勇者快勝・・
魔王軍幹部自称魔王二四将ベイルードと、我らが勇者トム君との戦いは始まった。魔王軍の部隊はギルガメス王国連邦の部隊とやり合っている。
ベイルードが大剣、トム君が両手剣だ。リーチはベイルードの方が長い。ベイルードはやたらに振り回してくるが、曲がりなりにもトム君は志願兵。それなりに剣術は訓練されている。さらに勇者判明後の特訓で腕前は少し上がっていた。
丁々発止と言いたいところだが、ろくな技術も無いベイルードと多少訓練されただけのトム君。馬力はベイルードが上でも技術が無いから、剣を振り回しているだけだ。トム君も辛うじて捌いているだけ。泥試合である。
先程から呪文を唱えて魔法をいつでも発動できるように待機している歌姫だが、ふたりの剣撃が止まらないので発動できない。発動体の杖を持って、うろうろしているだけだ。杖はギルガメス王国連邦の国宝級という話だ。国の上層部に歌姫のファンがいたらしい。
村娘エアは武器のメイスを持って、やはりうろうろしている。メイスはボラールの小骨にタングステン合金の頭を付けている。現代合金技術とドワーフ技術の合作だ。ドワーフ技術で仕掛けがある秘密兵器だ。
エアは弓や剣よりも、棒術や槍術が得意だった。カラン村でも、メイスや棍棒と槍が主武器だった。乱戦でも振り回せるようにとメイスを使うことにしたようだ。
ちなみにトム君の剣は、普通のちょっと良い奴だ。まだ上等な武器を使うことの出来る腕前では無いという軍の判断だった。
「この野郎!避けるな!」
「避けるわ。ボケ!」
そろそろ疲れが見えるトム君。それを見て大振りに振り上げたベイルード。
「ウウォー!!」 気合い一閃でベイルードが振り下ろした。
「ひいぃ‥」 よろけながらも辛うじて逃げたトム君。
ズガ! ベイルードの剣が地面にめり込んだ。えらい力だ。トム君よく捌いていた。トム君は尻餅をついたままいざるように後ろへ下がる。
呪文を唱えて発動するだけだった魔法を、歌姫が発動した。
「アイシクル・ジャベリン!」
何本かの氷の槍がベイルードに向かった。
グサ 避けたが1本が右腕に、1本が顔を掠め怯んだ。怯んだベイルードにエアが突っ込んだ。
「こんのー!!!」
うら若き乙女が上げて良い気合いでは無い。ベイルードが避けるが、右肩にメイスがめり込んだ。魔力を込めているのかうっすらと光っている。
ゴギ
「グギャー!」
悲鳴を上げて動きが止まるベイルード。
「アイシクル・ジャベリン!」
追加が来た。グサ グサ
「ガアアアァァ……」
「でぇりゃあー!」
ゴギ グギ メイスでボコボコにするエア。
崩れ落ちるベイルードに助ける為は近寄ろうとする、残りの魔将ふたり。歌姫の護衛と数人残っていた軍人が割り込む。だが、伝承通り分が悪いようだ。吹き飛ばされる護衛と騎士。ようやく起き上がり、対抗しようとするトム君。
「分が悪い。撃ち方始め」
鈴出満大尉が命令する。
ダーン。銃声が何発も響く。
「痛い痛い」「グッグッ」
10ミリ小銃弾の至近射撃でもこの程度だった。弾かれている。
(彼奴らオークより硬い)
「分隊撃ち方止め。総員、近接戦闘」
鈴出満大尉が命令する。自分も当然ポールアックスで突撃する。このポールアックスも鍛え上げられた金属とボラールの骨で出来た逸品だ。ちなみに大尉が5級相当、分隊員は3級から4級程度だ。全員がドワーフ謹製の武具を使う。
十名の分隊員はツーマンセルで攻撃に加わる。大尉はひとりだ。
やはり勇者では無いので、分が悪い。押されまくる。ただドワーフ謹製の武具のおかげか、騎士のように圧倒はされていない。
そこへ、ベイルードを倒したのか勇者が加わった。
「勇者が加わったところで、我らの勝ちは動かんぞ」
「ベイルードを倒していい気になっているようだが、所詮、奴は二四将最弱の将。勝てるなどと思わないことだ」
確かに苦戦をする。吹き飛ばされた護衛や騎士の中で攻撃に加われる者は加わっている。だが、賑やかしでしかない。
「鈴津少佐。対戦車銃だ。10ミリ小銃が効いていない。13ミリ狙撃銃では弱そうだ」
「了解です。大佐。どちらを先に狙いますか」
「口が軽い奴は残しておこう。いろいろ囀ってくれる」
「了解」「九郎燃香曹長。対戦車銃で狙撃する」
「ヤー。少佐」
「鈴津。始末できなかったら俺が出るからな」
ゲッ!そんな事態になったら、後で自慢されつつグチグチ小言を言われ、訓練と言って東鳥島の最前線に放り込まれる。勘弁して欲しい。気合いを入れる。
九郎燃香は大柄な曹長だった。強化してからは対戦車銃を平気で振り回すどころか腰だめで撃つ。冷静で強い。頼りになる軍人だ。本人は名字を書くのが面倒と言っている。クローネンカーンで良かったのにと、祖父の行いを時々愚痴る。
「少佐。撃ちます」
「頭を狙うなよ。勇者様に耐性は無いだろう」
「普通の兵隊でも、腰抜かしますからね」
ふたりは、20ミリ対戦車銃が通用すると思っている。
丁々発止でやり合っているが、勇者の経験不足と実力不足はいかんともしがたく、圧倒的に不利だった。援護している人間はせいぜい「痛い」とか言わせるくらいの攻撃力しか無い。
魔王と取り巻きには勇者しか通用しないというのは、あながち嘘ではなかった。
だが、近代火力はどうだろう。
ドーン
横から撃たれた二四将が、ひとり吹き飛んだ。
「カロウ!」
残りの魔将が驚いて名前を呼ぶ。そして、でかい音がした方を見る。
「おまえらか。勇者より攻撃力があるとはな。先に殺す。死ね」
魔将が襲いかかってきた。
ドーン
魔将に命中した。だが、腹で受け止めた。かなり苦しそうだが。
「グオオォ‥」
すぐに立ち直り、走り込んでくる。拙いことに射線上に援護勢が位置してしまい撃てない。
「九郎燃香。近接戦闘」
「ヤー」
鈴津少佐は日本刀。九郎燃香曹長はハルバード。いずれもドワーフ謹製だ。
魔将の後ろでは、吹き飛ばされた魔将を勇者が三人がかりでチクチク攻撃している。生きていたらしい。
鈴津少佐と九郎燃香曹長は苦労していた。魔将の抵抗が激しいのだ。鈴津少佐が牽制をして九郎燃香曹長がハルバードを叩き付ける。魔力を通したハルバードは魔将に傷を付けている。浅い傷だが、通用しないことは無い。
これなら時間を掛ければ、討ち取れる。そう思ったが、こちらの体力気力が続きそうにも無い。
コソッ
「わぁぁーーーー」 こっそり近寄ったトム君が、後ろから剣を突き刺した。
「ガアァァ。きさまぁ~」
「アイシクル・ジャベリン!」
グサグサ
「ギャー」
「ふん!!」
ゴギ
「グ…」
エアの一撃が頭部に決まり、魔将は崩れ落ちた。頭蓋骨が潰れているが、東鳥島や山東半島では上位種が脳みそこぼしながら生きていた。油断は出来ない。ハルバードで突っついている。
動かない。屍のようだ。
勝ちに貴賤無し。




