フェザーン油田は燃えているか
フェザー平原を奪還したディッツ日本連合軍は、次なる目標を当然のようにフェザーン油田としている。
捕虜の聴取によると、おいしく利用されているようだ。
軍は破壊して撤退させることも視野に入れているが、政治家や官僚からは出来るだけ無事な姿で取り戻して欲しいと無理な注文を付けられている。
ガミチスを撤退させても、恐らく破壊していくだろうと思われるが、それでも自分たちで破壊したくないらしい。
さすがに春まで待たねばこちらの戦力が整わない。敵に補給の難があることが分かった以上一気に行きたいが、こちらのそれだけの体力は無かった。
ホイカル周辺には飛行場を幾つか造成しホイカル防衛とフェザーン攻略の足ががりにしなければいけなかった。春までの時間は貴重になる。
空軍が頑張って嫌がらせ的な空襲を続けているが、それも損害が徐々に積み上がっていく。
敵ガミチス空軍は戦術空軍らしく、大型の爆撃機は少なかった。だが、ホイカル攻略後から四発の爆撃機が登場するようになった。
性能的には四式爆撃機と似たような物だが、防弾に劣りそれ程困難な目標では無かった。しかし、四発機なので爆弾搭載量が多く一機で多大な被害をもたらすことが嫌がられた。その搭載量は四式爆撃機三二型の3トン半に対して5トン前後積めるようだった。
今後、数が増えれば脅威の一つとなるだろう。
こちらからの空襲は小型機中心だった。逃げ足と精密攻撃を重視していたとも言える。四式爆撃機では速度不足から迎撃されることが多く、犠牲も増えていた。また精密爆撃は出来ないので、範囲攻撃で火網に捉えれば良しの攻撃だった。四式爆撃機を使うのは拠点攻撃などで広い面積を爆撃する必要があるときだった。
これに対して小型機なら精密爆撃が可能で逃げ足も速かった。使われた機体は彗星のディッツ帝国製機体とファイウォール公国製のアルバトロ。
彗星は液冷で始まり、空冷になり、ディッツ帝国製液冷倒立V型十二気筒エンジンへと変換を辿った。これはオスカー2と言われる飛燕も同じだった。
彗星はディッツ帝国名、クロウ1。
ディッツ帝国製液冷エンジン、ファイアフォックスFFmkⅥは1400馬力を発生。彗星を投弾後なら600キロの高速で飛行させた。投弾前で爆弾倉が開いていなければ400キロ爆弾搭載時580キロ出せた。
ファイウォール公国製のアルバトロは、最低限金属でないと拙いところ以外は木製という驚異の機体だった。やや大柄な機体だが1トン半の搭載量を誇り、1500馬力の液冷双発で爆装時でも600キロまで出せる。
ディッツ空軍に配備されると一式陸爆の出番が無くなってしまい、一式陸爆は徐々に歩兵支援へと回されていく。
狙ったのは補給処、戦車整備工場、装甲車両、通信施設、如何にも司令部っぽい施設等だった。
そして今日も寒い中、攻撃隊は離陸していく。
一〇〇式司令部偵察機は今日も飛んでいる。最近は敵も高空性能の良い戦闘機を持ち出してくるので、以前のように楽に振り切って帰るということも難しくなってきている。
で、最近最新鋭の長距離戦闘機が護衛に付くようになった。
キ83雷光。最高速度は日本機中最高の750キロだ。プロペラ機では限界とも言われている。圧倒的な高速力で、双発機というハンデを補って護衛を務めている。ただ、誉ではこれ以上の能力を持たせられないことが、高性能を手にしてしまい懸念されるようになった。
日本の小型機用発動機は誉であるが、熟成が進んだと言っても小型発動機。限界に近い。噴進発動機の開発がままならぬ今、大型機用木星発動機を小型機に搭載するか、新たなレシプロ発動機の開発をするかで議論が進んでいる。
だが今は、誉を使うしか無い。予定通りには行かないものである。
フェザーン油田の偵察行は成功した。しかし油断は出来ない。敵迎撃機も高度1万で600キロ以上平気で出す奴が出てきた。戦闘可能時間は少ないようだが。
情報部から回ってきた情報だと、特殊な仕掛けで出力増強をしているという。作動時間が20分も無いくらいなので、7000くらいから使い始めて邀撃位置に付く頃には残量が少なく、交戦時間も少ないという分析だった。
肝心の偵察結果は、相変わらず戦力を集中して防衛に入っている模様だ。
連山特別仕様機によるベルフィスヘルム偵察では、再び潤沢な物資が陸揚げされている模様だ。連山特別仕様機は高度1万1500を600キロという高速で巡航出来る。まだそこまで上がって迎撃可能な奴は居ないが、1万1000くらいだと速度は追いつかれている。損害が生じるのも時間の問題だろう。
フェザーン奪還作戦は、何回も案を出しては潰しの繰り返しでいいものがなかなか出来ないという。




