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転移国家日本 明日への道 改一  作者: 銀河乞食分隊
ディッツ帝国防衛戦
170/245

南大陸攻防戦 百式司令部偵察機

 戦争開始から1年が過ぎた。

 ディッツ帝国は戦時体制への移行が進み、徐々に戦争に必要な物資の生産量が増えている。

 徴兵も順調に進み志願者が押し掛けたこともあって、陸軍は20個師団を増加させている。問題は、急に増えた人員への対応が間に合わないことか。一部では徴兵したのに、お帰りを願うこともあった。

 1年後には陸軍100万人体制が整う。2年後には200万人を目指している。

 練成が終わった新兵を前線に送った代わりに、予備役動員で前線に送った兵や長期に戦線にいた兵を下げ教員に当てている。


 後方戦力が整うまで遅滞戦術でじわじわと後退し続けるディッツ帝国軍は、遂に本国まで200キロの所まで後退した。

 さすがにもう下がれない。ここから500キロ東方には旧所属世界でも最大規模だった硝石鉱山がある。試算によれば、今の100倍の採掘をしても50年は採掘可能な量が眠っている。

 だが戦線圧力は重く日々後退している。最終防衛ラインを本国国境としているが、そこまで下がる気は無かった。


挿絵(By みてみん)


太めの黒実線は鉄道。敷設中も含む。



 硝石鉱山の更に東方には、南部重要都市クルツブルクがある。工業生産の三分の一を占めるこの地域は、絶対に守らねばいけなかった。特に豊富な硝石をベースにした化学工業は、半分以上がここに集中している。その中でも火薬の70%以上は、ここで生産されている。

 クルツブルクを落とされる、または破壊されることはディッツ帝国の敗北に繋がるのだった。


 


 偵察機は今日も飛んでいる。追いつく敵機がいない。いつもは楽な偵察である。ただ今日はかなり敵後方まで踏み込む。いくら高速機とは言え危険度はかなり高い。


「ベレンコ中尉、フェザーンまで後300キロです」

「了解、シュガシビリ曹長。敵機は見えないな」

「現在クリアです」

「了解、外部タンク投下、高度を上げる」

「中尉、タンク落下確認」


 今日は特装で落下式タンクを付けている。オリジナルには無い装備だがこちらでやった。これにより1000キロ近く航続距離が伸びている。でなければフェザーンまで偵察は出来ない。


 わずかに得られている捕虜の情報によると、フェザーンに一大基地を構築しているようだ。今からそこへ飛んで行く。迎撃機がお迎えしてくれるだろう。今日は機体が長距離偵察仕様で重いが、それでも先程迎撃機Os109をかろうじて振り切った。今のところこのスワンに追いつく敵機は無いが、待ち構えられていれば迎撃も可能だろう。

 ベレンコ中尉はこのスワンが速度も速く姿も美しいので気に入っているのだが、唯一気に入らないのが後席との間に有るでかい燃料タンクだ。後席とは通話装置でしか安否の確認が出来ない。顔も当然見えない。


