壊滅
バラン島終戦
空襲の翌日、バラン島上空にまたもや戦爆連合が現れた。
300機が2梯団だ。迎撃も無いので、適当に爆弾をばらまいていった。今度は急降下爆撃もしている。最後の飛行場も機能を停止した。昨日の空襲から復旧を図った飛行場は、飛行場に機体が無いせいか簡単な攻撃で終わった。
軍港にいた潜水艦4隻と哨戒艇3隻が横転や着底をしている。
昨日の空襲で大損害を受けたバラン島空軍は、これに抵抗できなかった。
「メルケル司令。迎撃はしますか」
「カール大佐、聞くまでも無いだろう。無駄に死ぬだけだ」
「上がれるのが50機では、600機に向かって行ってもですな」
「総員に退避命令を出せ。我々も退避する」
「了解しました」
バラン島守備隊は、昨日の空襲で戦闘機500機が実働50機まで落ち込んでいた。撃墜された機数よりも地上で撃破された機数の方が多い。
そして経空脅威が無いとなれば、本命の出番だ。
「司令長官。弾着観測機、所定の位置に付きました」
「うむ。艦隊撃ち方始め」
「艦隊撃ち方始め」
「本艦、撃ち方始め」
第一艦隊司令長官永田中将は、撃ち方が始まったのを契機に
「参謀長、砲撃終了まで指揮を執れ。効果が高かったら、所定の弾数まで撃たなくも良い」
「幸田参謀長、指揮を引き継ぎます。弾数のこと了解しました」
「頼む」
彼は指揮を任せると、エレベーターで鐘楼トップに上がっていく。砲術の若いのや兵には迷惑だろうがな。と思いながら。
第一艦隊司令長官永田浩一中将は、生粋の船乗りだった。一時は地方基地勤務や軍令部勤務等も有ったが、全ては今の場所にいるための準備期間だと思っている。カッターの艇指揮から始まり、ここに居る。彼は司令塔の戦闘情報室には居たくなかった。
鐘楼トップに着く頃、初弾が発射された。
「司令長官、一艦隊撃ち方始めました」
「さすがに早いな」
「目標の割り振りでうちは少し遠かったですから。仕方有りません」
「競争をしている訳では無い。確実に行く」
「はい」
「司令長官。弾着観測機、所定の位置に付きました」
「よろしい。艦隊撃ち方始め」
「艦隊撃ち方始め」
「本艦、撃ち方始め」
第二艦隊司令長官水城茂中将は、あいつを止めないとな、と思っている。こちらは、半分以上が地上勤務でここまで来た。
永田中将の慕うかつての上官は、山口多聞大将だった。勇猛果敢として知られていた。先年、病を得て逝去した。
永田中将も、勇猛果敢を旨としている。
そんな永田を抑えるべく第二艦隊司令長官に推挙されたのが水城中将だった。それ程親しくない仕事上の付き合いをしている人間と、やはりそれ程親しくない海軍首脳達からは冷静沈着と見られている。コイツなら永田を抑えられる。そう目されていた。
また、三戦隊の近江級や四航戦の雲鷹級は移住者護衛艦隊所属で、搭乗員も含めて乗組員のほとんどが移住者護衛艦隊で鍛えられている。船団護衛を最優先任務として教育されてきた移住者護衛艦隊の船は、海軍首脳からはイマイチ交戦能力に不安があった。
もちろん士官・下士官・兵は全員海軍兵学校や予科練・海兵団出だが、結成された頃からや最初から移住者護衛艦隊配置の士官や下士官・兵の実力がわからなかった。予備役から復帰させた連中が多いのだ。海軍本体との人員の配置換えも規定により禁止されていた。(万が一、管理者からダメ出しを喰らうことを恐れてだった。陸軍は平気でやっていたのだが、不思議である。豊富な資金で、自由気ままに建艦していることをやっかんだのだろうか)
熱い指揮官では上手く扱えないのではないか?そう言う不安から、冷静をもって鳴る水城中将の名が上がった。
だが、勤務実態は移住者護衛艦隊の方が船団護衛と言う実戦の時間が長く、現場慣れしていた。
海軍首脳部には、未だに船団護衛を本業とは考えていない者も多く、馬鹿にしていたとも言える。
水城中将が第二艦隊司令長官になった時。親しい者達は不安になった。奴の目指しているのは、角田覚治大将(退役済み)だった。一見考えているように見えるが突撃一番の提督だった。
混ぜたらいかん。そう思った。誰が止めるんだ。
バラン島への砲撃は、港湾施設と飛行場が主目標だった。電波施設もあるが、既に爆撃で破壊されていた。
砲撃を始めてから半日後、連合艦隊は砲撃を終了し波浪の彼方へと消える。
「損害はどうか。酷いのはわかっているが確認したい」
