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邂逅

 両艦隊は接触した。と言っても、やはり隠したい見せたくないは有る。いくら最初の接触で敵意がなかったとしても、不測の事態は在りうる。


 そして探査隊の前面に出されたのは、第十一水雷戦隊旗艦軽巡・日野ひの、第四六駆逐隊・とちまさきゆずざくろの5隻だった。空母や輸送艦は100海里後方で待機している。

 相手も同様だった。1万5000トン級の巡洋艦と2000トン級の駆逐艦6隻が現れた。


 お互いにカメラや撮影機を持ち出して撮っている。


 大型艦同士だと衝突の危険があり近寄れない。駆逐艦に司令が乗り込み近づくことになった。向こうも同様らしい。



 白旗を振りながら、近づいていく。緊張する。山田久司少将は思った。紫原中佐もこんな思いだったか。しかし、大野少将と達川に全てを任せる。俺は山下中将のようにはならんと決意する。


「司令。登舷礼はどうしますか」

「ちょっとうねりがあるな」

「では、止めます」

「落ちるといかんからな」


 駆逐隊司令の永井大佐が、山田少将と決める。栃艦長の北別府少佐も頷いている。その間も近づきつつある。そして50メートル程になった。停止はしない。流されてぶつかることを考えると、舵効速度は保たなければいけない。


「こういう時は懐かしの露天艦橋がいいんだがな」

「松級は閉鎖型ですからね。防空指揮所へ上がりましょう」


 見張り用張り出しは有るのだが、一人分のスペースしかない。通常は見張りも内部から外を見ている。

 山田少将と永井大佐が防空指揮所に上がり、向こうの艦に敬礼をした。こちらは4人だ。栃の主計士官と通信士官も上がっている。

 向こうの艦は艦橋に大きめのウイングが有り、そこに数人並んでいた。士官帽を被っているのが二人か。こちらと似たようなものだな。艦橋内部には数人の士官がいるようだ。艦橋のガラスが外されているので、中に命令は楽だろう。答礼か?少し違うが似たような敬礼だ。

 

 さて


日本にほん


 簡単が一番。


「ファイオール公国」


 記録は主計がしているな。通信士官は電文を起草。通信科に渡している。

 向こうも似たようなもんだろう。

 こいつの防楯を叩いて


とち


 自分を指して


山田やまだ


 さてどうだ。



 意味は通じた。みたいだ。


 手すりを叩いて


「シルカ」


 自分を指して


「グリーンヒル」


 よし。指さしていいか分からんが


「グリーンヒル」


 頷いた。そしてこちらを指して


「ヤマダ」


 栃を指して


「トチ」


 うんうん。その通り。これで話し言葉は通じると。

 先に喋ってきたぞ。


「この周辺に島が無い。どこか陸地はないか」


 ちょっと待てのポーズをして考える。近くに島が無いと言うことは、遠いのか?交渉をする気なのか?


「永井司令。あそこの泊地までどのくらいだったか」

「お待ちください」


 電話で


「艦長、泊地からどのくらい来た?」

『司令、お待ちください。・航海、泊地からどれだけ来た?』

  ・・・・・・・・・・・

『司令。460海里だそうです』

「了解した」


「司令官。460海里です」

「司令、あの泊地はバラしても問題無いよな」

「特に秘密では無いですね。旗は立てましたが」

「よし、あそこにしよう。穏やかで良い」

「日本の領土だと認識させるのですか」

「そうだ」

「ですが、460海里850キロですね。着いてきますか?」

「そうか。そうだな。聞いてみる」


「ここから460海里東に泊地が有る」


 何だと言う顔をしている。なにか話し合っているな。


「460海里とはどのくらいだ」


 そっからか。


「1海里は、1.85km」


 そう言えば、メートル・キログラムは共通らしいとなっていたな。


「分かった。1.85kmだな」


「そのだ」


「ちょっと待て」




 グリーンヒル中将は、460海里って何だと思った。そして海里は彼ら独自の単位らしく、《1海里=1.85km》と言ってきた。800キロちょっとか?

 司令長官、850kmです。と声が聞こえた。手で応えておく。

 確か、一番近い島がここから1200キロ北と1200キロ南だな。しかも、両方とも怪物共のいる領域だ。ファイオール公国の基地は無い。避けた方が良いだろう。


「艦長、燃料はどうだ。駆逐艦の燃料が不安だ」

「はっ。残燃料は巡航で2000キロですね。不安はあります」

「今給油しても、帰りが不安か」

「港を出て、5000キロですから」

「そうだな。帰ろうとしたときにこれだ。さてどうするか」


「司令長官。彼らに分けて貰えないでしょうか」


 第2機動艦隊参謀長シュタインベルク少将が突拍子もないことを言い出す。


「分けてもらうだと」

「そうです。彼らもかなりの長距離航海をするのでしょう。タンカーを連れているのかも知れません」

「相手次第だな。どうするか」


「よし、聞いてみよう。断られるようなら、向こうも余裕がない」

「断られなかったら?」

もうけだ、もうけ」

「では、お願いします」



「ヤマダ。燃料が少ない。余裕が有れば、分けて欲しい」


 何だと?図々しいな。口金が合わないだろうに。


「油ですか」


 永井司令が不思議そうに聞いてくる。永井司令はついでに電話を取り


「艦長。タンカーにどのくらい残っているか確認してくれ」

『司令。タンカー?ですか』

「聞いてただろ。問い合わせてくれ」

『了解。お待ちを』


『司令。油槽戦隊の確認取れました』

「どうだった」

『各艦8割残だそうです』

「了解した」


「司令官。油槽戦隊の残量。8割だそうです」

「8割か。ずいぶん余裕が有るな」

「各艦、シベリア大陸南端で給油しましたから」

「タンカーの油は残っているか。油槽戦隊に各艦2000トン出せるか聞いてくれ」

「了解です」


「司令官。出せるそうです。ここから帰るなら問題無いと」

「そうか。では太っ腹にいくか」

「4杯で8000トンですか」

「どう出るかな」


 永井司令は肩をすくめるだけだった。


「8000トンなら、出せます」




「8000トンなら、出せます」


「何だと?8000トンだと」

 