「わかった。これより上昇する。酸素用意」


 今日は特装だった。酸素瓶も通常より増えている。今まで落下タンクを使っていたので燃料も満タン近い。上昇する機体が重い。


「高度5000で酸素吸入開始」

「了解、5000で酸素開始」


 速度と高度が少しずつ上がっていく。偵察高度は8000から1万で状況によって選ぶことは許可されていた。


「曹長、8000で航過する。写真用意」

「了解、8000で撮影します」


 今まで8000で追いつかれることは無かった。Os109ならどの高度でもこちらの方が速い。


「中尉、針路少しずれました、修正願います」

「了解」

「右へ三度」

「右へ三度。了解」

「針路乗りました。定針願います」

「了解」


 もう曹長はカメラに集中するだろう。見張りはひとりになってしまうな。


「目標確認しました。撮影開始します」

「了解」


 見回すが敵機は見えない。


「中尉、一回目撮影完了。複航で別目標を撮影します」

「了解。ここからでも判る。でかいな」


 ディッツ帝国が自治領化した後で建設した基地を更に拡大しているようだ。


「本当です。進路変更まであと十秒、五、四、三、二、一、変針」

「変針」


 ん?何か見えたような。


「定針しました」

「了解、曹長。少し見張れ。何か見えた気がする」

「中尉、目がいいですね。後上方七時機影らしきもの。遠い」

「わかった。速度上げる。全速だ。撮影開始しろ」

「了解。追いつかれませんように」


 後上方七時か。首を伸ばすが見えん。でかいタンクが邪魔だ。


「撮影開始」


 ジリジリする。まだ終わらないか。


「撮影完了」

「よし。敵機はどうだ」

「待って下さい。近づいてきます。高度が若干上の模様。まだ射程外ですね」

「機銃は構えなくていいぞ。キャノピーを開けると速度が落ちる」

「了解。ここで震えています」

「こいつの速度を信じろ」

「いつも信じています」

「速いは正義だ」

「同意します。敵機近づきますがゆっくりです」

「高度を上げた方が良いか。最大高度で逃げるぞ」

「逃げると言うと怒られますよ」

「誰も聞いてない。問題ない」


 上昇する機体。じわじわと上がっていく。


「敵機、同高度」

「敵機、距離変わらず」

「敵機、離れていきます」

「曹長、後ろはいいが、前から悪い知らせだ」

「別口ですか」

「二機だな。だが動きが悪い。進路を変えれば迎撃されないだろう」

「お任せで」

「任された」


 進路を変更すると案の定、敵機は着いてこれない。危機は去った。


「曹長、酸素はどうか」

「中尉、あと30分です」

「ではあと15分高度と速度を維持。その後高度と速度を落とす」

「了解です」


 彼等の乗機はスワン。百式司令部偵察機三型改である。三型のキャノピーを流線型から以前の段付きに戻した機体だ。速度は若干低下したが推力式単排気管採用でその差をカバーどころか10キロ以上速度が上がった。

 高度8000でも630キロは出ている。

 この機体のエンジンは、海軍で導入した艦上戦闘機、艦上爆撃機、艦上攻撃機と同じエンジンだが、日本はこの機体に専用チューンのエンジンを搭載しているようで、専用ガソリンを付けて提供してきた。

 試しに少しだけ専用燃料をシュニッツァー4に使ったところ最高速度が20キロ以上上がった。

 日本にこの事を問うと、予想していたようで「供給量に限りが有り、他国への提供は今のところ出来ない。ただ偵察機の重要性にかんがみて提供をしている。供給量を増やす算段はしているが余り期待しないで欲しい」と答えるに止まった。


 

 彼等の持ち帰った偵察結果は並々ならぬ関心を持たれた。帝国が自ら作った基地を更に拡張している。途中にも幾つか建設中だった。

 推定兵力は30万以上50万。航空機数百機。戦車500両以上。恐ろしい数だった。

 爆撃をしようという声は当然あるが、爆撃機が低速・弱装甲の機体しか無い。Os109がいくら弱武装とは言え被害は大きいだろう。

 日本から導入という声にも「そこまで往復できるのは四式爆撃機だけで、戦闘機の護衛が無いと被害ばかりだろう」と言われて焦らないよう指摘される。

 地道に奪還していくしかない。




 


「偵察機だと」

「はい、ドメル閣下」

「堕とせんのか」

「忌々しいことに向こうの方が性能が上でして」

「そう言えば、最近報告に上がるな。高速でOs109では追いつけない奴か」

「そうです。今回もレーダーで接近を探知。戦闘機8機を上げましたが、迎撃地点に達することが出来たのが6機。うち、接敵に成功したのが3機です」

「なにか機数が合わないが」

「はい。レーダーの性能で方位と距離は良いのですが高度が上手く測定できません。6000以上と迎撃司令は指示したのですが、奴らは8000で接近。7000から8000で待ち構えていた機体は速度で追い付けず失敗。奴らは往復しましたがそれにも追随できませんでした。3機は高度9000まで上がり待ち構えていました。ですが高度を維持するのが一杯で、大きな戦闘機動をすればかなり高度が落ちます。それで1機だけ追尾に成功したのですが射程に収めることが出来なかったと言っています」


