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撤退

短いです。

「ハイネマン司令長官。予定通り4個師団収容完了しました。重装備は予定通り残します」

「うむ」

「惜しいですね。せっかく、ここまで持ってきたのに」

「うむ」

「現在時間、10:00。出港開始します。13:00までに全船出港。本日中に船団をまとめ上げ、護衛を伴い撤退します」

「うむ。・ん? 君、ドライゼ参謀長。撤退ではない。転進と言ってくれ。と、最高司令部では言っている」

「失礼しました。本国に向けて転進します」

「よろしい。出港始め」


「通信参謀。発光信号と有線電話で出港始めだ」

「了解しました。発光信号と有線電話で出港指示出します」







フェザーン油田奪還後の戦線は徐々に押し出す形でディッツ帝国が圧力を掛けていた。

 ベルフィスヘルムへの海上輸送に圧力を掛けようとすると、バラン島の戦力が邪魔になる。バラン島を攻撃できるだけの海軍力は日本が中心になるが、前回の海戦で消耗した分の回復中であって足りない。

 また、奪還戦で消費した物資人材の回復もしなければならない。

 陸戦でジワジワ進むしかなかった。


 ガミチス軍は潤沢に使用できた燃料が補給に頼ることになり、節約ムードになっているらしい。らしいと言うのは、迎撃機がすぐに追撃を止めることからの推測だ。

 前線での威力偵察では激しい抵抗を受ける。弾薬は豊富なようだ。


 ガミチスをベルフィスヘルム近くまで押し込んだのは、もう冬になろうかという時期だった。








 ガミチスが押し出されるのは、フェザーン油田を奪還された時に決まったようなものだった。

 遠すぎる補給地と、戦場の規模に比べると細い補給線。なにより豊富な物量を用意できる側が勝つのは、いつの時代も当然だった。


「通船に当てるなよ」  「舫い解け」  「右へ流れます」  「タグボートは何やってる」  「流されている。ブイに当たるぞ。取り舵」  「まだ速度上がりません」  「クソ、左舷機後進原速。急げ」  「起ち錨」  「本船は20分後の出港指示です」  「巻き上げ開始」  「有線電話のケーブルが切断できない?かまわない。そのまま前進で引きちぎる。もう用は無いからな」


 ベルフィスヘルム港は混乱していた。護衛艦隊は整然としているが、輸送船団が問題だった。普段一斉に出港することなどない民間船が半数以上を占める。それが作戦都合上、一斉出港だ。

 最後まで残る部隊を残し、最後の4個師団が乗り込んだ船団は出港していく。


 元は、デストラー総統の撤退許可が有った影響だ。

 本国では、軍の統括態勢を一新。デストラー総統直下にガミチス最高司令部を構築。従来の連絡会議的な統合参謀本部から3軍の最高意思決定機関として再出発している。

 その最初の仕事が、押され気味の東大陸戦線からの撤退作戦だった。ガミチスといえど無限に兵力が湧き出る訳もなく、東大陸の数十万人は大事だった。見捨てた形になれば、国内政治の観点からもよろしくない。

 問題は、ディッツ帝国と日本の偵察をどう誤魔化すかだった。

 連山特別仕様機による高高度偵察は迎撃困難であり、最近では時速700キロ以上を平気で発揮するようになった新型覗きカラスの迎撃も厄介だった。

 潜水艦の偵察も確認されており、航路の欺瞞やバラスト調整による船腹量の欺瞞などの対策が取られた。

 前線の威力偵察に対しては過激な応答で答え、まだやる気はあると言うことを見せつけた。

 撤退するのは人員のみ。テントや重砲・戦車などの重装備は残しておく事で、攻勢の準備に見せかける対策も行った。小銃も廃棄ついでに置いて行く。自動小銃の実用化に成功し、従来のボルトアクション小銃は廃棄されることになったからだ。

 撤退は本土へ直接とバラン島にと分けられた。バラン島は要塞化しているので防衛拠点としても反抗時の拠点としても大事だった。


 それでも、最後まで残される者もいる。置き去りにするのは、戦争終了まで捕虜を覚悟した者達と囚人兵だった。前者は、捕虜解放後の特進や年金増額など特別待遇を持ちかけられて了承した、あるいはさせられた者達だ。後者は、重犯罪者を除く服役中の囚人から選抜された者達だった。癖が悪い連中が多い。厄介払いと相手に負担を掛けようとしてだ。一応、刑期の短縮を持ちかけた形にしてある。本土から護送するのも手間だっただろう。重犯罪者を混ぜなかったのは、当地で反乱を起こされても困るからだ。

 攻めてきたら「降伏して良し」と指示はしてある。戦意など無いだろうから、すぐに降伏するだろう。

 囚人兵は、とにかく相手に負担を強いる事を目的とした嫌がらせである。







「やられました」

「何をかな」


 ディッツ帝国皇帝執務室である。言ったのはメルカッツ。問い質したのは皇帝陛下。

 白髪も増え、そろそろ引退を考えるメルカッツだが、皇帝陛下が許してくれそうもなかった。


「捕虜の3割が囚人でした。奴等、こちらに押しつけたようです。ご丁寧に罪状まで書類にしてありました」

「置き土産か」

「誠に腹立たしいことをされました」

「人数は多いな。報告書だと3割で5000人か」

「はい。刑期の短縮と引き換えに兵として寄越されたようです」

「そうか。では、刑に服して貰おうか」

「こちらでですか」

「移住者用の施設に空きがあるだろう。新しい施設を造るのも面倒だ。今までの捕虜と合わせて、普通の捕虜はそこに押し込んでおけ。囚人兵は、今までの捕虜収容所に収容せよ。こちらの法に照らし合わせて同等の扱いで良い。脱走は許さないよう特に厳重にな」

「よろしいのですか」

「捕虜は捕虜だ。戦後の事を見据えると恥ずかしい真似は出来ないだろう?違うかな」

「誠にもって、そのとおりにございます」

「ではメルカッツが担当を決めて、後は放り出しておけば良い。言い方が悪いか。任せてしまえ。疲れているのだろう」

「有り難く。では人選をして参りますので、しばしお時間を」

「うむ。今日はもう帰って良いぞ」

「ありがとうございます」 



次回更新 1月25日 05:00 予定

さっぱり進みません。最後は決めてあるのですが、持って行き方が迷っています。

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