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増援

移住者護衛艦隊が雷撃を受けましたので

「それで潜水艦乗組員はどうしたのだ」

「さすがに60人を乗せることは危険と見て、第六淀丸が沈みそうに無いので移乗させたと言うことです。自力航行能力が有りませんが、後部発電機が生きていると言うことで、居住区への電力供給が出来ました。捕虜には自活して貰っているそうです」

「百合は現場海域にとどまっているのだな」

「もちろんです」

「ガミチスの潜水艦は、浮いているのだな」

「浮上後、自沈措置をとらなかったようです」

「百合がとらせなかったのか?」

「いえ、通信による報告だと何も強制はしなかったと」

「自沈するのを忘れる程、苦しかったのか」

「どうでしょうか。沈む船に巻き込まれるのを恐れたのかも知れません。それに潜水艦乗りの苦しさは、体験しないとわかりませんから」

「参謀長。君、1回潜水艦勤務してみるかい」

「遠慮したいですな」


 会話がされているのは、移住者護衛艦隊司令部の司令長官執務室。移住者護衛艦隊司令長官山下大将と参謀長の広田少将だ。山下大将は移住者担当大臣兼任だったが、大臣は別の者が任命されたので艦隊専従となった。山下の片腕的存在だった紫原は大佐になりディッツ帝国駐在の任を解かれ、ようやく潮気を受けるようになっている。


 考えるまでも無く重要なのは、雷撃被害を受けたと言うことと、敵潜水艦しかも新型らしいを拿捕できたことだ。百合艦長は良くやってくれたし、護衛部隊司令官の手際も良かった。


「俺の最後の仕事が、移住者護衛艦隊を戦場に投入することとはな」

「退役を伸ばされないのですか」

「後進は育っている。老兵は退しりぞくよ」

「私と2期しか違いませんが」

「そうだな。だが、田舎でのんびりするさ。もうこの椅子をケツで磨くのも終わりだ」

「決意が固いのなら、もう申しません」


 だが、山下が退役の意向を伝えるために海軍省に行くと海軍大臣から話があると待たされた。


「山下大将。退役などと言わないで欲しい。この非常時だ。認められんよ。予備役さえも枯渇している。逃がさん」


 甘かったか。山下は思った。あの顔は(貴様。俺より5期下だろう。俺より早く現場を離れるなど許さん)と言う顔だな。俺は政治家じゃ無いんだが。少し前までは政治家も兼ねていたか。仲間扱いなのか。等と、とりとめも無いことを考えて現実逃避をした。



 山下移住者護衛艦隊司令長官は、退役を蹴られた翌日、南紀白浜にいた。

 移住者護衛艦隊戦場投入の可否を管理者に問うためだ。


「やあ、久しぶり」

「お久しぶりです。管理者殿」

「まあ、そう硬い態度で無くて良いよ。管理者さんでいい」

「はあ‥」

「それで要件は、なんだい」

「実は、移住者護衛艦隊が護衛する移住者乗船輸送船が雷撃を受けました」

「ほう!」

「それで・「言いたいことはわかった。戦場への投入だね」・はあ」

「実害はあったのかな」

「移住者に若干名の負傷者がありました。輸送船乗組員は5名が死亡。数名が負傷しましたが、移住者共々治癒済みです」

「そうか。実害が出たか。死者にはお悔やみを」

「ありがとうございます」

「実害が出たのでは約束したとおりに戦場への投入を認めたいが、確認したいことがある」

「どのようなことでしょうか」

「場所だ。わざと航路を変更したようなことは?」

「東へ遠く離れています。戦争が始まってからは、通常航路よりも500キロは東へ航路をとっています」

「今回はその東の航路でかい?」

「はい」

「そうだな。移住者の護衛をないがしろにしないのであれば、許可する」

「ないがしろと言われましても」

「それもそうか。君らの所で護衛艦という小さい奴を作っているだろう」

「有りますね」

「そう。それで移住者輸送船護衛にすることと、途中の休憩地点の警備を万全にすること。もちろんそこからカラン港までもだ」

「了解しました。護衛艦の数にはなにかご意見がお有りでしょうか」

「今の数から減らなければ、船が小さくなっても問題は無い」

「現状、移住者輸送船8隻に駆逐艦4隻と軽巡洋艦1隻なので、護衛艦4隻と大型駆逐艦1隻でも?」

「それならいいよ」

「戦艦と正規空母は全て戦場に投入します。小型の護衛空母は一定数、移住者護衛に残します」

「割り振りは好きにしていい。移住者輸送船が裸にならないことが重要だ」

「意向の程、承りました。そのように編成をし直します」

「うん。だからもっと気楽にね」

「そう言われましても」

「前はもっと気楽だったよね」

「階級が上になるとそうもいかんのです」

「まあ、そうだね。わかるよ」


 遠い目をする管理者。


「実感がこもっていますね」

「コレでもいろいろ有るんだよね」

「苦労されたのですね」

「だから温泉でのんびりするのさ」

「私も早くそう言う身分になりたいです」

「この前は退役するとか言っていなかったか」

「戦争が終わるまではダメでしょう。早く終わらせるよう努力します」

「努力の元が違うような気もするが、戦争が早く終わるのはいいことだ。頑張り賜へ」

「ありがとうございます。では、これにて失礼します」

「元気でね」

「はい」




「参謀長。先日の船団はどう言う編成だったか」

「司令長官。いつもの編成では無く、本土向け貨物船も含めた臨時編成だったのはご存じですよね」

「もちろんだ。隻数がな。細かい編成までは覚えていない」

「そうですな。いつもの移住者輸送船が8隻。本土向け貨物船が17隻。護衛戦隊の軽巡1隻と松級駆逐艦4隻です。空母は手配が出来ませんでした」

「そうか。管理者と話してきた。護衛をしっかりやれば戦場への投入は問題無いそうだ」

「それでは、戦場に出せるのが大型艦ばかりになってしまいます」

「駆逐艦は護衛艦でいい。軽巡の代わりに夕雲級駆逐艦をてる。それも話してきた」

「夕雲の奴らが文句言いそうですな」

「交代で前線に送るようにしよう」

「それがいいでしょう」

「では、参謀達に新しい編成を考えさせてくれ。戦艦と正規空母は全艦出してもいいが、重巡と軽巡は各1個戦隊残すように。護衛空母は、そうだな。8隻残して出してしまっていい。俺は、海軍省と軍令部に行く」

「連合艦隊は?」

「後だな。どうせ戦艦と空母をクレクレ言うだけだろう」

「言いそうですな」



 移住者護衛艦隊から大量の艦艇が戦線に参加することになった海軍は驚喜した。



次回更新 2月10日 05:00 予定。


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