交渉開始
まずは艦隊の派遣から。
ファイウォール公国と接触した探査隊が帰国した。
あらゆる部署で緊急会議が開催されたのは必然だった。
特に科学技術がほぼ同程度というのが肝心だった。
ディッツ帝国には向こうよりも進んだ機材の販売が可能だった。それが出来ない可能性が大きいどころか、下手すれば輸入した方が良い物が有るかもしれない。
特に海軍は低翼単葉の艦上機が気になった。電探も同程度らしい。優位性は無いと考えるのは当然だ。
ディッツ帝国との貿易ではお互いに足りない物を補えたが、ファイウォール公国相手ではどうなるのか。
今日は、首相官邸に集まって使節団派遣への最終確認を行っている。
「戦艦は大袈裟でしょう。重巡で良い物と考えます」
川上海軍大臣が言う。
「戦艦と大型空母がいれば、向こうに与える印象が違います。それに、戦艦がいると安心出来るのですよ」
本多外務大臣だった。対する川上海軍大臣は。
「経費削減を言われておりますからな。戦艦と大型空母は金が掛かります。戦艦と大型正規空母、改翔鶴級ですな。それを派遣ともなれば、使節団全体で最低でも30隻程度の規模になります。いくら掛かるか。そうでしょう。杉本大蔵大臣殿」
矛を向けられた大蔵大臣は慌てる。こちらに来るとは思ってみなかったのだろう。
「確かにそうですが、この場合はね」
「「何が、この場合ですか」」
海軍大臣と外務大臣に責められる。民主光輝党政権では決められない政治家が多くいる。この大蔵大臣もそうだった。
対して、海軍大臣は予備役軍人だし、外務大臣は吉田茂のライバルと言われるくらいの傑物だった。
大蔵大臣の旗色は悪い。
「良いかな」
入江総理大臣の声がする。入江は、鳩村が早期退陣した後を継いだ筒直が災害対策で下手を打ち続け、またも早期退陣した後の民主光輝党最後の人材と言っても良かった。前の二人よりも世間の評価は高いが、民主光輝党全体で脚を引っ張っている。鳩村、筒直、大沢3人組の残る一人。大沢は形勢が悪いと見て影を潜めている。
他の人間が聞く態勢になったのを見計らい
「戦艦と空母を派遣する。戦艦は大和級。空母は改翔鶴級でしたな。海軍大臣」
「はっ。その通りです。ですが、よろしいのですか」
「燃料油は国営南アタリナ油田のものを提供しよう。これは政府提供とする。海軍の予算からは出さない。柿本通産大臣。問題は有りますか」
柿本通産大臣は、付いている官僚に大丈夫か確認を取る。なんとかする?なら良し。
「首相が決めたなら粛々と従うまでです。ただ、オハの自噴圧力が強く、まだ絞れません。南アタリナ油田は絞っていまして、タンクも空に近いです。東鳥島精製施設で精製される石油は、東鳥島とギルガメス王国連邦方面向けでほとんどです。今から増産しても間に合いません。オハの石油を帳簿上南アタリナ油田産として処理いたします」
「良いでしょう。燃料はそれで決まりですね」
「首相。よろしいか」
「何だね。川上海軍大臣」
「政府代表団を乗せる船は、橿原丸が出雲丸ですね」
「それ以上の船は無いのでしょう。戦艦と大型空母を出すのだ。客船も相応の船を出さないと」
「確認しただけです。護衛もそれなりに強化しますので、補給艦まで含めて40隻くらいになりますな」
「40隻か。多くないか」
「総理。遠いのです。途中に補給拠点は在りません。最初から全部持って行かないといけないので、隻数は増えます」
「それなら、仕方が無いか。では、それで編成をお願いしたい」
「了解しました」
「そう言えば運輸大臣。橿原丸か出雲丸は空いているのかな」
「空いているはずですが、使えるかどうか確認を取ります」
「うむ」
「首相。代表団はどのような編成でかお考えですか?」
本多外務大臣が聞く。
「それが肝心だが、まず君は外せない。外務の人員は君に任せる。通産は、実務関係の人間を数名。逓信省からも技術が分かる人間を出して欲しい。ディッツ帝国では苦労したからな。保健衛生からは当然防疫関係の人員を。大蔵省も実務に強い人間だな。いきなり金融関連の話にはならないだろうから、二・三人で良い。農林水産省も検疫が分かる人間を。他には有るだろうか」
