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転移国家日本 明日への道 改一  作者: 銀河乞食分隊
ディッツ帝国防衛戦
171/245

南大陸攻防戦 何処にでも足を引っ張る奴はいる

 Os109F2がフェザーン前進基地に配備が始まったのは、戦争開始後1年半以上待たなければいけなかった。その間のパイロットの喪失数は馬鹿に出来ないほどだ。

 まず本国で教育・錬成用に配備が始まり、次いで南ソレイル島、最後にフェザーン前進基地だった。


 ディッツ帝国での戦いはガミチスがジワジワと戦線を押し上げて、遂に本国まで100キロに迫っていた。

 ガミチスはクルツブルクと硝石鉱山の情報を得たようで、主攻線が完全に南部戦線になっている。中央戦線や北部での部族連合による攻勢は牽制の為がほとんどで、ちょっと手を出してはすぐに後退ということをしている。

 それでもディッツ帝国としては、戦力を対応せずにはいられないため厄介だった。特に中央部が開戦後強化されたとは言えほぼ無防備に近く、多くの労力を割かれた。


 通商破壊戦も行われており、開戦後20万トン近い商船が沈んでいる。これは保有商船の2割に達する大被害であった。これは転移前、海上輸送の多くを費用の安い植民地や属国にやらせていたためで、帝国保有船腹量自体は経済規模に対して多くなかった。

 現在はボンビーされた鉄道網の復旧がある程度進んだので鉄道輸送を増やしているが、完全に復旧した訳では無く輸送能力は限界に近い。


 対潜能力自体も一応装備していると言う程度で、機材の性能も艦船乗り組み員の能力も足りていなかった。転移前の状況では対潜能力は重視されておらず、周辺国の潜水艦も能力の低い船が少数という状態では仕方が無かったと言える。

 転移後も日本が大型海洋性混沌獣を警戒して領海以外には潜水艦を進出させていないという現実から、対潜能力の強化はされていなかった。


 その結果がこの大被害であり、ディッツ帝国の沿岸航路以外は航海が難しい海域になっていた。石油輸入は日本タンカーが頼りだった。

 ガミチスは日本という正体不明国家に対する警戒はしており、日本船舶に対する攻撃は一切無かった。

 接触すれば日本が敵になる確率は高く、接触も禁止されていた。

 ただこれまでの情報から、ディッツ帝国が戦争を継続できているのは日本在ってこそと理解はしていた。


 

 クルツブルクと硝石鉱山への航空攻撃は、激化の一途を辿っている。硝石鉱山は10%の能力低下が見られ、クルツブルクでも少なくない被害が出ていた。

 敵戦闘機の航続距離が短く硝石鉱山への航空攻撃には護衛が付いているが、クルツブルクへの航空攻撃には護衛が付いていないと言っても良かった。

 硝石鉱山への航空攻撃の護衛はOs109E3であり、護衛目的ならかろうじて果たせた。

 クルツブルクへの航空攻撃には護衛戦闘機が航続距離の関係でOs109E3では不可能でOs210Bが就いていた。

 Os210Bは双発復座で、到底迎撃に出てくる単座戦闘機の相手が出来る機体ではないが他に無いのも事実だった。

 爆撃機の双発小型爆撃機Os97Dは、MB600の双発で爆弾1トン搭載、航続距離2000キロという小型爆撃機としては十分な物だった。速度も爆装で460キロ出る優秀機だった。投下後は500キロ近く出る機体で、最大速度510キロのOs210Bと大差ない。

 クルツブルクへの航空攻撃では護衛を果たせないことも多く、爆撃機隊からは「役立たず」「囮」呼ばわりされていた。

 

 この状況が変わったのがOs109F2が配備されてからで必要上十分な航続距離とシュニッツァー4よりも優速であったことから護衛能力は格段に上がった。

 武装も大幅に強化された新型機の前にシュニッツァー4は犠牲を増やしていく。

 地上での被害が増加したのは、護衛任務から外されたOs210Bが爆弾を装備して爆撃を始めた事による。更に投弾後、地上を機銃掃射して行くためだった。

 Os210Bの本領が発揮されてきたと言える。機首に集中装備されたMG18・4丁の威力は炸裂弾と言う事もあり威力を発揮した。


 これに対するディッツ帝国の対応は、ようやく自国生産が始まり、練度も上がったオスカー1を当てることだった。オスカー1は零戦四三型のことで最大速度335ノット(620キロ)であり、運動性能もOs109F2より良好だった。航空機関砲の九九式一号二型とホ-103は降ろされ、ディッツ帝国製AG142・4丁に変更されている。

