日本の介入 カストロプの乱 終結
「ようやく出番が来そうだ」
「お待ちかねだぜ」
そう不敵な発言をするのは東鳥島から応援に来た十三師団所属十六連隊と十九連隊の面々だった。増援の内一個師団が此奴らだった。十六連隊十九連隊以外の面々は入れ替わっているが、十六連隊と十九連隊は日本陸軍最強として東鳥島で強化され続けている。冒険者で言うと7級相当の人間も数人いる。
もちろんお目付役は八雲円利少将と村井大佐だ。村井大佐は八雲少将が昇進を拒否しているため付き合わされている。まあ本人は営門将軍でいいと思っている。
今回の大規模スタンピードでは日本軍が正面を受け持つことが決められていたが、それでは余りにも冒険者とギルドの実入りが少ない。召集されてきた冒険者の報酬問題も有り、最後は冒険者と日本軍が協力して素材回収が可能な形で終わらせることになっていた。
もちろん危険な場合は戦車砲が火を噴くことになっている。
十六連隊と十九連隊はそこに投入されることになっている。
5級以上の冒険者と共同であり、彼等も体を休めていた。突破してくる小型種を片付けるのは4級以下の役目だった。
3波の突撃が終わった。小型種がかなり突破してきて、4級以下の冒険者と十三師団でも新人が必死になって倒していた。
九七大艇の報告では5波が最後と言うことだった。撃滅した混沌獣の中央で何かうごめいている物が有り要注意ともあった。上位種が他の混沌獣を喰っているのだろう。ただ死骸が多すぎて近づけない。艦爆の出番なようだ。25番の対地爆弾を数発叩き込んだようだ。これで生きていれば上位種でも強力な部類と言う事になる。
4波が来た。3波よりも阻止火力が落ちているせいか突破してくる奴が多い。遂にグレーボアやグレーウルフにハイクマと言うすばしっこい奴が突破してくるようになった。
上位の冒険者と十六・十九連隊も腰を上げる。4級以下の冒険者や新人を手伝っている。
4波は終わった。後方でかなり素材回収が出来ているようで冒険者は喜んでいる。4級以下の冒険者がこれだけの獲物を手にすることは滅多に無かった。
5波がやって来た。大艇の報告では最後と言うことだった。もうカストロプ子爵領の混沌領域からは出てくる混沌獣がいない。そう報告された。
多少間引いた後で銃撃はやんだ。
ここからは冒険者と野蛮人の出番だ。
最高位の金級冒険者が叫んだ。
「行くぞ!死ぬなよ」
冒険者と野蛮人が最後の集団に立ち向かう。
混沌獣第5波との戦いは厳しかった。まさしく肉弾戦であった。
5級6級の冒険者は、楽な相手と見ていた中型中位のハイクマやグレーボアに1対多でやられそうになったところを日本軍の援護射撃で切り抜けるとか、とにかく混沌獣の数に悩まされていた。
日本軍も前面に出ているのは強化歩兵であり、装備は10ミリ弾を使う四式自動小銃とボラールのウロコで作られた鉈や銃剣だった。
日本が貸し出しているボラールの武具の内、形が統一されているのは日本が工場で作った量産品だ。盾や頭、胴、足腰等を守る定形の簡易装甲は紐で大きさを調整して自分に合わせるとした。
剣や槍の穂先も幾つかの形に統一され工場で量産した。
どこかで伝わり方が悪かったのか、ドワーフ製武具となっていたが全てがドワーフ製では無い。ドワーフ製も混じっているので、上級冒険者の目から見るとドワーフの作った武具は見た目で品質の違いがわかるほどなので彼等の間では取り合いになった。
工場量産品でもボラールのウロコであり、防御力や攻撃力は申し分ない物だった。ただ、魔法の杖は工場では作ることが出来ず全数ドワーフ製である。
普段そんな装備を使うことも買うことも無い五級六級以下の冒険者達は、工場量産品でも通常使う武具の数段上だと浮かれていた。後で返すか、欲しければ統合ギルドを通じて買い取らなければいけないのだが。
もう終わりを見ている日本軍に対して、お祭り状態の冒険者達は難敵を倒して上等の素材を手に入れるべく頑張っていた。十六連隊と十九連隊も冒険者に負けじと頑張っている。一部でスコップを振り回してヒャッハーしている軍人がいるが、日本軍全部がそうじゃ無いから、そこのところ誤解しないように、冒険者。
日本軍の一部は既に周辺に散らばっている討伐された混沌獣の内、素材や肉として使い物にならない物をエンキドダンジョンに運んでいた。
