空襲
新生連合艦隊動く。
新生連合艦隊が勢揃いしての初仕事は、バラン島破壊戦だった。攻略では無い。
大きいと言っても大洋の中にぽつんと孤立する孤島だ。破壊して補給を切れば、脅威にはなり得ない。
要塞化された大きな島を攻略するのは、無駄に陸上戦力の犠牲を出す。
この方針の下、作戦は開始された。
概要は簡単だ。
新生連合艦隊の実力を持って重要施設を破壊する。
後は、適当に封鎖しておけば良い。多少の補給は可能にしておく。完全に封鎖が可能とも思っていない。完全封鎖する程の戦力を持っていないこともある。
それでも、島から出てディッツ帝国に攻め込んだりするような戦力には出来ない。せいぜい、小規模な潜水艦作戦が限界だろう。それなら護衛艦艇を付けた輸送船団で対応可能だ。多少の犠牲はやむを得ない。
作戦開始は、ベルフィスヘルム奪還後1年半過ぎた頃だった。
「司令。ここ1週間で2隻の潜水艦が消息を絶っています。これは敵の攻勢が始まる前兆でしょう」
「そうだな。俺もそう思うよ。バイエルライン少将」
「少将呼びは止めてください。バイエルラインだけで結構です。ドメル大将閣下」
「お前も閣下とか大将とか呼ぶな。司令でいい」
「それに関して、哨戒網の強化をしたいと空軍司令部で言ってきています」
「許可をしておけ。ただし、無理はするなと」
「了解です。司令」
「海軍は何か言ってきているか」
「特には。先日は「潜水艦での哨戒以外何も出来ないから、草でもむしっているよ」とベルトラム海軍司令が言っておられました」
「そうだろうな。見捨てられし者の集まりだ。ここは」
「司令が酔っ払うからです」
「それを言われると痛いな。事実だけに」
ドメルはガミチスの優秀な治癒魔法と医療体制のおかげで、普通なら寝たきりを余儀なくされる状態から軍務が可能なまで復活していた。動けるようになると総統閣下から呼び出しをくらい
「噂になっているからな。どうして入院したのかの事実が。君が邪魔な人間も多そうだ。ここを追い落とす機会とみているんだろう。離れ小島を君に預けてあるな。そこでしばらくほとぼりを冷ますように。作戦行動は自由だが、人的損害は減らしてくれると有り難い」
そこで、細かい打ち合わせを行い、海軍戦力低下で遠隔地の基地機能維持が難しく、戦線を後退させること。今後バラン島から戦力を引き抜くこと。等を説明され、投降も自由にして良いという言質を取った。
「敵は上陸してくると思いますか」
「君はどうだ」
「しませんね。破壊して補給を断てば、策源地として成り立ちません」
「当然だな。デストラー総統もここの維持は諦められているようだった」
「それで、後退する部隊の補充が無いのですね」
「そうだな。大きな海戦2回での損害が大きくて海軍力に不安があるそうだ。よって、戦線を縮めると言っておられた」
「大ガミチスが負けるのは、確定ですか」
「国土が占領されるようなことは無いが、かなりの痛手を受けるだろう。総統閣下がどこまで継戦するかだな」
「それ程までに敵は強大ですか」
「君も知っているはずだ。ディッツ、ファイオール、日本、3国の距離が離れているとは言え人口で1億人は向こうが多い。技術力は若干向こうが上だ。生産力も向こうが多いだろう。地続きならともかく、お互いに海で隔てられている。海軍が負ければそこで終わりだ」
翌日。バラン島守備隊本部会議室。
東部方面戦線司令部から格下げされている。
・・・・
・・・
・・・・・・・
「ドメル司令長官。我々は抵抗するなと?」
「抵抗はしても良いが人的損害は減らしたい。早い話がそういう事だ。メルケル空軍司令」
「しかし、それでは」
「かまわない。総統閣下からも許しを得ている」
「「「総統閣下から・・・」」」
「我々は、何らかの失態と失敗をしてしまった者の集まりだ。そんな者の周りにいて、ここに配置されるという被害を受けた者が大多数だが。総統閣下も何らかの処分を下さねばならないので憂慮されていた。そこでここが選ばれ、そんな者が配置されている次第だ。本国配置やオーレリア島配置では色々軋轢を生むという理由でだ。そして、人的損害は抑えるようにとも言われた」
「では、白旗でも揚げますか」
「それは気に入らないのだろう?」
「もちろんですな」