 とんでもない返答が帰ってきた。少し時間が掛かったのは、確認を取っていたのだろう。

 ちょっと、待って貰いたい。まさかの8000トン。

 

「時間が欲しい」


 「了解」と応答があった。


「参謀長。機関参謀にタンカーの残と各艦の余裕を聞いてくれ」

「8000トンなら、余裕があると思いますが。機関参謀の方が確実ですね。お待ちを」


「司令長官。機関参謀は、巡航なら問題無し。戦闘に入ると余裕は少ないとのことです。給油口の形状が違うだろうから、製作すると言うことです」

「そうか。戦闘にはならんだろ」

「そう思えますが、備えるのも仕事で」

「当然だな」


「良し。分けて貰おう。8000トンとは余裕だな」


「ヤマダ。そちらの泊地に向かう。先導を頼む」

「参謀長。巡洋艦1隻を基地に戻せ。基地が見えるまで通信封鎖だともな」

「通信封鎖ですか。電波を拾われるからですか。帰すのはどの艦でも?」

「任せる」




「そちらの泊地に向かう。先導頼む」


 え?いいのか?


「驚きました」

「本当だな。後方の奴等に泊地まで戻るように言わないとな」

「降りて、通信させます」

「頼む」


 驚いたな。腹が据わっているのか。只の間抜けか。どっちだ?

 

「司令。航海速力はそんなに違わないと思うが、すりあわせは必要だな」

「やらんと拙いでしょうな。どうも油に余裕がなさそうですし」

「向こうに合わせるか」

「そうですな」


「グリ-ンヒル。そちらの巡航速力が知りたい。そちらに合わせよう」




 何だと?巡航速力を聞いて、こちらに合わせるだと。


「どうする?バラしてもいいと思うか」

「いずれバレるとは思います。それに、船体形状を見るに大差ないと思います」

「じゃあ低めに出すか。燃料節約にもなるし」

「余り低いと見破られますよ」

「では30km/hならどうだ」

「32km/hと変わらない気もします」

「気分だ気分」


「こちらの巡航速力は、30km/h」




「向こうは30km/hだと」

「低めに出してるんでしょうね」

「当然だろうな」

「実際は、もう少し速いと思います」

「まあ、大差ないことが分かればいい」


「案内します。着いてきてください」




「案内します。着いてきてください」


 向こうは艦の向きを変えた。


「艦隊に命令。着いていくぞ」

「全艦に通達。先行の日本艦隊に追随する」

「さて、どんなところかな」

「泊地と言っていましたから、穏やかなんじゃないですか」




「素直に着いてくるか」

「偵察と接触をするからには、他に選択肢が無いんでしょう」

「そうだがな」


 山田少将は白龍に待機状態は解除して良し。本艦に先行して泊地に戻るべし。10機程度を航路啓開に充てるようにとも。指示した。


 空母白龍の艦橋では通信を聞いた、白龍艦長城島大佐と飛行長太田中佐が話している。城島大佐は次席指揮官だ。


「山田少将からです「10機程度を航路啓開に充てるように」」

「了解した」

「どうされますか。全機対艦攻撃装備で待機です」

「戦闘にはならないと踏んだだろうな。戦闘機と艦爆を出す。戦闘機は4機。艦爆も4機だ。出す8機の装備はそのままで良い」

「艦攻はいかがされますか」

「魚雷は、全機降ろして格納。艦攻は4機を偵察装備へ。他は格納庫だ。残りの艦爆中4機は対渾沌獣装備に兵装転換。戦闘機はそのまま。作業は発艦後に行う」

「了解しました」


 白龍は忙しくなった。


「風に立て。第3戦速」

「艦長。発艦準備終わります」

「発艦準備完了」


 飛行甲板先端からは蒸気が出ている。真後ろに向かって流れる。

 飛行長が待っている。


「良し出そう」

「発艦開始」

「発艦終わり」

「第1戦速。艦隊針路90。泊地に向かう」


 進路変更後、定針した。


「兵装転換始め」

「飛行長。日没までに一回出すぞ」

「了解」


 日没前に、日本艦隊は全艦航海灯を点灯した。

 艦隊の北200海里程に小規模と見られる海洋性混沌領域を、南150海里に中規模と見られる海洋性混沌領域を発見した。




「航海灯をともしたか」

「我が方と同じですね」

「右舷が緑、左舷が赤。後方が白か」

「慣れない相手だが、練度は高そうだ。夜間にぶつかることはあるまい」

「司令長官。夜間の航行序列はどうされますか」

「通常航海で良い。艦の間隔は、やや開けるように言ってくれ」

「了解しました」







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