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現状

 各地で捜索された勇者であるが、全員発見された。

 問題はほとんどの者が、戦闘力が低いことだった。今の力では簡単にやられてしまう。

 これではいかんと、銀級とか八級クラスの冒険者を付けて強化を図ることになった。




「エア、どうするんだ」

「どうするって言われても、神託あったし・・」

「勇者として立ち上がるのか?」

「うん。やるよ。だけど、ほら、混沌獣なんて小型のやつしか相手したことないしね」

「それは、村を挙げてサポートすると決まっただろう」

「やっぱ、止めていい?」

「止めて欲しいが、こればっかりはな」

「はあ~あ~」


 カラン村では、一人の乙女が悩んでいた。勇者ヒュギエア・エルランである。


「このまま、村娘で一生過ごすつもりだったのに」

「まあ、諦めな。エルラン帝国最後の皇女だ。運命だよ」

「人ごとだと思って」

「実際、人ごとだしな。勇者なんて想像も出来んわ」

「非道いよ。サイトス」


 小さい頃よく遊んで貰ったサイトスとは、いまだに仲が良い。

 村を挙げてサポートと言うが、アビゲイル・ロウガ・ミカヅキの3人を脅かすほどの若い力は出てこない。いまだに3人がトップだ。

 日本と接触する前は日々生きるのに必死で、無理をしてまでも強くなるような訓練は出来なかったという現実があった。また、接触後は事実上日本の保護下に入り危険度が低下した他、生活が楽になり危険な道を歩もうとする者がなかなか出てこない事も有る。

 そこで村は、アビゲイルらが選んだ(断れない指名)エアと同世代の連中でチームを組み、アビゲイルらが指導するという方針を立てた。

 断れない依頼で無理矢理仲間にされた者はいい迷惑で有る。

 同世代といっても、元が子供が少ない落ち武者村であり、上は5歳上、下は4歳下と幅がある。

 チームは7人。同世代全員である。非道い。


チーム構成

 勇者   エア      女24歳    ヒュギエア・エルラン

 斥候   タマヨ     女27歳

 盾    キース     男29歳

 剣士   ハイシャール  男20歳

 魔法使い サミア     女22歳

 薬師   ゴドール    男26歳

 弓    ミレーヌ    女23歳


 タマヨとゴドールは夫婦であり、5歳と3歳の子供がいるが村で面倒を見るとなった。

 サミアとハイシャールはジレジレしている。

 キースも妻と子供がいるが、やはり村で面倒を見る。

 勇者エアとミレーヌは相手がいない。ナンデダロー


 アビゲイルらが見るところ、村の人間で彼らよりも若い連中は更に実力不足で使い物にならないとされていた。

 年上は村で重要な役割があるし、そろそろ年齢的につらくなってくる。選ばれし6人には諦めて貰うしかない。

 日本の手によって移住してきた者達は、何故かカラン村に遠慮がちだし。遠慮が無いのは学者と鍛冶ドワーフや薬師などで、戦闘職はやりにくそうにしているので自然と遠ざかってしまった。

 エアを中心にするには、即席チームよりも見知った者で構成した方が良いだろうし、アビゲイルらが見る限り経験が足りないだけで実力は伸びると見られていた。もちろん陰から見守る。

