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交流

 新田丸のホ-ルはそのまま交歓食事会場となった。

 出された食材は、万が一のことも有り得るとして持たされた大型渾沌獣の肉と、おなじみボラールとシロッキの身である。いずれも十分に熟成されている。混沌領域で採取された植物素材もふんだんに使われている。

 多分一食で普通の勤め人一月分の給料が飛ぶだろう。

 エンキドダンジョン秋津口で確保出来た保存袋中(500)を拡張袋中に入れて持ってきている。500の10倍なので、実経過時間は5000分の1だ。ランエールで10年経ったとしても、この中では1日しか経っていないことになる。



「乾杯」


 この言葉から始まった食事会は、ファイウォール公国の面々にとっては未知の味であり、その上等さに驚いている。長旅の船で出てくる食事だ。いくら高級客船と言っても、保存されている素材のこともあり、素材の味では無く味付け勝負になってくる。保存食や保存の利く根菜類がメインとなり、生鮮野菜など望むべくもない。

 それが、どうだ。出される料理はいずれも新鮮な野菜がふんだんに使われ、口に入れた肉は、えも言われぬ美味しさだ。白身魚シロッキのソテーなど、どう表現していいものか。

 横を見ると、シュタインベルク少将もスチューダー君も一心不乱に食事をしている。最低限のマナーは辛うじてたもっているが。他の随員も同じようなものだった。是非この食事マジックを教えて欲しいものだ。



 美味しい。旨い。只ひたすら食べる。おかしい。前日に見本として食べたはずだ。それ程までに美味しい。大野少将はそう思う。

 山田少将や達川君も同じように食べている。聞くところによると、海軍でも大型艦の艦長や司令官ともなると高級な洋食を普段から食べているという。その山田少将が、がっついているとまでは行かないが、かなり速いペースで食べている。ファイウォール公国の連中も同じだ。

 それを新田丸料理長が見て、ほくそ笑んでいる。やってやったという気分なのだろう。

 こう言うやられ方なら、いつでもやられ役に立候補したい。



 ほぼ無言(みんな、美味しいと旨いしか言わなかった)の食事が終わり、歓談の時間になる。いよいよ本番か。先程の食事で緩んだ気を引き締めねば。大野少将は思う。


「大野少将。ありがとう。あのように美味しい食事は驚いた。素晴らしい。先程は言うのを忘れたがシェフに「素晴らしい食事をありがとう」と伝えておいて頂きたい」

「お気に召したようで何よりです。シェフには必ず伝えましょう」


あらためて、挨拶をしたい。私が、ファイウォール公国海軍第2機動艦隊司令長官ウォルター・グリーンヒル海軍中将です」

「私は、日本国未踏地探査隊総司令官大野豊隆陸軍少将です」

「私は、ファイウォール公国海軍第2機動艦隊参謀長クラウス・シュタインベルク海軍少将です」

「私は、日本国未踏地探査隊次席指揮官山田久司海軍少将です」

「私は、日本国外務・・・・」


 大勢続いた。


「まず、うかがいたい」


 グリーンヒル中将がいきなり質問をする。


「何でしょう」


 大野少将が受ける。


「先程の食事のことです。出港されて長いのでしょう。なのにあの鮮度の生鮮野菜は信じられない。船で栽培でもしていますか。肉や魚もです。今まで食べたこともない食材でした。日本の方々は常にああいう食事をされているのか。是非聞かせて頂きたい」


 困るな。アレは、この世界固有の食材と技術を使っている。料理は新田丸の厨房だが。みんなの注目を集めていますよ。グリーンヒル中将。そして「なんてことをいきなり聞くんだと」いう目でも見ていますな。


