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勇者始動

 本隊より西の戦場でも小さいとは言え敵の抵抗は有る。それを排除しつつ、本隊と歩調を合わせるように進軍する。


「ひま」

「ひまなのは良いことだぞ」


 勇者と勇者チーム員の会話だ。何度目なのか。それ程に勇者は過保護にされている。魔王と戦うともなれば対人戦になる。その対人戦をわずかな訓練しかしていない勇者さまご一行は、軍勢相手の戦場では足手まといでしかなかった。

 そんな彼らに仕事が発生した。最前線で魔王軍幹部を名乗る人間達が現れたのだった。


 

「ヌルい、ヌルい。その程度か。ギルガメス王国連邦の騎士は」


 そう叫びながら、騎士団を相手にもしない。騎士団は冒険者で言えば4級から5級相当の実力の持ち主が揃っている。6級相当もいる。一般兵の多い軍勢や盗賊などの対人戦なら、部類の強さを発揮できるだろう。

 奴等は冒険者でいえば、7級相当の強さだろう。


「拙いですね。騎士団はああいう相手を苦手としている」

「騎士団は対人戦の専門家なのでは?」

「こちらにいる騎士団は、ダンジョンが近くにある領地の騎士団が多くて渾沌獣相手が主な仕事でな。まともな対人戦が出来るのは王国連邦の騎士だけだろう」

「技術的に違いますからな。では相手が出来るのは王国連邦の騎士ですか。20人くらいですか」

「そのくらいだったな。冒険者に依頼をするか」

「日本軍がやってみましょうか」

「いや、あの程度を相手に出来ないと、ここから先は行けない。こちらでやる」

「お任せします」


 ジェフリー子爵とシェーンコップ大佐は話し合った。



鈴出満リンデマン大尉。強化歩兵で冒険者を援護だ。劣勢になるまで撃つなよ」

「大佐。1個分隊お借りします」

「任せる」


「エア。どうする。出るか」

「魔王軍幹部なんだよね」

「そう言っているし、結構強いみたいだ」

「向こうの人は行くのでしょう」

「行くな」

「じゃあ、行く。行かない訳にはいかない」

「そうか。向こうと打ち合わせしてくる」


 上村中佐はそう言って、ギルガメス王国連邦側と話し合いに行く。



 魔王軍幹部を名乗る人間は、魔族だった。赤く光る目が魔王化の影響下に有ることを物語る。

 記録によると、目が光るようになった魔族は最後まで戦い続けるので、殺すしか無いらしい。ただ、下っ端は目の光が消えれば、元に戻るらしい。これは、なんとなく従ってしまったのか、積極的に従った結果かの差らしい。

 自分で幹部の名乗るのだから、積極的なんだろうな。

 この戦いでも、積極的に戦った連中は殺さないと抵抗を止めないが、捕らえると抵抗を止めてしまう者がいた。記録は事実らしい。魔王討伐後に目の光が消えれば良いが。

 ジェフリー子爵はそう思いつつ、戦いを指示していく。


「報告します。勇者さま。魔王軍幹部と接触。戦闘開始しました」

「うむ」



「あいつが逃げ出したら、命令無くとも撃つことを許可する」

「良いのですか。鈴出満リンデマン大尉」

「こんな至近では、いちいち指示待ちでは対応が遅れる。あらかじめ決めておけば良い」

「勇者さまご一行が追いかけたら、どうしますか」

「おまえらも追いかけるんだよ」

「了解しました」

「では監視態勢に入る」

「「「はっ」」」



 騎士達が後退する。替わりに前に出たのが、勇者だった。


「うん?おまえらなんだ。強そうには見えんぞ」

「ゅぅ…」


 キャスリーン・バトラーが名乗りを上げ…られなかった。


「アアン?聞こえないぞ?恥ずかしいのか」

「ゅ…‥」


 エアも名乗りを上げ…られなかった。


 歌姫と村娘(ちょっと、とうが立っているが)は、恥ずかしいらしい。わかる。恥ずかしい。あの年齢で勇者の名乗りはな~。今どき勇者とか物語の中の存在だ。替わりに俺が


「ギルガメス王国連邦軍百人長トム・リッターだ。俺は、ゆうちゃ・…」

「何だ。お前も言えないのでちゅか。情けない奴等だぜ。ゲッハッハ」

「カッカッカ」「ハッハッハ」


 くそう。ちょっと噛んでしまった。やっぱ恥ずかしい。くっそう。もといだもとい。


「ギルガメス王国連邦軍百人長トム・リッターだ。勇者トムが、お前達を退治しにやって来た」

「「「「何!?勇者だと?」」」」

「そうだ。覚悟しろ」

「ハッハッハ。勇者ごときが魔王軍幹部の私、魔王二十四将たるベイルードに勝てるとでも」

「魔王二十四将だと?」

「知らないだと。失礼な奴め。魔王軍幹部24人は魔王様から将の位を与えられたのだ。つまり魔王軍で強い24人だと言うことだ。恐れ入ったか」

「ありがとう」

「何?」

「知らない情報をペラペラと、教えてくれたのが有り難いのさ」

「おのれ!剣の錆にしてくれるわ」



「大尉、何喋ってるんでしょう」

「こっちが知らないことを教えてくれるんだ。有り難く聞いておこう」

「はあ」

「それよりも狙撃準備だ」

「やりますか。しかし、逃げ出してからでは」

「あのお喋りは勇者に任せる。サポートもしっかりしている。問題無く勝てるだろう。勇者はトドメだけになりそうだがな。ただ他のふたりをやれるかというと、わからないだろう。だから俺たちは残りのふたりだ。四式小銃が通用するかどうか試す」

「通用しなければオークよりも頑丈ということですね」

「そうだな。通用すると良いが」


 そう言いながら、鈴出満大尉は自分のポールアックスをしごくのだった。




いい歳して「勇者」の名乗りは上げにくいですよね。

トム・リッター君(勇者)は、下っ端では拙いとして、百人長に昇進しています。

ギルガメス王国連邦軍 構成 ()内は陸軍相当

兵隊 (2等兵~兵長   2等兵クラスがいわゆる下っ端)

十人長(分隊長)     下士官)

百人長(小隊長~中隊長  少尉から大尉)

千人長(大隊長~連隊長  少佐から大佐)


近代的な軍制が出来ていないので、おおざっぱです。兵隊には志願と徴兵が混じっています。十人長以上は職業軍人。元騎士もいる。

騎士団は別存在。一応、最下級位騎士が十人長相当。


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