南大陸攻防戦 新型機?
オーベルシュタイン少佐はバラン島へ向かう船に乗った。
オーベルシュタイン少佐が命じられたのは、バイエルライン少将と共に東部方面軍に対する空軍情報部の実情と、やはり情報七課の実情を中央にいかにして伝えるかだった。
二人は出来るだけ大きな会議で実情を訴えることを目標にした。出来れば総統臨席の会議でだ。と言ってもドメル東部戦線司令長官が言うには1ヶ月以内でどうにかしろと言うものだった。3ヶ月後に大きな作戦を発動するのでそれまでに帰って来いとも。
バイエルライン少将は取り敢えず本国へと向かうことにした。ここで考えていても本国がどう動くのか判らない。
それに期日の余裕がない。既に四日経っている。本国へと帰る高速輸送船に便乗して行くのだった。
二人を含む一行がガミチス本土の土を踏んだのは五日後だった。この時点で九日過ぎた。
各種所用を済ませるために散っていった随行者とは別に、バイエルライン少将はオーベルシュタイン少佐を伴って、ガミチス軍本部へと向かう。
ガミチス軍本部は陸軍、空軍、海軍の三軍を統括する施設で、それぞれ専用の建物を持ち中央本部ビルを取り巻くよう建設されていた。
一番大きいのが陸軍局で次いで海軍局、一番小さいのが空軍局だ。先々代総統の命令で作られたこの建物群は、中々機能性に優れているとの外部からの評価である。務めている人間には評判が良くない。特に陸軍局は増築に次ぐ増築で迷路のようだと言われ、迷ったら中央本部ビルを目指せとも言われるほどだった。
バイエルライン少将はまず指揮系統最上部の陸軍長官との面会を求めた。北部戦線と並ぶ重要な戦線である東部戦線からの来客と言うこともあり、翌日午前の面会予定が確保された。
西部にある大きな島は、獣人がほとんどで科学技術はほぼ無いという現状では占領する旨味は無く、接触に止まっている。西部戦線の規模はかなり小さい。ほとんどが偵察艦隊で占められている。
北部戦線は東部戦線よりも重要度が高いと見られた。そのために戦争資源が北部戦線に多くを割かれていた。
今回の目的の一つはそれだった。寡黙な男の努力では補えない量を回して貰うのだ。
「バイエルライン少将良く来た。重要な報告かな」
「モーデル陸軍長官もお変わりなく」
「では本題に入ろうか。戦力か、余り出せんぞ。北部の足固めを行っている最中だ」
「戦力は欲しいですが、それ以外にお願いがありまして」
「うむ。聞こうじゃ無いか。この耳はまだ良く聞こえるぞ」
(盗聴器なら心配いらん。盗み聞きする奴もいない)
「実は空軍情報部と情報七課が情報隠蔽をしています。我々東部戦線司令部には、奴等にとって都合の悪い情報が流れてきません。これでは正常な判断が出来ません」
「そうか。いかんな。実はな北部からも同様の事態が報告されている」
「北部もですか」
「奴らは戦争をしてはいないのだろう。どこを目指すのか」
「私には理解不能です」
「私もだ。それでどうする気でいる?」
「実はあと1ヶ月半ほどでドメル司令が、いえ、失礼しました。ドメル東部戦線司令長官が大きな作戦を発動する予定です。その時まで情報部の介入を出来る限り退けたいと」
「既に自分達で情報収集体制を整えているのか?」
「不十分ではありますが、変な情報に振り回されずに済みます」
「北部でも同じ事を始めているよ。情報部の件は私だけではどうにもならん。海軍長官と空軍長官の協力もいる。三日後に総統閣下に現状を報告するのでその時、同行せよ」
「よろしいのですか」
「構わん。三軍首脳部と総統閣下で現状を認識する必要は常にある。今回もその一つに過ぎない」
「ありがとうございます。では三日後また。失礼します」
「予定は後で秘書官から連絡する。では下がって良し」
「「ハット・デストラー」」
「ハット」
三日後、総統臨席の会議で空軍情報部と東部戦線では情報七課、北部戦線では情報六課のことが議題に出され、この報告を重く見た総統自らによって空軍情報部と情報六課・七課の綱紀粛正と正常化が始められた。
同時に、ドメル東部戦線司令長官発案の攻勢作戦の許可が下りた。この作戦は方面軍の権限を越える作戦であり許可が必要であった。この作戦が完遂されればディッツ帝国の息の根は止まるはずだった。
作戦は硝石鉱山の奪取である。奪取が不可能な場合は完膚なきまでの破壊と言う事に成る。
作戦は部族連合地域内からイゼルロー低地を通過しての北部重要地域エルメへの大規模攻撃。
ヘパイスト島への海軍歩兵上陸。ただし見せかけであり、可能でも占領をせずに切りを見て引き揚げる。
