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転移国家日本 明日への道 改一  作者: 銀河乞食分隊
ディッツ帝国防衛戦
176/245

南大陸攻防戦 第二次北岬沖航空戦

 ガミチス空母部隊は索敵機を飛ばしていた。昨日、小癪こしゃくにも100機程度の編隊で損害を与えてくれた空母部隊を探していた。

 既にディッツ帝国海軍第一機動部隊は自軍の防空圏まで後退していた。ついでに言えば航空機を消耗してしまって拠点である東海岸のキールまで後退することとなっていた。

 第二機動部隊はあるが8500トンの商船改造空母2隻であり、練習用艦隊だった。例の複葉機を運用する空母である。


 ガミチス艦隊は索敵機を飛ばす物の敵艦隊の動向を掴めなかった。

 そこへこの通信である。


【発S-227。ヘパストイ島北東500キロに大規模空母部隊発見。大型空母2隻以上戦艦を含む艦隊】


 艦隊司令部では作戦要綱でS-227の行動予測範囲を確認した。S-227はヘパストイ島を大きく北方に迂回。通商破壊戦に従事するとなっていた。

 艦隊司令部は迷った。

 作戦通りにエルメへの空襲と、ヘパストイ島攻略を行うべきか。

 最大脅威と見られる空母部隊と戦うか。

 作戦中止からの撤退は問題外だった。

 そして迷った彼等は、決断を東部戦線司令部に預けるという姑息な手段を執った。

 ドメル東部戦線司令長官は呆れると共に、敵艦隊への対応を決めていなかった作戦要領に不備が有った事も認めた上で「最大脅威に対処されたい」と、ボールを投げ返した。

 艦隊司令部は空母部隊との決戦を決意。後方のヘパストイ島攻略船団には後退を指示。空母部隊が敗北した場合は直ちにバラン島へ帰還するよう命令した。

 護衛艦隊からは戦闘機を送るよう要請。


 ただ彼等は知らなかったが通信は傍受されていた。いくら減衰が激しいとは言え艦隊と東部戦線司令部との通信は高強度通信であり、日本第一機動艦隊へも電波として届いた。





 ここは海龍作戦室。


「長官、直ちに接敵すべきかと考えます」


 川村参謀長が発言する。敢闘精神か?


「本職もそう考えます」


 西田作戦参謀だ。イケイケしかいないのか。


「今接敵すれば、直線行動となり発見されやすくなります。時間が迫っているわけではありません。欺瞞航路をとっても良いと思います」


 斉藤航海参謀の発言。慎重だな。


「敵機の性能が分かりません。焦って接敵すると危険かと考えます」


 姫川航空参謀だ。その通りだな。


「油には余裕があります。行動は自由です。敵後方、西ですね。回り込むことも可能です」


 藤田機関参謀か。我々は時々油を忘れるからな。有難い。


「敵艦隊は一時下がっています。無理に接敵せずに、明日しっかりとした索敵を行えば良いのでは」


 海龍艦長中川大佐だ。俺もそう思うよ。


「皆の意見は分かった。私は敵上陸船団への攻撃を試みようと思う。敵機動部隊が食いついてくれればそれを叩く。敵機動部隊がこちらを無視して、まあ無視はしないだろうが、それでも万が一と言うことはある。無視されたら上陸船団を撃滅する」


 第一機動艦隊司令長官柳本柳作中将が決定をした。

 皆、機関参謀を見た。兵機同一の効果が出ているようだ。





 第一機動艦隊は潜水艦と見られる電波源が至近から発信され、見つかったことを確信する。

 その上で対潜警戒を厳とし、之字運動をしながら西進する。

 陣形は両側前方に水雷戦隊を。その後方に直衛艦を。中心には十三戦隊を先頭に、一航戦、五戦隊、、四戦隊と続く三本の単縦陣だ。機関と航海、特に見張り員は気が狂いそうな苦労をしている。艦橋に詰めている者の中には胃を抑えている者もいた。

 その苦労も日没で終わりだ。さすがに事故が怖い。電波管制を緩くして、隊内無線と電探を動作させる。速力を聴音可能な速力まで下げ、ときおり小さい角度での変針をするだけにする。電探は各艦最新型で潜望鏡も見える。それでも航海灯を消しているので前の船は闇の中だ。電探の中にのみ存在した。転移前のように驚異的な夜間視力を持った見張り員は少なくなった。


 夜でも忙しかったのは対潜警戒態勢と言う事で見張り関係であるが、他にも航路作成や作戦計画で参謀達は忙しかった。

 無事夜明けを迎えた第一機動艦隊は、再び輪形陣へと移行する。まだ日本海軍は空母を使った実戦経験は無い。ディッツ帝国の方が先に行った。弟子に先を越された気分だ。

 輪形陣は海龍と仙鶴と直衛艦を中心に四戦隊・十三戦隊を加え外周に三水戦の輪形陣と、慧鶴・夕鶴と直衛艦を中心に五戦隊を加え外周に五水戦の二個の輪形陣とされた。艦隊の運動性を考えた陣形であるが、空母四隻とその直衛艦を中心にすればかなりの対空火力であり、そちらの方が良いという声もある。

 演習では甲乙付けがたかったのだが、ここは対空火力よりも運動性を優先とした。

 陣形を整えた艦隊からまず対潜哨戒機が発艦する。次いで索敵機が次々と発艦する。

 各艦には2機ずつ試製彩雲が搭載されていた。

 その彩雲が発艦していく。海軍期待の高速艦上偵察機だ。他には彗星と天山が発艦していく。彩雲は電探と逆探を最初から装備しているが、彗星は小型の物を両翼下に、天山は胴体下面に魚雷と同じような形状の電探内蔵の装備筒を装備した。彗星も天山も、いざという場合は投棄しても良いことになっている。