「では各軍の作戦は任せることとしよう。陸軍は私だが、空襲が始まれば山に籠もる。その後、艦砲射撃も行われるだろう。どうやっても陸軍の重砲では艦砲射撃には対抗できないからな。既に、各種陣地や交通トンネルは構築済みだ。何、2・3年は立て籠もりが出来る物資も用意してある。建物にはトラップを仕掛けておく。敵が上陸することは無いだろうが、上陸してきたら痛い目に遭って貰うとする」
「空軍ですが、作戦機700機中戦闘機500機です。抵抗してみましょう。若い奴らの中には言うことを聞かない者もいます。白旗を揚げてから敵に突っ込んで行かれたら後がたまりません」
「では、空軍の行動は任せるが、やり過ぎないようにしてくれ。全滅では目も当てられん」
「わかりました。手綱を引いておきます」
「海軍は、何もしません。と言うか出来ません。陸軍の手伝いでも邪魔になるだけでしょう」
「Ⅶ型潜水艦4隻と哨戒艇6隻ではな。一緒に山籠もりだ。物資を運ぶくらいは手伝って貰う」
「もちろんです」
バラン島戦力は、陸軍30万、空軍1200機、海軍は巡洋艦以下艦艇30隻を誇っていたが、現在は陸軍5万、空軍700機、海軍がⅦ型潜水艦4隻哨戒艇6隻まで減っていた。
バラン島は酷い有様だった。煙が上がっている。滑走路は穴だらけだ。
その日、対空レーダーに映った影は小型機200機から300機の集団が3個。推定で40分後に10分程度の時差を持ってバラン島に到着する。
前日から哨戒機が未帰還になっており、敵が居ることは確実だった。
『緊急。緊急。方位120から接近する編隊有り。距離220キロ推定高度2500。時速350キロで接近中。推定機数300機2梯団。さらに200機1梯団有り』
「回せー!」
『ランデル小隊は待機線まで進んで待て。ガイウス中隊は発進を許可』
戦闘機隊は全機発進すべく滑走路に進む。バラン島の飛行場は大小5カ所あるが、全てで同じ光景があるに違いない。
「メルケル司令。爆撃機も出撃準備できております」
「うむ。だが、出さない」
「?何故ですか。敵が来る方向に空母も居ます。索敵攻撃をかけましょう」
「護衛機も無しでか。戦闘機は全部上げた。爆撃機は空中退避だ。いいな」
「悔しいです。では空中退避させます」
「よろしい」
ガミチス戦闘機隊はよく戦ったものの、最初の2集団が全機戦闘機であり、対応している間に戦爆連合200機の集団がバラン島上空に侵入。
戦爆連合の狙いは滑走路だった。彩雲が集団から先行し、滑走路の場所を発見。誘導した。
激しい対空砲火の中、高度3000から水平爆撃を敢行。流星は各機80番1発と25番2発。天山が全機80番。彗星は全機50番だった。彗星も水平爆撃なのは、対空機銃の射程まで降りるなと言う命令があったからだ。
5カ所の内、2カ所に集中した爆撃で滑走路に複数の穴が空き使用不能となった。
奴らが帰っていく。畜生。酷い目に遭わせやがって。地上要員のシュトライト少尉は思った。
滑走路が使えない。戦闘機を降ろせないな。適当な間隔で穴が空いている。一番嫌な空き方だ。
「シュトライト少尉。埋めるぞ。ブルドーザーを出す」
「了解」
シュトライト少尉は部下に、土をダンプトラックで運んでくるように指示した。
滑走路の清掃は穴を埋めた後だな。だが・・
『緊急。緊急。新たな編隊。方位130から接近中。距離220キロ推定高度2500。時速350キロで接近中。推定機数300機と200機の2梯団。ほぼ同時にバラン島上空に侵入』
「何だって?ギブスン大尉、どうしますか」
「どうするって、退避だ。機材は場外の偽装掩体に入れろ。ここに降りてくる奴は居ない」
「了解」
部下に作業中止と退避を指示する。
2次攻撃隊は第一・第二艦隊と一機艦・二機艦・三機艦の合同攻撃隊だった。戦闘機の迎撃が少ないので余裕を持って上空を旋回。残された3カ所の内、大きい方から爆撃した。
前回の空襲を生き延びた戦闘機も、多くが地上で破壊された。5カ所の内2カ所が使用不能となったので、着陸場所が3カ所に集中したためだった。
整備員が頑張ったものの、時間が無いことも有り、再び上空に有り送り出せた機数は多くない。
使用可能な飛行場は1カ所になってしまった、それも一番小さい飛行場だ。そこには生き残った戦闘機と空中退避から帰還した爆撃機がひしめいていた。数十機の要修理機は滑走路はおろか誘導路外へ押し出し、無事な機体だけ残した。それでも収まらないので、無事な機体も押し出している。
だが、本命は翌日やって来た。
次回更新 2月25日 05:00 予定。
島嶼に対する攻撃の本命ですから、翌日はね。
次回「壊滅」