 問題は、こいつら全員冒険者ギルドに登録していない事。1級から始めるとか何の冗談と思う。

 まずは登録からである。8級のロウガに率いられ冒険者ギルドに向かう。カラン村にはギルドは無い。

 ギルドはカラン港にも有るが、ダンジョンに近い方が良いだろうという事でキリアレスに向かう。キリアレスは移住者達が付けた名前でエルラン帝国に有った地名だ。



「ここか」


 列車に揺られて着いたキリアレスの街に有るギルドだ。この周辺の統括をしているギルドで結構大きい。

(俺はもう四十過ぎだから引退したいのだがな)と思いつつドアを開けるロウガだった。アビゲイルにも来るように言ったが「俺は冒険者じゃないし」と言って断りやがった。

 見知らぬ顔が訪れたので何人かこちらを見つめる奴がいたが、ロウガの首から下がる五級以上を示すブロンズのタグを見て目を逸らす。

 受付の中で[新規登録・依頼申し込み]の窓口に向かい、


「やあ。後ろの連中、7人だな。登録して欲しい」

「7名様ですね。失礼ですが、少々新規と言うには…」

「訳ありだ。よく有るだろう?」

「そうですね。承ります。では皆さんの住所氏名と得意な事をこの用紙に書いてください」


 ベテランそうな、おばちゃ…いや、経験豊富なお姉さんが言う。なーんか、見た事有るような?用紙を皆に取るように良い、思い出せないか考える。

 向こうも俺の事を見ている。俺に気は無いよな。嫁に悪いんで断らせて貰おう。


「ロウガ、どうしたんだ」

「いやな、ミカヅキ。あの受付嬢だが、なんか気になるんだよ」

「お前、かみさんに言うぞ」

「そうじゃない。どこかで見た事無いかなと」

「有るとすれば、帝国時代だな」

「そうだよな。でも思い出せん」

「ギルド職員だったなら、どこのギルドだろうな」

「さあな、いろんな所行ったから、さほど回数は会っていないのかも知れん」

「それか、見た目が偉く変わったかだな」


 ミカヅキとグダグダしているうちに登録手続きは終わり、初心者講習会を開くとして今日の1時間後を指定された。

 やはりこちらをチラチラと見ている。お互い様だが。

 ミカヅキは先ほどから指で枠を作って受付嬢を見ている。


「そんな事してわかるのか?」

「日本の奴らに教わった。こうやると、背景を抜きに気になる部分だけ強調して見る事が出来るらしい」

「へえ」

「俺は思い出した」

「ミカヅキ、教えろよ」

「あの顔は、大分幅が広がったが間違いない。帝都の受付嬢だ。俺たちに皇女の護衛を押し付けた奴だ」

「え?あのほっそりしていた美人さんか?」


 その瞬間、二人は悪寒を覚えた。受付嬢がこちらを見ているのだ。握った手を上に向けて人差し指で来い来いと。二人はすごすごと近寄っていく。

 受付嬢の名前はトヤだった。


「思い出したわ。あんたら、あの時の冒険者だね。良く第二皇女様の護衛を果たしてくれたよ。ギルドとしても誇れるよ」

「あの迷惑な依頼のせいで俺たちはすごい苦労したんだぞ」「そうだ、そうだ」

「でも、あの時はあんたらが一番適任だったから選んだよ。こっちのギルドで依頼達成にしてあげようか」

「出来るのか?」

「これ有名なクエストだったからね。ギルドが替わっても、ギルドやあんたらの箔付けになるんだよ」

「そうか、それなら達成にしてくれ。引退前のいい記念になる」

「いいのかい。それじゃあ達成処理をしておくよ。一応ギルド長に諮ってからだけど、文句は言わせないさ」

「おう、頼むわ」

「姉さん、ずいぶんと貫禄が出たな。昔はギルドの看板娘だっただろ」

「フッ、そんな昔の体型は覚えちゃいないね。西通りのクッキー屋のクッキーが美味くてね。クッキーも美味いんだけど、店主が美形で美形で、皆通ったわよ」

「帝都西通りのクッキー屋か。聞いた事はある。そんなか」

「すごく美味しい。店主を見ながらだと尚美味しい」

「食べ過ぎだな」

「食べ過ぎだけどね。聞いてくれるかい。旦那にしてしまったんだよ。だから食べ放題なのさ」

「なんと」「かわいそうに」

「なんだって?」

「「なんでもねえ」」

「まあいいいか。二つ向こうの通りに店があるから買って行きなよ。美味しいよ」

「そんなに美味しいなら土産にするか。で?名前は」

「アキ・クッキー。旦那の名前は、アキ・セッツーラ」

「冒険者としての話に戻るが、こっちのダンジョンはきついのか?」

「あんたらなら奥でも平気だと思う。連れ達は最低でも4級以上にしてよね」

「ああ、わかっている。できるだけ早く級を上げないといけないから養殖気味にやるさ」

「危ないわね」

「危険は承知だ。俺たちと近衛が一人付く。教育するさ」

「はー、近衛かい。懐かしいね。強いのかい」

「まあ若手では上位だったらしい。もっとも、最近は腹が出てきているが」

「人の事言えるのかい」

「「やかましい。お前よりはマシだ」」

「良い依頼回さないよ」

「「失礼しました」」


 3人のやりとりを周りでは何やってんだと見ている。連れてきた7人はぽかんとするだけだ。

 そのうち時間が来て、彼らは初心者講習会に向かった。


「なあ、この辺りでほどよい場所は無いのか」

「以前スタンビードが起こった時に混沌領域になって荒れた土地が有るの。そこなら最高でも大型下位までしか出ないから、あんたらと近衛が付けば大丈夫だと思うわ」

「でも、そんな所だと人気があるだろ」

「その先のダンジョンまで鉄道が行ってるからね。ダンジョンに行く実力があれば寄らないよ」

「じゃあ、4級くらいの連中が周りをうろちょろするのか」

「そうそう。鉄道側に混沌獣を出させないように常時警備依頼が出ているから、美味しいのよ」

「日本軍がやるんじゃ無いのか」

「ここは私たちの国になったのよ。自分でやるの。もっとも、まだ戦力的に不安があるから日本軍もいざという時のためにいるけどね」

「ああ、そうだったな。カラン村にいるとつい忘れるよ」

「あんたら良いところに住み着いたんだね」

「そうでも無い。日本がいなければ、全滅していた可能性もある」

「そうなの?」

「原因不明の風土病でな」

「あら、怖い。でも、いまはいいのね?」

「日本の協力が有って解決した」

「はあ~。日本人は何考えてるんだろうね」

「さあな。長い付き合いだが、よく分からん。俺たちと違う行動原理と言うか倫理・論理で動いている。違うと言っても少しだけどな」

「それで助かった事は事実なのよね」


 その後もいろいろ話が続き、結局初心者講習会が終わる時間まで続いた。




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