「はい」
「里山文部大臣か。何か有るのかな」
「翻訳をしなければいけませんので、言語学者を連れて行っていただきたい」
「ああ、それが有りましたか。会話が可能だと忘れますな」
「首相。軍関係はどうなさいますか」
疋田陸軍大臣が質問する。
「そうでした。向こうは渾沌獣や混沌領域の情報を欲しがっていましたね。では、分かる人間をお願いしたい。海軍はどうですか」
「海軍は、特には有りません。向こうに残った者が説明していることでしょう」
「足りますか」
「参考用として、渾沌獣に関する資料各種は戦隊旗艦には詳細が記された資料を、各艦には簡易版を積んでおります。経済的有用性はともかく、性質や種類は開示しても良いと訓令を出しております。ただ、海洋性ではない陸上の渾沌獣は陸戦隊では説明しきれないでしょうから、陸軍から詳しい人間を派遣するのは当然と考えます」
「問題は無さそうですね」
各大臣は問題無さそうだ。付いている官僚達も何も言わない。
「では、可能ならば2週間後に出港とします。それで調整をするように」
「「「はい」」」
橿原丸は定期整備でドックから出渠し試験航行が終わったところだったので、政府が抑えた。出雲丸も空いていたが、半年後にドック入り予定ということで整備したての橿原丸が使われることになった。
橿原丸の乗員に旧エルラン帝国民のエルフや獣人がいるが、どうするかで議論となった。
日本と同等の教育を受けたことも無いし技術もないので航海関連の仕事には就けないが、DK航路に就くこともあり客室係として乗せているのだ。
連れて行くことにした。増員の上で。
ファイウォール公国もガンディス帝国やラプレオス公国との接触が有ったと言うから、見ているかも知れない。それに日本がこの世界との融和を図っている証にもなるだろう。
ファイウォール公国訪問船団
総旗艦 団長 本多将伸外務大臣
橿原丸
護衛艦隊旗艦 艦隊司令官 柳本柳作中将
第一戦隊(旗艦) 大和
第二十二駆逐隊 初春 子日 若葉 有明
第二航空戦隊 長鶴 真鶴
直衛隊 大月 葉月 山月 浦月
第四戦隊 恵那 雲取
第一水雷戦隊
鬼怒
第二十一駆逐隊 叢雲 東雲 薄雲 白雲
第二十六駆逐隊 吹雪 白雪 初雪 美雪
第三水雷戦隊
日野
第十三駆逐隊 清霜 早霜 秋霜 朝霜
第三駆逐隊 浦波 磯波 敷波 綾波
第六補給戦隊 植村 萱野 芦屋 須磨
第八補給戦隊 真良 梨葉 都宇 安那
第五給油戦隊 根室 久慈 酒田 相馬
第六給油戦隊 七尾 敦賀 境 浜田
病院船 周防
第一戦隊というよりも司令長官直卒として第二十二駆逐隊が第一戦隊に編入されている。
予定よりも多い隻数になったのは、空母1隻の予定を2隻にしたからだ。補給艦の一部スペースには日本製品の見本が積まれている。橿原丸の貨物スペースにもだ。
橿原丸と出雲丸は日本最大最高級の貨客船。さすがに外交上の見栄も有り、大型純客船を作ろうかという話は出ている。
大和 日本最大の戦艦
5万8千トン 30ノット OTO社製38センチ砲3連装4基 他
長鶴 真鶴 改翔鶴級空母
翔鶴拡大級だが、ランエール世界に合わせて各種変更をしている
3万4千トン 32ノット
大月 葉月 山月 浦月
秋月級空母直衛艦
恵那 雲取 越百級重巡
鬼怒 日野 阿賀野級軽巡 鬼怒は二代目
清霜 早霜 秋霜 朝霜
夕雲級駆逐艦
浦波 磯波 敷波 綾波 浦波 磯波 敷波 綾波 叢雲 東雲 薄雲 白雲
夕雲級駆逐艦 艦名は吹雪級から引き継ぎ
初春 子日 若葉 有明
夕雲級駆逐艦 艦名は初春級から引き継ぎ
補給戦隊各艦 名前は山陽道宿場町から
民生用優秀船に海軍向け改修を施している
水密区画が増えているため、積載量は同級民間船よりも少ない
機関出力を大きくしているので、満載時でも20ノット以上出る
給油戦隊各艦 名前は港から
民生用優秀船に海軍向け改修を施している
水密区画が増えているため、積載量は同級民間船よりも少ない
機関出力を大きくしているので、満載時でも20ノット以上出る
病院船 補給艦を元に改装しているので艦名も補給艦と同じ