 他にオスカー2として飛燕に自国製液冷倒立V型12気筒1300馬力エンジンを搭載した機体が少数投入されていた。これは運用実績と戦訓を得るためで今後の生産に生かされることになる。V型12気筒から倒立V型12気筒への換装は大凡上手くいった。最高速度は600キロであった。航続距離は通常1500キロ、落下タンク付きで2300キロだった。


 この2機種の投入により、防空戦で負けないようになった。オスカー1とオスカー2が対戦闘機。シュニッツァー4が対爆撃機の分業で上手くいった。


 ここに来て、航空戦力の質的均衡からガミチスの進撃速度が遅くなる。未だ量的にはガミチスが上回っており戦況は有利だが、いずれしても敵に量的にも均衡する時が来るというのがディッツ帝国側の分析だった。ただこれは今の敵補給状態からの推測で、敵が補給を上積みすれば崩れる程度のものだった。

 この時ガミチス陸上戦力は70万を超え、航空機1200機、戦車800両が上陸しているのだが、ディッツ帝国で掴んでいるのはその8割だった。




「フム。補給は上手くいきすぎているくらいで怖いものが有る」

「なにをおっしゃいますか。良いことでしょう。ドメル閣下が選ばれた人材が答えてくれています」

「おべっかが上手いな君は」


 ドメル東部戦線司令長官とファーレンファイト中佐が会話をしていた。


「ですが、事実は事実だと認めて頂かないと」

「まあそうだな。実によくやってくれている。特に補給品が航空機から戦車、弾薬・食料・医薬品まで要求の2割増しで届くとはな」

「あの喋らない男は思ったより優秀です。ですから先程の作戦会議でも一時大規模な攻勢に出ましょうと」

「まあそうなんだが。どうにもタイミングが悪そうでな」

「タイミングですか?」

「そうだ。敵最重要地域で有るクルツブルクへの航空攻撃は最近、成果が低調だと聞く。これは敵もようやく態勢を整えてきたと言うことだ。そして、空軍情報部や情報第七課が当てにならないということも分かった」

「敵の航空機が思ったよりも高性能でしたね」

「と言う事でだ。ファーレンファイト。情報を奴らよりも先に入手しろ。捕虜が出来たら、重傷で治療中だとでも言って奴らに手を出させるな」

「隠してもいいですか」

「構わん」

「仰せのままに」


 情報第七課は東部方面の情報を取り扱う部署で、おかしな事に東部方面軍にも情報を隠すことがある。本国に苦情を言うとその時だけはまともになり、いつの間にかまた秘匿するようになる。

 そのせいで東部方面軍からの信用は無かった。

 ガミチス軍内での情報の取り合いがおかしな方向に向かっていく。

 大きな組織である。上が変わったからと言って、いきなり全てが変わるわけでは無かった。

 


 ガミチス東部戦線司令部ではファーレンファイトが上手く立ち回った結果、幾つかの重要な情報が得られた。空軍情報部と情報七課が、自分達に都合の悪い情報を隠している疑惑はますます高まった。

「こんな事をしている場合ではない」と言うのが東部戦線司令部の考えで有るが、彼等情報部は自分達の立場や面子が一番大事なようだ。

 ドメル東部戦線司令長官は今日も頭が痛い。


「ファーレンファイト。バイエルラインの所に使いを出してくれ。内容はこの書類に記してある」

「了解です。人選はいかがいたしましょうか」

「情報部の奴らを嫌っている奴だな」

「ほぼすべてと思われますが」

「嫌われているな」

「態度はでかいし邪魔だし、情報は出さないし。好かれる要素が有りません」

「では人選は頼む。あとバイエルラインの所で話せる人間だ」

「能力はともかく人間性に問題有りでも?」

「なんだそれは?能力とバイエルラインの所で話せる奴なら構わん」

「それでは空軍局航空装備科のオーベルシュタイン少佐を推薦します」

「あの目つきの悪い奴か」

「目つきは・・確かに悪いですね。でもご存じでしょう」

「有名だからな。パイロットで出撃時に負傷して視力が落ち乗れなくなったのだな」

「そうです。性格はひねくれていますが能力には問題ありません。何より空軍情報部を嫌っています」

「かなり厳しい取り調べを受けたようだな」

「敵に見逃された格好ですから」

「反撃能力無しと見られて放置されたのだろう。何の問題が有ったのだ」

「その時は敵戦力が上回っていて、放置されたのはおかしいと。あげくに敵と通じているのではと」

「空軍情報部はバカか」


  




史実日本の1941年。商船は貨物船443万トン、タンカー40万トン。

それが1945年には、貨物船98万トン、タンカー16万トンまで減っています。

戦時中に進水した商船は戦時標準船まで含めて400万トン程度だったと思いますので、ほとんどが沈められてしまったと言うことです。

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