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接敵

 第7次ファイオール公国輸送船団は、順調に東インド大陸西岸沖を航行している。

 遂にファイオール公国も東インド大陸と言う名称を使うようになった。

 護衛部隊も入れれば100隻を越える大船団だ。遠い船は艦橋の見張り用大口径高倍率双眼鏡を使っても、水平線にかすかに見える程度だ。



 そこへ通信が入った。


『発 スカイラーク2 宛 ヒバリの巣 北ソレイル島北東1200キロに艦影発見セリ』


 ざわついた。ここまで1000キロ以上有る。時間も正午前くらいの時間だ。距離的に航空攻撃は無いだろうが、警戒レベルを上げるよう指示が走る。

 向こうも網を張ってたのかも知れない。電文を圧縮してコンマ秒程度の短時間にすれば、気が付く可能性も減るだろう。しかし、それだとサリナス島近辺に敵潜水艦が潜り込んでいることになる。後で対潜哨戒を厳重にしなければ。サリナス島近辺には中小の海洋性混沌領域が確認されていて、日本海軍は「潜水艦の運用は危険」と言っていた。それで油断したのかも知れない。日本海軍としては、平時の運用を言っていた。戦時になれば多少の危険は置かしても敵情偵察を優先するのだが。


 発信元のスカイラーク2は、ポートカイタック搭載水上偵察機の符丁だ。凡庸と言われる機体だが、その取り柄は4000キロ近い航続距離にあった。三座水偵よりも飛べる。


『スカイラーク2 レーダー波受信 ワレ避退ス』


 余裕が無いのだろう。電文が短い。

 日本が索敵機を発艦させると言ってきた。電波の減衰が大きいこの星なら、隊内無線程度の電波強度でこの距離なら敵に受信される恐れは無い。

 共闘する上で欠かせない使用機材のおおよその性能が記された資料を渡されている。渡された機材一覧に高速艦上偵察機が有った。最大速度650キロを発揮し最大4000キロが飛行できる、とんでもない機体だった。

 今の時間から発艦すると帰りは暗いが、着艦は大丈夫なのだろうか。

 日本艦隊から、2機の索敵機が発艦していった。 



「おお、おるな」

「多いですね。うちらと同じくらいでしょうか」

「右同高度。機影。回避します」


 索敵機として敵艦隊上空にたどり着いた羽二番。一航戦仙鶴所属だ。操縦は大山飛曹長。機長で偵察員の宗方中尉。機銃員の鈴木一飛だ。既に接敵の一方は発信してあり、今は艦隊の全容を掴もうとしている。もう1機の羽一番は、離れたところに別働隊が居ないか探っている。



 西方派遣艦隊に索敵機から発信された敵情は脅威だった。


 羽一番からは

『大型正規空母4 戦艦2 大型巡洋艦2 巡洋艦8 駆逐艦15隻以上』


 羽二番からは

『大型正規空母4 戦艦4 巡洋艦6 駆逐艦20隻』


 別働隊は居た。空母4隻を基幹とする機動部隊が2群だった。内容はファイウォール公国船団に転送済みだ。

 羽一番が発見した集団を[カル]羽二番が発見した集団を[エサ]と名付けると、ファイウォール公国船団から通達があった。向こうでは識別に聞き間違えが無い発音の言葉を使うという。同時に担当目標を[カル]を日本、[エサ]をファイウォール公国が受け持つと言ってきた。戦艦が多い方が主役だと思うのはわかるし、今作戦はファイウォール公国が主役だから受け持つのだろう。言っていることは理解できるので、了解をしておいた。


 針路は当然こちらに近づく針路を取っていた。こちらからも近づけば夜間に遭遇する。それは避けたかった。ファイウォール公国船団とも協議の上、いったん進路を変更。明日午前中に航空攻撃範囲に入る距離を保つことにした。輸送船団は夜の内に東インド大陸海岸まで避退する。

