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戦中閑あり

最終章です。

 ガミチス帝国がディッツ帝国から撤退を決めたのには、北での海戦も大きく影響していた。

 ガミチス帝国とファイウォール公国の間に存在するソレイル諸島で、海戦が行われた。

 引き分けと言ってもいい結果だったが、ディッツ帝国を巡る戦闘での損害を含めれば、稼働海軍戦力が半分以下になってしまったガミチス帝国。

 守勢に回らざるを得ないことを認識してしまった。海軍戦力の大幅な強化が必要だったが、海軍の艦艇も人員も陸軍のように短期間でそれを得られるものでは無い。海軍戦力が増強される2年後まで戦線を拡大せず、現状維持を図ることとなった。結果がディッツ帝国から撤退で、最前線を北はソレイル諸島、東はバラン島とするのだった。



 対する3国同盟であるが、同様に戦力を消耗している。ディッツ帝国は陸軍戦力と空軍戦力を。日本とファイオール公国は海軍力を。特に日本は自国が関与する広すぎる海域に辟易している。どうやっても戦力の集中が出来ないのだった。ディッツ帝国とファイオール公国との共同作戦で損失が出ている。そして全体の戦力も減った。当然、地域ごとに投入できる戦力は大きく減少している。ファイオール公国は少ない海軍力が壊滅的な損害を被り、再建に時間が掛かるという。3国同盟の中で人口が一番少なく、戦力の維持向上には不安がある。




 ここに、戦中閑あり状態が出現した。当事国全てが戦力の再編に掛かる事態だ。例外的に忙しいのは潜水艦と対潜部隊だった。

 そうは言っても広すぎる海に少ない潜水艦と対潜部隊。遭遇自体が希だった。




 ガミチス帝国は、軍備の優先順位を空海陸とした。

 航空機の性能が日本に負けているのがディッツ帝国から撤退した主原因だと考えられている。ファイオール公国も同等以上である可能性があった。

 海軍は戦力その物が減ってしまった。オマケに訓練された人員も減った。造船所で二十四時間態勢で稼働可能な事業所は全て二十四時間態勢に移った。海軍士官学校はもとより、海軍関係の養成所は全て数を増やし人員の確保に躍起になった。それでも卒業後2年無ければ一人前にはならない。今は一人前手前でいいから員数が欲しい。

 陸軍は数が同じなら対等以上に戦えるので、空と海にリソースをかれてしまった。それでも全体としては減らない程度には確保を続けている。戦車が優位なのでさらに強力な戦車の開発をしている。




 ファイオール公国は海軍力整備は必要だが大型艦の建造に時間が掛かるとして、自国防衛力増強に力を振った。8000トン以下の巡洋艦と駆逐艦と小型対潜艦艇を海軍力整備の中心に置いた。後はひたすら航空機の開発と生産が主体となった。ジェットエンジンが遠心式、軸流式、共に試験運転を過ぎ実機への搭載段階に至っていた。




 ディッツ帝国は、艦艇整備、航空機開発、陸軍強化。全てをやると息巻いている。国土を蹂躙されたツケを払って貰う気でいる。蹂躙された国土は蹂躙した物だろうに、と言う一部の声は聞かない。




 日本は、ディッツ帝国が陸軍強化をするというので、陸上戦闘は任せる気でいる。ファイオール公国が海軍力整備を沿岸防衛主体にしたことで、日本海軍に掛かる負担が増えている。海軍主体の増強になった。


 3国で共通するのは、ガミチス帝国は危険であるという思いだ。かの国が危険な存在な限り上手くやれるだろう。だから、軍はともかく政治家達は、程々の所で講和。厄介な存在でいさせる気かも知れない。

 その結果、当然のように海軍力は日本中心。陸上戦力はディッツ帝国中心。航空戦力は、数の主力はディッツ帝国。次いで日本。支援程度にファイオール公国。となった。

 ファイオール公国は人口的にも大戦力は出せない。日本も海軍と陸軍の両立は出来ない。本土が攻め込まれたのがディッツ帝国であり、やる気なので陸上戦闘は任せる気でいる。陸上戦闘については、日本もファイオール公国も戦訓回収程度の部隊を送るだけだろう。


 3国で話し合った結果、海上戦闘は日本が主導権を持つ。日本6、ディッツ帝国2、ファイオール公国2、の割合で戦力分担を図るとした。

 陸上戦闘はディッツ帝国中心。ディッツ帝国8、日本1、ファイオール公国1。

 航空戦力は各国出し合う。と言う結果になった。

 各国とも得意分野が有り他国との競争上優位でいたいが、戦争中のみ協調を図る事も決められた。





 大きな戦闘もなくガミチス撤退後1年が過ぎた。各国とも急速に拡大する戦力。そして急速と言うことは、練度不足や統制の不徹底による命令遵守意識の低下も招く。



「艦長。3時方向にスクリュー音。船団規模です」

「聴音、距離わかるか」

「かすかですので、3万以上くらいとしか」

「方向は」

「本艦前方を横切る模様」

「副長。どうする」

「艦長はやりたいのでしょう」

「1年半で10回出撃して、何も無かった。海と空しか見ていない。ここらで戦果を挙げたい」

「電池は80%。空気も90%です」

「よし。やる。前進速度そのまま。近づくぞ」

「全艦、戦闘配置」


 ガミチス帝国海軍の新型潜水艦ⅩⅥ型の長距離偵察型であるⅩⅥ型LR。V-1115は静かに接近していく。

「攻撃するな。偵察結果を持ち帰れ。それが戦果だ」と言う司令部の指示を忘れて。




ガミチス海軍潜水艦ⅩⅥ型LR

水上排水量  1550トン

水中排水量  2200トン

水上速力   時速25キロ

水中速力   時速18キロ 4時間可能(電池100%充電時、カタログ上)

       時速10キロ 12時間可能(同上) 

航続距離   水上18000キロ

       水中 時速6キロで170キロ

安全潜行深度 100メートル  限界深度200メートル

発射管    4本  搭載魚雷 12本


Ⅶ型の運用成績は良好で有ったが、広すぎるランエールの海にはもっと航続距離の長い艦が必要になっていた。そこで一気に倍近い艦型とすることで、対応しようとした。それがⅩⅥ型(16型)であった。

通常型は発射管6本(前4、後2)だが、後部の2本を装備せず予備魚雷も減らすことで、より長距離に耐えさせる艦がLRだった。

無理な設計はしておらず、Ⅶ型同様運用成績は良好だった。LR型はⅦ型同様、乗組員からは敬遠され気味だ。

次回更新 1月30日 05:00。予定

寒さで脳みそも縮まっているような気がしないでもない、今日この頃。

雪の降らない所の奴が何言ってるんだ。甘えんじゃねえ。と言うご意見はごもっともでございます。



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