同等の国
電波探知機に入ってきた電波の周波数は、未知の周波数だった。
警戒するようクルーに命じる。
次にレーダーに反応が有った。
これは明らかだな。未知の機体だ。
機銃手に、報告するよう命じる。向こうも電波を発信している。
速度は、遅いな。200キロから250キロか。巡航でこれだと旧式機なのか。
艦隊から電信か『接触せよ』簡単に言ってくれる。
「操縦士、方位80だ。速度はこのままでいい」
「了解。方位80へ変針。速度このまま」
ファイオール公国海軍第2機動艦隊空母アストン所属機は、カシム大尉の指揮で偵察に出ていた。これまで何も無かった。無かった。大地と海だけだった。
「もうすぐ見えるはずだ。目をこらせ」
レーダー画面を見ているから、外は見ていられない。
「アイアイ」
「機長、見えました」
機銃手のサンダース2等飛行兵曹からだ。画面を見るのを止めて見えたという機体を見る。
「水上機ですね」
「そうだな」
「洗練された機体のようです。我が方のアレとは」
操縦士のハミル飛行兵曹長が呟く。分からんでもない。我が水上機は凡作と名高い機体だ。
「ハミル。横に付けろ」
「アイ」
「どうするんですか」
「サンダース。白旗振ってみろ」
「白旗ですか。持っていません」
「ハンカチでもなんでもいい。俺は写真を撮る」
「じゃあハンカチで」
向こうと並んで飛んでいる。お互いに電信を飛ばしている。俺は無線電話出来ないか試してみよう。
向こうの奴はこちらを見ている。
「機長、向こうも白いの振っています」
「通じたのか」
「そのようです」
「ニーボードになんか書いています」
「双眼鏡で見てみろ」
「円を描いてますね」
「円だ?」
「円が二つ。こちらとあちらのようです」
「旋回するという意味か?」
「分かりませんが」
「機長、旋回を始めました。とても大きい半径です」
「ハミル、追随」
「了解」
「ニーボードの紙を新しくして、今度はなんだろう」
艦隊から通信が入った。増援を寄越すと。戦闘になりませんように。
「ニーボードの絵は・・円に矢印が入る?」
「増援ではないか。我々も飛んでくる」
「そう言う意味なら」
しばらく飛行していると、レーダーに反応が有った。方向からして、味方機に違いない。その間意思の疎通を試みるが、言語が違いほぼ無理だった。交戦の意思が無いことだけは確かで有る。運動性の悪い三座水上偵察機で空中戦も無いが、こちらも動きの悪さでは定評がある機体だ。
「新庄一飛曹。応援と交代の要請は出したな」
「出しております、機長」
「返信はどうか」
「あと1時間程で到着予定です」
「あと1時間以上ここを飛ぶのか」
「そうですね、機長。もう出てから4時間です」
「航空糧食でも食べるか」
「良いのですか」
「かまわん。交代が来たら帰るから、これ以上延ばさなくてもいいだろう」
「「食べ方始めます」」
(何だ、それ)
航空糧食は定番のお稲荷さんとお茶だった。サイダーも持っているが、お稲荷さんとでは合わないと思う。
「機長、大尉。彼奴ら何か食べています」
「え?」
「食べています。空中補給食でしょう。見てたら」
「ああ、分かった。食べていいぞ」
辛子の効いたハムサンドと・・・魚のフライサンドだと!
「おい、魚のフライサンドは食べるなよ」
「食べませんよ。えらいことになりますから」
「彼奴らと同じには、なりたく有りません」
同じ飛行隊で哨戒任務に就いていた奴等が、痛んでいるのを知らずにフライサンドを食べたのだろう。それは悲惨だったという。もちろん厨房にも厳重注意と再発防止が厳命された。それ以降、空中勤務者で魚のフライサンドを食べる者はいない。
コーヒーは美味い。供給制限のあるコーヒーだが、哨戒艦隊には良い物が支給されている。
「機長。向こうの増援が来たようです」
「何機探知出来た」
「推定6機前後です」
「こっちはまだ40分掛かるか」
「向こうの方が近いんでしょうか」
「うちの艦隊は、泊地で停泊中だったぞ」
「そうでした。では相当無理をしていますね」
「白龍の発艦可能になる時間がな」
増援の天山2機は零戦4機を伴い急行していた。腕の良い奴を選んで、速力が発艦規定速力まで上がる前の10ノット程度でカタパルト発艦させた6機だ。後続は待機となっている。
「数字は同じか。+-✕÷も同じと」
「無線はダメです。周波数が合っても変なノイズだけです」
「やり方が違うんだろうな」
「あ!時計もほぼ同じです。1日を24分割です」
「なあ、俺たちの仕事じゃないよな」
「それはそうですが、機長。今、ここには我々しかいません」
「正論は嫌われるって知ってるか」
「面倒臭いんですね」
「・・・・」
「あと5分で交代出来ますから」
「長いな。まあ、交替の連中に成果を伝えておくか」
『カシム大尉、マクミランだ。交替に来たぞ』
「ありがとうございます。マクミラン少佐。先ほど報告した以上のことは分かっていません」
『了解した。戦意はなさそうだな』
「そうですね。平行飛行しているだけです」
『帰って良し。後は引き継ぐ』
「はっ、カシム大尉。帰投します」
『エジンバラ少尉、コールマン兵曹長。カシム大尉を護衛して帰投せよ』
『『了解』』
「機長。最初の奴。手を振っています。アレは、敬礼でしょか」
「帰るんだろう、手を振り返してやれ」
「敬礼もします」
「おぅ」
「こちらも早く来ないですかね」
「あと2時間で来ないと、ガス欠だからな」
「帰る燃料が足りないんですか」
「余裕がない」
「早く来ませんかね」
その後も交替した相手と意思疎通を図るが一向に進展はなかった。紫原中佐(当時少佐)の報告書だと、近場に便利な島があったと言うが、見えない。
ようやく来た交替に後を任せて帰投する。疲れる。四万十の飛行甲板に載せられるまで気を抜かないようにしないと。
帰投した長岡ペアが聞いたのは、邂逅は2日後になるということだった。