スタンピードの最中神託があって、渾沌獣の使わない分はエンキドダンジョンの養分として運ぶように言われた。神託を受けたのは、エンキドダンジョンに名前が付いた二人ともう一人。あの三人であった。
統合ギルドは、まだ戦っているのに日本軍から「運搬業務の手伝いとして1級2級冒険者を多数雇いたい」という要請を受けた。
戦場掃除は終わった後で無いと危険だ。と言う統合ギルドに、腐ると臭いからと言う日本軍。
「冒険者の安全は確保する」と言う言質を取った統合ギルドは1級2級冒険者を多数雇い運搬業務の手伝いとして日本軍の元に送り込んだ。日本軍はトラックを使って懸命に運んでいる。現地で軽輸送車を使いトラックまで運ぶのは日本軍がやった。軽輸送車に積み込むのも、トラックに積み込むのも、1級2級冒険者も混じった日本軍だった。
1級2級冒険者が、耐えられずにゲロする。そうするとゲロは伝播する。そこら中にゲロだまりが出来た。悪臭のお代わりだ。
ダンジョンに放り込むのは、ケンネルと小型種が中心だった。
ダンジョンに運び込むのも1級2級冒険者の仕事だった。荷車に一杯積んでダンジョンの浅いところの部屋に運び込んでいく。他のダンジョンはともかく、エンキドダンジョンは浅いところなら3級か4級の護衛が付けば大丈夫だった。
中にはかろうじて生きている混沌獣もいて、とどめを刺して若干の強化が有ったりする。
秋津口ダンジョンにも運び込んだ。こちらは日本専用ダンジョンなので、日本軍が全て行った。
残っている混沌獣は大型種と上位種のみとなり、厳しい戦いが続いた。かなりの混沌獣は戦車砲で滅多打ちにされ弱ったところを大勢で取り囲み討ち取るという手段で倒されていた。
しかしここでもオーガ上位種やモスサイ上位種には75ミリ戦車砲が通用しない事例があり冒険者が倒していく。
最後の上位種が倒されスタンピードに終止符が打たれたのは二日後の午後だった。
そこからは有る意味戦いよりも疲れる仕事だった。素材の剥ぎ取りと残りかすの運搬。使えない混沌獣の運搬。
戦場掃除が三日で済んだのは日本軍の数の力だった。
小型中型を中心に一部上位種までダンジョンに放り込んだのだ。ダンジョンがどういう変貌を遂げるのか楽しみであった。神託でダンジョンの養分にするから運ぶように言われ従ったのだ。
ダンジョン産品に期待が掛かる。
あっけなく討伐されてしまったスタンピードを、カストロプ王とカストロプ子爵は信じられない物を見たような気がした。
大型種、上位種混じっての1万を超える数をどうやって討伐できたのか。(実際は2万近かったのだが1万程度と思っていた)
元々、カストロプ軍は混沌獣を使い王国連邦に優越しようと行動を起こしたのだった。その重要な部分を占める混沌獣は、いなくなってしまった。
また、前線での指揮官狙撃という作戦をとられ混乱するだけのカストロプ軍に、もはや勝ち目は無かった。
一気に押され総崩れするカストロプ軍を追撃する王国連邦軍。この頃には増援も間に合い、エンキド守備隊を中心とした軍になっていた。
王国連邦軍は召集された農民などを殺す気は無く、大音量の拡声魔道具を使い武器を捨てて投降すれば故郷に帰すと言って次々と平定していった。
召集された一般兵は次々と狙撃に倒れる指揮官を見てかなりの恐慌状態にあった。そこにこの通告である。皆武器を捨てて投降した。
もう抵抗するのは正規兵と貴族くらいなものだった。
壊走するカスロトプ軍は、カストロプ子爵の居城であるエルスマイヤー城に辿り着く前に追撃してきた王国連邦軍に捕捉され、共に逃げていた貴族と共に捕縛された。
早く逃走を開始したカストロプ王は王太子マクシミリアンと共にカストロプ王国まで何とか逃げ切り、カストロプ要塞に立て籠もり抵抗を試みるが、城壁を彗星の急降下爆撃で破壊され、そこから王国連邦軍の侵入を許しマクシミリアンは捕縛。カストロプ王は抜け穴から逃げようとしたが、所詮運動不足の体では追跡から逃げ切れなかった。
現在捕縛したこれらの者から詳細を尋問している最中である。
その中で注目されたのが混沌獣を誘導できる宝玉の存在だった。
宝玉はラプレオス公国の魔王から手に入れた物で、現在魔王とどういう取引があったか厳しく追及中である。そこに情けや考慮する尊厳など存在しなかった。
ギルガメス王国連邦首脳部は、次の相手が魔王であることを改めて知った。
次話から、ディッツに移ります。




