ディッツ帝国 反攻 抵抗
雨の間にガミチス帝国は戦線を下げていた。ディッツ帝国は追う事はしなかった。そんな余裕は無かったから。
ガミチス帝国が後退したのは彼等が第3飛行場群と言っている場所だった。ここに堅固な陣地を造成している。ここを抜かれれば、フェザーン自治区首都フェザーンまで遮る物は無い。その向こうにはフェザーン油田がある。ここを勝負所と見たのか、あるいはまだこちらの反撃を覆すだけの兵力が無いのかは分からない。
困ったのは、エリア11から15までの飛行場群からの距離だった。
彼等の陣地まで400キロ、第3飛行場群までは500キロ有った。
偵察は百式司令部偵察機が行った。更に上昇限界で百式司令部偵察機を上回る連山排気タービン装備型も偵察に投入され高度1万1500から偵察を行っている。この高度まで上がってくる敵機は居なかった。ただ冬期であり上空の気温マイナス50度という環境は搭乗員には酷で、長時間の高高度飛行で健康を害する塔乗員も出た。
さすがに多数のカメラを装備出来る連山の偵察能力は高く、百式司令部偵察機の結果と合わせて、敵情を詳細に調べることが出来た。
敵は多数の塹壕線を築き、トーチカらしき建造物も多数造られていた。当然対戦車戦も考慮に入っているだろう。高空偵察なので偽か本物かの区別は付かないが厄介なことには変わりない。
ディッツ帝国参謀本部は損害が多数でそうないたずらに拙速での攻略は諦め、まず前線飛行場を複数造ることから始めた。
戦線から100キロから200キロの間に3個以上建設する。それからが勝負だと。
その間の戦線維持は空軍の仕事だ。
ガミチス帝国も守りを固め戦闘機の機数が多い。おなじみのOs109FとTe192、Os210に加え双発戦闘爆撃機らしい新型が増えていた。中でもTe192は性能向上型らしく翼幅が広がりエンジンも強力な物に変えたのだろう、速度と高空性能が上がっている。厄介になった。
それでも1万1000までは上がれないのでまだ排気タービン付きなら百式司令部偵察機五型でも無理して上がれば大丈夫だった。速度も1万メートルで600km/h出るかどうかなので待ち構えられなければ振り切ることは出来た。
「クソ、届かん」
自分がいるのは高度1万1000だ。敵の四発機はどう見ても1万1000以上の高度を飛行している。速度は大差ない。四発機の方が少し速いだけだ。だが、撃とうとして機首を上げれば途端に高度が下がる。この機体では限界の高度だった。実用上昇限度1万1500じゃ無かったのか。
『ルーク3、キャッスルだ。迎撃は失敗した。他の機体も届かなかった。帰還せよ』
「ルーク3、了解」
ルーク3ことマイヤー兵曹長は自機であるTe192Cに自信を持っていたが、これでも届かないとは敵機はどういう性能なのだろう。
Te192CはTe192Aの高空性能を上げるべくエンジンの強化と弦長を変えないまま翼幅を広げ高空性能を上げようとした。
その目論見は成功し、Te192Aの空冷1400馬力エンジンから空冷1800馬力に代わったエンジンと大直径三翔プロペラのおかげで高度6000で580km/hから630km/hに上がった速力と、一段三速という複雑な機構を持った過給器のおかげで高度1万メートルで600km/hを出せた。幅広主翼のおかげで高空でも飛行姿勢は安定していて1万でも戦闘機動が出来る高高度戦闘機になったのだ。
それでも足りない。
一段三速過給器は二段二速過給器が上手くいかず暫定的な物だがほぼ同じ圧縮を得ることが出来た。吸気温度が空気圧縮で高温になるのでインタークーラーで二速目の過給空気を冷却し、それを三速目に入れることで高空でも過給圧の維持が出来たが、更に三速目の過給空気も冷却して高空でも低空と同じ出力性能を維持している。そのためインタークーラーが大型な上に機構も複雑で重くなってしまっている。インタークーラー用冷却空気取り入れ口も大きい。
そのせいで額面よりも性能が出ないのではないか。
マイヤー兵曹長はそう考えていたし、他のパイロットも概ね同じ考えだった。
マイヤー兵曹長達は悔しい思いをしたまま帰投した。
飛行場に着陸し駐機位置まで機体を持っていった。後は整備隊の仕事だ。
「マイヤー、どうだった」
「ダメです。シュトライト中尉。この機体でも届きません」
「そうか。こいつでもダメか」
整備隊のシュトライト中尉だ。整備隊もこの複雑な機構には悩まされていた。でもMB601系統のエンジンよりも整備は楽だそうだ。
「マイヤー達高高度迎撃隊には関係ないかもしれんが、Os109の新型が来ている。見てくるといい」
そう言って帰還した機体の整備指揮を取り始めた。
Os109の新型か。見に行くか。
人集りを更に増やすべく野次馬になりに行った。
「よう、ドメル司令。新型は如何なんだ?」
「司令と言うな。名字が同じだけで親戚でも無い。雲の上の人だ」
「悪いな、ドメル一曹。で、どうだ。良さそうか」
「性能は上がっているが、高空性能は変わらないらしい。7000以上はダメだな」
「そうか。Te192Cでもあの四発機と覗きカラスを捉えられない。期待してみたが」
「ダメなのか?」
「ダメだった。多数機で待ち構えても、こちらの飛行限界から上を飛ばれてはどうしようも無い」
「そりゃ仕方が無いか。せっかくの新型なのにな」
そう言って、Os109の新型に再び注目した。
Os109G/2
全幅 10.8メートル
全長 9.4メートル
全備重量 3.7トン
最高速度 650km/h 5800メートル
エンジン
MB603/B 液冷倒立V型12気筒
離床出力 1650馬力
1速公称出力 1580馬力/2200メートル
2速公称出力 1450馬力/6000メートル
航続距離
巡航 1200キロ 投下タンク装備時+600キロ
武装
20ミリモーターカノンMG20/M3 1丁装弾数100発
MG14 2丁 装弾数各150発
爆弾
200キロ爆弾1発
「大きくなっているのか」
「主脚がな。普通の内側収納になった。主脚のトレッドの幅が広くなった。これで離着陸時の事故も減るだろう。翼も広く厚くなった。低速の安定性もよくなった。消火と防弾も強化された。新米には有難い機体だ」
「航続距離も少しだが増えているのか。それに主翼の機関砲が付け根に移ったな」
「主翼の燃料タンク容量が増えたそうだ。主脚と燃料タンクのせいで主翼が大きく重くなっている。嫌う奴もいる。だが、主翼外側の機関砲が内側になったんだ。エンジンも強力になった。運動性は大して変わらんと思うぞ」
「だが、これから全部これだよな」
「その通りだが、Fの軽快さを好きな奴も多い」
「贅沢だろ。EからFに替わったときも同じ事言ってたぞ」
「他の奴には言うなよ」
「分かった」
新型は若干軽快さには欠けるものの、総合性能では結構な向上を見せており先ずは文句を言えない機体になっていた。
大戦後半の主力機Os109Gシリーズの登場だった。
Os109がまだ主役なのは、安くて量産性が良いからです。エンジンはお高めですが。機体が安い。
調達価格がTe192よりも安いので、安くて性能がそこそこという、調達する方からすればありがたい機体です。