 艦艇の性能は大差無いようだから、巡航速度も似たようなものだろう。と言う推測の上で、翌日天文薄明前に索敵機を艦隊西側90度に振り分けて発艦させるとした。

 索敵線は彩雲が12機、水偵が10機で22本の索敵線を構成。輸送船団後方には時差で彩雲を追加。輸送船団の安全確保を図った。


挿絵(By みてみん)


 索敵線の彩雲が無事敵艦隊2集団を発見したはいいが、針路が拙かった。何故かファイウォール公国船団を追うような針路になっている。偶然なのか、こちらの行動を読んでなのかわからない。行動を読んでなら、非常に拙かった。

 艦隊針路を180度回頭。間に入るように持って行く。その間にも空母では対艦装備での出撃準備が進められている。

 1時間後、電探に単機の反応が有った。逆探に反応は無い。機載電探は持っていないのだろうか?それと探知できない周波数なのか?


 西方派遣艦隊司令部では、敵索敵機をどうするか迷っていた。結局電波が発信されるまでは放って置くことにした。

 見つからない方に賭けたのだった。ファイウォール公国艦隊でもそう判断したらしく、直衛機が向かってくることもない。


 だが、世間は甘くなかった。


「敵機、電波発信中」

「司令長官」

「撃墜せよ」


 電探誘導を受けた直衛機が敵索敵機を撃墜したのは数分後だった。その間にもかなりの電信を打っている。西方派遣艦隊の概要は知られたと思って良いだろう。ファイウォール公国艦隊が見つかっていないらしいのは幸いだった。


「二航戦より報告。発艦準備完了」

「こちらも征けるな?」

「問題ありません。一航戦も準備は出来ております」

「では征こうか。発艦始め。目標カル」

「全艦発艦始め。目標カル」


 一段と発動機が唸り発艦していく。戦闘機のうち滑走距離が短い機体はカタパルトで、十分な滑走距離が取れれば自力発艦していく。流星は全てカタパルトだ。

 一航戦は烈風と流星。二航戦は紫電と流星で編成されている。

 ガミチス艦隊の位置は、彩雲が通報してくれている。その速度で敵迎撃機を躱しながらだ。一航戦各艦は彩雲を4機搭載しているので、時差で飛ばして敵との接触が途切れないようにしている。



「そろそろ誘導電波が発信される時間だな」


 一航戦攻撃隊指揮官万城目淳中佐は、呟いた。独り言だ。反応されるとは思わなかった。


「そうですね。位置が予想通りならいのですが」

「なんだ、聞かれたか」

「近頃のレシーバーは性能が良いです」

「二号の伝声管とは大違いだな」

「大声で言っても聞こえなかったりしましたから」

「お前も古株だな」


 操縦員の戸川准尉は水兵から航空に入った努力家で特務准尉と言うことも有り、一航戦でも有名人で同時に上官からは扱いに注意しないといけない人物だった。本人の人柄は悪くないので、評価は高い。


「なあ、戸川。あれに乗りたかったな」

「確かに、あれで雷撃を決めたいですね」

「すまんな、付き合わせてしまって」


 万城目と戸川が搭乗しているのは彩雲だった。操縦・戸川、偵察・万城目、機銃・太田の3人だ。

 あれとは流星。最新の、艦攻・艦爆を兼任し、ある程度の空戦能力もある万能機だ。


『羽四番から各機。敵機の追撃を受けている。新型だ。速い。後続は注意されたい』


 先行してカル上空にへばり付いている彩雲の羽四番から、重大な情報が届いた。


「羽四番。お空の大将。羽四番より速いか」

『お空の大将。羽四番。こちらが速いが速度差は少ない』

「羽四番。お空の大将。了解」


 報告だと、500キロ台中盤の速度だったが、新型か。


「各機。羽四番より敵新型戦闘機が速いという報告が有った。注意されたい」

『『『『『了解』』』』』


 数分後、羽四番から誘導電波が発信された。追撃を無事退けたか。

 その後すぐに敵電探波を受信。

 敵迎撃機が向かってきた。




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