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日本 転移か?

 その日、正和16年7月25日深夜

 風雲急を告げる太平洋、東西激突も近いと思われたある日。

 突然日本が真っ暗になった。月の明かりも星さえも無くなった。

 大気が震え、大地がうなり、海が叫んだ。

 

 みんな飛び起きた。何が起こっているのかも分からずに家を飛び出し空を見上げた。

 空は暗かった。そして巨大な球体が近づいてきた。月よりも大きく明るく、異様な事態だった。

 その場で膝をついて祈る者、何か急に叫び出す者、そして警察や軍に連絡を取ろうとする者。

 誰もが普通ではないと思った。そして自分が軽いのに気がついた。


 そしてみんな気を失った。


「間に合ったな」

「そのようだ」

「そこら中で事故だらけだぞ」

「致し方ない」

「後で直しておこう」

「人もか」

「人だけだ。どうせ、転移先でまた壊れる」

「神々はなんと?」

「前回は核兵器を保有していることのリスクを考えに入れなかった。今回は開発構想だけでまだ現実にはならない。技術的・資金的に開発可能な国が数カ国ある。敵対的国家は同じ世界に送らない」

「同じ世界に送らない?」

「分割して送るそうだ」

「なぜ。面倒じゃ無いか」

「そこは神々が行うそうだ。我々はお手伝い程度で良いと言われた」

「前回は我々に放り投げたよな。今回はなぜ」

「暇だそうだ」

「暇?」

「暇と言われました」

「我々も暇なのだが」

「そこでこの惑星、地球ね。この「地球の人々を暇つぶしの種にする」と言われました。私はあきれました。でも、面白そうだから賛成したよ。いけなかった?」

「いや、そんなことは無い。多分みんな賛成だと思うぞ」

「何か不謹慎だが、面白そうだな」

「暇だからよく観察しましょう」

「神々からの伝言だ。私生活は観察しないようにと」

「私生活って、私性活?」

「酷い言い方だが、そんなとこだ」

「見たいものでは無いな。モデルにもよるが」

「うわー、あなた、そんな物見てるの。すっけべー♪」

「いや、その、なんだ、えーと、いいじゃ無いか男だもの」

「いやよね、この人開き直ったわ。この後のお付き合いの仕方を考えなくちゃ。お友達にも教えてあげようかな?」

「え!お願い、お願いします。どうか内密に。勘弁して」

「ほう、どう勘弁して欲しいのかな。教えて♡」

「イエス、マム。次元グルメガイドに載っている店で食事などいかがでしょうか」

「うむ、余は満足じゃ。それで手を打とうでは無いか。店は後で選ぶわよ。いいよね」

「はい、それで勘弁して頂けるなら」


 だが、彼のスケベは後の女子会でおしゃべり中にばれるのであった。


「あいつ、ばれないと思っているのか」

「今がすべて、必死になるのも分かる」

「ほう、理解があるな」

「おまえだって分かるだろう」

「分かるが、こういうところでうかつにしゃべるからだ」


 男どもは、隅でコソコソ言い合うのであった。誰も被害に遭いたくなかった。


「じゃれ合ってないで話を詰めるぞ」

「「じゃれ合ってなどいません」」

「息ぴったりじゃ無いか」

「「違いま・・」」

「しゃべらないで」

「非道い」

「仲良しさんはいいが、今は真面目にやろう」

「はい」

「神々は基本的にこのように分割するそうだ。我々の意見があれば取り入れるそうだ」

「意見と言ってもね。あ、この国とこの国は混ぜない方がいいかもしれないよ。お隣だけど仲が悪そうだから」

「ドイツとフランスか」

「そうよ。転移していきなり戦争はね。面倒見る方が疲れるじゃない」

「そんな理由か」

「だって楽な方が良いじゃない☆」

「誰だよ、こいつ呼んだの」



 地球は地表から20kmを残し中身は資源として使われた。この資源が人工惑星で加工され地球人に渡されるのであった。足りない分は人工惑星側の負担だった。

 また、余った分は人工惑星側に売却され賠償金とされた。地球人相手には高額すぎるため、神々や見えざる者達の一時預かりとされた。

 人工惑星側も採掘など労せずに資源が入手できたので、都合が良かった。

 希ガスも太陽系内各惑星から回収した。石油や石炭などの炭素系化合物はメタンや金星の大気と木星の大気から合成された。微小物質は都度混ぜ込まれた。

 金属は地球の中身から回収した。

 

 その仕事が終わるまでの6年間、地球人や地球の生き物たちは如何したのだろうか。

 神々はさすがに面倒なのか、時間の流れの遅い時空に収容していた。地球時間で10年が数秒になるような時間の流れる空間だった。

 さらに各世界に配置後、微調整と地球人を各地の環境に馴染ませる時間が3年取られた。知らない間に。その間にケガや病気はある程度改善されている。サービスだ。


 分割再配置が決定された地球人達だが、今は誰も知らず眠りについていた。


 科学力がずいぶん偏っていることを気にした一部の神々から提案があった。

 多少は人の行き来を認めようと。図面や書物などは良いだろう。小物も良いよな。

 各国向け渡航者を年間10人とし、期間は最大2年とした。荷物も1人辺り100kgまでとされた。抜け道はあった。と言うか、えて残しておいた。抜け道を活用するも良しとして。



 神々と見えざる者達は、生き生きとしていた。何しろ久しぶりの暇つぶしの種である。

 それに文句を言うのが地球の神々だった。


「なぜそのような地域に私の国が移転させられるのですか。その地域は望みません。もっと良い所を」

 カーリー神が言う。

「気に入らなかったら、潰して作り直せばいいじゃないか」

 破壊と創造の神、シヴァ神が言う。

「余を神話にしている国々はひとまとめが良いぞ」

 ゼウス神が言う。

「地続きは面倒くさい」

 おおう、天照大御神様。

「暖かいところが良いな」

 ガイア神が言う。

「暖かくて昼寝の出来るところ」

 猫神様よ。

「わらわの光があまねく届くようなところが良いですわ」

 アフラマスダ様。

「仏陀の手のひらじゃなきゃどこでも」

 ハヌマーン様。


 みな我が儘で好き勝手なことを言う。


 三大宗教の面々は神として新参者であり、仏陀以外は現在信徒の行動に手を焼いていた。他の神々から注意を受けることも多く、イエスとアッラーは大きく出られなかった。彼等は思う(なぜこんなに大きくなったのか)大きすぎて制御不能であった。

 仏陀はさすがに落ち着いていた。他の神々からこいつらの相手をするよう要請されていた。あんたの所扱いを良くするからと言って。

 仏陀は思う(こいつら信徒に好き勝手されているな。おまえら一族だろう。仲良く出来ないのかよ)


 そして、ある程度まとまった。国家内部の不協和音とか個人は一切考慮されなかった。ただ言語的に違う場合や宗教的に対立している場合、元の国家民族が分割されてしまった所は考慮されもした。

 各国とも資源は豊富に付けてあるし、国庫に金を大量にしまっておいた。食料も10年分(神倉庫付き)くらい付けてある。大きすぎる国以外は、最低3倍は確保しておいた。

 神倉庫は中身が減ると共に小さくなっていく。出すことは出来ても出した食料を戻す以外、入れることは出来ないようになっていた。中には各種金属や生ゴムなどの必須と思われる資源・材料が食料と共に入っている。

 当面は困らないはずである。


 



 そして日本である。

 他の世界線を覗いた神々はあきれるしかなかった。そして思った。面白い。

 日本よ君はこの中から選び給え。天照大御神様もよろしいですね。島です。大陸とつながっていません。




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