オーレリア島
第六艦隊から分遣されてアレクサンドリア配備となっている潜水艦は12隻だった。
そのうちの1隻イ-308が、海洋性混沌領域を避けてオーレリア島に近づいていた。哨戒網と哨戒能力の確認という任務に就いている。
『先任、現在位置知らせ』
艦橋にいる艦長からだ。
「はっ、オーレリア島北東350海里です」
『奴等真面目に戦争する気有るのかな』
「艦長。それはどういう意味でしょうか」
『350海里だぞ。日本なら哨戒圏内だ。それが、電探波も探知できない』
「はあ」
『まあ、楽で良いがな。夜が明ける。浮上航行もここまでだな。さすがに、ここからは拙い。機関長、電池は』
「満充電です。空気も問題ありません」
『良し潜る。シュノーケル深度まで潜行して、シュノーケル航行だ。先任指揮を執れ』
「はっ。中島航海長、指揮を執ります」
交替で出ていた奴と見張り員が降りてくる。最後に艦長がハッチを確認して司令塔に降りた。
イ-308は、最新鋭の潜水艦で転移後第二世代と言える。転移後第一世代は近海迎撃特化のロ号潜で、第二世代のイ-300級は、ランエールの海に対応した長大な航続距離と長期航行に対応する広く(従来比)て快適(従来比)な艦内を実現した。水上排水量2800トン水中排水量3700トンの大型潜水艦。
快適な艦内に消臭と滅却の魔道具は欠かせなかった。海軍艦艇の厠は水洗だったが、魔道具の普及につれて流さない厠になっている。消臭と滅却の魔道具に問題が出た時用に非常用の厠は付いているが、艦外への排出路はない。戦闘時でなければ、艦外へ出て艦尾で海水を流しながら用を足すことになっているが、未だ実用した艦は無い。
配管とポンプの節約になり、浸水要因も減らせる良い魔道具だ。艦内には消臭に特化された魔道具も置かれ臭くない(従来比)。
イ-308艦長、畑中少佐は艦長室で寝ることにした。今は先任指揮の下、シュノーケル深度で航行している。
本来このクラスだと、俺のような佐官に成って半年のなりたて少佐が艦長になることはない。海軍の人手不足が、それを現実にした。俺はロ号潜で本土近海に守りに就いているはずだったんだが。ガミチスの野郎・・…
イ-308は、オーレリア島北東100海里まで踏み込んだ。その結果は、哨戒機が200海里程度まで進出していることが分かった。船舶の哨戒は150海里からだった。海洋性混沌領域を警戒しているのだろうか?
イ-308は、結果をアレクサンドリアに持ち帰ることに成功した。
「敵潜水艦の発見事例が増えていますな」
「敵の攻撃が近いのかも知れん」
「どうなさいますか。司令長官」
「哨戒の強化だな。他にやれることは無い。ベルリヒト参謀長」
オーレリア島海軍司令部では、司令長官執務室でオスマイヤー司令長官とベルリヒト参謀長が話していた。
司令部建物から見える軍港には、ようやく再建成ったガミチス帝国海軍主力部隊が結集していた。二回の海戦で大損害を被り、半分近くまで減ってしまった艦隊がようやく再建されたのだ。
その威容は、敵艦隊に負けることは無いと思わせた。
軍港に錨を降ろしている艦隊の中で特に目立つのが、ガトランティス級戦艦とヴァルキュリア級空母だった。ガトランティス級戦艦を元に改設計をして空母に仕立てたのがヴァルキュリア級空母だった。
他には、日本海軍との交戦で損傷。修理と改装を受け復帰した3隻の戦艦があった。ウルリッヒ・アームストロング・シューマッハーの3隻だ。4隻だったが、1隻は北の海戦で沈んでしまった。
オスマイヤー司令長官は、海軍局から渡された新型艦に関する概要を思い出していた。
ガトランティス級戦艦
58000トン
44センチ砲8門
11センチ連装対空砲12基24門
機銃多数
機関出力 21万馬力
最大速力 55km/h
航続距離 30km/hで2万km
最大装甲厚
舷側 400ミリ 傾斜
上面 180ミリ
砲塔前面 500ミリ
砲塔正面 180ミリ
ガトランティス アガトリティス ザイドリティス 就役中 他3隻建造中
主砲は3連装3基の構想だったが、高速発揮を目指した細長い艦型故に1番砲塔弾火薬庫付近の艦幅が狭く、水中防御に難が有るとして連装砲塔4基となった。
・・頼もしい限りだ。しかし、北で当たった敵巨大戦艦も同じくらいらしい。もちっと数が増えてくれんかな・・
ヴァルキュリア級空母
55000トン
11センチ連装対空砲12基24門
機銃多数
機関出力 21万馬力
最大速力 58km/h
航続距離 30km/hで2万km
最大装甲厚
舷側 200ミリ
上甲板 180ミリ
飛行甲板 装甲無し
搭載機 130機
ブリュンヒルド ゲルヒルド ヘルムヴィーグ オリトリンド 就役中
3隻建造中3隻計画中
吃水線下の形状はガトランティス級戦艦の図面を流用しており、ほぼ同じである。