これらは敵兵力分散により、南部での攻勢が楽になるようにしかけられる牽制である。
作戦主体が海軍であるため、南部で主役の陸軍と空軍には戦力低下はない。
南部での攻勢が息切れしないように更に備蓄物資の上積みを図る事も許可された。
その中で比較的重要だったのが通称「のぞきカラス」と呼ばれる高速偵察機対策だった。
Os109E3では撃墜困難で、性能向上型であるOs109F2でも高空だと逃げ切られてしまう。捕捉できる新型高速戦闘機を求めてのことだった。損傷を与え撃退したことはあっても撃墜事例が無かったのだ。(百式司令部偵察機の防弾装甲にはボラールのウロコが使われていて二十五ミリ機銃も弾く。それでも非装甲部への被弾で飛行不能になり、実際は未帰還数機の損害が出ている)
行動前に作戦規模や作戦意図が丸裸にされるのは困る。撃墜できないまでも近寄らせないことが重要だった。
「バイエルライン少将とオーベルシュタイン少佐だな」
「そうであります」
「高速機が欲しいそうだが。報告書に有った高速偵察機対策か?」
「そうであります」
ガーランド空軍長官とヘフナー空軍参謀長が居た。
「この報告書を見るまで、こちらには伝わっていない」
「本当ですか」
「そうだ。この件は現在調査中だ。情報部の奴らは、自分達に都合のいい情報しか送っていないことが判明している。総統閣下の直命であり、徹底的にやる。今後、通風しはよくなるだろう」
ヘフナー空軍参謀長が言う。更に、
「高速機なら試験中の機体が数機回せる。Os109Fの改造機だが取り扱いが面倒でな。制式化するかどうかは判らん」
「速いのでしょうか。特に8000以上で速くないと逃げられます」
オーベルシュタイン少佐が発言する。
「君はパイロットだったな。Os109Fの改造機は高度5000以上で20キロ以上の増速が可能だ」
「それならギリギリ捉えることが出来るでしょう。しかし、取り扱いが面倒とは?」
「後で資料を渡す。それとオッサーシュミット社に行って現物で評価しろ。それと東部戦線への機体は400機ほど追加できそうだ」
「「ありがとうございます」」
「うむ。諸君の健闘を期待する」
「「ハット・デストラー」」
「「ハット」」
資料を貰いオッサーシュミット社へ出向いた両名は、応接室に通された。
「良くおいで頂けました。オッサーシュミット社技術部ガウスです」
「「よろしく」」
「さておいで頂いたのは、Os109Fの改造機が目的だと聞いております」
「そうです。なにかエンジン改造で高速化しているとか、資料を見ても良くわからんのです」
「そうです。改造です。簡単に言えばエンジンに酸素を余分に送り込んでやろうということです」
「酸素ですか。確か笑気ガスを送り込むと書いてありました」
「細かいことはどうでもいいでしょう。使えるか使えないかですね」
オーベルシュタインが、空気を読まない発言をする。
「そういう事です」
ガウスは気にしていない。
「速度は30キロほど向上します。ただし全開だと10分間程度しか持ちません。ガスの搭載量を増やせば延長も可能ですが、重くなるだけなのでテストパイロットから評判は良くないです。機体重量で80キロ重くなります。延長させるには更に重くなりますな」
「ではガスを使い切ってしまえば」
「はい。重いだけです。ついでにいえば整備が面倒になりますし、遠隔地ですとガスの補給問題が重いです」
「問題ですね」
「当社は小数機なら問題ないと考えます」
「如何するか。オーベルシュタイン少佐」
「貰って帰りましょう。使いでを実戦テストすればいいと思います」
「そうか。ガウスさん、数機でいいので東部戦線へ持って行きたいのだが」
「空軍から聞いております。準備でき次第送ります」
バイエルライン少将とオーベルシュタイン少佐はこれで帰ることになる。
Os109Fの改造機はGM-1ブースターの調整が難しいため好不調が激しく、使えば点火プラグを全交換とか整備も面倒。オマケに数回使用するだけでエンジンのO/Hを強いられるなど、試作品の域を出ていない。また、ガスが切れるといきなり速度が低下するなど使いづらく、結局は試験採用に止まった。後にタンク容量を増やし整備性などの完成度を上げ防空戦闘機に再び積まれることになる。
だが、百式司令部偵察機を撃墜することには成功。
偵察飛行が一時低調になる成果を見せた。
一時的に偵察飛行の妨害に成功したガミチスは、最前線後方100キロ地点に一次物資集積所を、50キロ地点に二次物資集積場を、通常の物資集積所とは別に構築。ディッツの目をごまかすことに成功する。