 各空母から総数16本の索敵線を艦隊正面から南方を周り後方まで伸ばした。北方向に敵艦隊がいる確率は極めて低く、北方の索敵は艦艇搭載の瑞雲が担当した。

 この時、配備された航空機は空母に零戦・彗星・天山・試製彩雲で、水上機は瑞雲と零式三座水偵だった。


 索敵は徒労に終わることが多い。だが一番重要な任務だった。搭乗員は最大限緊張感を持って臨んでいる。

 その索敵線の内、南南西に向けた2本で電波を受信した。電探に使われたと思える周波数と定期的な強弱だった。発信源の方向を突き止め低空に逃れた後、帰投した。電波発信は見つからない限り許可されていなかった。

 次いで南南東の2本も電探波と思われる電波を受信。同様にして帰投した。


 この2ヶ所の電波源に対して、おそらく南南西の電波源は上陸船団。南南東の電波源は機動部隊だろうと考えられた。

 どちらを目標とするのか議論が分かれた。どのみち対艦攻撃なので対艦装備を命令してはある。

 上陸船団と見られる艦隊を攻撃することとなった。機動部隊がいくら頑張っても上陸は出来ない。だが、万が一我が艦隊が敗れればヘパストイ島に上陸されてしまうだろう。ここは上陸を阻止するべく動く。

 

 戦術目的はヘパストイ島攻略の阻止。上陸船団を壊滅させ敵の行動を挫折させる。

 艦隊は対潜哨戒機の露払いを受け、それまで長門の巡航速力16ノットだった速力を上げ西進する。艦隊速力は20ノットとした。推定される上陸船団の位置からして攻撃は午後の1回だけになりそうだ。

 明日に延ばすことは出来ない。敵機動部隊が沿岸を荒らし回る可能性がある。こちらに気を向かせディッツ帝国から手を引かせる事も考えの中に入っている。

 もう1度索敵機を発艦させる。今度は南南西に集中して出した。彩雲のみだ。敵を300海里以内で発見したら発信するような手筈になっている。

 ジリジリとした時間が過ぎる。そして待望の通信が届いた。

『ワレジョウリクセンダンハッケンセリ』

 その後敵推定位置等を次々と送ってきた。格納庫の機体が飛行甲板に上げられ、次々とエンジンを始動。暖気に入る。全機空冷なので立ち上がりは早い。

 帽振れに送られ、カタパルトで発艦した機体が上空で旋回している。自力発艦可能な甲板長が確保されると自力発艦していく。舷側エレベーターで格納庫から次の機体が上がってくる。

 推定距離250海里。ほどほどの距離だった。船団は輸送船50隻程度に護衛空母3隻、軽巡が2隻と駆逐艦12隻となっている。

 そこに零戦68機、彗星76機、天山64機が襲いかかる。彗星は50番装備。天山は全て雷装だ。 

 上陸船団上空の彩雲は高速で敵迎撃機から逃げ、長大な航続距離が攻撃隊が到着するまで船団上空で粘ることを可能とした。

 



『全機、目標は輸送船だ。数が多いからな。焦って同じ目標を攻撃しないように』


 目標まで30海里となったところで無線で攻撃隊指揮官笹本中佐の声が聞こえる。零戦の一部が高度を上げていく。

 通信機を隊内無線に切り替え


「聞いたな。敵の護衛は少ないようだが油断するな。出来る限り高度を低く取るのを忘れないように」


 仙鶴雷撃隊指揮官門川大尉は部下に告げる。


『『了解』』


 全機帰るぞ。門川大尉は思う。


「零戦、一部離脱します」


 敵機か。よく見えるな。俺にはゴマ粒にも見えん。離脱して敵迎撃機の阻止に向かったのは一航戦戦闘機隊だ。

 おそらく日本海軍最強の戦闘機隊だろう。合同演習では陸軍の精鋭と互角に渡り合うという噂だ。


『敵至近だ、攻撃態勢作れ』


 笹本中佐の声が再び聞こえる。電信の時代だったら「トツレ」で信号弾だったな。一応信号弾も上がるのか。丁寧な仕事だ。ああ言う人が指揮官なら安心出来る。

 彗星が高度を上げ、天山が高度を下げる。零戦がまた迎撃のためか離脱していく。それでも雷撃隊周辺に10機以上いてくれる。心強い。


 目の前には輸送船の群れが見える。よりどりみどりだ。手筈では海龍攻撃隊が先頭集団、仙鶴隊が中間集団。慧鶴隊が後方集団。夕鶴隊が護衛空母など護衛艦担当となっている。


   『全機突撃せよ』


 笹本中佐の声が響く。母艦に届くようにだと思うが『ト連装』までしている。


 船団に対して過剰とも言える攻撃力では、護衛戦力の努力が実ることはなかった。

 偵察によると、輸送船28隻撃沈、護衛空母2隻撃沈、駆逐艦4隻撃沈。輸送船15隻撃破、軽巡1隻大破、軽巡1隻撃破、駆逐艦4隻撃破。となっていた。

 

 こちらの損害はと言うと攻撃終盤になってやって来た敵増援により、零戦7機、天山6機の未帰還が出た。別に突入時、彗星2機、天山3機が対空砲火で落とされている。彗星の損害が無かったのは、投弾後で敵戦闘機よりも高速だったからだ。零戦は避退する天山を守るべく戦い散っていた。


 明日は如何するか。司令部ではまだ議論が行われていた。




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