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交渉団

 日本を出て数十日、ようやく東インド大陸暫定国境線までたどり着いた。

 東インド大陸の維持は不可能で有る。と思わせるに十分な距離だ。


「達川君、多少でも面識のある相手だと良いな」

「本多大臣、深入りは避けたいのですが」

「キャリアアップには良いだろう。何故、担当になりたくないのだ」

「ここ、ディッツ帝国よりも遠いですよ。距離的にはギルガメス王国連邦と変わりません。迂回航路しかないから、かえって遠いです」

「確かに、ディッツ帝国なら緊急帰国は1週間掛からなくなっておるね。全部飛行機で往復可能になったし」

「ディッツ帝国とは、ようやく電信網がととのい、本土と時差無し通信が可能になりました。電信だけで電話は無理ですが、連絡も楽なんですよ」

「ギルガメス王国連邦は、未だに航空便だが」

「長波では、長文は困難ですから」

「そんなに嫌なのか」

「前例を見ていると、家庭を大事に出来ないなと」

「別に単身赴任とは言わないぞ。家族で赴任してくれ」

「なんで、国交樹立前提なんですか」

「落ち着いた感じだし科学技術同等となれば、国交を樹立しない方がおかしいだろう」

「全権代表は荷が過ぎます」

「ひとりでやれとは言わない。5人くらいを考えている」

「5人もいいのですか」

「はっきり言って、外務省は暇だからな。風当たりも強い。本気度を見せないと」

「まあ、ディッツ帝国だけですからね。正式な国交があるのは」

「他省庁へ、出向で何人出していると思う」

「半数以上ですね」

「7割だよ。7割。君の同期も出ているはずだ」

「慣れない仕事で頑張っていますね」

「そうだろう。苦労しているのだよ。君だけのほほんとして良い訳ないだろ。そう思わないか」

「では何人かは、外務省に戻ってくると言われますか」

「30人くらいは戻ってくるだろう。ディッツ帝国やギルガメス王国連邦との関係も深くなる」

「じゃあ机の鉢植えはどけないといけませんね」

「なんだね。それは」

「部屋が寂しいので、人の代わりに花を見ています」


 フー… 外務大臣のため息が深い。


 保健衛生省と軍の防疫部隊では。


「現地の風土病が特殊な物で無ければいいのですが」

「見てみんと解らないな」

「補給艦に最新の分析機器も積んでいます。それで間に合えば良いのですが」

「悲観的すぎないか」

「これでも国の防人として、自負はあります」

「変な物が無いといいな」

「本当にですね」


 通産省と農林水産省は。


「現地の食品はどうだろうな」

「ディッツ帝国は問題無かったな」

「おかしな味の物は有った」

「向こうからは[納豆]と[くさや]が、おかしいとか言われたが」

「食べれば美味いのにな」

「酒はどうだろう」

「飲めれば良し」

「ああ、そうだろうよ」




「でけえ」

「橿原丸よりも大きいな」

「ああ。一回ひとまわりどころじゃあない」


 騒がれている船は、ファイウォール公国の客船だった。それも純客船だ。3万トンは楽に越えるだろう。

 もしかして欧米並みの大国なのだろうか。見ている日本人達は思った。「こりゃあ」と、思ったのは交渉団の面々だ。

 第1回国交開設交渉はくじ引きでファイウォール公国が担当するとなっていた。これは前回分かれたときに決めた物だ。

 日本側が乗船する。 


「ようこそ。ファン・ファーライルへ。歓迎します」

「お招きいただき、感謝します」


 簡単な挨拶を交わし、船内へと案内される。相手の慣例や風習が分かっていない。下手な言葉や態度は言質を取られる。もう交渉は始まっている。


 交渉は、進んでいく。お互いに警戒はするが、言葉尻を取って優位に立ち回ろうともしない。関心が有るのは、周辺環境。自然はどうか。国はあるのか。警戒する国と、仲良くなれそうな国。貿易が出来そうな国。関心が高いのは全てだが、軍備も注目を集めた。

 最初の挨拶と簡単な説明が終わると、個別案件の処理に掛かる。ここからは、実務者達の時間だ。


「病原体の顕微鏡写真なのですが、差違はあまり見られませんね」

「症状も似たような症状ですし、ほぼ同じでしょうか」


「我が国の産品で、輸出可能な物ですな」

「何ですか?その膨らんだ缶詰は」

「魚の缶詰ですな」

「まさか、塩漬けニシンの缶詰とか言わないでしょうね」

「おわかりですかな。もしや日本にも?」

「かつていた世界にはありました。今は処分してしまいました」

「処分ですと!惜しいことをしましたな。食べ比べが出来たかも知れません」

「こちらは、生ものなので補給艦で造った品です」

「臭いが・・ネバネバが・・」

「とても健康には良いですよ」

「う~ん」


「綿はほぼ全量輸入しております」

「綿が有るのですか。お国が全量輸入出来るような」

「まだ余裕が有りそうでした」

「考えさせていただきたい」


「もうコーヒーも貴重になりました」

「栽培しています」

「ム…」


「こちらが、渾沌獣と混沌領域の資料です。この星固有の生態系でして、転移してきた土地には有りません」

「対策はどうするのですか」

「面倒ですよ。根絶は出来ません。間引き程度に留めないと更に酷くなるそうです」

「面倒ですな」

「魔力循環に関わっているので、無くならないそうです」

「魔力循環ですか。何ですかそれ?」



 二日間の有益な意見交換を終えた使節団は、次は招待する方だと息巻いている。

 橿原丸の船長以下は緊張している。どう見ても向こうの船が格上だ。使節団の話だと、豪華だが華美に過ぎる嫌いが有ると言っていた。方向性が違うだけで負けていないから心配は無用。かえって、獣人やエルフで度肝を抜けるぞ。と言う。この船にも滅却と消臭の魔道具が設置されたが、驚くだろうな。とも。



 橿原丸にファイウォール公国使節団が乗船してくる。




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