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雷撃

雷撃します。

 V-1115は静かに忍び寄る。敵の対潜能力が高いのは司令部からレポートが回ってきている。

 位置はヘパストイ島東北東1500キロで、基地哨戒機の哨戒範囲から外れている。V-1115の進出予定海面からも大きく東へ外れていた。結果を出そうと進出しすぎたのだった。


「聴音、どうか」

「2時方向、2万メートルに大船団です」

「大船団だと!普通に大きな船団というのもおかしいが、それ以上だとでも」

「私の耳では、スクリュー音が多すぎて判別がつきません」

「副長。このまま撃っても当たりそうだと思わないか」

「本艦の魚雷は最大射程8000ですよ」

「時速55キロでだろ」

「大船団相手なら、どれかに当たるのでは」

「それはそうだが。70キロなら命中率も上がるだろ。避けることが出来るとも思えん」

「3000まで近づいて撃つんですよ。あまりお近づきにはなりたくないですな」

「8000です。先頭は正面付近」

「6000で撃とう。雷速55キロ、射角3度、調定深度3メートル。当初の設定で撃つ」

「了解。水雷長。設定変更なし」

『発射管室了解』

「7000」

「ESMアンテナ上げ。潜望鏡上げ」


 見渡す限りの船団だ。あ!煙だと。


「レーダー波探知」

「アンテナ下げ。針路このまま。副長、1番発射、2番発射、3番発射、4番発射」


 副長が復唱しながら魚雷発射ボタンを押している。


「潜望鏡下げ。電池直列。電動機前進全速。メインタンク注水。ダウントリム3度。深度80まで潜るぞ」


「深度70」

「モーター停止。メインタンク注水止め。トリム戻せ。静かに」

「見つからないといいですね」

「狙う時間が無かった。船が多いから1本くらいは命中してくれるといいが」

「そんなに多かったのですか」


 副長は、そう言いながらトリム微調整の指示を出している。




『電探室。10時方向7000に反応あり。潜望鏡の模様』


 突然の報告に艦長が一瞬戸惑うが。


「潜水艦警報、急げ。煙幕展開。取り舵」

「総員戦闘配置。対潜戦闘用意」


 警戒配置だった百合艦内が忙しなくなる。俺が新米の頃は、潜水艦警報を知らせるには煙突から黒い煙を出したのに。最近の重油は煤煙が少なくて、代わりに煙幕だ。


「艦長。船団司令より。『潜望鏡は枯れ尾花なりや』」

「本物だ。と言っとけ」


 艦の反応は早かった。すぐに向きを変え推定位置に向かい始める。

『煙幕展開中』

『潜望鏡、反応消えました』

『対潜迫撃砲用意良し』

『爆雷用意良し』


 次々と報告が入る。以前よりは早くなっているな。


『艦橋。水測。スクリュー音モーター音共に無し。停止中の模様。ピン打ちますか』

「良し、打て」

『反応無し』

「よし、少し待て」

『了解』


「左舷11時雷跡!」


 魚雷だと。


「信号手。信号弾、魚雷だ。急げ」

「赤赤、打ちます」

「雷跡3、もとい4本。本艦前方を抜けます」

「通信!」

「隊内電話で送信しています」

「取り舵」


 さらに取り舵で潜水艦推定位置に向かう。あの魚雷には本艦は間に合わない。外れてくれることを祈るのみだ。


「前進原速」

「前進原速」

「聴音どうか」

『聞こえません』

「水測、ピンだ」

『了解。ピン打ちます』


『反応あり。正面。距離1500。深度深い』

「良くやった。深度はわからんか」

『まだ精度がそこまでありません』

「わかった。5分おきにピンを打て」

『5分おきにピンを打ちます』


「船団に水柱。避雷した模様」


 クソ!