「その件に関しましては、詳しくないのです。詳しい者に説明させましょう。他の皆さんも聞きたいようですし」

「お願いする」

「では。通産省の柿沢君と、山田少将、艦隊の主計参謀をお願い出来るかな」

「良いでしょう。彼の方が理解しているはずです。太田主計参謀」

「はっ」

「通産省の柿沢君と共に今日の食事に使われた材料などの説明をして欲しい」

「了解しました。新田丸の料理長も呼んでも良いでしょうか」

「必要ならば」

「では、来て貰います」


 新田丸の料理長がやって来た。皆から称賛の言葉を受け、嬉しそうだ。


「先程の食事で使われた、食材の説明をいたします」


 これは専門家の料理長が行った。新田丸料理長海原海山(56才)、晴れ舞台か。


「最初にお出しした小皿は、我が日本の芋です。里芋と言います。その里芋を裏ごしして…云々」

「次にお出ししたのが、長期航海ではどうしても不足勝ちになる瑞々(みずみず)しい生鮮野菜をベースにした…云々」

「3皿目のスープは、日高昆布と鰹節から丁寧に…云々」

「4皿目の魚料理は、白身魚のソテーです」

「メインの肉料理は、大型渾沌獣であるモスサイのヒレ肉を贅沢に使った…云々」

「最後のデザートは、あっさりしたアイスクリームで…云々」


「「「「おお…・?」」」」

「「「渾沌獣?」」」


 昨日試食したのは、自分と山田少将と新田丸船長に新田丸料理長の4人だからな。知らないのも仕方ない。


「言い忘れましたが、白身魚もシロッキという渾沌獣です」

「「「「はぁああ???」」」」


 知らないから混乱するのも分かる。だが、探査隊側は時々シロッキやボラールは食べているだろ。驚くな。


「大野少将。いささか質問があるのだが」

「何でしょうか。グリーンヒル中将」

「渾沌獣とか言うのも気になるが、生鮮野菜のことを聞きたい」

「生鮮野菜の鮮度ですね。では、この者が。艦隊の補給全般を受け持っています」

「ただいまご紹介にあずかりました、艦隊の補給を担当する太田主計参謀です。階級は主計中佐です。お見知りおきを」

「さて、生鮮野菜の謎ですが、船で栽培はしておりません」


 ファイウォール公国の連中はに落ちない顔を押している。当然だな。栽培などしていないのだから。


「ここに持っていますのは、拡張袋と保存袋という物です。内部容積が見た目の数十倍ある袋や、内部の経過時間が外部、今ここにいいる時間です。の、数千分の1です」

「「「・・・・・・」」」


 信じられないだろうな。自分もいまだに信じられないのだから。

 ゴクリとつばを飲み込んでから、発言したのは


「ファイウォール公国海軍補給参謀のエド・マクラーレン海軍大佐です。内部容積が数十倍とか、内部時間が遅れる?遅い?とか、事実なのでしょうか」

「我々日本も、知った時は驚きました」

「日本が開発したのではないのですか」


 太田主計参謀がこちらを見るので頷いておいた。


「このランエール世界固有の物です」

「入手手段はありますか」

「あります」

「教えて頂けますか」

 

 また見てくるので頷いておいた。


「教えるのはやぶさかではありませんが、後ほどお時間を別に取らせていただき、そこで説明したいと考えます」

「お願いします」

「必ず」


 グリーンヒル中将やシュタインベルク少将は呆れた顔をしているな。彼は焦りすぎだろう。


「では、瑞々(みずみず)しい生鮮野菜の説明は出来ました。ご理解頂けなくとも、後ほど詳細を説明いたしますのでご理解いただきたい。次いで、渾沌獣のことですが。ここからは通産省の柿沢が説明します」

「替わりました。日本国通商産業省対外貿易科柿沢が説明します」

「では質問を。渾沌獣とは何ですか。あ、言い遅れました。ファイウォール公国陸軍中佐ダグラス・コ-バックです」

「渾沌獣というのはランエール世界固有生物で、混沌領域から発生します」

「「「は?」」」

「失礼。発生ですか?混沌領域?とは」

「そこからですか」


 こちらを見られてもな。どうも根本的な認識に差がありそうだ。いったん白紙にするか。


「皆さん。どうも認識に差があるようです。ここですりあわせをしたいのですが、よろしいか」

「うむ。先程から、何かおかしいと感じております。大野少将。お願いする」

「分かりました。では、どうするかな」

「まずランエールに来てからですね」


 達川が言う。


「そこからか」

「そこからです。恐らく日本と経緯が違うと考えます。ディッツ帝国の様な転移かも知れません」

「神々の好意では無く、神々の都合か」

「そう考えます」

「なら、君がしたまえ」

「え?私がですか」

「外務省だ。こういう事態を想定しているのだろう」

「していますが、実際となると」

「何事も初めては有るものだ。観念してくれ」

「・・分かりました」




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