・良し」
『オーレリア島を横断するまで直進です』
「飛行計画通りだな」
『このままで行きたいですが、機長。電探波探知』
「了解。高度上げる」
『機長。電探作動しますか』
「もう少し待て」
『了解』
「高度5000。酸素用意」
『酸素用意。了解』
「5500。吸入始め」
『吸入始めます』
「1万まで上がる」
『高度1万。了解。写真機準備します』
「高度1万。陸地視認」
いよいよだ。
『オーレリア島ですね』
「そろそろ来るかな」
『電探作動させます』
「頼む」
ここからは一寸先は闇の世界だ。
次回更新 3月15日 05:00 予定
偵察で分かったのは、ルミナス軍港とルミナス飛行場で、他の場所は見えていません。
長距離偵察は連山の重連(空中給油)にしようと思いましたが、屁理屈をこじつけるために背負い式に変更。




