南下
新兵器投入。
何だこれはですが。
勇者一行は、レリクスに向かって進軍している。順調だ。散発的な抵抗は有るものの、日本軍の火力とカリス騎士団の突撃で排除していた。怪我をしても、薬草ベースの各種薬やダンジョン産ポーションでたちまちの内に治ってしまう。
日本軍は、これなら突撃したがる訳だと思った。科学や医療の進歩が遅いのは、魔法やこの世界独特の医療に頼るせいかも知れないとも。まあ自分たちも恩恵にあずかっている訳で、人のことは言えない。
カラコルマから南下している主力部隊は、スミラレウスまであと少しという所で抵抗に遭っている。
レリクスが強化されないか不安であるが、航空偵察ではスミラレウスへ集中しているようだ。
「左翼部隊を交替させよう。連邦騎士団の中隊を入れて、メライト騎士団を下げる」
リングレット侯爵が言った。確かに、疲れからか動きが悪いように見える。賛成だな。
「そうですね。疲れているのでしょう。戦線が崩れないよう、一時的に火力支援を行います」
原田大将は(一気に火力で押せれば面倒は無いが、ここか彼の地だ。日本軍が主力になってはいかん)などと、約定を心の中で確認している。
「頼む。伝令。連邦騎士団から1個百人隊をメライト騎士団と交替させる。日本軍の支援がある。目印を間違えるなとしっかり伝えろ」
「畏まりました。復唱。連邦騎士団から1個百人隊をメライト騎士団と交替させる。日本軍の支援がある。目印を間違えるな。伝えます」
「うむ」
戦線中央は歩兵同士のぶつかり合いだ。両翼で回り込もうとお互いに競っていた。その、こちらから見て左翼が崩れようとしている。
「こちらも上空に伝えます」
「よろしくお願いする」
「承った」
「上空の偵察3番。本城だ。応答せよ」
『本城。偵察3番。指示送れ』
「偵察3番。本城。左翼の騎士団が交替する。敵の動向を知らせ。適宜、支援2番を活用せよ」
『本城。偵察3番了解。大きく崩れそうなら、支援2番を投入する。よろしいか』
「偵察3番。本城。やり過ぎないようにな。良いな」
『本城。偵察3番了解。支援2番に爆弾は搭載していない。両翼下には機関銃装備だ。よろしいか』
「偵察3番。本城。それでいい。やり過ぎに注意してくれ」
『本城。偵察3番了解』
やれやれ、念押しされてしまった。
偵察3番は上空に在る当偵察機の呼び出し符丁だ。どうせ聞かれることも無いと、簡単な符丁のみでやり合っている。
「機長。支援2番なら落ち着いた奴ですから、派手にはやらないと思います」
偵察員の中村一曹が話しかけてきた。
「知っているのか、中村一飛曹」
「はっ。転移後すぐ搭乗員になったのですが、奴が操縦、自分が機銃員でした」
「ベテランか。頼りになるな」
「ありがとうございます」
ギルガメス王国連邦派遣航空隊は小さいとは言え、総数80機の飛行隊だ。水上機と陸上機に別れているので、ふたつの基地に分散している。水上機部隊は海軍で、陸上機部隊が陸軍だった。半年程で交替するという赴任期間の短さから、同じ基地にいても人となりを知らない人間も多い。
『偵察3番。支援2番掛布少尉。どの位までならやっていいのか』
「支援2番。偵察3番曽田中尉だ。13ミリは撃つなよ。両翼下の7.7ミリだけ撃つように」
自分の搭乗する偵察機はキ130という試作機だ。まだ名前も無い。
支援2番は彗星だ。両翼に13ミリ機関砲ホ103を標準装備している。あんなもの人に向かって撃てるか。爆弾の代わりにぶら下げているガンポットの7.7ミリ機関銃でおつりが来る。
偵察機が何故試作機かというと、九七式司偵・九八式直協・九九式襲撃機は、すでに退役して陸軍航空隊には単発の多座偵察機が無かった。
海軍から九七艦攻を借りようかとしたら、全部ディッツ帝国に引き渡したという。九九艦爆も同様だった。
海軍の水上機に任せればという声には、陸軍の意地を見せるとどこかで言っている。
そこで、意地を見せるべく試作機を持ってきている。前線偵察機とも言うべきもので、対空火力や敵航空機の無い戦場で使うことを目指している。混沌領域や現在のギルガメス王国連邦戦線では有効なはずだ。
離着陸距離が短いこと。
荒れた滑走路でも離着陸容易なること。
良好な視界の確保。
整備簡易なること。
この4点を先に満足させることになった。防弾は不要かも知れないがボラールのウロコを使っている。
出来上がったのが、天風発動機装備の高翼単葉固定脚という機体だった。
単葉と言うが、胴体下部に主脚支柱兼兵装架兼乗り込み台兼燃料タンクを兼ねた下部翼があるので複葉と言ってもいいかもしれない。
最大速度は空気抵抗が大きく時速300キロを越える程度しか出ない。爆弾や機銃を全数装備すれば一名搭乗でも時速250キロ出ればいいところだ。
離着陸性能は、大きな主翼がもたらす低翼面荷重と各種高揚力装置のおかげで、すこぶる良い。
航続距離は上下左右4カ所の燃料タンクで1500キロ程ある。
操縦は並列で、正副操縦員が正規だがひとりでも問題無い。他にふたり乗り込める。
乗員は最大4人。並列で前後だ。4人乗って最大兵装だと時速200キロ出るかなと。
最初見たときは、何だ?このぶしょったいのはと思った。なにしろ丸い部分が少ない。胴体など箱その物だ。だが、試乗してみると実用性は抜群だった。
広い操縦席周り。着座位置が高いことによる、良好な前方視界。側面の窓も大きく下方視界は抜群であった。下部翼が無ければと思うが、必要な物だ。
4人で偵察をすれば、8個の目がどれだけ効果を発揮するのだろう。後席には地図台まで付いている。
試作1番機では搭乗用扉が4枚付いていたという。今は左右2枚になっている。
問題は上と後ろが見えないことだが、敵機がいる戦場には投入されないと聞く。
今日は4人乗っている。攻撃装備を付けると不安定になるので、対地攻撃は爆撃機に任せている。
不安定なのは攻撃装備の時だけでは無く、時速150キロ以下の低速で旋回する時に失速の危険性があった。速度を下げすぎたり傾けすぎなければ良いのだが、低速で偵察をしたい機体なのにと言うことで改良中だと聞く。
陸軍は同じように単発の爆撃機が無く、彗星を借り受けていた。
双発機ではオーバースペックで、この戦場に似合わないので致し方なかった。
新型の流星襲撃機型が有ると聞くが、こんな場末に最新鋭機が回ってくることも無い。アレも大概オーバースペックだ。
『偵察3番。支援2番了解しました』
初めての実戦だ。俺の戦いはこれからだと、曽田中尉は思った。
スタブウイング付けちゃいました。