「要するにOs109の性能不足であると」


「そうです」


 ガミチス軍部ではOs109E3の能力不足については認識しており、対策は取られていた。

 戦争中盤の主力機になるOs109Fが登場する。



 オッサーシュミット社ではOs109E3の能力不足が軍から指摘されていたが、経営陣がウィルヘルム5世へ多額の賄賂を送ることで低い原価で高い機体の納入をしていた。

 [ウィルヘルム5世の乱]によりこの関係は崩れたが、それでも以前の機体を作り続けていた。賄賂の無くなった分自分達の懐に入れているためだった。

 財務当局の査察によりこの事実が発覚すると、当然関係者全員が処分された。

 軍は改めて性能向上型を作るよう命令すると「既に試作は終えてテスト飛行に入っている」と答えが有った。

 主翼の大型化と胴体延長によって燃料タンクの大型化と機体の安定性向上を図るとした。

 主翼の大型化は翼内にMG13を左右1丁ずつ搭載可能になったほか翼内燃料タンクの増設を可能とした。MG13は主翼タイヤハウス外側に設置されその弾倉を納めることも可能になっていた。

 胴体延長により大出力エンジンで大型化する補機類を無理なく納めることが出来、整備性の向上に繋がった。

 各部の強化により、急降下中の運動制限を緩和する事に成功。急降下中の高機動をある程度可能にした。従来は尾翼付近の強度不足により危険であった。

 強度向上は水平尾翼を支える支柱の撤去を可能にした。

 尾輪が固定式から引き込み式になった。

 主脚も強化されたが、相変わらず取り付けが胴体であり、離着陸時の不安定さは変わらない。ただ、胴体延長で主脚折損の事故は大幅に減った。離着陸時の安定性はG型で主脚のトレッドを広げるまで変わらなかった。

 量産性を上げることを目的に構造のより以上の簡略化を図った。

 防弾も従来の不完全な8ミリ弾防御から向上しており生存性も上がっている。

 構造強化と防弾強化のために重くなっていて、新型エンジンを持ってしても速度向上は推定値よりも低くなったいた。

 エンジンはMB601となり、同じ倒立V型12気筒のMB600よりも若干大型化していたが、その大きさから既に出力限界と思われていたMB600に対して300馬力の出力向上と将来的に余裕を持たせていた。

 このMB601は最初からモーターカノン装備を前提に設計されており、MG20/M3の装備を改造無しで可能としていた。

 胴体の延長はモーターカノン装備時の整備性を良好とする事も目的だった。

 従来のMG8は撤去され機首上面の胴体銃は装備から外された。

 試作機の最高速度は、高度6000で600キロを超えあの「覗きカラス」を捉えることが可能と思われた。

 これはディッツ帝国から入手した高品質ガソリン精製技術のおかげもあった。


Os109F2

前幅 10メートル

全長 9.2メートル

全備重量 3.4トン

最高速度 620km/h 5600メートル

エンジン

MB601/B

離床出力 1350馬力

1速公称出力 1260馬力/2200メートル

2速公称出力 1100馬力/5000メートル


航続距離

 巡航 1000キロ 投下タンク装備時+500キロ


武装

 20ミリモーターカノンMG20/M3 1丁 装弾数100発

 MG13 2丁 装弾数各150発

 爆弾

 200キロ爆弾1発


 従来のE3に比べると破格の性能向上がなされている。

 特にMG8・4丁から武装の強化が著しい。


 MG20/M3はMG20モーターカノンでM1がMB600用、M2とM3がMB601/B用でM2が装弾数60発、M3が装弾数100発だった。いずれもドラム弾倉である。戦争終結までベルト給弾化はならず、最後までこの仕様だった。

 M1は初速900メートルを超える高初速だったが、反動もきつく無理な取り付け方と相まって故障の原因にもなった。

 M2/M3では初速を850メートルまで落とし、兵器として安定性重視となった。故障も減り、軸線上の機関砲だけに命中率も高い優秀な機関砲となった。





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