一段落
大きく動きましたが、その結果は
総統は荒れていた。
ドメルの奴が入院している間に、東の大陸では押し込まれた。せっかくの油田と精製装置を取り返されてしまった。
ドメルの奴、事故とか言っているが知っているぞ。酔っ払って階段を踏み外したことを。
どうしてくれようか。
北では、海軍が大敗を喫した。
海軍は、言い訳がな。新型機を用意したら、敵は想像を上回る機体を繰り出してきただと?ファイウォール公国とは互角にやり合えたが日本機には負ける、と言うことを報告書に書いてある。
それにしても不用意すぎると思うが、奴等との違いをもっと研究させないといけないのか。そもそも研究はどの位しているのだ。
もう少し陸軍と海軍にしっかりするように言おう。当面はそれで良いか。
デストラー総統は報告書と対応策を纏めた文書を見ながら考えている。
敵の集中的な航空攻撃に耐えかねて戦線を後退させたとある。航空機の性能が違い、同じ数なら対抗可能だが、優位に立たれると負けるだと?
性能は上がっているが、それでも敵の方が上か。もっと高性能な機体が欲しいと言ってくるのはわからんでもない。機体開発を急がせよう。パイロットの育成計画は順調だとなっているが、この消耗度だと大丈夫なのか一回聞いてみるか。
戦車は勝てるが、制空権なき戦場では退却を余儀なくされるか。
とにかく航空優勢を得られないとどうにもならん。
東部方面軍はベルフィスヘルム固守に方向を切り替えつつあるか。撤退の許可を出しておこう。あそこにいる兵力は帝国にとっても少なくない兵力だ。失われるのは痛い。
海軍か。
海軍は、どれだけやられれば気が済むのか。艦艇と人材は無尽蔵では無いというのに。
損失
空母 カッサンドラ エマニュエル レジナリア
エデルガルト ドロアテ
戦艦 マルティン4世 ジクムント ローデリヒ
巡洋艦 カイラベルク ニナンドリア ホールマイヤ
スカゲラ ドットハイム カールハイム
駆逐艦 GA22 23 24 28 31 33 36 37
シュワルツメルケ
損傷
大破
空母 ミヒャエラ
巡洋艦 マースケルビム
駆逐艦 GA26
中破
空母 ロミルダ
戦艦 ヴェクトア
巡洋艦 バルト ディスターラント
駆逐艦 シュワルツグリフ GA34
小破
巡洋艦 エストブルク
駆逐艦 GA25 30 38
何回見ても酷い。前回(日本名北岬沖海戦とヘパストイ島沖海戦)の損失と合わせれば、海軍力の3割が失われた。空母は半減してしまった。
シュワルツ級は私が総統府海軍監察官時代に高性能を狙って建造させた駆逐艦だ。コストが掛かりすぎると言われて、8隻で中止になった。ウィルヘルム5世が口を出してきたからだ。奴等が自腹に入れるためにな。それで海軍戦力が大きくならなかった。魔神戦では十分魔神側他国海軍に対抗できたから、どこからも異論は出なかった。
再建は船だけなら来年には揃う。だが訓練された人員はどうか。
攻勢は出来ないだろう。少なくとも敵と対等になったと考えられるまでは。だが我が帝国の底力を持ってすれば可能であろう。二年か三年か。それまでは守勢で行くか。
ファイウォール公国議会公聴会
「海軍大臣。この損害はどういう事ですか。日本と共同で対処可能と言っていましたね。日本の損害はほとんど無く、我が海軍だけ損害が酷いのは何故ですか」
公民党代表が声高に喚いている。
「議長」 海軍大臣が発言を求める。
「海軍大臣」 議長が認める。
「お答えいたします。ひとつ言っておきたいが、我が海軍も敵に同じ損害を与えております。我が海軍と敵に限って言えば、引き分けです。負けた訳では有りません。その上で理解していただきたいのは、同じ程度の戦力・能力なら、一方的にはならないと言うことを。敵の発見は、我が方が発見されたのとほぼ同時刻で、攻撃隊は途中ですれ違っております。同程度の敵と、殴り合いになりました。結果がこれです。敵航空機の性能につきましては、事前に想定していた機体よりも高性能な機体が現れました。初めて確認された機体で、我が海軍機とも互角に戦えたという報告を受けております」
「議長」 公民党代表が発言を求める。
「サラマンドラ君」 議長が認める。
「私が言っているのは、何故こんなに損害が有ったのか。日本と同じように圧倒できなかったのかと言うことです」
議場の半分があっけにとられて静まりかえった。騒いでいるのは公民党議員だけだ。いや、公民党議員でも、口をあんぐりとさせている者もいる。
動じないことで有名な議長さえもポカンとしている。
「議長。よろしいか」
唖然とする中で、NWA党代表が手を上げる。
ようやく起動した議長が
「ブッチャー君」
「ただいまの公民党代表の発言は報告書など見ずに発言しております。公聴会の資料として、ここにおられる議員には報告書が渡されております。公民党代表は何故あの資料を見て、そのようなことを言えるのか。議員として恥ずべき事で有り、海軍に陳謝していただきたい」
NWA党代表ブッチャーは、議会用報告書と表紙に記載された30ページくらいの書類を振り回している。
「要点を簡潔に、素人にもわかりやすく書かれています。何故理解できないのか。それに今は、海軍を侮辱している場合ではなく、海軍に頑張って貰わねばならないときです。何故足を引っ張るのか」
議長がこっそり手を上げ下げしている。落ち着けとばかりに。
それに気が付いたブッチャーが頷き
「海軍に伺いたい。勝てますか」
拍手を持って議会が答えた。公民党からも拍手が出ている。公民党党首サラマンドラは渋い顔で真っ赤になっている。
「勝ちます。とは言えないでしょう。ガミチス帝国の海軍力は我が国海軍力を大きく上回っているという分析をしております。人口がガミチス帝国1億5000万に対して、我が国は5000万です。規模が違います。多少の技術的優位など物量差を考えれば無いに等しいと考えております」
「議長」 今度はゼントラ党党首が手を上げる。
「クリダニク君」
「海軍に伺います。このままは勝てないと言うことでよろしいか」
「海軍大臣」
「そのとおりです」
「議長」
「クリダニク君」
「では勝つために何か対策をお考えでしょう。それを伺いたい」
「海軍大臣」
「はっきり言いましょう。日本を頼ります。それ以外には有りません」
ざわつく議場。議長が木槌を打ち付ける。カンカンカン。
本質と関係ないことで、やたらに騒ぐ人っていますよね




