日本は日本で
ギルガメス王国連邦から日本に一報が届いたのは、ディッツ帝国が侵攻を受けたのと同じ頃だった。
ランエールの神々が懸念したように
ガンディス帝国とラプレオス公国で魔王案件が出来たと。
また、一部国内加盟国と領地貴族が怪しい動きを見せている。
我が王国連邦は苦しい立場に立たされている。
他にもつらつらと書かれていたが
要約
助けて
日本政府と与党民主光輝党は頭を抱えた。
今の日本政府と与党民主光輝党には、転移前対米戦に備えて成立していた戦争内閣と与党のように腹の据わった政治家は少ない。
腹の据わった戦争内閣は19年夏の総選挙で敗れ、ほとんどの政治家が引退してしまった。
4年後の総選挙でも対立政党の方が今は国の安定を優先させるべきと考え、如何してもダメな奴のところ以外には有力な対立候補を立てなかったことで政権は維持されていた。
一部からは海外の戦争に関わるべきか国民に信を問う選挙をと言う声も有ったが、そんな悠長なことをしている暇が無いことを指摘されだんまりを決め込んだ。
彼等は恥を忍んで引退してのんびりしている前政権の面々に意見を聞くとした。色々ぼけたことをやっている与党民主光輝党で有るが一応外交関係にある国家の危機だと言うことは認識しているようだ。財界からは貿易相手であるディッツ帝国救援と将来的に有望な市場であるギルガメス王国連邦救援を望む声も多く、無視は出来なかった。
前首相は七十を超えたが矍鑠としており近所の子供達の相手をしている。
「国家としての信義をまず考えよ。さすれば答えは出るだろう」
前首相の相棒という形だった前海軍大臣は
「やるべきだろうが移住者護衛艦隊は使えないぞ。それをやったら国が左前になるからな」
なぜ左前になるのか理解していない女性閣僚には、知ってる奴に聴いてこいと言った。
前大蔵大臣には
「金は有ると言うか許可は出るだろうな。他の国を助けるのだから」
暗に神倉庫の金を使えと言われる。
前保健衛生大臣には
「薬草だな。薬もな。冒険者ギルドに大量発注だ。事前の積み増しが重要だ」
そんなに必要かという問いには「山東半島のダンジョンスタンピードでどれだけ使った。今度はあの比では無いぞ」と言われる。
現役である山下移民担当大臣には
「聞いていると思うが、移住者護衛艦隊は最初からは使えないぞ。あくまでも被害を受けるか被害を受けるのが確実な時からだ。先制攻撃は出来ない。反撃しか許されていないのだよ。原因を絶つまではやれると思うが」
と言われる。知らなかったのかと呆れられた。
他にも聞くが前のめりの発言が多かった。
それでも一部閣僚と議員、特に女性陣からは、ディッツ帝国とギルガメス王国連邦救援に対する出兵を疑問視・反対する声もあり政局は混乱した。
ガンディス帝国とラプレオス公国に魔王発生という情報は帰国した将兵から広がり(故意に情報を制限しなかった疑いが後年持たれた。軍はギルガメス王国連邦を助ける気でいた)国内で議論が巻き起こる。
無難(積極的かつ前向きとは正反対)な政局運営と国内政治を行っていた民主光輝党だが、以前の決定的な我田引水方針と国の将来に対する定見の無さから国民の信頼は薄かった。
その信頼の薄さが、この事態で致命的なものとなった。内閣支持率の異様な低さである。首相に対する支持率も同じように低かった。首相と外相の頑張り程度では、党全体から足を引っ張られていると言っても良い状態で支持率が上がる訳も無かった。民主光輝党と言う政党の支持率も民主光輝党政権成立当時とは雲泥の差であった。前政権である戦争内閣を下回り10%前後の支持率しか無かった。とてもでは無いが、政党名のように光り輝いてはいない。
ここに現政権は崩壊するに至った。野党から内閣不信任決議案が提出された。民主光輝党はその数の力で拒否するも世間からは叩かれ、遂に内閣支持率、首相支持率、政党支持率とも10%を切り5%前後の低支持率という信じられない事態となる。
財界からの突き上げも厳しく、遂に議会解散総選挙にて信を問うとなった。
悠長な暇は無いと指摘されていながら、この結果である。危機管理能力が無いことが白日の内に晒された。
この事態にディッツ帝国とギルガメス王国連邦は、何をやっているんだという目で見てきた。
それでも動く事態に対応しなければいけないので、動かない政府・与党に代わり、軍や行政機関がその裁量権の中で行動をした。
目立ったものは、ギルガメス王国連邦派遣軍の増員、ディッツ帝国方面の警戒態勢を黄色まで引き上げ(黄色までは軍の裁量で引き上げ可能だった)、名目はスクラップ輸出という形での保管機の売却、予備役召集準備、冒険者ギルドを通じての各種薬草・薬品の備蓄量増加、医療用魔法陣の増量等だった。
また内密であるが、国内各産業に戦時体制移行の可能性が示唆された。
そして総選挙である。