「海軍からします。今現在の集計結果です。港湾施設に壊滅的な被害が出ています。大型艦接岸可能な岸壁は瓦礫に。乾ドックは1基を残して使用不能。復旧も不可能です。空襲を生き残っていた哨戒艇は2隻。他に1隻の上部構造が大破していますが奇跡的に船体は無事でした。煙突をなんとかすれば、航海可能です」
「それはいいことなのか?また攻撃目標にされないか?」
「哨戒艇を目標に攻撃をする程ヒマでは無いと考えます」
「確かにそうだな。ありがとう、海軍司令。では空軍はどうか」
「飛行場は全て使用不能。復旧作業をしても飛行可能な機体が10機もありません。任務として取りかかりますが、物資が足りないようです。どの飛行場を復旧させるか協議が必要です。パイロットも戦闘機パイロットは130名が戦死または未帰還」
「わかった。戦力は皆無と言うことでいいな?」
「そうです」
「陸軍は、バイエルライン」
「はい。陸軍は海岸砲台が全滅。防空施設も飛行場周辺のものは壊滅です。あらかじめ海岸砲台は退避済みでしたので人的被害はありません。飛行場防空隊には初日に戦死者が多数出ております。流れ弾でしょうか、飛行場から外れたところに作っておいた隠蔽倉庫がひとつ吹き飛ばされました。物資は9割以上が無事です。あと3年は、節約すれば無補給で生活できます」
「そうか。思ったよりも人的被害は少ないが、それでも多数が戦死した。明日追悼をする。生き延びることはそれから考えよう」
「「「了解」」」
追悼を終え、再び会議だ。
・・・
・・・・・・
・・
「アイゼナッハ中佐。では、全面的な復旧は中止した方が良いというのだな」
「はい。ドメル司令長官」
「調査の結果、資材が足りないのもあるが設備の不足か」
「そうです」
「では、何を優先すべきか。意見はあるか。中佐」
「はい。哨戒艇の修理と小型船用岸壁の整備を優先したいと考えます。後は海中へのスロープです。幸い破壊程度は酷くありませんし、手持ち資材と設備で短期復旧が可能です」
「哨戒艇の修理はわかるが、何故、小型船用とスロープだ」
「はい。漁業です」
「「「漁業???」」」
「はい。補給部隊のヘンケン大佐から説明して貰います」
「ヘンケンです。漁業をしたいのです。備蓄物資には動物性タンパク質が足りません。牧場とも言えない小さい物ですが、ドメル司令長官に命じられた畜産はしております。鶏と牛豚です。今回の攻撃では被害を受けていません。しかし、圧倒的に肉や乳製品が足りません。現在肉はソーセージとベーコンが主です。長期保存が効かない物ばかりです。缶詰も有りますが、最終手段として残さねばなりません。島の野生動物を狩っても良いのですが、すぐに全滅してしまいます。また、長期保存の効く干し肉は定数以上有りますが、干し肉は食べたくないでしょう」
みんな干し肉と聞いてうんざりした顔をする。ガミチス軍の訓練で散々食べさせられるのだ。兵は元より、士官学校学生でも、将官でも。固くてしょっぱい、そして不味い。軍人が非常時でも無ければ食べたくない物に上げるトップだ。
何故かというと、ガミチスでは畜産を振興しており、需要よりも肉が多すぎる時は干し肉にする。長期保存が効くように、味よりも保存性を優先させている。不味いので、民間にはほとんど需要が無い。従って、その始末をさせられるのが軍だった。どこの部隊でも定数以上に干し肉の備蓄はある。
「・そうですな。是非漁業は必要です。我が海軍にお任せあれ」
「・・ああ。ベルトラム海軍司令、良きに計らってくれ。干し肉はみんな嫌だと思う。代わりに魚だ。皆もそれでいいか」
「「「「賛成」」」」
「では、実家で漁業に関わっていた人間を士官・下士官・兵、問わずに集める。いいな」
他には畑の拡大も議案に出て了承されていた。畜産も畑もドメルがこの島に赴任して以来、コツコツと拡大してきた物だ。本人は「畑はいいぞ」と言って、たまに世話をする。特にスイカが好きらしい。ほとんどが補給部隊や工兵隊の管轄だが、迷惑をかけているとは思っていない。
バラン島の戦いは終わり、バラン島の生き残りが余裕を持って始まった。どうしようもなくなれば、島を監視していているだろう日本軍に助けを求めるという楽観的な考えで。
次回更新 2月28日 05:00 予定。
バラン島は今の所無力化されただけですが、ガミチス本国戦の影響でどうなるかは。有力な中継点が無ければ、強引な攻略も有りか。