日本に装甲空母があることは分かったが、既に建造を始めており装甲化で時間を取られるよりも早期就役を目指したので飛行甲板の装甲は無い。現在建造中の3隻と計画中の3隻は装甲化している。
従来空母の倍以上の搭載機数だが、搭載機数は空軍機転用で主翼折り畳み機構が無かった頃に設計されたのでこの機数。空母搭載機として主翼折り畳み機構を持った機体の場合は、150機以上。
装甲空母として完成する後続艦では、100機程度になる。
・・150機は頼りになるな。多少の性能差なら数の力で押し切れるだろう・・
シューマッハー級戦艦
シューマッハー・ウルリッヒ・アームストロング
37000トン
37センチ砲連装4基8門
11センチ連装対空砲10基20門
機銃多数
機関出力 16万馬力
最大速力 55km/h
航続距離30km/hで1万6000km
最大装甲厚 (+は改装により追加された厚み)
舷側 280ミリ+50ミリ
上面 80ミリ+50ミリ
砲塔正面 300ミリ+50ミリ
砲塔正面 100ミリ+30ミリ
転移前の高速戦艦として、防御力よりも速度優先で設計されていた。
副砲を撤去。対空砲と機銃多数を設置した。機関も強化して55km/h出せるようになった。
排水量は増えるがバルジを換装。水中防御の強化とバルジ内重油タンク設置により航続距離も伸びた。
改装による装甲板の取り付けによる増厚と、バルジ換装による水中防御力の向上で活躍が期待される。
・・活躍して欲しいものだ・・
コロセイム級巡洋艦
8000トン
11センチ連装対空砲8基16門
機銃多数
機関出力 8万5000馬力
最大速力 58km/h
航続距離30km/hで1万5000キロ
最大装甲厚
舷側 80ミリ
上面 60ミリ
砲塔 15ミリ
搭載機無し
転移前に計画・建造開始されていたウォスターラント級型巡洋艦。水雷戦隊旗艦として計画された。
建造した以外の艦は転移後計画延期となっていた。防空力を強化することが決定され、元設計を基に改設計された。
元設計
7500トン
14センチ連装砲4基8門
11センチ対空砲単装4基4門
MG37連装2基
MG18単装8基
53センチ魚雷発射管連装4基
搭載機2機
8万5000馬力
62キロ 航続距離30km/h 1万2000キロ
最大装甲厚
舷側 80ミリ
上面 60ミリ
砲塔 50ミリ
主砲と発射管を降ろし、跡地に対空砲を積んでいる。砲塔装甲は最初40ミリとしたが、トップヘビーが懸念され弾片防御程度になった。魚雷関連の装備は方位盤も無く、駆逐艦の先頭に立って射点まで誘導することは無い。・・らしい。空母直衛艦だな・・
VG級駆逐艦
2700トン
11センチ連装対空砲4基8門
機銃多数
投射爆雷発射機 1基
機関出力 5万3000馬力
最大速力 62キロ
航続距離30km/hで1万5000キロ
コロセイム級と同じく艦隊防空力を強化すべく建造された。魚雷は無い。
・・魚雷が無いのは痛いな。コイツも空母直衛艦か・・
オスマイヤー司令長官は、その他の艦艇も十分な数だと思った。必要にして十分な性能を持ったGA級駆逐艦。やはり必要にして十分な性能を持ったサラディン級大型巡洋艦。両艦とも日本海軍同級艦艇と対等に渡り合ったという。
アレは…?湾口に姿を現した小型艦数隻を見ていた。そう言えば本日入港予定となっていたな。総統閣下が海軍局勤務時代に肝いりで建造させたシュワルツ級を基にして、と言うか対空対艦能力向上を意識して大改造された船という話だ。シュワルツ級は素晴らしい性能だったが、高価すぎて横槍を入れられたのだったか。
改シュワルツ級のFJ級だ。これか。机の引き出しから諸元表を取り出した。
FJ級駆逐艦
3500トン
13センチ速射砲連装3基6門
MG37機関砲4連装4基
MG18機関砲連装4基
MG18機関砲単装8基
53センチ魚雷発射管4連装2基
投射爆雷発射機 1基
機関出力 8万5000馬力
最大速力 80km/h
航続距離 30km/hで1万2000キロ
新開発の13センチ速射砲は、
実口径 13,5センチ
砲口初速 950メートル
最大射程 2万500メートル
最大射高 1万3000メートル
発射速度 毎分14発 人力補助による半自動装填
最大仰角 80度 信管秒時は高射装置兼測距儀と連動しており対空射撃可能
高射装置兼測距儀はレーダー連動で、正確に目標の追尾と測距が出来る
良い船だが、注釈に高価でシュワルツ級と値段が変わらないと書いてある。
他にも、主砲散布界が射程1万5000、射高1万を超えると大きくなり有効性は落ちる。となっている。
活躍して欲しいものだ。
次回更新 3月10日 05:00 予定。
ガミチスも新型艦がぞろぞろと。