結果は当然のごとく民主光輝党の惨敗で、確保した議席数は総議席300のうち20に満たないという体たらくだった。共産党よりも少なかった。
変わって躍進したのが総議席数200近くを確保した蒼空党だった。この政党は、顧問に前戦争内閣の首相を始めとする要職が名を連ねていることから危機管理政党と目された。
この時点でディッツ帝国及びギルガメス王国連邦救援が決定された。と言っても過言ではない。
蒼空党は直ちに内閣を組閣。臨時国会を召集してディッツ帝国に対する支援法案とギルガメス王国連邦に対する支援法案を成立させた。
株価が跳ね上がったのは言うまでも無い。逆に金や他の貴金属相場は政府放出が予想され下がった。ようやく落ち着いてきた求人市場がまた奪い合いになってきた。
特に暇をしていた国内航空機産業は輝きを取り戻す時が来た。
ディッツ帝国支援としてディッツ帝国から要請を受けていた航空機のライセンス生産許可と各種航空機の売却が行われる。
ライセンス生産は、零戦と九七艦攻に九九艦爆だった。これらはいずれも金星発動機搭載で生産と品質維持がディッツ帝国で充分以上可能だった。(ディッツ帝国の方が、これら機体を作ったときの日本よりも技術力は上だった)
金星発動機はライセンス生産を許可した。魁発動機もライセンス生産を許可した。
発動機は魔石添加剤未対応であった。魔石添加剤は供給力の限界もあり日本専用としている。
後に他の機体もライセンス生産されるようになる。
零戦四三型甲 陸軍向けは一式戦闘機二型甲
最高速度 330ノット/610km/高度5800m 公試状態
航続距離 巡航1300海里/2400km 300リットル大型増槽1個装備時
増槽無し 巡航950海里/1750km
上昇力 高度5000まで5分30秒
急降下制限速度 400ノット/740km
全幅 11メートル
全長 9.3メートル
自重 2.6トン
全備重量 4トン
武装
九九式一号三型20mm機銃2丁 装弾数125発
ホ-103 13mm機銃2丁 装弾数200発
発動機
金星六四型
離床出力1400馬力
一速公称出力1350馬力/高度2500m
二速公称出力1220馬力/高度5800m
九九式艦上爆撃機二二型
最高速度 235ノット
航続距離 巡航850海里、攻撃過荷重200海里+全速20分+巡航200海里
上昇力 高度5000まで8分40秒
全幅 13m
全長 10.5m
全高 3.6m
自重 2.8トン
全備重量 4.4トン
発動機
金星五六型
離床出力1300馬力
一速公称出力1250馬力/高度2500m
二速公称出力1120馬力/高度5800m
九七艦攻 二号二型 二二型
最高速度 230ノット
航続距離 巡航1000海里、攻撃過荷重250海里+全速20分+巡航250海里
上昇力 高度5000まで10分
全幅 15メートル
全長 10.5メートル
自重 2.9トン
攻撃過荷重 4.7トン
発動機
金星五六型
離床出力1300馬力
一速公称出力1250馬力/高度2500m
二速公称出力1120馬力/高度5800m
上記三機種はディッツ帝国向けとして国内でも生産を増やしている。
他に輸出される機体として
百式司令部偵察機 *ただし三型改。
金星発動機と排気タービン過給機装備の五型。高度1万メートルで650キロ/時の快速を誇る五型は輸出もライセンスもされない。誉が装備されれば、解禁になる予定。
鍾馗*後にライセンス生産となる ディッツ帝国で生産が始まると中島の生産ラインは閉じてしまった。
四式爆撃機*これも後にライセンス生産となった。
飛燕*なんと液冷仕様であった。自国の液冷発動機を載せるらしい。やはりライセンス生産となる。
彗星*飛燕に同じ。
これはディッツ帝国が日本の航空技術を吸収しようという意味も有り警戒されたが、政府の方針で何らかの優遇措置を取ることを条件にメーカーが懐柔されたようだ。
共通しているのは武装がディッツ帝国向け機体はディッツ帝国製14ミリ航空機関砲AG142を搭載できるように改造されたことだった。
20ミリ機銃は使わずに全てAG142で統一するという。後は爆撃機の防御用に8ミリ機関銃を残すだけだった。
AG142はその優秀性から日本でも採用しようかという声もあったが九九式一号三型を陸海空で全面採用しており必要性は薄いとされた。
現在、九九式に変わる高初速・高発射速度の20ミリ機銃を開発しておりそちらを優先するようだ。
他に希望された機体としては、やはり最新鋭の機体があったが日本でも試作機程度でありお断りをした。
海軍はより大型の空母が建造されれば天山の提供も視野に入れている。ただし発動機は魁。
国内では、天山の発動機が誉に変わった。素晴らしい前方視界だと喜ばれている。速度も30ノット上がった。
彗星は誉を装備すると反って全体のバランスがおかしくなり金星のままとされた。零戦も同様である。