「艦長。船団司令から隊内電話です」

「取る」

「どうぞ」

『百合艦長か』

「百合艦長。藤木少佐です」

『藤木少佐。百合はそこで敵潜の頭を押さえているように。やられたのは第六淀丸だ。機械室に避雷して航行不能になった。救援の船以外、船団は速力を上げる』

「了解です。相手が根を上げるまでですか」

『当然だな。通達は知っていると思うが、無理をするな』

「ご期待に添って見せます」

『よろしい。船団速力を12時間の間22ノットまで上げる。追いつくように』

「百合艦長、了解しました」

『健闘を祈る』


 電話は切れた。


「通信。第六淀丸の詳しい状況と、救援船の状況を確認」

「了解」

「水測。ピン打ちは中止。敵の上に居座る」

『水測了解しました』

「機関長。前進最微速以下にする。出来るだけ回転を落としてくれ」

『機関室了解。2ノット程度でどうでしょうか』

「それでいい。蒸気も少し下げて騒音を減らしてくれ」

『機関室了解しました』


 第六淀丸は機械室に被雷。機械室が浸水してしまい航行不能になった。だた沈没はしないと言うことだ。貨物区画には移住者用船室ブロックがあり、コイツが浮子うきになるそうだ。場所的に曳航は諦め、乗船している移住者300名を救援の軽巡高瀬に一時的に収容。収容後、ただちに護衛の駆逐艦薔薇と共に船団を追うという。百合は頑張れと。なお、第六淀丸は放棄。機会があれば回収するそうだ。



「艦長。艦内温度38度です」

「暑いな。しかしまだ奴らは上にいるのだろう」

「おそらく。スクリュー音はしませんが、時々わずかに機械音が聞こえるそうです。相当低速で動いています」

「息苦しいな」

「二酸化炭素吸収剤の残量も少ないですし、使えばさらに熱がこもります」

「気圧も高いな。空気放出したせいだが」

「不調を訴える者が多数います。軍医殿も「二酸化炭素濃度が高く、これ以上は危険だ」と」

「空気はまだ有るか」

「空気放出すると気圧が」

「すまん。ブローする分だ」

「かなりの回数出来ます」


「良し」


 V-1115艦長、ギュンター少佐はマイクを持った。


「全艦。潜り始めて45時間経つ。すでに艦内環境は危険レベルに有る。浮上する。敵が居なければいいが、おそらく居るだろう。降伏をする」


 艦内がざわついた。生き残ることが出来るという希望と捕虜になる不安だ。


「副長、水雷長。機密書類と暗号書を捨てる。浮上のどさくさに紛れておもりを付けて発射管から射出する。水雷長は指揮を執れ」

「了解」


「艦長、投棄備品射出準備良し」

「了解した。メインタンク、ブロー。モーター前進原速。アップトリム3度。浮上する」


 浮上という言葉に艦内から歓声が沸く。



『艦橋、水測。ブロー音が聞こえます。モーター音もします。浮上するようです』

「艦長だ。わかった。引き続き監視を」

『水測了解』

「艦長、敵は根を上げましたね。攻撃してくるでしょか」

「先任、それはわからんな。ここでうろうろする時間が終わる事は確かだ」

「確かに」

「機関室。艦長だ。蒸気を上げてくれ、最大戦速発揮が有るかもしれん」

『機関室了解』

「機関、前進原速」「総員戦闘配置」「爆雷戦用意」

「水測。浮上場所はわかるか」

『艦長。水測。本艦左舷1000から2000と思われます』

「取り舵5度。太陽を背にする」


「左舷に気泡」

『左舷に浮上します』

「見張り、よく見ろ。雷撃が有るかもしれん」

「了解」

「10時、潜望鏡。距離2000。浮上止まりません。艦橋出ます」

「ああ、見えている」



「深度20」

「水雷長」

「発射管に詰めました。射出準備完了」

「浮上の騒音に紛れて射出する。任せた」

「了解」

「潜望鏡深度。まもなく艦橋深度」

「艦橋に上がる。副長任せる」

「ご無事を」

「ようやく綺麗な空気だ」

「そうではなくて、いきなりハッチを開けると気圧で放り出されますよ」

「そうか。慎重に行く」

「信号員は白旗を持って続け」


 慎重にハッチを開けるが、少し隙間が出来ただけで、凄い勢いで空気が抜けていく。耳がおかしい。下では艦内気圧減少と言っているらしいが良く聞こえん。確かにいつものようにハッチを開けたら放り出されていたな。「射出」と言う声も聞こえる。

 空気の抜ける勢いが弱くなった。船体浮上という声も聞こえた。


「出る」


 ハッチを開け放す。したたる海水もいとおしい。空気が美味い。


「艦内換気始め」


 副長の声が聞こえる。艦内で歓声が上がった。



次回更新 2月5日 05:00 予定。


遂に雷撃をしてしまいました。移住者護衛艦隊相手に。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 最終章スタート! [気になる点] あれ、司令塔に敵弾直撃!ごーん!!の海戦はどこいったのでしょう?ライオンが居なくなったから省略ですか?もったいない気が。。 [一言] 新品の海軍を丸々投入…
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