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突撃

 西方派遣艦隊攻撃隊が目標カルに突撃を始めたのは、敵の迎撃が始まってからだった。敵の迎撃機が予想よりも多く新型機も混じっており、雷撃隊と爆撃隊で集団をばらけさせるよりは固まって対処しようと万城目中佐が考えたからだ。

 味方戦闘機隊の踏ん張りもあり、損害は少ない。万城目中佐の乗る彩雲の電探で距離が20海里と観測された。

 皆じりじりしているだろうな。万城目中佐は思う。15海里か。10海里。今か。


「雷撃隊降下。爆撃隊上昇。突撃せよ」

『『『『オオ』』』』

『『『『突撃』』』』


 興奮している。


『総指揮官、俺も行きます。総指揮官機の護衛には諸星と天城を残しておきます』


 戦闘機隊指揮官の霧山少佐からだった。諸星と天城か。有り難く護衛して貰おう。



 高度4000で飛行していた攻撃隊は、雷撃隊は高度を落とし爆撃隊は上げていく。爆撃隊は機体が重いので思うように上がっていかない。雷撃隊は斜め前方に占位し、爆撃隊は右後方に占位する。位置取りは重要だ。

 直衛機の奮闘をくぐって、敵戦闘機が襲ってくる。それも1万までだった。敵機が去って少しすると爆煙が周囲を満たす。


『仙鶴一番隊、行くぞ』


 仙鶴一番隊が先鋒を切ったか。村松中佐だな。俺より1期上で先任のはずだが、俺に総指揮を押しつけて自分は降爆。うらやましくなんて無いぞ。ねたましいだけだ。いつか呪ってやる。

 仙鶴一番隊を皮切りに次々と急降下していく。


『瑞鶴三番。突撃する。続け』


 瑞鶴雷撃隊か。朝比奈中佐か。



 八十番2発の威力は凄い。今も敵空母が爆煙を上げている。なんだ!


「敵空母です。が…」

「どうした」

「爆沈した模様ですが…」

「じれったいな」

「早田機が爆煙の中に突っ込んだようです」

「何だと?」

「嵐機に続いて投弾後航過しようとして」

「出てきたか」

「見えませんでした」

「そうか」


 何も出来ることは無い。無念な思いを抱きつつ村松隊長は任務を続行する。



「敵空母爆沈」

「目標変更する。手近な奴を狙え」

「了解しました。後方の巡洋艦を?え?」

「どうした」

「デカいです。戦艦です」

「よし、行け」


 瑞鶴三番隊隊長朝比奈中佐機の目標は、目の前で爆沈した空母だった。変更した針路にある獲物が巡洋艦に見えたが戦艦だと?。なら戦艦は何だ?

 まあ今は目の前の獲物に集中するのみだ。僚機も同じ判断だろう。照準器を覗き込んだまま指示を出す。


「南原、右だ」

「右滑らせます」

「もうちょい」

「ちょい」

「よし乗った。そのまま」

「ヨーソロ」


 流星は復座だ。降爆は操縦員が投下(自動も可)するが、雷撃はどうする?と疑問が出た。

操縦員が投雷までやるのか?

あの超低空で操縦しながらか?

敵艦を見つめるあまり高度の把握がおろそかにならないか?

操縦に専念させた方が命中率が上がるのではないか?

 いろいろ疑問が出た。試作機や訓練では大丈夫だった。しかし、対空砲火の中に突っ込んで行くという常軌を逸した事態だと、人間はどうするのだろう。まさか実験する訳にもいかない。

 答えは出なかった。

 今回はその実戦データを集めると言うことで、後席偵察員が投雷指揮を執るのと、操縦員が投雷まで全部行う機体に別れた。後席偵察員が投雷指揮を執ると、後席偵察員が機銃を扱えなくなるために危険は増す。直衛機に頑張って貰うしかない。

 朝比奈中佐の瑞鶴三番隊は、偵察員が投雷指揮を執る。朝比奈中佐と操縦員の南原飛曹長は、九七艦攻の頃から長い付き合いだ。猛訓練を繰り返し気心は知れていた。


 南原飛曹長は、操縦員が投雷するのはずいぶん負担が有るぞと思った。実戦で対空砲火の中に突っ込んで行くのは、想像以上に怖い。操縦員が投雷する部隊は損害が多いのではないか。とも思う。

 計器板には設定された高度でランプがくようになっているが、敵艦に集中すると意識しなくなって反応が遅れるだろう。その結果は海面か弾幕の中だ。また、気圧高度計では正確に測れないという弱点もあり、電波高度計の実用化が急がれていると聞く。


「ヨーイ」

「ヨーソロ」

「テッ」


 魚雷2本の重量は大きい。嫌でも機体が浮き上がる。それを最低限に抑えなければ弾幕にやられる。下げすぎれば海面だ。どちらも嫌だから必死だ。敵艦の艦尾をかわして、海面を這うように逃げる。


「南原。命中バン命中バン命中バン

「良かったです」

「まだ気を抜くなよ」

「機体を降りるまでが雷撃でしょ」

「そのとおりだ」

 

 ようやく対空砲火の射程から脱出し直衛機と合流した頃には、戦闘は終わっていた。

 集まれ集まれの指示に、無傷な機体は総指揮官機の元に集合する。損傷や負傷した機体は先に帰路に就いている。



 帰投途中、艦隊に損害があり瑞鶴の飛行甲板が使用不能と通信が有った。二次攻撃隊が来なかったのは、敵機の襲撃が有ったせいなのか。

 帰投すると、一航戦は無事だったが二航戦がやられている。聞くと、二航戦のみが襲撃を受けたと言うことだ。

 帰投出来たのは8割だった。やはり高速になったといっても雷撃機は損害が多い。

 同じ頃、やや遅れてだが、ファイウォール公国海軍の戦果が送られてきた。 

 空母2隻撃沈となっている。他の艦艇にも損害を与えたらしい。

 同時にかなりの損害を受けたとも。

 空母数でこちらは6対4だが、あちらは同数だから仕方がない面もあろう。


 日没近くまで交替で張り付いていた彩雲によると、溺者救助の後、針路を変更。撤退したようだ。夜間高速で突撃してくる艦隊には気を付けないといけないが、この星の曲率なら遠くから電探で観測できる。不意を突かれる恐れはない。


 報告書の下書きを書きながら、万城目中佐は思った。




早田機は火の玉に… Ω\ζ°)チーン マンは居なかったんだよ。

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