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実戦

 ギルガメス王国連邦軍と日本陸軍の連合軍(以下、連合運)は、主攻部隊と勇者部隊に分かれた。

 カラコルマから南下する主攻部隊はギルガメス王国連邦軍が主体で日本陸軍は少数の機甲部隊と狙撃兵を中心とした歩兵部隊だった。

 一方、ミシェル・ラーダーから南下する勇者部隊は、日本軍が半数程度だった。もっとも人員数で見れば主攻部隊の1割でしか無い。機甲部隊も足下が怪しいという事で軽量な車両しか持ってきていない。

 それが上村中佐の懸念だった。


「どうした?上村中佐」

「シェーンコップ大佐。そう言われても不安なんですよ」


 シェーンコップ大佐とその一党は軍籍復帰していた。何人かはそのまま冒険者を続けている。


「こちらの敵兵力は少ないという事だ。我が軍も少ないがな」

「いやまあ、そこら辺は火力でどうにかなると思いますよ。航空支援も有りますし」 

「なら安心だろう」

「いえ、どうにも腰が落ち着かないというか」

「変な気がすると?」

「スペインへ行ったんですよ。酷い待ち伏せを受けましてね。部隊はボロボロになりました」

「そうか。つらい思いをしたな。俺は派遣されなかったから、わかっているつもりでいるが」

「そうです。ちょうどこんな感じで丘陵地帯の隘路を進んでいたんです」

「ほう」

「参謀の方からは敵兵力無しという連絡も有り、勝ち戦で油断したのも有りますが」

「やられたんだな」

「上手く隠蔽していました。先行偵察部隊では発見できませんでした」

「なら、偵察を強化してみるか」

「お願いします」


 シェーンコップ大佐はギルガメス王国連邦軍側の部隊長ジェフリー子爵と協議の上、同行している冒険者も入れて斥候人数を増やす事となった。どうやらジェフリー子爵も部下からの進言を受け斥候を強化しようか考えていたらしい。

 航空偵察は1日1回程度である。これは回数を増やすと作戦間近と教えるようなものと考えたからだった。また飛行場からの距離も詳細を伝えるには時間が掛かりすぎた。写真解析の結果を伝えるにしろ、無線ではそこまで詳細に伝えることは出来ない。



「やれやれ、先行偵察部隊か」

「斥候は大事」

「わかるがな。これでも軍人さんだ」


 日本軍のカスパー鈴津リンツ少佐は冒険者のエマ・トンプソンに答える。


「良いのか?パーティーから借りて」

「サクリエスなら良いわよ」

「本人はどう思ってるやら」

「隊列の真ん中で暇してるよりはいい」

「本人登場か」

「あいよ。ここら辺は起伏と木立が多いので隠れやすいな」

「7級探索者か。一流だな」

「戦闘力は無いが観察は任せろ」

「秋津ダンジョンでは・・」

「止めろ。あのダンジョンがおかしいんだ。神の遊び場ってなんだよ」

「任せるさ。専門家だしな。ここは普通の場所だ」

「わかれば良い。あそこが異常なだけだからな」

「ハイハイ」


 他にも3名の7級を最高に5級までの探索者4名が隊列の前に出て周辺警戒に当たる。護衛も付く。


「なあ。あそこおかしくないか」

「どこだ。指さすなよ。方位で教えてくれ」

「左手だ。40度から60度くらい」

「ン~~~。アレか。なんか気になるな」

「そうだろ。不自然だよな」

「こういう時は、日本軍だ。通信機という物を貸してくれた」

「へー」

「zz…こちら斥候部隊3番。左手40度くらいに不自然に見える物あり。後レ」

『こちら偵察指揮。斥候3番、左手40度了解。今から見てみる。送レ』

「斥候3番。了解。以上」

「鈴津少佐。斥候3番が左手40度に不審な物発見」

「あそこらか」


 それを聞いたシェーンコップ大佐が指揮官用の車から立ち上がり双眼鏡で見ると、


「わかるか!なんだよ不自然て。地元民に任せるか」

「探索者を出したチームは探索者と協力して不自然な場所を偵察。敵の可能性もあり。注意してくれ」

鈴出満リンデマン大尉は冒険者チームの援護を指揮。もし敵だったら広範囲に潜伏している可能性もあり。注意せよ」

「了解」


 隊列の中程から冒険者達が仲間の元へと急ぐ。日本軍も冒険者チーム当たり2個分隊を差し向ける。ギルガメス王国連邦軍も50名程度が支援のためか向かう。

 この部隊は総数1000人強で内日本軍が400。冒険者が10チーム70人。残りがギルガメス王国連邦軍だった。勇者は冒険者チームに一人。ギルガメス王国連邦軍に二人だ。前述のように装甲車両は申し訳程度の装甲車しか配備していない。車両は物資運搬用のトラックと指揮官用に用意された黒金4駆くらいだった。ギルガメス王国連邦軍も騎兵は足下が弱いという事で少ない。物資輸送用の荷車や馬車は日本軍のトラックを借りている。

 もちろん物資輸送の主力は保存袋と拡張袋だが、トラックは何台あっても良いものだ。何より物資が視認できると言うことで、そういった魔道具に不慣れな人間からは安心感がある。それに即席の救急車にもなるし。

 主攻部隊の総数1万と比べると弱々しいが、敵も少ないのでどうしてもこういう振り分けになってしまう。


 冒険者チームが合流し支援部隊も足並みをそろえた頃、敵に動きが有った。斥候体制の強化をおそらく察知されたと考えたのだろう。

 多数の矢が飛んできた。 


「矢だ!逃げろ!盾どこだ」

「向こうからだ」

「一時退避。後退だ。相互支援忘れるな」


 そんな怒号が飛び交う中で「ガ」「痛え」「やられた」「ぐわっ」とか悲鳴も飛び交う。


「負傷者の救護急げ」

「ポーションだ。飲め」

「撃ち方始め」


 少し後方にいた日本軍支援部隊が射撃を始めた。下火になる攻撃。


「擲弾筒。目標・・・」

「照準良し」

ェー」

っ」


 さすがにこれは効いたのか、更に下火になる攻撃。人影のような動きも有る。逃げ出したのだろう。


「追撃する。分隊続け」

「カリス騎士団も続くぞ。追撃だ」

「日本軍とカリス騎士団が行ったな。他は待たせるか」


 ジェフリー子爵が言う。


「そうですな。深追いだけは、させないようにしなければいけませんな」


 シェーンコップ大佐が返す。


「全くだ。皆行きたがって困る」

「勇者様たちはどうされるのか」

「もちろん待機だ」

「いつ戦闘に参加させますか」

「こちらの援護が十全に行き渡るところで無いと危なくてな。対人戦闘はろくに出来ないしな。勇者でないと対抗できない連中が出るまでは温存だ」

「まあ、仰るとおりですな。しかし、形にはなっても実際に人と相対するとやれるかどうかは」

「まあその話は置いといて、日本軍は通信機を持っているのだろう。カリス騎士団が行きすぎないように抑えてくれると有り難い」

「わかりました。そう指示を出します」

かたじけない」



 その後しばらくして、追撃は終わりとなった。敵戦力は推定で100前後。47人が討ち取られ13人が捕虜となった。残りは逃がした。深追いは命令通り避けたのだ。カリス騎士団は[カストロプの乱]の時カストロプからカリス領が圧迫を受け肝心な時に活躍できなかったので今度こそと言う思いが強く、前に出すぎないように注意して扱うのだった。




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